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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

リアクション


(・脱出)


 ゴルフ小隊は、東シャンバラの要塞攻めの命令に反し、ベトナムへ向かっていた。
「Aチーム……無事でいてくれればいいが」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が呟いた。
 彼とヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が駆る【ヴァイスハイト】は、先陣を切っている。
 理由は、イーグリットをデフォルト装備のままにすることで機動力を確保しているからだ。
「ベストなのは、公海上で合流することだが……」
「この期に及んでそれはないだろ。もうすぐ現地だ。あいつら、くたばってねぇといいがな」
 笹井 昇(ささい・のぼる)デビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)の【イルマ】は、当初は公海上に待機するつもりだったが、上陸へと方針を変えた。
「要、もうすぐベトナムに着くわよ」
「はいよー。ん、あれは……」
月谷 要(つきたに・かなめ)霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)が駆る【デザイア】は、ベトナムの上空を飛んでくる機体の姿を捉えた。
 シュバルツ・フリーゲが四機。
 まさかの指揮官機だけの小隊だ。
「あの青いヤツはいないか」
 【ヴァイスハイト】と【デザイア】のパイロットは、その敵の強さを知っている。
 安心すると同時に、もう一つの行き場のない思いがこみ上げる。
 仲間を墜とされたことによる、怒り。それを直接晴らすことが出来ないからだ。
「こちらの動きが察知されていた……ということはないだろう。ならば」
 昇は、天学がデフォルトで使用している周波数に合わせて通信を送る。
 もし味方なら、敵機であっても合わせてくれているはずだ。
 そして、それは脱出してきた味方だった。
「無事だったか!」
 行方不明になっていた仲間が生きていたことに、安堵する。
 だが、それも束の間、追手が迫っていた。
「今度は、絶対に倒す。みんなで生きて帰るんだ!」
 要が、追手に向かってアサルトライフルを放つ。
『要、フォローするぞ』
 彼が装備している機式魔装 雪月花(きしきまそう・せつげっか)が、要をサポートする。
 シャープシューターで狙いを定め、シュメッターリングの関節部を正確に射抜いていく。
(敵はあまり強くない。連携していけば、落とせるかも)
 悠美香が精神感応で要に伝える。
(よし、行こう)
 敵機からの攻撃を、【デザイア】はブースターを噴かしてかわす。
 瞬間的に最高速度となり、近距離でも「読み」を間違えなければ、問題はない。
(せめて全機が海上に出るまでに、追っては撒かないとな)
 【イルマ】が、一気に敵機への距離を詰める。
 大げさなほどに動いて、撹乱を行う。
(敵機、動きが鈍ってます)
(よし、ここからは接近戦に持ち込む)
 【ヴァイスハイト】が、敵の機体に向かって、最大加速で突っ込んでいく。
 そしてビームサーベルを抜き、勢いよく斬りつける。
 イーグリット三機の連携によって、敵機は徐々に数を減らしていく。
(プラント戦に来た部隊よりも、動きが悪い?)
 前の戦いで、寺院部隊と交戦した昇達は、そう感じた。
 どういうわけか敵は十機がかりで来ているのだが、その強さはプラント戦の敵部隊よりも数段劣る。
 ベトナムから脱出した生徒達に離脱を優先させ、敵を討つのは彼らの役目だ。
 敵機がまとまったところに、ビームキャノンによる砲撃が来た。
『みんな、無事だったみたいだな!』
 山葉 聡達のコームラントだ。
『しかし、さすがにコームラントの速度じゃ時間がかかったぜ。さあ、行くぜ!』
 コームラントが、肩部のミサイルポッドから、ミサイルを放つ。
 さらに、イーグリット三機で敵機を囲い込む。
「あと少しだ」
 もうすぐ、最後の一機が海上に出る。
 そうなれば、敵も迂闊には追って来れなくなる。
 敵は強くはない。あの青いイコンが出てきさえしなければ、このまま敵機を全部撃墜することも可能だ。
 イーグリットが全機で敵の残った機体に攻撃を仕掛ける。
 そして、敵機が気を取られている間に、その敵をコームラントがビームキャノンで撃ち落していく。
 最後のシュバルツ・フリーゲが海上に出た。
 そして、追手は全滅。
「これで、無事に学院に帰れるぜ」
「聡さん、帰ったあとが問題よ」
 命令違反によって、何らかの処罰を受けるだろう。
 だが、味方を助けることが出来た。天秤にかけるわけではないが、そっちの方が重要であるように思えた。
「帰るわよ、要」
「おう」
 しかし、心残りがあった。
 なぜか出撃してこなかった青いイコン。
 基地に潜入した仲間が破壊したのかどうかはまだ聞いてない。
 直後、ベトナムの基地の方から爆発が起こった。
「なんだ?」
 真司が声を発した。
 ベトナムの敵の基地が、破壊されたようだ。
 そこに青いイコンがあったならば、おそらく瓦礫の下だろう。
 そこへ行って確かめるわけにも行かず、脱出したAチームとともに、海京へと引き返していった。

* * *


「これで、ベトナムの基地は機能を失いました」
 敵の基地から盗んだ輸送機の中で、モロゾフが呟いた。
「あの男のことだ。まだ安心は出来ん」
 ホワイトスノーは懐疑的だった。
 爆破の手筈を整えたのはモロゾフだ。侵入した以上、ここで始末しておこうと考えたのだろう。
「さて……汚れ仕事は、僕のような人間の役目ですよ。学院の子達には、出来ることならまっとうな道を進んでもらいたいですね」
 煙が上がる密林の方へ目を向ける。
「あと、これはお願いなんですが」
 モロゾフが輸送機内の者達に告げる。
「今回の一件、我々は『ベトナムに到着したところ、敵に捕まってしまい、基地に潜入したときに偶然発見し救出して脱出した』ということにしておいて下さい。僕や博士がそこそこ戦えるって知れると、少々厄介ですので」
 そして報告では、モロゾフが言った通りになるのであった。