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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

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「皆自分で仕事みつけて、頑張ってるね〜。ルンルンは何しよっかなー」
 合宿所の前で、ルンルン・サクナル(るんるん・さくなる)が、きょろきょろ辺りを見回す。
 合宿所の中の今日の分の掃除はほぼ終了し、継続して行われている増築や農作業を手伝おうと外に出てきたところだ。
「人手が必要そうな仕事を手伝いたいですね」
 咲夜 由宇(さくや・ゆう)は、屋根や建物の補強工事を行っている人や、テントを張っている人々、夕食の準備に勤しんでいる人達をそれぞれ見回してどこを手伝おうか考えていく。
「終わったら、温泉にも入りたいよね〜。だけど、その時間、男女別の時間だよね? ルンルンはどっちに入ればいいんだろ……?」
 温泉の方に目を向けながら、ルンルンが軽く首をかしげる。
「労働の後の温泉、楽しみです〜。ルンルンくんは気になるようなら、混浴の時間がいいかもしれませんねぇ。あっ」
 由宇は、合宿所の増築を行っている男性達に目を留める。
「ああいった汗を流す仕事を行った後だと、より温泉が楽しくなりそうです! 人手も必要そうですし、行きましょう〜!」
「うん、ルンルン役に立てるかな〜」
「すみませーん、何かお手伝い出来る事はありますですか〜?」
 2人はパタパタ駆けていって、指揮をしている青年に声をかける。
「手伝ってくれるのかい? 助かるよ」
 汗を拭きながらさわやかな笑顔で答えたのは、若葉分校の主任教師である高木 圭一(たかぎ・けいいち)だ。
 圭一は土木建築の知識を生かし、しっかりとした設計をして増築を指揮していた。
「まだしばらく使われるし、合宿が終わった後も、利用されることがあるだろうからな」
 すでに基礎工事は終えており、現在は窓やドアを取り付けているところだった。
 窓といってもガラスはなく、空気の入れ替えや外を見るために開け閉めできるようになっているだけのものだ。
「せんせー、この辺りどうすんだ? 隙間あるんだけど」
 モヒカンの少年が声をかけてくる。若葉分校の生徒だ。
「板を張り付けて塗装を行う。……いや、塗装の材料は揃ってないから、とりあえずは板の準備と打ちつけだ」
「へーい」
 しぶしぶと言った言い方だったが、嫌ではないようであり生徒達は指示通り作業を続けていく。
「それでは、釘打ち手伝います!」
「ルンルンは板押さえてるよー」
「それじゃ、ここを頼む。重いぞ?」
 圭一が板を一枚2人に渡す。
「大丈夫です」
「がんばるよ〜」
 2人で壁の方に持って行き、圭一からの指示通り打ちつけ始める。
 ルンルンが押さえている板に、トントンと由宇は金槌で釘を打ち込んでいく。
 由宇だけではなく、合宿所の至るところから、釘を打つ音が響いてくる。
 ルンルンは板を押さえながら、ぼーっとその音を聞いていてぽつりとこんなことを言う。
「あのトンカチで叩かれたら痛いよね。ダメだよね。でも、ちょっと叩かれてみたいかも……」
「叩きませんよー。みんなに迷惑かけちゃいますからね」
 軽く笑みを浮かべながら、由宇は作業を続ける。
 ルンルンは本人に自覚はないが、マゾ気質なのだ。
 釘が打ち込まれる様子を見ていると、刺されたいなども思ってしまう。
「お疲れさま」
 そこにイリオモテヤマネコの姿をした可愛らしいゆる族の少女が現れた。
 圭一のパートナーの竹芝 千佳(たけしば・ちか)だ。
「お野菜、沢山作ってる人がいるの。分校で教えてもらった野菜ジュース作ったよ?」
 千佳は作ってきた野菜ジュースをいれたボトルを、作業台の上に置いて、紙コップに注いでいく。
「そんなに苦くはないと思う……味見もしたから」
 見た目にも気をつけて、青くなりすぎないよう調整をしてある。
「それじゃ、少し休憩にするぞ」
 圭一がそう言うと「ういーす」などと声が上がっていく。
「どうぞ。もっと甘いものがよかったら、そっちももってくるね」
 千佳は紙コップを両手に持って、ひとりひとりに配っていく。
「ありがとうございます」
「ありがと〜」
 由宇とルンルンも受け取って、ジュースを飲んでみた。
「うん、自然な野菜の甘みが美味しい」
「ホント〜。美味しい」
 2人と、そして分校生からも美味いという言葉をもらえて、千佳はとっても嬉しかった。
 千佳は夕飯はもっともっと頑張って美味しいものを作って、もっとみんなに喜んでもらおうと思うのだった。
 作業は日が暮れるまで、続けられた。
 風雨をしのぐことくらいはもう出来そうだった。

「水質を確かめたり、掃除をするための道具を入れておく、倉庫のようなものだ」
 日比谷 皐月(ひびや・さつき)は、温泉のすぐ側に小さな倉庫を建てていた。
 興味を持った契約者達にはそのように説明をしているが……本来のこの建物の目的は倉庫としての活用ではない。
 インターネット回線の中継機器を設置するための建物だ。
 シャンバラ全土への地球とのインターネット普及は今は無理そうだが、合宿所でネットが出来るくらいの設備と、データを首都に短時間で送ることが出来るようなシステムはほしいと、ゼスタから回答を得ていた。
 その実現のために、皐月は動いていた。
 ゼスタには全面的に協力する旨と、管理責任を自分かパートナーのマルクス・アウレリウス(まるくす・あうれりうす)に預けてはもらえないかと話してみた。
 ゼスタからの返答は「システムの提案次第。具体的な案が認められ、実現に至ったら推薦する」とのことだった。
 マルクスは技能は持っているが、率先して進めようという意思はなく、システムの案については纏めてはいなかった。
 皐月はまず、電波を受信できる場所を確認し詳細をゼスタへ報告した。
 続いて、ゼスタの方から合宿所の方でも受信できるような中継機器の設置について提案があり、それを実行しようとしている。
 機器ももうすぐ届くはずだ。
「人を救いたいと言う思いは分からないでもないが……しかし、それにしたってもっと上手いやり方はあるだろう」
 マルクスのそんな呟きに、皐月は軽く自嘲気味な笑みを浮かべた。
「今はこの機会を利用するまでだ。目的の半分は……少なくとも、ここに居る間は地球と連絡が取れる……達成できてるみてーだし」
「まぁ、良い。兎も角、ここの施設を完璧なものにすれば良いのだろう?」
 マルクスは皐月の返答に対して、吐息を付いたあと、連れてきた事務員達に指示を出す。
「ここに機器を設置する。ただ、この場所には電源もなく、太陽の光も届かず太陽電池も利用できない。その辺りの問題も解決していかねばな」
 ゼスタとしては、管理者がいないのならば、合宿後も常時利用できるようなシステムは望んではいないだろう。
 皐月としては、自分達も利用できるシステムであって欲しいはずだ。
 世界がどう動いていくのか。
 情勢次第では、必要がなくなる設備かもしれない。
 しかし、今、この場所が確保できているということが。
 多少なりとも、東シャンバラに住む地球人達の心の支えになっているはずだ。