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リアクション
第2章 地下調査
アジト突入と龍騎士対策について、ゼスタを中心に話し合いが進められる中、魔法考古学者であり、イルミンスールで教師をしているグレイス・マラリィンと、同じくイルミンスールの教師のアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)は、生徒達と共に地下の調査を開始していた。
「増改築も進んでいますし、振動などで罠が発動してしまっては困りますから」
メイドの高務 野々(たかつかさ・のの)は掃除道具を持って、地下に下り立った。
「一度調査しているし、そうすごい仕掛けなんかはないと思うけれどね」
「ですが、そのなんだか怪しげな棚! 好奇心旺盛な方々が無為に触れてしまって、どかあーんなんてことになたったら、大変です。罠に抗することができない方々にも被害がいってしまっては困るのですよ。たとえば私とか!」
「確かに、そうだね」
グレイスがくすりと笑う。
「あ、もちろん足手まとい(邪魔)になっても、足を引っ張る(妨害)事はしないようにしますので」
そんな野々の洒落が含まれた言葉に、皆の顔に笑みが広がる。
「気合入れていきましょうね!」
沢渡 真言(さわたり・まこと)も、持って下りた掃除道具を並べて、まずは箒を手にとった。
「うおおおおーし、力仕事なら任せてよね!」
真言を手伝って掃除道具を運んできたテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は、道具を下ろすと早速棚の方へと近づいた。
「マスターのご友人でいらっしゃるテディ殿……ずいぶんと可愛らしい格好をしていらっしゃいますね」
沢渡 隆寛(さわたり・りゅうかん)が、パートナーの真言の友人であるテディを見ながらそうつぶやいた。
彼は見かけも男の子なのに、瀟洒なメイド服を纏っている。頭にホワイトブリム。胸にはパットまで入れているようだ。
「私は彼……彼女? のサポートにまわりましょう」
言って、隆寛はテディの後に続く。
「棚の後ろに隠し部屋がある可能性もあるな。壁を叩いただけじゃ分からなかったが、早めに調査をしませんと」
前回の調査にも参加をした魔法考古学研究部員の高月 芳樹(たかつき・よしき)も棚へと歩み寄る。
「巧妙に隠しているとなると、罠の可能性も否めないわよね。先生、ご指示をお願いしますね」
「うん、注意して行おう」
芳樹のパートナーのアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)の言葉に、グレイスは頷いて棚の正面まで歩いた。
ただ、芳樹についてきた伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)とマリル・システルース(まりる・しすてるーす)は、他に気になることがあって、すぐには棚の方には向かわず、様子を見に下りてきたリーア・エルレンの方に歩み寄った。
「ファビオを倒した魔道書がこのあたりで活動していたようだけれど、その魔道書に縁のあるものやエリュシオンに関係する何かが、ここにある可能性もあるのかしら?」
少し不安げな目で、マリルはリーアに尋ねた。
「しかし、何故、5000年前の戦いでファビオと対峙した魔道書がここにいるんじゃろうか」
マリルの言葉に、玉兎がそう続けた。
「イルミンスールで保管していたのだけれど、盗まれてしまったの。それからユリアナという地球人の手に渡って、彼女がこのあたりに拠点を持つ賊に入り、賊を討伐した契約者達の手で、連れてこられたのよ。どのようにしてユリアナの手に渡ったのかは、分からないけどね」
そういう経緯であるため、ここがエリュシオンとなんらかのつながりがある可能性は特には考えられないないとリーアは続けた。
「それでも警戒はしておかねばの。その賊が出入りしていた可能性がないとはいえぬからのう」
玉兎はそう言って、部屋全体を見渡せる位置に立ち、警戒に努める。
「魔道書の目的を探る上で、ここの探索は重要と思ったのだけれど……そうではないようね。だけれど、龍騎士も向かってきているという話だし、油断はできないわね」
マリルはそう言い、気を引き締めて芳樹に歩み寄る。
「私としては古代技術に興味がありますから、そういうものが出てきてくれればいいのですけど」
続いて、神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)がパートナー達と地下に下りてきて、中を見回す。
部屋は合宿参加者が全員入れるくらいの広さはあるが、広いとはいえない。
調査が済んでいることもあり、特に何もおかれてはいないし、ありそうに見えもしない。
「魔法結社の施設だってって話ですから、機械系機晶系の技術はなさそうではありますけれど……古代技術やハイブリット系のものくらいは」
あってほしいなと思いながら、エレンも棚の方へと近づいた。
「むむむむむ、プロクルもちゃんと役に立つのである」
プロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)は、デジタルビデオを準備して棚に向けていく。
「これまでのデータも必要なら投影するのである!」
メモリープロジェクターには、改築前の合宿所内や現在の状況も記録してあった。
「明かり点けますわね〜」
エレア・エイリアス(えれあ・えいりあす)は、光精の指輪で、精霊を呼び出して棚付近を照らす。
プロクルも撮影しているが、それとは別に、接近してデジカメで現在の状況を写しておく。
「やっぱり、銃型HCの通信も使えないね〜。携帯電話が通じない場所だしね〜。うーん、今回はボクはあんまり出番なさそうだなぁ」
アトラ・テュランヌス(あとら・てゅらんぬす)はふうとため息をつく。
銃型HCなども基本的には携帯電話と同じ回線を利用しての通信機だ。ここでは使うことが出来ないようだ。
「でもエレンねえのためにがんばるよ」
そうアトラが笑みを浮かべて言うと、エレンも微笑みを浮かべて頷く。
「どうも不自然な気がする。皆、慎重にな」
そう生徒達に声をかけて、アルツールがまず、その棚を探ってみる。
棚には価値のありそうなものは何も残っていない。
だが注意してみると、本棚の背と壁の間が少し厚いことに気づく。
そして、特に変な造りというほどでもないが、やはり板が厚いように思われる。
この木造の建物自体が、シャンバラ古王国時代から存在したなどということはありえないが、地下は古王国時代から使われていて、後に地上部分の建物が作られたり、立て替えられたりして今の世に残っているという可能性はないとはいえない。
地下と地上をつないでいるのは蓋だけであり、階段もなく変わった造りだから。
「何か珍しいもの出てくると良いですねぇ〜」
神代 明日香(かみしろ・あすか)は、アルツールの後ろからわくわく見守っていた。
これまでに出てきたものについても、明日香はリストや現物を見させてもらっていた。
価値は分からなかったし、読めもしなかったけれど見ているだけでも楽しかった。
「これといって役立つものは今のところ発見されてないようですけれどぉ、ここにはきっと何かありますよねぇ〜」
明日香はトントンと底板を叩いてみる。あまり厚くはないように思える。
「そうですわね。あってほしいですわ。機晶技術系のものや機械などなら私のほうが専門ですから、そういうものが見つかったらすぐに調べさせていただきますわ」
エレンも棚に残っていた土器を眺めながらそう言う。
「それじゃ、棚どかしてみようか」
超感覚を発動し、犬耳と尻尾を生やした清泉 北都(いずみ・ほくと)が教師達に確認をとって、棚に手をかけた。
禁猟区で警戒もしているが、今のところ何の反応もなかった。
「食い物……とかはあるわけないよなー」
狼の獣人であるパートナーの白銀 昶(しろがね・あきら)は、匂いをかいで危険察知に務めるが、当然おいしい匂いなどはせず、かび臭い匂いがするばかりだった。
腐敗臭は感じられない。
「いいぜー、動かしてくれ」
物音にも注意するが、自分達が発している音以外の音も聞こえなかった。
「うん……って、やっぱり動かないね。解体するしかないかな」
棚は壁に打ち付けられているようで、北都が押しても引いても全く動かなかった。
「解体しなくても済むような……何かこう隠しボタンとかないかな?」
祠堂 朱音(しどう・あかね)は棚の周りを注意深く見回し、壁をなでるように触ってみて凹凸がないかなど調べていくが、それらしきものは発見できなかった。
「汚れますよ、朱音」
シルフィーナ・ルクサーヌ(しぃるふぃーな・るくさーぬ)が、用意してきた濡れタオルを朱音に渡した。
「ありがとー。壁拭いて汚れをとったら、色の違いとか分かったりして」
「こらこら、それはお手拭用です。掃除をするのなら雑巾を使ってくださいね。はい」
「うん、お掃除お掃除っと。あーどきどきするっ」
シルフィーナが雑巾用に持ってきた布を朱音に渡すと、早速彼女は周囲を磨き始める。
「何が見つかるか楽しみね。綺麗な小物とかあればちょっと欲しいかしら」
須藤 香住(すどう・かすみ)は微笑みながら、朱音達を見守る。
「解体するのなら、手伝うぞ。ノコギリとかも持ってきたしな」
ジェラール・バリエ(じぇらーる・ばりえ)は、力仕事を担当すべく工具を用意してきた。
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