リアクション
「良く頑張りましたね。それにしても、こんなに冷えてしまって……」 ○ ○ ○ 終了テストが終わり、温泉が混浴の時間に戻った頃。 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、湯着を纏い、パートナー達と共に温泉に浸かっていた。 合宿所に訪れてから彼は、いない時はないといわれる程に、温泉に入り浸っている。 とはいえ、担当分の作業はそつなくこなしているし、講義もきちんと受けてはいる。 残りの時間は全てといっていいほど、温泉に浸かっているだけで……。 実はテストの時間もいた。ただ、テストには関わらずに、隅の方で温泉と一体化して、まったりのんびりしていたのだ。 「蒼、今日はもう休んでいいですよ。たまにはオフで、ゆっくり温泉を楽しみなさい」 執事の片倉 蒼(かたくら・そう)にそう声をかけると、エメの世話をするためにお風呂セットを持って立っていた蒼は「ありがとうございます」と、丁寧にお辞儀をして持ち物を岩の側に置き、湯船へと入ってきた。 湯の中でも、蒼はエメの少し後ろに控えるように浸かっていた。 エメはくすりと笑みを浮かべ、のんびり空を見上げる。 星はほとんど見えなかった。 だけれど、辺りを照らす、ランプの光が幻想的な空間を作り出している。 耳に響く、水しぶきの音も、とても心地が良かった。 「今年も色々ありましたね……。来年もいろいろでしょうけれど」 蒼と、それから中央で遊んでいるアレクス・イクス(あれくす・いくす)、リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)にも目を向けて微笑む。 「よろしくおねがいしますね」 「よろしくお願いいたします」 蒼は立ち上がって礼をして、また湯船にゆっくり身を沈める。 綺麗な蒼の顔が、ほんのりと赤く染まっていく。 身体は芯から温まっていく……。 「にゃう、にゃう」 アレクスは湯船に入ってはいなかった。 抜けた毛が浮くと思われて、他人に嫌がられてしまうかもしれないから。本当は抜けることはないのだけれど。 「つるつるにゃうー。にゃーーーーうーーーーー♪」 あひるのおもちゃを浮かべてもらい、前足でちょいちょいつっついて遊んだり、石鹸をちょんちょんつっついて床を床を滑ったりして、遊んでいた。 「他の人も滑ってしまいますよ。それに、もったいないですし、石鹸で遊んではダメですよ」 蒼が優しくアレクスを注意する。 「わかったにゃう。やめるにゃう。石鹸で転んだら危ないにゃうしね。にゃう、にゃう、あひるさんこっちに寄せて欲しいにゃう」 代わりにあひるのおもちゃに前足を伸ばすが、湯船の中央の方に行ってしまい届かなかった。 「はいよー」 「ん〜、ごろごろにゃうぅ」 リュミエールがアヒルをアレクスの方に流すと、自らも近づいて、指で喉を撫でたりじゃれさせたりしていく。 「今日は男が多いな」 そこに、今日の仕事を終えたゼスタが入ってくる。 「面白い人と一緒になったもんだ」 「にゃう?」 リュミエールはにやりと笑みを浮かべると、ゼスタに近づいていく。 「ゼスタ先輩、人工呼吸の実習はもう終わったの?」 「まだこれから〜。とゆーか、俺んとこに来るやついねぇな」 ゼスタは軽快な笑い声を上げた。 「じゃあさ、スィートな僕の可愛い仔猫ちゃんが、是非先輩に人工呼吸を教わりたいって言うんだ。教えてあげてくれる?」 「了解! 心臓マッサージもセットで、手取り足取り教えてやるぜ〜」 そうゼスタが答えると、リュミエールはひょいとアレクスを持ち上げて、ゼスタの方へ向けたのだった。 「仔猫ちゃん……僕じゃ駄目だなんて、つれないこと言うんだ。よろしくね」 「スィートな猫って……」 「教えて欲しいにゃう。ボクの口でもうまく人工呼吸する方法、ないにゃうか?」 驚くゼスタに、アレクスが真面目に問いかけた。 途端、ゼスタは大きな笑い声を上げ、ポスポスとアレクスの頭を叩いた後、撫でるのだった。 「はははは……っ。そうだな、マウスピースを使って吹き込めば問題なく出来るんじゃないか〜。いつも入ってるボックスの中に常備しておくといいぞ。お前にしてもらったら女の子も喜ぶと思うなー。俺も別に実習してもいいぞ」 と言ったかと思うと、ゼスタはリュミエールの手からアレクスを受け取って、着ぐるみの口にちゅっと口づけた。 「ん〜。可愛い可愛い」 「もしかして、猫好き?」 「まーな。このスィートな猫ちゃん、お持ち帰りしちまおうかなー」 「にゃう?」 きょとんとしているアレクスをリュミエールはぐいっと引っ張って奪い返した。 「さすがにそれは困るかな」 「ご遠慮下さい」 リュミエールと蒼の言葉に「残念」とゼスタは笑う。 「縫いぐるみでよろしければ、プレゼントさせていただきますよ」 エメはほのぼのと皆を見守りながら、のんびりとゼスタにそう言った。 「それじゃ、スイーツな女の子付きで頼むな!」 「難しい注文ですね」 そして、皆で笑い合う。 楽しくて暖かな、夜のひと時だった。 |
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