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リアクション
「それじゃ、色々試してみようか」
グレイスはノートを開いて、壁の正面に立つ。
「私もリーアさんに、色々聞いてきました〜」
明日香もノートを一冊持っている。
専門書や、分厚い書物ではなく、明日香はノートを中心にリーア、グレイスと共に調べて、いくつかの成果を得ていた。
「まずはこの模様ですけどぉ。多分、この文字自体じゃなくて、この文字に関連するキーとなる言葉が必要なのではないでしょうか〜」
「うん、それで候補をいくつか選んでみたんだ」
グレイスがそう続けて、ノートを捲る。
「手で模様に触れながら、復唱してみて」
「了解」
言われた通り、ジェラールが壁の文字にぺたりと手のひらをあてる。
「水、川、滝、温泉……」
グレイスが単語を発していき、ジュラールは緊張しながらその単語を復唱していく。
「うーん、変化ありませんねぇ。これではどうでしょう? 土、砂、石、岩……」
明日香が口にした言葉も、ジュラールは復唱していく。
……と。
「あ!? 何か変な感じがした!」
壁に変わりはないが、触れていたジュラールは違和感を感じたのだった。
「なんかね、ちょっと音もしたよ」
壁に耳を当て、超感覚で探っていたアトラもそう言う。
「イシ、かな」
グレイスはイシという単語をノートに記し、同じように地味に、別の言葉も試して探っていくのだった……。
その結果。
石、風、池、炎の4つの単語に反応があることが判る。
「さらに、順番が関係してくるみたいだな……」
そしてまた、順番を変えて試していく……。
「ううーん、時間かかりそうだね。それじゃ、お菓子の準備しておこう!」
しばらく見守っていたが、変化がなかった。
朱音は、隅にどかしてあるテーブルに、バスケットの中から取り出したお菓子を出していく。
「マシュマロとか、チョコレートやキャンディあるよー。疲れた頭には糖分が必要だしね」
言って、朱音は早速マシュマロをとって、グレイスの口に入れてあげる。野々やエレンにも手渡す。
「ありがと」
グレイスが微笑みを浮かべる。
難しい顔をしていた皆も、笑顔に変わっていった。
その時。
「あ、んおおおおお……!?」
石、池、炎、風の順番で単語を発した途端。ジュラールの腕が壁の中に溶けるように入っていった。
「ぼわんって音がしたよ。魔法の音かな」
アトラが首を傾げる。
「中に何かありますか〜?」
「んーと」
明日香の問いに、眉を寄せながらジュラールは探っていく。
「あ! 鍵穴みたいなのがある。ええっと、鍵は中にはなさそうだ。……あつっ!」
探っていたジュラールの手が突如はじかれた。
「時間切れでしょうか。大丈夫ですか?」
エレンの問いに、ジュラールは手をさすりながら、「平気」と頷く。
「ピッキングを試してみたいところだけど、見えないからな……」
「顔を突っ込めばいいんじゃない?」
迷うジュラールに、朱音がにっこり微笑んであっさり言った。
「……うん、わかってる。俺がやるんだろ、俺がー」
「うんうん、頑張ってね」
香住も後方で応援をする。
「大丈夫ですぅ。もしもの時は手当てしますよぉ。気をつけてくださいね〜」
明日香もわくわく見守りながら、ジュラールに声をかける。
ジュラールは観念して同じ方法で……今度は顔も壁の中に入れてみる。
「さすがに顔がつぶれたら可愛そう。ボクもヤダなっ。早くね、頑張って頑張って〜♪」
朱音は後ろからジュラールを応援する。
ジュラールは中が暗いことを確認し、明かりを借りてそれを入れて、一旦顔を外に出し。
「よし、今度こそ本番!」
また同じ合言葉で魔法の扉を開いて中へと顔と手を入れて、ようやく鍵を開けることに成功する。
「中に入ってるもの、取り出すぞ」
「落としてもいいように、下に清潔な布広げておきますね。
「なるべくサイコキネスで浮かすけれどね」
シルフィーナと香住が落ちた物を受けるために、布を広げてそれぞれ端を持った。
「弾かれて傷ついたら困るよな」
ジュラールは両手で包み込むように、一気に中の物を外へと取り出す。
零れ落ちたいくつかの品物は布や香住のサイコキネスで受け止められ、残りの物品はジュラールが体を曲げて膝で受け止め、床へと下ろした。
「宝石類、でしょうか……?」
野々は近づきたい気持ちを抑えつつ、グレイスの隣から眺めていく。
「そうですわね……。やっぱり機器類なんかはありませんわね」
少し残念に思いながら、エレンは床に膝をついて、取り出されたものを手にとってみた。
「テーブルの上に並べるのである」
プロクルがお菓子の乗っているテーブルをこちらへと運んでくる。
「機器類ではありませんけれど〜。マジックアイテムかもしれませんわね〜。ぞくぞくしますわ〜」
エレンと一緒に、エレアも床の上に置かれているものを、手に取って眺めた後テーブルへと乗せていく。
「ふむ……」
グレイスが一つ一つ手にとって、確認をしていく。
壁の奥、金庫の中に入っていたのは、ペンダント、指輪、腕輪、イヤリング、ブローチといったアクセサリー類だった。
大きな赤い石がついているものが多い。
「珍しい鉱石のようだね」
「綺麗ですね……。でもなんだか、不思議な色です」
野々は半透明の赤い石を興味深く眺めている。
「珍しいのかあ……気になるけど、それはイルミンスール行きなんだろうね。それじゃ、ボクはこっちの石のついてない指輪もらいたいなっ」
お菓子をつまみながら、朱音は早速予約をする。
「戴いてもいいですか〜?」
グレイスの鑑定を待つ明日香が、お菓子を指して朱音に問いかけた。
「どうぞどうぞ。これ美味しいよ」
朱音は明日香にお勧めのホワイトチョコレートを差し出す。
「ありがとうございます〜」
明日香は喜んで受け取って、口に入れた。
口の中に甘い味が広がっていき、明日香は嬉しそうに微笑みを浮かべる。
「私も用意してあるんですよ。長丁場になりそうですからね」
シルフィーナは、ラップで包んだサンドイッチを取り出して、テーブルに並べていく。
「ありがとう。もう食事の時間、過ぎてるしね」
調べながら、グレイスも片手でサンドイッチを受け取って食べていく。
「お茶いただくわね」
香住も朱音が用意してきたお茶を、紙コップに注いで戴き、のんびり待つことにする。
「こっちは触っても大丈夫だよ」
グレイスは石のついていない高価そうなアクセサリーをお菓子が置かれている方へと寄せた。
「綺麗ですぅ〜」
「可愛い! つけてみる?」
途端、明日香、朱音はアクセサリーを手に取ったり、身につけあいっこを始める。
「撮るのである。可愛いモデル付きであるな」
プロクルはアクセサリーを色々な角度から、そして身につけた明日香と朱音の姿もデジタルビデオカメラに収めていった。
和気藹々、軽食を楽しんだり、発見したアクセサリーを付け合ったりしながら調査を進めて、価値のありそうなものとさほどなさそうなものに、分けていった。
「今でも同じようなものも作られてるし、金属もさほど高価じゃないから。こちらのアクセサリー類は好きなものを持っていっていいよ」
ずっと協力してくれた人達に、グレイスはアクセサリーを1つずつ、持って行っても良いと話した。
「多分、魔法が込められていたんだと思うんだ。だけど、長い年月を経て、全て魔法の効果はなくなってしまったと思われる。ただこの赤い石のついているアクセサリーは、もしかしたら、魔法を封じ込める効果などがあるんじゃないかと思っている。詳しくはイルミンスールに持ち帰って、調べないと判らないけどね」
「結果は教えていただきたいですわ。アクセサリーよりそちらの方が興味ありますから」
そう言いつつも、エレンも自分とパートナーの分のアクセサリーを戴いて帰ることにする。マジックアイテムとしての価値はなくても、過去を知るための情報になるかもしれないから。
「隠したりはしないから、いつでも聞きにきてくれて構わない。キミ達が記録したデータももらえるかな?」
少し迷った後、エレンは首を縦に振る。
「ええ、お持ち下さい」
イルミンスールと百合園の関係は微妙な状態ではあるけれど、このグレイスという人物は信頼できそうであったから。
「学院に戻ったら編集するのである」
一通り撮り終え、プロクルはデジタルビデオカメラの電源を落とした。
「それでは、見つかったものを慎重に外に運び出しましょう。そして、ここは掃除をしましょうね。金庫の中も研きますよー」
野々がいつものように、掃除用具を用意していく。
「お片づけだね」
アトラは調査をするために運び入れてあった、工具類や台を片付け始める。
「そうそう、お掃除しましょうね」
シルフィーナは、ゴミ袋を手にとって、朱音に渡した。
「うん、お菓子の包み紙とかはこの袋に入れてね」
朱音はもらったアクセサリーをつけたまま、ゴミを集め始める。
「ご馳走様でした」
明日香は机の上のゴミを、朱音が持つ袋に入れる。
にっこり微笑みあった後、明日香はグレイスを手伝って荷物を運ぶことにする。
「早く調べましょう〜。この間見つかったものもー。楽しみですぅ」
両腕で大事に抱えながら、微笑みを浮かべるのだった。
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