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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

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【?7―2・進行】

 昼過ぎの校長室では、ラズィーヤはいつもと変わらず書類を片付けつつ。
「はぁ……今回、わたくしの出番が少なくて憂鬱ですわ」
 なんかメタな呟きをもらして、食後の紅茶をこくりと飲んでいた。
「失礼します」
 そこにノックの音の後、入ってきたミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)
 昨日と同様に食器を片付けに来たのである。
「遅れて申し訳ありません」
 面倒だったのでわざと遅れたのだが、口だけは謝りつつ、急いで食器を片付けていく。
 言葉が本心かわかっているのかは不明だが、やけに愉快そうに見つめてくるラズィーヤ。
(な、なんだよもう。やっぱり彼女は苦手だな)
 うっかり目が合ってしまい、おかげで前回の事を思い出して戦々恐々となるミネッティ。
「はい、これ」
 しかもまた、ラズィーヤが最後の食器差し出してきて。
「あっ」
 瞬間、ミネッティはよろけて食器類を落としそうになり。落ちていく食器を慌てて掴もうとして、バランスを崩してラズィーヤの方へ転んでしまい……そうになったが。今度はどうにか踏ん張ることに成功した。
 もっともその代わりに、食器が落ちてけたたましい音を奏でてしまったが。
「しっ、失礼しました! すぐに片付けます!」
「焦らなくていいわよ。お皿もべつに割れてないみたいだし」
 そう言われても、この場から一刻も早く逃げたいのでやはり急いで食器を拾っていった。
「失礼しますわ」
 そこへ、ジュリエット達四人+ロープをほどかれた静香が入ってきた。
 入れ代わるようにミネッティは立ち去ろうとするが、ふと静香がいつもと違う気がして一瞬立ち止まった。
「どうかされましたか?」
「いえ、べつに」
 心配して声をかけてみればあっさり切られた。
 どうやら無理に連行されてきたせいで機嫌がナナメらしい。
 もっともミネッティとしても適当に流して帰ろうという考えが先行していたため、
「はぁ、えっと、何かあったら呼んでいただければすぐ来ますので」
 それ以上は追求せず、校長室を後にした。
「静香さん。今日はどうしたの? 朝からずっと顔を見せないで」
 室内では、ラズィーヤが一番に口を開かせた。
 今回ループでは登校中に軟禁されたため、事情を話せていないと今更に思い出す静香。
「実は……」
 なので改めて今回起きたことをすべて話していった。身体のことももう隠さなかった。
(パートナーに力を借りて、同時に僕も頑張らないといけないからね)
 ラズィーヤに協力を求める以上は、事情を知って貰う必要があったから。
「まったく、相変わらず静香さんは。ヘンなところ意固地で、いつもひとりで抱えようとするんですから。これはおしおきですわね」
 けれど話を聞き終えたラズィーヤが不敵に笑うのを見て、やっぱり後悔した。
「まずは、その女性の身体というのを、じっくり確かめさせて貰いますわぁ!」
「――――――!」
 そのあと室内で何が行なわれたかは、ご想像にお任せする。
 とりあえずことが終わったあとで満足げにジュリエット達が出てきたとだけ言っておく。

「それで、全校生徒に指示をしてほしいんだよ」
 校長室を訪れた茅野 菫(ちの・すみれ)は、そう提案していた。
 菫は本来ハロウィンパーティーで友人となった泉美緒(いずみ・みお)のところに遊びにきただけなのだが。おかげでまたループに巻き込まれる運びとなり。
 あることを記入しておいた手帳がまた真っ白になっていたことから、リセットされる日々に気がつき、今はこうして解決を手伝おうと思いたったらしい。
「内容は『必ず常に最低でも二人一組で行動し一人にならないようにすること』だ。そうすれば、やましいことのない人たちなら安全を確保できるじゃん? もちろん、一人で行動してる人間がいれば、ループの犯人、あるいはよくないことを考えてる人物だってわかりやすくなるし」
「なるほど。いささか不安要素はありますけど、もう幾度となくループしているようでうし。多少の強攻策をとったほうがいいかもしれませんわね」
「じゃあ」
「ええ。至急そのように放送しておきますわ」
「よかった! えーと……それはそうと、さっきから気になってたんだけど」
「なにかしら?」
「なんで校長先生が部屋の隅っこで膝抱えて涙ぐんでるんだよ?」
「あ、気にしないで。少しおしおきしただけですわ」
 菫は、本当にこの人に頼んでよかったんだろうかと急激に不安になった。

 ともあれ先の内容が校内放送された後、
 菫は美緒と一緒に行動していた。
「わたくし、全然知りませんでしたわ。学院でそんなことが起きていたなんて」
「まあね。あたしも、手帳にあのことを記入してなかったら気がつかなかったよ」
「あのこと? なんですの、それは」
「知りたい? じゃあ教えてあげようじゃん」
 能天気に構えていた美緒のうしろにまわり、菫はおもむろに美緒の胸を掴んだ。
「きゃ! ちょ、ちょっとなにを……」
「え? だからこのこと。美緒へのセクハラをいろいろ書いておいたんだけど。それが全部消えちゃったおかげでわかったんだよ」
「そ、それはわかりましたから……ん、やっ……離して……」
 ぱっ、と一度離して息をつかせた。かと思いきやまた揉みはじめる菫。
「ああっ……ど、どうしてまた……きゃっ」
「いやあ。見てたらうらやましくって、つい」
「そ、そんな理由……で…………あっ、や、やめ……」
「でもほんとにけしからん胸だね! もうちょっとおしおきしなくちゃ」
「も、もう……やめてくださいませ……ほんとに、だめ……あ、んんっ!」
 たぷたぷさせたり、むにむにしたりとひたすらにセクハラを続けながら。
 これじゃあラズィーヤを非難できないかなぁ、と自覚する菫だった。

 そのころ。
 ラズィーヤのおしおきからようやく復活した静香は、保健室の前にいた神代明日香に改めて声をかけ、一緒に校内を歩いていた。
「ちゃんと立ち向かう気になってくれたみたいでよかったですぅ。最初の頃とは顔つきが違って見えますよ」
「そうかな? まあ、とっくにわかっていたことを再認識したっていう感じで。成長とは程遠い一歩だったけど」
 そして今、明日香のほかに百合園の制服を着て女装した音井 博季(おとい・ひろき)ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)も行動を共にしている。
(うう……女装なんか恥ずかしいよう。でも、我慢だ……人助けをする。それこそが僕の望んだ正義じゃないか)
 恥ずかしがりながらも護衛の任についている博季。
(こうやって地道に頑張っていればいつかロイヤルガードにだって推挙して頂けるかも知れないし……ていうか志願してるし。今より多くのものを護るため、より近くでリンネさんを護るためにも僕はロイヤルガードになるんだ……そのうちの一歩だ。頑張ろう、僕。頑張れ、音井博季ッ! 己に負けるな! 羞恥心に負けるな! 見た目だけは女の人っぽいんだし、自然に振舞えッ……)
 なんだか心の中で必死に自分を鼓舞しながら歩いていて、見ているとちょい怖かった。
 あともうひとりの、ブルタはというと。シャンバラの治安を預かるジャスティシアとして、今回のことに事件性があると判断して、百合園での活動許可を静香に求めにきたのだった。
 その後ひとりで動かないほうがいいと言われ、こうして同行しているわけなのだが。
「それでボクが思うにはだね。前回のラズィーヤの幽霊も、静香校長が必要だと言ったから消えたわけだ」
「まあ、そうみたいだけど」
「だから今回は、実行犯に関係すると思われる……西川亜美だったか。彼女に対して『ボクに君は必要ない』と、直接伝えればループが終わるのではないかと考えているわけだよ」
「んん。たしかに、僕としても亜美には一回ちゃんと話したいことがあるんだけど」
 なのでこうして校内を回っているのだが、どこにいるのかまだ出会えないままだった。
(まあ、逆効果になる可能性も考えられるけど。それならそれで面白い)
 ブルタは密かにそんな考えも持っていたが、実際そのくらいのことをしないと事態は停滞したままだとも考えていた。
(正直、現在の難しいシャンバラの舵取りをするには、今の静香じゃどう考えても力不足だ。静香が変わらないなら白百合はお終いだろうな)
「でも……本当に大丈夫かな。亜美は」
 懲りずにまたウダウダ言いはじめた静香に、
「怖い事から逃げ出せば誰かが解決してくれる。そんな都合のいいようにこの世界は出来ていないんだよ」
 ブルタはやや突き放すような物言いで、発破をかけておいた。