リアクション
「またここに来ることになるなんてね……」 ○ ○ ○ 先遣調査や攻略隊で隊長を務めた樹月 刀真(きづき・とうま)は、回収班作業開始と共に、風見瑠奈に事情を話して、自らが最後に向かった場所――北地点の地下にある制御室を訪れた。 刀真が持ち帰らなければならないものが、ここに存在するから。 それは、彼が切り落としたソフィア・フリークスの腕だ。 そして、その腕にはめられていた腕輪。 あれから、半年の時が流れたというのに、彼女の腕はあの時のまま、制御室に在った。 腕を拾い上げながら、当時のことを思い出す。 腕を斬られた後、ソフィアはパートナーの円に謝罪の言葉と、礼の言葉を言った。 そして、彼女に対して、笑顔も見せた。 「この腕は、彼女に渡すべきですね」 腕にはめられた腕輪は、いまだ嵌められたままの状態だった。 調査の結果、この腕輪と同種の腕輪には爆弾が仕込まれていたということも、判明している。 刀真は無理に外すことはせずに、持ってきたシートで彼女の腕を包む。 「これが裏切りを防止するために嵌めさせられた爆弾付きの腕輪なら、その事実を公表してもらいましょう」 そうすることで、騎士の橋のソフィアの像を撤去を望む人や……落書きをしたり、傷つけようとする人の心像が変わってほしい。 この情報で心像を変える人達に、彼女を裏切り者として扱って欲しくはない。 知っている人たちが、それぞれの思いで、彼女を覚えていればいい……と、刀真は考えていた。 「その後、この腕輪はどこに?」 月夜が刀真を手伝いながら問いかけた。 「ヴァイシャリー家管理になるだろうな」 月夜は「そう」とだけ答えた。 刀真に話しはしなかったけれど、個人的にラズィーヤにソフィアの遺品としてパートナーであった桐生円に渡すことを考えてはもらえないかと、お願いしてみようと思っていた。 「戻ろう。時間、限られてるから」 「そうだな」 先に、月夜が制御室から出る。 刀真も制御室を調べたりはせずに、自らがすべきことだけをして、回収班の手伝いに戻ることにする。 (アレナ・ミセファヌスを連れて地上に戻ったら、署名を提案した方にも礼をしにいかないとな。あの時、彼女が協力してくれたこともあって、今があるのだから) 帰ってきてほしいと願っている人達の気持ちを裏切ることにならなくてよかった。 そう思いながら、刀真はふと、後ろを振り返る。 アレナが眠っていると思われる方向を。 (……白花……) 刀真のもう一人のパートナーである、封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)は、ここにはいない。 扶桑に取り込まれたままだった。 刀真は、アレナと優子の今の状況を、白花と自分に重ねてしまう。 アレナを連れて帰って、優子と一緒にいるところを見ることができたのなら……何か、希望が見えてくるのではないかと、そんな淡い思いを抱いていた。 「時間ない。行こう」 月夜が立ち止まった刀真の腕を引っ張った。 「うん」 刀真は月夜に腕を引かれて、皆の元へ戻った。 「わかってはいましたけれど、調査は難しいですわね」 離宮対策本部で、副本部長として尽力した神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)も、パートナー達と共に、離宮に下りてきていた。 現在は、北側の地下道にいる。 2時間はかなり短い。 事前準備に力を注ぎたかったところだけれど、その時間もあまり取れなかった。 とはいえ、エレンは事件後も、資料の調査や先を見据えた提案を行い続けていたため、必要最低限の準備は出来ていた。 ただ、ラズィーヤは離宮の調査に前向きではなく、非協力的だった。 敵対勢力が技術を狙ってくる可能性、メンバーの中に潜入する者が出る可能性、そしてまた犠牲が出る可能性が、きわめて高いと考えられるからだ。 だからこそ、今回が離宮を調べる最後の機会になる可能性もある。 「ここでは調査を行わず、資料やデータを持ち帰ることに専念しましょう。全部の箇所を素通りして回るだけでも、2時間以上かかってしまいそうですものね……」 北の塔から、南の塔まで、歩いて向かったとしたら敵に遭遇しなかったとしても、数十分の時間がかかってしまう。 地下道だけであっても、エレン達だけでくまなく調べることは不可能だった。 「どこを調べるか……それを決めんとのう」 フィーリア・ウィンクルム(ふぃーりあ・うぃんくるむ)が顔をしかめる。 調べたい場所は多く、どこと決められずにいた。 「できるだけ情報を持ち帰りたいですけれど、絞った方がよさそうですわね〜。としますと、ここと、宮内の制御室でしょうか。いえ、制御室は他の方にお任せしましょう〜」 鎧化し、エレンに纏われているエレア・エイリアス(えれあ・えいりあす)がそう意見を出す。 先の離宮調査において、到達できなかった重要ポイントはわかっているだけで、2範囲。 1つは、宮殿の制御室。ジュリオ・ルリマーレンが眠っていた部屋の奥だ。 ただ、ここは記憶を取り戻しつつある6騎士達が把握している場所であるため、今となっては特に問題はない。 もう1箇所はここ……北の塔、使用人居住区の地下だ。 離宮を管理している制御室の他に、いくつも部屋があることが判明している。 「時間か人手、どちらかがあればまだよかったのですけれど」 さすがに、遺体や遺品の回収に力を注いでいる者達に調査を手伝ってとは言えないから。 エレンはパートナーと共に、とりあえずはこの近辺を走り回って調べて回ることにする。 「この部屋から調べるある」 プロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)が、慎重にドアを開けて、中の部屋をデジタルビデオカメラで撮影していく。 「本があるのう」 フィーリアが入り込み、本を手にしてめくってみる。 「何が書いてあるのかはわからぬが、持てる範囲で持ち帰るとしよう」 そして、持ってきた箱の中に、本を入れていく。 「壁に文字が書かれているある……」 プロクルは壁の文字に気付く。 「おそらく他の部屋に繋がっているのでしょうけれど」 エレンも、エレアのダークビジョンで文字を確認し、近づいて触れてみたが、反応はなかった。 「合言葉か何かが分からないと、通れないようですわね」 「ピッキングでも無理かしら?」 エレアが問うが、エレンは首を左右に振る。 「6騎士のどなたかなら、わかるかもしれませんけれど……」 事前に、調査をしようと皆に呼びかけておけば、少し違ったかもしれない。 だけれど、あの場に呼ばれた人達には、それぞれ他に目的があるし、転送の難しさから大人数を送ることが出来ないということも、熟知していたから……。 エレンは軽く吐息をついた。6騎士を呼んで調べている時間はない。 わずか数分、部屋を見回した後、隣の部屋へと移動することにした。 「いつ行えるようになるのかはわかりませんが、眠っている兵器類を無力化したり、地盤沈下や悪用などを防ぐためにも、浮上させての再開発は必要になりますわ」 あとは最低限、離宮を一周して、造りを見ておきたい。 出来るだけ、その時安全に浮上させることができるよう、被害や事故などが起きないように、現状を把握しておかなければならないと考えて。 |
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