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リアクション
「他校の協力に感謝、だな。いずれこの恩は、俺たちも返さねばならないだろう」
シパーヒー『エンポリオス・リオ』にて出撃したヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)は、そう呟いた。サブパイロットのキリカ・キリルク(きりか・きりるく)が頷く。
同じく出撃した泰輔やルドルフとも協力しつつ、ヴァルの機体はレイピアを片手に宙を舞った。
「おそらく、これらはまだ露払いだろうね。ほぼ無人のゴーストイコンばかりだ」
ルドルフが、通信機ごしに彼らに言う。
「僕らが疲労したところで、本隊をぶつける狙いかな」
「だとしても、一歩も退く気はないがな」
ヴァルがそう答えると、ルドルフは薄く笑った。
「奇遇だね。僕もだよ」
「ヴァル、来ます。……ゴーストイコンではありません」
キリカが短く告げる。ヴァルは素早く、周囲へと視線をやった。
彼らの前に現れたのは、一体の異形のイコン――アニメイテッドイコンの、フランクガイストだ。「あなた達に聞きたい! 超霊とかいうフラワシを他人に与えるフラワシ使いのことを知っていないか!」
そう、高らかに尋ねたのは、葛葉 杏(くずのは・あん)だ。
彼女は、超霊の存在を知り、それを操るというフラワシ使いのウゲンに興味を持ち、ここへやって来たのだ。
「彼ならば、そこにいるよ。……ただ今は、ゆっくり話ができる状況じゃないけどね」
ルドルフが指し示した先を、杏は振り返り見つめた。わずかな霧の向こう、ゴーストイコンを従えた少年が、道化とともにこちらを見下ろしている。
(あれが……?)
予想よりも子供だ。しかし、あんな所で暢気に浮いていられる、そして今や制御することもしない邪の力を感じ、杏は美しく調えられた眉をしかめた。
「おまえも、超霊が欲しいのか?」
ヴァルが若干の警戒を持って尋ねた。
「いいえ。それは別にいらないけど、何者か気になったのよ。でも、まぁいいわ」
杏はそう言うと、フランクガイストの体勢を変え、ゴーストイコンに相対した。
「ゴーストイコンはこのままにしておけない。……だから、ぶっ壊す!」
少女らしからぬ物騒な物言いに、ルドルフはふっと笑った。
「勇ましいね。君の名前は?」
「通りすがりのイコンとそのパイロットさ」
ルドルフと同じように、やや芝居がかった口調で答えると、杏は一気にゴーストイコンへと向かっていった。
「思わぬ援軍だな」
しかし今は、心強い限りだ。ヴァルはそう思いながら、肉弾戦を繰り広げる杏の助太刀に回ろうとした。
……もしもゴーストイコンが有人であれば、彼女がトドメをさす前に、捕縛したいという考えもある。
ヴァルは本来ならば、非殺の前提だ。しかし、相手が生身でないとすれば、取り押さえても意味はない。ここは、可能な限り被害が広がらぬよう、撃墜していく他にない。
(お優しいね。人殺しになりたくないだけにも見えるけど)
「……!?」
突然、ヴァルの耳元に響く、少年の声。……それは、ウゲンのものだった。
この戦いの最中にあって、中空で、彼はコーヒーを片手に相変わらず優雅にこちらを見下ろしている。
(理想だけを頼ったところで、現実はそうはいかないよ? 新米イエニチェリさん)
揶揄もあらわな口調に、ヴァルは歯がみをする。無理矢理にも心をささくれ出せ、ざわつかせようとするウゲンの企みだ。
ヴァルはウゲンを睨み付け、拳を握りしめる。
しかし。
「ヴァル。落ち着いてください」
キリカの冷静な声が、ヴァルの意識を醒まさせる。
「貴方は常に研ぎ澄まさねばならない。様々な状況、様々な声に対して動けるように。だが、不要なものにまで、その耳を傾ける必要はありません」
正面を見据えたまま、キリカは力強く言い切った。
「……そうだな。感謝する」
ヴァルは深く息をつき、そして、改めて敵機へと向かい合った。
惑わされてはならない。己の心を、力を、信じる。己が身をさしだし、傷ついても、薔薇の誇りを護ると決めたのだ。
ウゲンの思うがままに遊ばれてなどはいない。これは、己が決めた道。
……エンポリオス・リオのレイピアが、一閃を放つ。それは過たず、ゴーストイコンを刺し貫いた。
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