空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

The Sacrifice of Roses  第一回 薔薇の誇り

リアクション公開中!

The Sacrifice of Roses  第一回 薔薇の誇り
The Sacrifice of Roses  第一回 薔薇の誇り The Sacrifice of Roses  第一回 薔薇の誇り

リアクション

4.


「ゴーストイコンは、今のところ四機。……五機、まだ増えるようだ」
 教導団から持ち込んだ簡易レーダーで、上空の状態を把握し、橘 カオル(たちばな・かおる)が情報を伝える。教導団だけではなく、薔薇学の生徒たちにも、それは同様だった。
 イコン基地近くに、カモフラージュの上用意した教導団の天幕で、カオルはレーダー画面を見つつ、通信機に向かって語りかける。
「飛行部隊だけじゃない。地上からも接近している。警戒してくれ」
 カオルはそのほかにも、できるだけ情報を集め、伝えるつもりだ。戦況を、少しでも良くするために。彼は心から、協力できればと思っているだけなのだ。
 さらに上空からは、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が、その翼を自由にはためかせ、索敵していた。
 ドラゴンの翼が、風を切り、霧を薙ぎ払う。視界には、闇色のゴーストイコンを捕らえていた。
「全方位からやってきてる。どこに飛び出しても、相手には不自由しないぜ」
「そういうことみたいね!」
 カルキノスの言葉に答え、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)とともに、待機させていたイコン、レイを発進させた。
 迷彩塗装を施されたイコンが、その重量を感じさせない動きで、力強く上昇する。
 ダリルは、すでにルドルフやヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)と、防衛計画も打ち合わせ済みだ。薔薇学のイコンは、基本的にイコン基地から離れず、後方を護る。戦陣を切るのは、主に教導団の役目だった。
「ダリル、いっくわよー!」
「ああ。狙っていけ」
 レイの手に握られたマジックカノンが火を噴いた。込められた魔力は弾丸となり、光とともにゴーストイコンを撃ち抜く。
「遠慮はしないわよ。いらっしゃい!」
 予備のカノンも用意済みだ。ルカルカの金色の瞳が、猫のように光った。

 一方、地上では。
「丁度実験がしたかったんだ! 悪いが付き合ってもらうぜ? 敵さんよぉ!!!」
 魔鎧であるザムド・ヒュッケバイン(ざむど・ひゅっけばいん)をまとったジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)が、イコン内部で吠える。イコン、晃龍オーバーカスタムは、彼の咆吼に答え、その巨体を揺らした。
「我、砕、世界、終焉……」
 ザムドが不気味に呟く。彼がジガンの全身を覆い、『接続』されることにより、ジガンは一種のバーサク状態となる。
「ますたー、素敵イ♪ ボク、もぉ、濡れちゃうっす♪」
 エメト・アキシオン(えめと・あきしおん)が、華奢で可憐な姿でとんでもないことを口走りながら身を捩る。
 最愛のジガンが、ザムドに全身を包まれ狂熱する姿は、かなり歪んだ変態であるにエメトにとってはたまらないものだ。彼とは一つになれない可哀想なボク的被虐心やら、ザムドに弄ばれている的BL妄想やら、あげていけばキリがない。まぁもっとも、常にジガンはあらゆる意味でエメトにとっては『オカズ』といえなくもないのだが。
 しかし、その一方で、エメトの情報判断は的確でもある。ゴーストイコンの位置を捕捉し、ライフルで先制攻撃をかます。ただ。
「ますたー、イマっす。いっぱいたっぷりイっちゃってー!」
 ……言葉の選び方に問題はあるようだ。
「オラアアァァッ!」
 猛り声を上げ、光条サーベルでジガンは思い切り斬りかかった。突き出された槍を、そうと意識する前に避け、サーベルを幾度も振り下ろす。半ば力任せの、そして、正気とは思えぬ無茶な戦い方だ。そのうち、激しい音をたて、ゴーストイコンの機体に深く亀裂が入る。
「おっと」
 背後にまわりこんだ敵が、昇竜オーバーカスタムを狙う。するりと避けた剣は、傷ついたゴーストイコンを襲い、皮肉なことにトドメを指す結果となった。
 最後をもっていかれたことに、ちっとジガンは舌打ちし、新たな相手に向き直る。
「次はお前かぁ〜」
 にやりと笑った口元は、すでに人間ではなく、獣のソレに似ていた。



「もう、なんの騒ぎ??」
 天野御柱学院の朝野 未沙(あさの・みさ)が、目を丸くする。
 各種イコンを集めることに熱意を燃やしている未沙は、大胆にもシパーヒーの売却を求めて、イコン基地を訪ねて来ていたのだ。
 愛機、AFI−211Cに孫 尚香(そん・しょうこう)が同乗して、タシガンへとやってきたものの、いきなりゴーストイコンと鉢合わせしてしまったのだった。
「これであたしのシパーヒーが壊されたりしたら、どうするのよっ!」
 未沙は思わず親指の爪に歯をたて、やきもきと呟く。まだ譲ってもらえるとは限らないのだが、彼女のなかではすでに決定事項らしい。
「どうする? 未沙」
 尚香が尋ねた。この騒ぎでは、譲渡交渉などとても出来るとは思えない。
 その時。
「きゃあっ!」
 ゴーストイコンの放った火矢が、火球となって未沙たちを襲ったのだ。
「なにするのよっ!」
 振り返ると、上空から一体のゴーストイコンが、未沙たちを狙って下降してくるところだった。未沙と尚香は咄嗟に反撃を試みたが、しかし。
「……え?」
 突如、一人の筋骨たくましい男が、空中へと跳んだ。プロミネンストリックの力を借り、未沙たちを護るようにゴーストイコンの正面に躍り出たのは、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)だ。
「その装甲もろとも、ぶっ壊してやんよ!」
 覇気を解放し、全身から薄煙のごとき闘気を漲らせ、ラルクの拳が唸りをあげた。
 ――ドオォォンッ!!
 ゴーストイコンの機体が、ラルクの拳を中心に半円形にひしゃげ、無惨に吹き飛ぶ。それを見届け、ふぅ、と深くラルクは息を吐いた。
「そっちは、大丈夫か?」
「うん、ありがとう……」
 目を丸くしつつも、未沙はそう素直に礼を述べた。
「教えてくれない? こいつらは、なに?」
 尚香の問いかけに、ラルクは「なんだ、知らなかったのか」とばかりに苦笑する。
「ウゲンが、ゴーストイコンを使って、シパーヒーを奪おうとしてんだよ。ここらは危ねぇ、逃げたほうがいいぜ」
「シパーヒーを!?」
 その言葉に、未沙の目の色が変わった。
 みすみす目の前で、ウゲンにシパーヒーを取られるのは癪だ。それに、ということは、薔薇の学舎に協力すれば、シパーヒーの譲渡交渉に有利になるかもしれない!
「まだまだ湧いてきやがる。今のうちに……」
「あたしも戦う! あたしのシパーヒー入手を邪魔する人は絶対に許さないよ!」
 未沙はやる気まんまんだ。尚香としては、シパーヒーにそれほど執着はないが、なにかを護ろうとする人の気持ちには共感できる。協力するには、やぶさかでなかった。
「イコン基地には、近づかせないんだから!」
 ゆらゆらと不気味に近づくゴーストイコンに、未沙は勢いよくバズーカ砲を打ち込む。
「心配いらねぇようだな」
 ラルクは笑い、被弾しないように若干未沙から距離を取った。
 彼は、イコンには乗らない。戦うのには、この拳一つで充分だ。
 薔薇学に対して恩義はある。少しでも力になれればいい。
 ウゲンの正体が、なにやら得体の知れない『力』をもった存在だということは、わかっている。しかし、だからといって、ひれ伏すなどということはあり得ない。
「神だろうが、イコンだろうが倒せるんだったら倒すまでだ。……来な、死に損ない」
 鋭い視線でゴーストイコンを見据え、ラルクは持ち前の身体能力でもって、素早い動きで攻撃を回避し、時に渾身の拳をたたき込む。
 相手はなにせ巨体のイコンだ。油断は禁物だということも、己に言い聞かせつつ。
 ラルクは鬼神のごとく、戦場を駆けた。