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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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茨ドーム

 
 
「きゃーきゃーきゃー、なんでまたスライムが大量発生しているのよ。すっぽんぽんは嫌ー!!」
 うねりながら追いかけてくる巨大スライムをときおり振り返りながら、日堂 真宵(にちどう・まよい)が叫んだ。
「きっとこうなるような予感がしたのです。悔い改めなさい、日堂真宵!」
 必死に走りながら、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が叫んだ。遺跡に眠る幻のメロンパンがあるからと日堂真宵に誘われてきたのだが、やはり嘘だったようだ。
「ううむ、これではまともにデッサンする暇もないな」
 すたすたと先頭を歩きながら、ちょっと困ったように土方 歳三(ひじかた・としぞう)が言った。
「ちょっと、なんでわたくしたちは走っているのに、土方さんは歩いてるんですか」
 抗議するように、日堂真宵が言った。
「それはコンパスの違いだ」
 必死に走る日堂真宵とちまちま走るベリート・エロヒム・ザ・テスタメントを見下ろして土方歳三が答えた。
「納得できない! とにかく、無敵のフラワシでなんとかしなさいよ!」
「うむ。だが。まずは、スケッチしてからだ」
 後ろむきに日堂真宵たちと同じスピードで歩きながら、土方歳三が巨大スライムをスケッチし始めた。
「あんたって人わあ!!」
「ああ、すっぽんぽんに召される前に、もう一口メロンパンを食べたかった……」
 限界に達していたベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが、ぺたんとその場に倒れ込んだ。容赦なく、巨大スライムが迫る。
「テスタメント!」
 しかたないと日堂真宵と土方歳三が戦いを決意したとき、何か巨大な影が巨大スライムを轢いた。ぺしゃんと、巨大スライムが霧に戻って弾け散る。
「カレ〜、カレ〜、我が輩の元気の源。地祇でもフラワシでも煮込めばおいし。カレ〜、カレ〜、辛くったって呑み込めば平気。お風呂にだって使えちゃう。カレ〜、カレ〜♪」
 怪しげなテーマソングを外部スピーカーから流しながら、アーサー・レイス(あーさー・れいす)が一人で操縦するカレーゴーレムが、カレーのたくさん詰まったコンテナを牽いて現れた。単なるセンチネルで、出力も30%なわけだが、アーサー・レイスとしては屋台が引ければそれで充分らしい。
「おお、アーサー、初めてよくやった……って、アーサー、止まれってのよ、このバカ!」
 助かったと思って珍しくアーサー・レイスを褒めた日堂真宵だったが、カレーゴーレムの歩みが止まらない。端から、アーサー・レイスは日堂真宵たちなど眼中になかったらしい。
「カレ〜、カレ〜♪」
「きゃ〜っ!」
 あわてて、日堂真宵がその場から逃げだす。自分まで巨大スライムの二の舞はごめんだ。その後ろから飛び出した土方歳三が、素早くベリート・エロヒム・ザ・テスタメントを拾いあげて避難した。
「まったく、後で殺す!」
 中指を突き立てて、日堂真宵がカレーゴーレムの背中にむかって叫んだ。
「オー、障害物デース。これでは、カレーの行商を続けることができまセーン」
 順調に直進していたアーサー・レイスであったが、行く手を広大な茨の茂みに阻まれてカレーゴーレムの足を止めた。
「排除しマース」
 持っていたスピアを突き刺して茨を取り去ろうとするが、あっけなくスピアが弾き返された。
「ワッツ!?」
 むっとしたアーサー・レイスが無茶苦茶にランスを突き立てたが、不思議なことに茨は傷一つつかなかった。まるで、何かによって守られているかのようだ。
「何やってるのよ、あのバカ」
 今や怪しい踊りを踊っているようにしか見えないカレーゴーレムに、日堂真宵が呆れた。
「天罰なのです。きっと、あの邪悪なカレーから森を守る結界に違いありません。きっと、あの茨のむこうにはも、黄金のメロンパンがあるのです!」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが目をキラキラ輝かせて叫んだ。そんな得体の知れない所にあるメロンパンなんてどうせ賞味期限切れだわと、日堂真宵が現実でベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの夢をあっさりと打ち砕いた。
「だいたい、メロンパンの匂いなんて、カレーの臭いで全然しない……」
 言いかけて、日堂真宵がちょっと気持ち悪くなってむせた。カレーのスパイスのむせかえるような香りに、何か甘たるい香りが混じっている。はっきり言って、この取り合わせは気持ち悪い。
「あれは、アルディミアクではないのか?」
 土方歳三が、茨に近づく人影をさして言った。
 暴れるカレーゴーレムを避けるようにして、宙を浮かぶ小さな人影に先導されたアルディミアク・ミトゥナが茨に近づいていく。そのとき、不思議なことに茨の壁が二つに分かれて隙間ができた。その中へと、二人が入っていって姿を消す。
「入れるんじゃない。行きましょ」
 なあんだと、日堂真宵がアルディミアク・ミトゥナたちが消えた場所に土方歳三たちと一緒に駆けつけた。だが、すでに扉は閉ざされた後のようで、茨の蔓は人を拒むかのような密度でびっしりと生い茂っていた。
「痛っ……、なんで入れないのよ」
「心にやましいことがある人は入れないのです」
「じゃあ、あんたが入ってみなさいよ」
「こ、これ、日堂真宵、やめ、やめ……、やめて!!」
 日堂真宵はさも知った風な口を叩くベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの頭をつかむと、そのまま茨にむかって押しつけようとした。さすがに、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが必死に抵抗する。
「ゆけ」
 そんな二人の傍で、土方歳三が茨のむこうを指さしていた。日堂真宵たちには見えないが、きっと描画のフラワシを茨のむこうへとやっているのだろう。これで、中の様子が分かるはずだ。そのはずであった……。
「なんだと、フラワシが侵入できないだと!?」
 珍しく、土方歳三が驚いた顔をする。
「へえ、土方さんの無敵の描画フラワシでも、できないことがあるのね」
「ですから、日頃の……ひっ」
 また憎まれ口を叩こうとしたベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが、土方歳三に睨まれて縮こまった。
「あとは、あのバカに頑張って穴でも開けてもらうしかないかあ。こんなに厳重に守られているんだもの、きっと中には凄いお宝があるに決まってるわ」
「黄金のメロンパン!」
「それだけはないから」
 期待に目を輝かせるベリート・エロヒム・ザ・テスタメントを日堂真宵が一蹴した。
 そんな彼女たちとは少し離れた所で、カレーゴーレムの傍若無人をはらはらと見つめる者がいた。
「ああ、あんなに乱暴に……。せっかく、ボクが調べてるっていうのに……。許さないですよ」
 ぞろぞろとメカ小ババ様を引き連れたアクアマリンが、はらはらとした表情で叫んだ。
 彼としてはこの茨ドームの中に何かがあることまでは分かっていたのだが、アーサー・レイス同様に今まで結界を突破できずにいたのだった。それだけに、一番乗りは自分で果たしたいという思いが強い。
 マジックスライムを放ったときは、なぜか近づくのを嫌がって逃げてしまった。メカ小ババ様を突入させようとしたときも、茨に引っかかって中には入れなかった。攻撃を加えて焼き払おうとしたこともあったが、異常な再生力と分厚い茨の層に阻まれた。そのため、イコンを強奪してもみたのだが、その改造が終わる前に動きが起こったのだ。
 イルミンスール魔法学校で資料を漁り、『七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫』という話を知り、この茨ドームが昔から保存されていることまでは分かった。中には絶世の美女が眠っているというのが都市伝説であるが、その真偽のほどは当然ながら分からない。
 何度か世界樹に忍び込むうちに、必要な薬品などを失敬してきたわけだが、あるときの帰り道、イルミンスールの森で石に躓いて転んでしまった。今にして思えば、それがメイちゃんたちの御挨拶で砕かれたココ・カンパーニュの像の変わり果てた姿だったのだが、そのとき偶然石化解除薬がかかって霧が元の姿を取り戻した。
 さすがに、それが現在根城としているタシガンの廃城にいた霧の魔物だと見抜いたアクアマリンは、姉のエメラルドに手伝ってもらって、その培養を行ったのである。
 目的は、イルミンスールの森を広範囲に霧で被って、そこに隠されている意図を具現化するためである。それによって、この茨ドームの秘密が分かるかもしれないと思ってのことだった。だが、まさか復活したストゥ伯爵とオプシディアンたちが接触したことまでは、彼も予想していなかった。単純に現在まで分かっていることは、茨ドームの内部の意志に反応して、謎の小型機晶姫と剣の花嫁に変化した霧が、複数この森を徘徊し始めたということだけだ。
「いずれにしろ、邪魔者です。姉さんのアトラウアの的になってもらいましょう」
 そう言うと、アクアマリンが携帯でエメラルドに連絡した。
 ややあって、ガシガシ茨ドームを削ろうとしていたカレーゴーレムめがけて、正確な攻撃が飛来した。巨大な氷でできた槍だ。カレーゴーレムが引っぱっていたコンテナに命中すると、一瞬後に細かい罅が入って激しく周囲に破片を飛び散らせながら爆発した。一撃で、コンテナが木っ端微塵に吹き飛ぶ。直撃ではなかったものの、カレーゴーレムが吹き飛ばされてぼろぼろになった。
「何、いったい何が起こったのよ!?」
 予想だにもしなかった事態に、日堂真宵が叫んだ。幸運なことに、茨ドームに張りついて入る方法を模索していたために、爆風で飛んできた氷の破片を茨が自己防衛機能で弾き飛ばしてくれたのだった。そうでなければ、三人とも原形をとどめていなかっただろう。
「と、とりあえず、アーサーを回収してとんずらこくわよ!」
 これ以上はやばいと本能的に感じた日堂真宵が叫んだ。