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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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「これは……」
 湖に辿り着いたソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、その光景を見てちょっと愕然とした。
 かつて赤や青のスライムがたまっていた湖跡は、今は綺麗な水の湖と化していた。いや、だからといって、水色をしているわけではない。そこそこ広い湖の表面は、今は一面黒く塗りつぶされていた。
 黒蓮の花だ。
 周囲には、むせかえるような甘い香りがたちこめ、ちょっと頭がくらくらする。
 その中央に、まるで湖面が固い鏡か何かであるかのように、翠色のワンピースを着たエメラルドが立っていた。
 その近くには、彼女よりも小さい背格好の不思議な少女たちが空中にふわふわと浮かんでいた。ポンチョにも見える貫頭衣だけを身につけた小型の機晶姫だ。ちょっと大きめの頭は、黒目がちの大きな瞳を有しているが、その表情はにこやかに笑った形をしているだけで、ほとんど感情を感じられない。
「はい、あなたにもつけてあげましょうねっ♪」
 そんな機晶姫たちの髪に、エメラルドは黒蓮の花を一つずつさしてあげていたのだ。
 何も知らなければ、それは少女たちのたわいのない遊びに見えたかもしれない。だが、その周囲では、黒蓮から絶え間なく霧が発生していた。まさに一部では吹き出すという勢いで霧が生まれてきている。大気にあふれ出た霧は、そのまま湖から風に乗ってイルミンスールの森中へと広がっていく。
 霧に乗って、黒蓮の香りもあちこちへと運ばれていっているようだった。この香りに悪酔いする人がいなければよいのだが。
「なあ、俺様の鼻は確かだっただろう、御主人」
 湖の場所をかぎ当てた雪国ベアが、自慢そうに言った。
「そんなことよりも、この花をなんとかしないと、霧は消えませんです」
 ソア・ウェンボリスが戦闘態勢をとった。
「あら、何か騒がしいと思ったら、お客さんかしら」
 さすがにソア・ウェンボリスたちに気づいて、エメラルドが声をかけてきた。
「ねえ、なんでこんなことをしているのよ」
 『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)が、エメラルドに訊ねた。
「こんなこと? お花を育てるのがいけないことかしら?」
 しれっとエメラルドが答えた。
「あなたがしているのは、そんなことじゃないでしょう。何を企んでいるんです」
 ちょっと強気に、ソア・ウェンボリスが問い質した。
 
「すでに誰か来ているようね。ここはちょっと様子を見ましょう」
 遅れて到着したナナ・ノルデン(なな・のるでん)が、ソア・ウェンボリスたちがエメラルドと対峙しているのを確認して、光学迷彩で姿を隠した。
「さあ。私はここでお花遊びをしてほしいと頼まれただけだから」
「だったら、そのちっこいのはなんだよ」
 当然のように雪国ベアが突っ込む。
「さあ、どこからか遊びに来るから、相手をしていたのだけれど。とにかく、邪魔はしないでちょうだいね。さもないと……」
 エメラルドが敵意を込めた笑みを浮かべると、彼女の足許の霧からいくつもの水球が浮かびあがってきた。
「嫌な雰囲気だぜ」
 雪国ベアが唸る。水球を周囲に浮遊させて操るエメラルドは、魔導球を操るオプシディアンを連想させて嫌な感じだ。
「とにかく、イルミンスールの森は私が守ります!」
 ソア・ウェンボリスが、湖にむかってブリザードを放った。湖面の一部がたちまち凍りつき、黒蓮が氷の花と化して霧の噴出をストップした。そこを、『空中庭園』ソラが雷術で砕いていく。
「まあ、私のお花畑を……、生意気!」
 エメラルドが、すっと指さすと、周囲を回っていた水球の一つが猛スピードでソア・ウェンボリス目指して飛んでいった。
「あぶない、御主人!」
 身構えていた雪国ベアが、すかさず前面に出て防御態勢をとる。ファランクスの体勢でヘビーガントレットを交差させた所へ、もろに水球が命中した。たかが水のはずもなく、その勢いに雪国ベアが遥か後ろへと吹っ飛ばされた。
「ベア! 大丈夫!」
「ああ、この程度、なんともないぜ」
 地面に転がった雪国ベアが、駆けつけてきたソア・ウェンボリスに力強く答えた。
「一つでこれじゃあねえ」
 エメラルドが、今度は複数の水球を飛ばしてきた。
「逃げて!」
 忽然と丈夫な段ボールが現れて、ソア・ウェンボリスたちの姿をエメラルドの視界から隠した。
明鏡止水、則天去私!
 段ボールを貫いて飛来する水球を、姿を現したナナ・ノルデンが朝霧の覇気を纏わせた則天去私で打ち砕く。飛び散った水飛沫が、半球状に広がって後方へと飛んでいった。
「ここか!」
 そこへ、やっと湖の場所を見つけだしたトマス・ファーニナルたちがやってきた。
「いろいろと集まり始めちゃったかあ」
 どうしたものかとエメラルドが考え込んだとき、彼女の携帯が鳴った。
「えっ、何、アクアマリン? 今ちょっと忙しいのだけど……。支援攻撃? もう、手間ばっかりかけさせるんだから」
 面倒くさそうに言うと、エメラルドが携帯を切った。その直後、彼女の足許が大きく盛りあがり、巨大な水球が浮上した。湖の水のほとんどが浮かびあがったのではないかと思わせるほど巨大な水球は、表面にびっしりと黒蓮をまとわりつかせて、まるで黒い球体のようだ。
アトラウア
 エメラルドが呼ぶと、彼女の立つ水球の中から巨大な影が浮かびあがってきた。翠色をしたカエル型のイコンだ。おそらくは、イコン博覧会で強奪したキラーラビットを改造した物だろう。後ろ足が異常に発達し、背中には二門の大型キャノンを背負っている。
「きもいやん」
「なによ、カエルはかわいいのよ!」
 大久保泰輔のつぶやきを聞き逃さず、エメラルドが言い返した。 
「アイシクルランサー!」
 何やら携帯で座標を指示すると、エメラルドがアトラウアにむかって命令した。背部のキャノンの一つが角度を変えて狙いを定めた。次の瞬間、氷でできた長槍のような砲弾が発射される。
「防御だ!」
 トマス・ファーニナルが叫んだが、狙いは彼らではなかった。
「どこ狙ってんだ」
 テノーリオ・メイベアが苦笑する。
「いいえ、狙いは私たちではないようよ」
 別の場所へと飛んでいった氷の砲弾を目で追って、ミカエラ・ウォーレンシュタットが言った。遥か遠くで、爆発が起きたようだが、ここからは確認することができなかった。
「あっ、危ないじゃないですか! この私を狙いましたね!」
 ワイルドペガサスに乗ったクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が、そう叫びながら空中を馳せ参じてきた。
 実際はカレーゴーレムにむけて放たれたアイシクルランスだったが、クロセルの乗るワイルドペガサスが偶然その射線近くを飛んでいたらしい。
「はははは、天かける騎士、クロセル・ラインツァート推参。ん? オプシディアンじゃない? まあいいです。悪い子はお仕置きが必要ですね。遠慮は無用、お返しです! よいしょっと」
 クロセル・ラインツァートが、ワイルドペガサスの鞍にくくりつけたレーザーガトリングを発射した。すぐさま防御フォーメーションをとった無数の水球が、レーザーを屈折させて別の場所へと弾いた。
「ちょっと、危ないじゃない!」
 流れ弾が近くに落ちて、ナナ・ノルデンがクロセル・ラインツァートを怒鳴りつけた。