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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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「この霧をなんとかするのが、まずは第一段階ですね」
 イルミンスールの森にたちこめた霧をぐるりと見回して、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が切り出した。
「霧を消すには、ずばり雨です。すべて雨にして地面に落としてしまえば、霧を恐れることもありません」
 というわけで、雨降り大作戦が始まったのだが……。
 原理としては、爆炎波で暖めた大気の下に、凍てつく炎やアルティマ・トゥーレなどで冷やした大気を潜り込ませ、上昇気流とともに寒冷前線を作りだし、一気に雨を降らせて霧を退治してしまおうというものである。もっとも、この理論が正しければの話ではあるが。なにしろ、魯粛子敬先生の時代の降雨技術ははたして……。
 本来は、充分な水分を含んだ大気が上昇気流により高空へと登り、気圧の低下などによる断熱膨張などで氷点下の過冷却状態となり、そこへクラウドシードとなる物質を散布することによって氷片を作り、さらにそれを成長させて地上へと落とすわけである。
 だが、それですら大量の積乱雲が存在してこそ可能な方法であり、実際にゼロから雲を作りだす形では魔法を使ったからといってほぼ成功は望めない。化学変化だけに頼って雨を作りだそうとすれば、たとえその元となる熱や水分の変化を魔法で作りだしたとしても、個人の作りだせる量ではとうてい足りないはずであった。自然のエネルギー量はかくも偉大である。
 可能性があるとすれば、天候自体を召喚する魔法のみであるが、未だ雷以外でその分野の発展は公には確定していない。よほどの術者か、禁呪に手を染めなければだめなようだ。
「大丈夫です。うまくいきますよ」
 自信のある魯粛子敬の指示で、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)たちは着々と準備を進めていった。
 トマス・ファーニナルとミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が爆炎波で、暖気を作りだす。そこへ、フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)がアルティマ・トゥーレで冷気を作りだした。仕上げとして、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が凍てつく炎を駆使して暖気と寒気をぶつけ合った。
 さすがに、大気中の霧がアルティマ・トゥーレによってダイヤモンドダストに近い状態となる。また、暖気と寒気の間にそれなりの風が吹いた。だが、上昇気流と言うにはとても規模が足りない。爆炎波の威力を上げてみるが、爆発による爆風が強くなるだけで、連続的な上昇気流にはならなかった。根本的に、上昇気流は、あくまでも積乱雲を育てるためのもので、間接的には必要であっても、直接雨を降らせるものではない。むしろ、人工降雨を目指した場合、急激な変化はダウンバーストを起こしかねなかった。
 せめて、ファイアストームクラスの威力があればそれなりの風が見込めるのだが、それでもまだ風の域を出ないだろう。
 トマス・ファーニナルたちが粘り強く苦労を重ねていく。
「雨よ……」
 自分の理論を信じて魯粛子敬が空を見あげた。
 すると、その祈りが通じたのであろうか、雨が、待望の雨が降ってきた。
「やりましたよ、皆さん。このまま、この雨を移動させていって、湖近くまでの霧を一掃してしまいましょう。霧さえなくしてしまえば、敵はほぼ無力化できるはずです」
 連続してスキルを駆使して息も絶え絶えなトマス・ファーニナルや大久保泰輔たちが、それでもイルミンスールの森をなんとか助けるのだという意志に燃えてうなずいた。
「よし、俺の感覚だと、湖はこっちの方だぜ」
 クンクンと水の匂いを嗅ぎ分けながら、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が言った。この雨の中でも、彼の超感覚は確実に水の匂いを嗅ぎ分けている。
「それにしても、ちょっとうまくいきすぎちゃうか?」
 降りしきる雨に、大久保泰輔がちょっと怪訝そうな顔をした。
 確かに雨は降っている。それも、だんだんと激しさを増していた。
「いくらなんでも、これはおかしいであろう。それに、当初の予定であった霧は排除できるどころか、酷くなってきているようなのだが」
 讃岐院顕仁が少し閉口したように言った。
 本来の予想ではそぼ降る雨で霧も消えて、全員しっぽりといい感じであったのだが……。現状は、なぜか土砂降りの雨で、煙(けぶ)る水飛沫は宙に舞いあがり、霧よりも濃い水の粒子で視界を奪っている。
「これはおかしくはないか?」
「そうですね。本来、雨音はワルツでないと」
 讃岐院顕仁の疑問に、フランツ・シューベルトが同意した。
「これは、敵にやられましたかな。この雨自体が、霧による自作自演ではないのでしょうか」
 さすがに、魯粛子敬も自分の間違いに気づいた。いや、間違い以前に、霧が単なる水ではなく、特殊な生命体である以上、空中から地上に落ちたとしても、消滅していなければ再構成可能だということだ。
「ああ。どうせ、俺は役立たずだ」
 土砂降りの雨の中、木の根元近くに膝をかかえて座り込んだテノーリオ・メイベアが、ぼそぼそとつぶやいた。
「弟のときだって……。ああ、俺は……」
 テノーリオ・メイベアが膝に顔を埋めてしゃくり上げる。
「そうですね。私の策は失敗でしたし」
 その隣に同じような格好で座り込んだ魯粛子敬が、これまたボソリとつぶやいた。
「いや、それを見抜けなかった我も同罪だ……」
 その横にへたり込んだ讃岐院顕仁がつぶやいた。
「おつきあいします……」
 その隣にはフランツ・シューベルトやレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)などが一列に同じ格好で並んでいる。
「ちょっと待て、なんだ、このじめじめ軍団はよお!!」
 それを見た本物のテノーリオ・メイベアが思い切り叫んだ。なんで、自分がじめじめしたのが全員に感染する!?
「むっ、敵は心理攻撃に出てきたようですね」
 さすがにへたれた自分の姿を強制的に見せつけられて、レイチェル・ロートランドが憮然として言った。
「ミカエラ!」
 トマス・ファーニナルがうながした。
「心得てますよ」
 ミカエラ・ウォーレンシュタットが、霧から生まれたヘタレ軍団に近づいていった。
「この、軟弱者!!」
 手に持った妖精の靴で、すぱこここーんと、連続してへたれ軍団の頭を叩いていく。
「あっ」
「いっ」
「うっ」
「えっ」
「おっ」
 全員が転けるところへ、大久保泰輔がファイアストームを放って焼き滅ぼした。雨がやんだ。
「湖は近いぜ、急ごう」
 テノーリオ・メイベアがうながす。
 トマス・ファーニナルたちは爆炎波などを使って霧を払いつつ、そちらへと進んで行った。