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リアクション
第2章 女王乱心【1】
突然はじまった戦いに右往左往する麗華。
そりゃ目が覚めたら修羅の国で、殺気立った連中が暴れてるとなれば、彼女でなくともパニックである。
逃げ惑う彼女……その手をふと握り、安全なところへ連れ出す影があった。
通りすがりの車掌兼ガイド兼車内販売見習いトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)だ。
「ここは危険だぜ、お嬢さん。さぁ早くこっちへ。おっと足下に気をつけろよ、ここらは荒れ地だ」
「な、なんですの、あなたは……?」
「なに、ただの鉄道関係者さ。ついてきな、ナラカエクスプレスまで案内してやるよ」
「エクスプレス……? もしかして、この変な場所から連れ出して下さるの?」
期待する麗華だったが、トライブは「はぁ?」と眉を寄せた。
「何の話してんだ。あんたがぶっ壊したナラカエクスプレスの件だよ。賠償金の話に決まってんじゃねぇか」
「ば、賠償金!?」
おもむろに突き付けた請求書は、大破したナラカエクスプレスの修復費用の見積もり。
とは言え、列車を破壊したのは彼女ではなくカーリーである。麗華はまったく身に覚えがないと突っ返してきた。
「そこは連帯責任ってヤツだ。大体、金持ちって聞いたぜ。だったら列車に一台や二台の修理費なんて、簡単に払えるだろ。あ、そうだ。前回、ナラカエクスプレスが活躍できなかったからその分も上乗せしとくか」
金額をはじき出し唸る。
「うーん、こんだけあれば、勇者シリーズばりに変形合体する列車型イコンも作れるかもな」
と言って、トライブはふと思った。
「あれ……でも、トリニティがブラフマーストラで全能弾を使えば簡単に実現できんじゃね、これ?」
「その話はあとにしろ、トライブ」
取り立て人と化す彼を止めたのは、人形師のレオン・カシミール(れおん・かしみーる)。
彼はトランクケースを開けると中に詰まった高そうな洋服の数々を広げて見せた。
「その格好では風邪を引く。好きなものを選びたまえ、君ならどれでも着こなせると思う」
「あら、良いブランドを揃えてますのね。わたくし、安物を着るとアレルギーが出るから助かりますわ」
フランス社交界にいたレオンだ、そのあたりの貴族趣味には精通している。
ところが彼の契約者、人形使いの茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)が着替えを止めた。
「ちょっと待って下さい。その前に決着をつけなくちゃならないことがあります。私に庶民の食べ物を」
「な、なんですの、あなた……。コーラ瓶を持ってなにを……?」
「ごめんなさい。あなたの中にいる人に用があるんです」
「それはちょうど良かった。そう言うことなら、ワタシもお手伝いいたしまショウ」
天竺の九尾狐マガダ・バルドゥ(まがだ・ばるどぅ)が協力を申し出た。
「怖がることはアリマセン。アナタの中に悪いものが溜まってるんデス。それを取り除くだけデスヨ」
と言えば聞こえがいいが、実際には治療と称したただの暴力である。
「瞳孔を調べますノデ、口で息をしないで皮膚呼吸をして下サイ」と鼻先を洗濯バサミでつまんだり。
「関節がおかしくなっているので整体しまショウ」と言ってキャメルクラッチをかましたり。
しかしながら、カーリーはちっとも出てこない。
「あのー、食べ物を使ったほうがてっとり早いんじゃないですか?」
「どうやらそのようデスネ。じゃあこちらの高級病院食こと激辛カレーのレトルトパウチを食べてもらって……」
「ひいいいっ!!」
無理矢理口の中に押し込むと、悲鳴とともに、彼女の中にいるカーリーが目を覚ました。
安い食べ物を食すと庶民アレルギーによって気絶。取り憑いてるカーリーと人格交代してしまう難儀な体質なのだ。
カーリーは辺りを見回し、自分の置かれてる状況をなんとなく把握。
「口がヒリヒリするのは謎ですけれど……」
そして、衿栖が話しかける。
「あなたを目覚めさせたのは他でもありません。もうご存知でしょうけど、そんな弱点を持った身体に取り憑いていても勝ち目はないです。そこでどうでしょう。あなたに手出しはしませんから、彼女を解放してはもらえないでしょうか?」
「……ちょっとおしゃることがわかりませんわ」
むっとした様子の彼女に、衿栖は脅すように言った。
「まだ状況が見えてないの? 分からない? 見逃してやるって言ってるのよ? それともまた気絶させられて孔雀院麗華と一緒に始末されたい? 環菜の友人でもない人がどうなろうと、私は正直困らないわ」
しかし、これは完全に逆効果だった。
生物界ヒエラルキーの頂点はおのれと自負する彼女が、こんなことを言われて大人しくなるはずがない。
「偉そうな口を叩いたこと……後悔させて差し上げますわ!」
理性がぶちぶち音を立てて切れる。と同時に鉄拳制裁。カーリーは拳を固めて殴り掛かった。
刹那、護衛のため霧隠れの衣で潜伏していた茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)が実体化する。
「衿栖、下がって!」
大剣を盾に防御を行う……が、彼女は戦力を大きく見誤っていた。
こと戦闘力において並ぶものなきカーリー。鉄拳の威力は凄まじく剣を粉砕し、そのまま朱里を一撃で気絶させた。
「朱里!」
「人の心配をしてる場合かしら?」
衿栖の胸ぐらを掴んで頭突き一発。彼女もまた気を失った。
「とうとう本性をあらわしたようね!」
ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は銃を抜き、暴れるカーリーに突き付ける。
そして、迷うことなく引き金を引いた。前回手心を加えてしまったことを反省、もう手加減は一切無用である。
グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)とエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)も連携をとってカーリーに迫った。奈落の鉄鎖とサイコキネシスの二重拘束で、カーリーの身体を封じ込める。
「逃がさんぞ、ほろびの森の女王……! 敗北の汚辱は勝利によって拭う……!」
「……ライザ?」
ふと、ジョーは異変に気付いた。気のせいか、ライザの剣技にかすかに闇の匂いが漂う。
それは長らくナラカの瘴気にあてられた所以。生前の呪われた記憶がすこしづつだが確実に心を蝕んでいた。
「どうしたのですか、ライザ? あなたらしくも、ありませんよ……!」
「ぐ……、今まで造作も無く抑え込んでいた筈なのだがのぅ……。ナラカの瘴気、甘く見たか」
その衝動を抑え込むことはできなかった。衝動に突き動かされ、暗黒に染まる刃をカーリーに振り下ろす。
ところが、である。力任せに呪縛を払うと、カーリーは一撃を真剣白刃取り、そのまま力を込め剣を粉砕した。
「な、なんだと!?」
「ライザ、下がってください!」
時間差で仕掛けるジョーの攻撃。しかし、こちらも完全に見切られ、反撃の拳で二人は叩きのめされた。
「暗黒面に落ちようと、連携をとって攻撃を仕掛けようと、結果は同じことですわ」
倒れたふたりを見下ろし、カーリーは言う。
「このわたくしに『暴力』で勝負を挑んだ時点で勝敗は決しているのです。おわかりかしら?」
「ライザ……! ジョー……!」ローザは二人を見つめ、そして「よくも……!」
ローザの大きな間違いは、前回の敗北の原因は彼女達の甘さだけではないということ。
そもそもカーリーは圧倒的に強い。単純な戦闘力で言えば、本キャンペーン中ダントツの強さである。
「けど、もうやるしかない……!」
ローザは光学迷彩を展開、さらにアクセルギアで加速を行う。高速で間合いを詰め、サイドワインダーを連射。
流石に必中距離での攻撃は回避不能。曙光銃エルドリッジの無数の閃光がカーリーを貫く。
しかし、要は急所を外せば致命傷にならない、直撃箇所をずらすのは彼女にとってわけもないことだ。
「そんな……あれだけ命中したのに!」
「主要な血管、臓器、骨格へのダメージがなければ、それはもうダメージとは言えませんわ」
加速が解除されたところに正拳一閃。突き抜ける衝撃は肋骨を砕き、ローザを2メートルほど高く打ち上げた。
圧倒的な暴力と天賦の戦の才、それこそが世界樹の守護者として与えられた彼女の絶大な能力だった。
その凄まじい力の前に、トライブは嫌な汗が止まらない。
「や、やべぇ……」
ちらり一瞥。相棒のジョウ・パプリチェンコ(じょう・ぱぷりちぇんこ)にブロックサインを送る。
ハヤク ソノほいっぷくりーむヲ ヤツノ鼻ニ ツッコメ。
「こ、殺されちゃうよぉ……」
一応、カーリー対策に持ってきたホイップクリーム。しかし、今これを食べさせられる空気だろうか。
ましてや鼻から食べさせようとしたら殺される。コーラを飲んだらゲップが出るぐらい確実に殺されてしまう。
固まってると、最悪なことにカーリーと目が合った。
「あら、わたくしにおメンチをお切りになるとはいい度胸ですこと。ちょっとお顔をお貸しになってくださいます?」
「ひえええ……!」
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