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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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第3章 世界樹【1】


 株分けされたアガスティアの残骸。
 トリシューラの一撃をもって粉砕されたこの森は、折り重なる樹々の隙間に炎を立て静かに消え去ろうとしていた。
 恐るべき攻撃の矢面に立たされたパルメーラ・アガスティア(ぱるめーら・あがすてぃあ)ごと。
 身も凍る景色の中、死神と呼ばれる剣士樹月 刀真(きづき・とうま)は残骸から身体を起こした。
 全身を切り刻まれ瀕死の重症を負いながらも、トライアンフを杖代わりに重い身体を引きずって歩きはじめた。
「パルメーラを殺す、そう決めてここまで来た……。誰にも邪魔はさせない。必ずここで殺してやる!」
 呪詛のごとく言葉をもらす。その目に宿る炎はパルメーラへの憎しみの色に染まっていた。
「そこで引き返せばまだおまえは戻れる」
「……誰だ!」
 不意の声。刀真は全方位に殺気を向けて威嚇する。
 すると目の間の残骸が崩れ、可変型機晶バイクを駆るレン・オズワルド(れん・おずわるど)が飛び出した。
 道を塞ぐようにレンは立ちはだかった。
「また俺の前に立つのかレン・オズワルド……、邪魔するなよ、殺すぞ……!」
「樹月刀真……おまえの戦いは終わった、なのに何故まだ戦う。誰かの為に剣を振るう。それは俺も同じ。しかし何かの為に多くのものを切り捨てた先にあるのは心の死だ。今のおまえは抜き身の刀。それでは刀を包む鞘すら傷つける……」
俺の戦いは終わってなどいない……っ!!
 刀真は叫んだ。
俺は今までもこれからも環菜が殺されたあの時に囚われ続けるだろう……大切な人を護れなかったあの瞬間に……。そして、その光景を思い出す度にパルメーラやウゲンに対する憎しみが湧いてくる……。ただただ憎い……。ヤツらの存在を俺は永遠に赦すことは出来ない。だからこの手で殺す、殺すしかないんだ……。どれほどの事情があろうとも、邪魔が入ろうとも、俺の命がどうなろうとも世界の果てまで追って殺してやる!
 何か言い返そうと口を開いたその時、レンは突然の奇襲を受けた。
 残骸の上に見えるは、金毛九尾の妖狐玉藻 前(たまもの・まえ)、魔導銃でレンを狙う。
 大魔弾『コキュートス』を装填。レンの足下を撃ち抜くや、一瞬にして地面が凍結状態に陥った。
「ぐ……っ!?」
 レンは銃を抜き、続いて放たれたブリザードから、近くの残骸に飛び込んで身を守る。
 しかしもうひとりの襲撃者漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がそこに迫った。
「刀真の邪魔は誰にもさせない……っ!」
 行動を封じるべく機晶犬を放つと同時に、怯懦のカーマインでレンの頭を狙って必殺の狙撃を行う。
 その気迫は彼が……いや彼らが本気でパルメーラの抹殺と、そして邪魔者の排除を行うつもりなのを明らかにした。
 一撃で機晶犬を戦闘不能にすると反撃せず、レンは身を潜める。
「樹月、パートナーまでおまえの道連れにする気か。おまえが倒れれば彼女達もただでは……」
「そんなことあんたに関係ないっ!」
「ここまで来たら我らも一蓮托生、たとえこの道が修羅に続く道であったとしても共に渡るのがパートナーの務め」
「……それがおまえ達の答えなら、俺はそれを否定する!」
 アクセルギアを作動。立ちはだかる二人には目もくれず、超加速状態で満身創痍の刀真に迫る。
 牽制射撃をトライアンフを盾にいな……が、刀真が顔を上げるとレンの姿が消えていた。
 とは言え、彼も百戦錬磨の戦士。動じることなく神経を張りつめ、物音や気配、空気の流れを全身を研ぎすます。
「上か……!」
 見上げた先には、真空波の構えをとるレンの姿が。
 デスプルーフリングを破壊目標に視線を彷徨わせ、レンははっと息を飲む。どこにもリングは見当たらなかった。
「そうくると思っていた……。残念だったな、リングは俺の腹の中だ」
「なに……!?」
 隠し持ったラスターハンドガンで、アクセルギアの効果が切れたレンの膝を撃つ。
 バランスを崩し落下。だが、すぐに態勢を立て直し、血だまりを引きずりながら、刀真と対峙する。
「これがおまえの望んだことなのか。自らの手を血で染め、おまえはどこに向かう……?」
「屍類類横たわり血の山河を越えることになろうと、俺は進む。死神が生きるにはお似合いの世界だ……」
「いい加減にしろ……!」
 サングラスの下の目をカッと見開き、レンは刀真の顔面をぶっ飛ばした。
 既に体力のほとんどを失っていた刀真は避けることも耐えることもできず、その場に倒れた。
「御神楽もそんなおまえを見たら嘆く。彼女ならこう言うはずだ、『今度はあなたが助かって』……とな」
「!?」
 駆け寄った月夜と玉藻が倒れた刀真を抱き起こす。
 レンは敵意を向ける二人を気にも留めず、刀真の前に立つと、自分の治療を後回しにして彼の手当を始めた。
「な、なんの真似だ……。刃を向けた俺に何故……」
「俺達は戦ってなどいない」
「なに……?」
おまえが戦ったのは……、おまえが戦って行かねばならないのは、おまえの自身の心だ
 刀真は言葉を失った。ただ最後に一言だけ。
「レン……、俺はこれからどうしたらいい……?」
「私怨に囚われ守るべきものを見失うな。お前にはまだ守るべきものがある」
 はっきりと言い放ち、月夜と玉藻に視線を向けた。
「だから……今は生きろ」
 簡単に決着はつかないだろう。だが、レンはただ願う。刀真にいつの日か救済が訪れることを……。
「彼がいれば手助けは必要なさそうだね……」
 暗闇から状況を観察していた黒崎 天音(くろさき・あまね)は微笑を浮かべた。
 刀真とは知らない仲ではない。天音もまた彼の動向、その行く末に関心を持っていた。
「樹月刀真……、彼の行動原理を否定するつもりはないけど、さて、これで区切りをつけることができるかな?」
「それが出来ないような男でもあるまい」
 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)はデジタルビデオカメラを片手に言う。
「先を急ごう。我らの求めるものはおそらくこの奥にある……!」