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リアクション
第2章 女王乱心【2】
「ちょっと待ってほしいのですぅ」
百合園の乙女メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が荒ぶる女王を止めた。
猛獣を思わせる眼光でカーリーは睨み付ける……が、メイベルはふふふと微笑んで、言葉を続けた。
「争いはなにも生まないのですよ〜。あなたに必要なのは愛ですぅ。どうかこれで怒りを鎮めてください〜」
そう言うと、邪神に供物を捧げるがごとく簀巻きのパンツ番長国頭 武尊(くにがみ・たける)を差し出した。
途端にカーリーは修羅から、恋するおちゃっぴぃな乙女に変貌した。もじもじ人差し指同士をぐるぐる回す。
「た、武尊さま……どうしてこちらに……。も、もしかしてわたくしに会いに……?」
「い……いやいやいや! ちょっとよく見て! オレ縛られてるよ! 完全にオレの意志じゃないよ、ねぇ!」
全身全霊をもってお断りします。そして、メイベルを睨んだ。
「お、おい、どういうつもりだ。まさか、オレをこのとんでもねー女に差し出す気じゃ……」
「差し出すなんて言葉が悪いですよぉ〜。私たちは愛をデリバリーして差し上げただけですよぉ?」
「そうそう。言ってみればそうねぇ……恋のキューピッドってところかな?」
他人事だと思ってセシリア・ライト(せしりあ・らいと)もテキトーかます。
「何がキューピッドだ、死神ども! この辺じゃ愛と死は同意語なんだぞ、わかってんのか、こらぁ!」
「ああ、死ぬほど好き、とか、そういうことかな?」
「全然違う!」
「まぁでも良かったね。番長も彼女が出来て。お転婆な人だけど、彼氏彼女になれば落ち着くんじゃない?」
「あ、でも、麗華さんの問題が残ってますよぅ〜?」
「彼女も不幸な被害者ではありますが、これもまた彼女の生まれ持った運命なのでしょう」
大人の余裕を見せながら、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が言った。
「受け入れるか否かは彼女次第ですが、とりあえず選択できる余地は大きい方がよいはずです」
「カーリーさんと仲良く共存するか、決裂するかは彼女次第……と言うことですわね?」
ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)も賛同する。
「ええ。わたくし達は生暖かい目で、二人の行く末を見守らせて頂きましょう」
そうして、四人が生け贄を見つめていると、根棒を持ったカーリーがこちらにやってきた。
根棒。間違いなく恋する乙女の持っていないアイテムに、生け贄はおそるおそるなんなのか尋ねてみた。
「誓いの棍棒ですわ」と百万ドルの笑み。
「なんだそりゃ、オレの文化圏にはそんなもんない! 止めて止めて、誰か止めて!!」
「武尊さまったら泣いて喚いたりして……、それほどまでにわたくしと夫婦になるのが嬉しいと(ぽっ)」
もはや何を言っても無駄。死。そのひと文字が頭をよぎった。
しかし、その絶好のタイミングで桐生 ひな(きりゅう・ひな)がカーリーに抱きついた。
「何時の間にかはぐれっちゃったと思ったら、こんなのとこにいたのですよーっ」
「ゲッ……、さ、さっきのおにぎり娘!?」
自分を気絶に追いやった張本人に、若干カーリーの表情が引きつる。
「私のマヨおにぎりを食べた感想をまだ聞いてなかったのですっ。どうでした、美味しかったですかね〜?」
「美味しいもなにも気絶しましたから……」
「え? 気絶するほど美味しかったのですかっ?」
ひなは驚き、喜び、鞄を開け、そして、大量のおにぎりを再びカーリーの口にブチ込んだ。
「たんまり持ってきたかいがあったのですっ。これが高菜マヨでこっちがたらこ胡椒マヨ、それとネギトロマヨにそぼろマヨ、昆布マヨや五目マヨも……って、はやくもぐもぐしてくださいっ。まだまだ沢山味が有りますよ〜」
鞄と間違えてんじゃないかってぐらい問答無用で詰め込みまくる。
カーリーの顔色はタイマーのごとく赤と青に点滅し、リスのように膨らんだ頬にマキシマムに米が詰まっていた。
と、逆流。げほっげほっと咳き込む。すると。
「こ、今度はなんですの。なんでわたくし、おにぎりなんか大量に口に含んでますの……?」
「よ、良かった。戻ったのか」
武尊は簀巻き状態から脱け出し、麗華の様子を確認する。
男に飢えたギラギラの地雷臭が消えている……しかしこの別の感じのダメさ、間違いなく麗華のほう。
ひとまず安心し、武尊は彼女の手をとる。
「ともかく君を(色んな意味で)助けにきた。ここにいては危険だ。オレと一緒に現世に帰ろう」
「え……な、なにを急に」
「君の身体は君一人のモノじゃない(カーリー的な意味で)。だから無理はしないで欲しい」
「それって……おまえはオレのものだ的なこと……?」
ポッと頬を染める麗華。恋愛レベルはカーリー同様スライムにてこずるレベルの模様。
それから、武尊は物質化・非物質化で簡易更衣室を出し、長ランと下着に彼女を着替えさせた。
「……君がこんな事になってしまった責任の一端はオレにある。だから、地上に戻って病院で検査してもらおう。空京大学にスーパードクター梅って名医がいる。彼に見てもらえば大丈夫だ」
「よくわかりませんけど、あなたの言うことでしたらそのようにいたしますわ」
そして更衣室から出た彼女に、列車の乗車券と自分が填めているデスプルーフリングを差し出す。
無論、現世帰還のためと、ナラカの瘴気対策である。
「今はこれくらいしか出来ないが、何も言わずオレと一緒に列車に乗ってくれ」
「ゆ、指輪&ハネムーン……!」麗華は仰天し、ゲホゲホと咳き込んだ。「さっきのお米が喉に!」
「た、大変だ……、誰か、水を!」
「ほら、水だ。コイツを飲ませてやんな」
相棒のやんちゃ猫猫井 又吉(ねこい・またきち)のくれた水をすぐさま飲ませた。
「……落ち着いたみたいだな。しかし、又吉。準備がいいな。水とか持ち歩くキャラだっけ?」
「そりゃうちの相棒の生死がかかってんだ。これぐらいしとかねぇと。手に入れるのに苦労したんだぜ」
「はぁ? なんの話だ?」
と、容器を見て固まった。
「こ、これ『ナラカの水』じゃねぇか! なんでこんなもんがここに!?」
「いや、地雷女とそいつを契約させて地上に連れてけば、おまえを殺す理由もなくなんじゃねぇかなって思って」
「連れてかない方向で進めようぜ、そこは!」
その時、麗華が「武尊さま……」と抱きついた。麗華は武尊の名を知らない。と言うことは、ここにいるのは……!
慌てて逃げ出す武尊。又吉は投げ捨てられたナラカの水の容器を手にとった。
「……マジかよ! ナラカの水って安もんだったのか!」
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