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ハロー、シボラ!(第3回/全3回)

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ハロー、シボラ!(第3回/全3回)

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chapter.7 衝突寸前 


 時間は少し戻り、彼らが聖水を手に入れようとブッチョウ相手に苦戦していた時。
 ベベキンゾ、パパリコーレふたつの部族は、「やはりわだかまりはとけない」と互いが互いの集落に出向き、その中間地点で接触する寸前であった。
 本格的な抗争が起こってしまっては、聖水を取りに行ったことも徒労になってしまい、ヨサークの救出どころでもなくなってしまう。何より、自分たちが原因でそんなことが起こってはならない。生徒たちは、どうにか決定的な争いになるのを避けようと、時間稼ぎという選択肢を取った。が、そこはやはり生徒たちも一枚岩ではない。

 国頭 武尊(くにがみ・たける)は、明らかにパパリコーレ族のパンツを狙っていた。そのためにわざわざベベキンゾ族と親交を深めたのだ。ちなみに仲良くなった方法は、全裸でひとりラインダンスを踊って奇妙な歌を歌うというものだ。脱ぐだけで充分なのにも関わらず、武尊がそこまでやり抜いた真意は分からない。が、ともかく武尊は既にベベキンゾと仲良くなっていた。
「オレはパパリコーレ族の衣服を狙うぜ」
 パパリコーレの若者に、武尊はそう告げた。武尊が言うには「おしゃれに着飾ることを信条としている部族なら、衣服を奪う行為は効果抜群だから」だそうだが、きっと彼はパンツがほしいだけだと思われる。とはいえベベキンゾがパパリコーレにダメージを与えることを否定するわけはない。武尊の行動は、ベベキンゾ族の主に若年男性層に支持された。
「パパリコーレ、あそこにいる」
 ベベキンゾと共に相手方集落に向かっていた武尊は、道中パパリコーレ族の姿を視認した。ベベキンゾのその言葉で、彼らは一旦茂みへと隠れている。草木が生い茂る林の中ということが幸いしたのか、日中とは言え身を隠す場所はたくさんあった。
「オレは当然、綺麗なおねーさんのおしゃれパンツを狙う」
 良い機会だ、とばかりに武尊が行動を宣言する。一緒にいたベベキンゾは「どうやって、服脱がす?」と不思議そうに見つめていたが、武尊は問題ない、とだけ返事を返した。
 やがてパパリコーレ族の集団が彼らの潜む茂みを通過しようとしたその時、武尊はいよいよ行動に出た。
「待て、それ以上そっちへ行くんじゃない」
 背後からの声。突然のことにパパリコーレは驚き、一瞬動きが硬直する。その隙に武尊は、視界に映るパパリコーレの中で一番綺麗な女性に狙いを定めていた。
「え、ちょっとなんかすごい見られてる」
 その気持ち悪い視線に感付いたのか、女性のひとりが声を上げた。武尊がその女性に狙いを定めたのと、ほぼ同じタイミングだった。
「今だ!」
 叫んだ直後、武尊は両腕を交差させるように振り抜き、真空波を発生させた。透明な刃が、パパリコーレを……いや、パパリコーレの女性の下半身を狙う。ぶち、と布地が切れる音がしたことを武尊は地獄耳で聞き取ると、間髪入れずに右腕を突き出し、サイコキネシスを発動させた。
「えっ、ちょっ」
 途端に、女性の顔色が変わった。そう、武尊が念動力で手元にたぐり寄せんとしていたのは、言うまでもない、パンツだったからだ。ちなみにターゲットの前に現れ、狙いを定め、真空波を放ち、サイコキネシスでパンツを手元まで持ってくるまでに彼が要した時間は、28秒である。武尊はふんだんにレースを盛り込んだその物体をまじまじと見つめると、おもむろにそれを頭から被ろうとした。がしかし、それは周囲にいたベベキンゾに止められることとなる。
「衣類、身につける、よくない」
「自然、大事」
 どうやら彼らの中では、下着を頭にかぶることも認められないらしかった。まあ、それ以前にこの行為が一般社会でも認められていないだろという話だが。
「さすがにこれを流行らせるのは無理か……」
 少し声のトーンが下がった武尊だが、収穫があったことに変わりはない。武尊はその収穫物を手に、そそくさとその場を離れた。やはり彼は、これが欲しかっただけだったのだろう。
 となると当然、残されたふたつの部族は衝突することになる。突然下着を奪われたのだから、無理もない。まさに一触即発と言わんばかりの危うい空気の中、割って入るように両者の間に飛び込んできたのは天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)だった。
「鬼羅星!」
 元気の良い挨拶と共に現れた彼は、全裸だった。鬼羅はその潔い姿のまま、すっとパパリコーレ族の前に進み出ると、おもむろに地面に膝をつき、頭を下ろしていった。その動きは止まることなく、ついには地面に額をつけてしまった。俗に土下座と言われる状態である。
 一体彼はなぜ突然全裸で現れ、パパリコーレ族に土下座をしているのだろうか? その答えは、彼、鬼羅の信条とも言える思想にあった。
 ――服を脱ぐことは、呼吸をすることに等しい。
 鬼羅が、常々口にしている言葉である。そんな鬼羅が、ベベキンゾ族の存在を知り、さらに彼らがあらぬ誤解を受けているとあれば、もう彼の取る行動はひとつだった。ベベキンゾ族を助ける。そう決意した鬼羅が、パパリコーレ族に対してとった手段が、この土下座である。
「お願いだ……ベベキンゾ族は無実だ! 見てくれ、感じてくれ! オレの思いを!!」
 より一層頭を地面に押し付け、鬼羅が魂の叫びを体で表現する。
「この、土下座で!!」
 等しく体の前で揃えられた両の手、深く、地面と磁石でくっついたかのようにつけられた額、正しい曲線をもって曲げられた膝。鬼羅のそれは、これぞ、土下座、まさに土下座、圧倒的に土下座といってしかるべきものだった。
 この土下座を目の当たりにしたなら、見えるだろう。感じるだろう。生まれたままの姿でこの姿勢を取ることの意味、その波動を。鬼羅は、心中で切に願った。衣服を脱いだことで逆に体にまとった誇りが相手に伝わることを。
 鬼羅はそれを「脱意の波動」と名付けている。
 脱意とは決意であり、男としての尊厳、誇りが体中を包むことで、全裸ではあるがただの全裸ではないという哲学的なイデオロギーを現しているのだ。もうここまで来ると、何を書いてるのかさっぱり分からなくなってくる。
 すごくシンプルに言うと、彼は全裸で土下座しているのだ。そして、「裸だけどこの裸に対するプライドはちゃんとまとってるように見えるだろ?」ということなのだ。
「ファッションと共に生きているパパリコーレ族なら、分かってくれるはず! オレがまとうこの真の羽衣、『漢着』というヤツを……!」
 ちなみに、「漢着」と書いて「おとこぎ」と読ませるらしい。完全に鬼羅ワールド炸裂、鬼羅の独壇場である。
 確かに彼の土下座は美しく、格好はともかくとして礼節はわきまえていた。しかし、パパリコーレ族はつい今しがた、変態にパンツを盗まれたばかりである。そんなタイミングで、本人じゃない人に土下座されても彼らの怒りは収まらなかった。
「君はもう頭上げていいから」
「それより、さっきの男を連れてきて土下座させなさいよ」
 もっともな正論を主張するパパリコーレ族の者たち。鬼羅は想定外の事態と、渾身の土下座でも事態が解決できなかった驚きで、咄嗟に反応できなくなっていた。そして彼らの非難の的は、すぐにベベキンゾ族にも及んでしまった。
「そもそもさっきの変態もそうだけど、あなたたち野蛮すぎるのよ」
「なんでもかんでもすぐ腕力で解決しようとして。ベベキンゾの男って皆そう」
 思わぬパパリコーレの猛攻に、後ずさるベベキンゾたち。と、彼らの中に紛れていたひとりの生徒が、パパリコーレに対して激しい抵抗を見せた。
「なんだパパリコーレ族やるのか?」
 喧嘩腰で先頭に躍り出たのは、樹月 刀真(きづき・とうま)であった。そして彼がその立ち位置にいるということは、当然全裸である。刀真はのっけから威勢良く飛ばしていた。
「この野郎、かかってこいよPTA!」
 その興奮ぶりは、喧嘩を売る対象をうっかり間違えてしまうほどのテンションとなっていた。普段は冷静な彼が、一体なぜこのようなことになったのだろうか?
 彼をよく知るパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の証言によると、刀真はここに来る途中、「今まで得てきたものすべてが柵となって俺を縛る……衣服と共にすべてを脱ぎ捨て、自由になろう! 全裸王に俺はなる!」と言っていたらしい。もちろん月夜は、開いた口が塞がらずただぽかんとしているだけだった。
「刀真が錯乱した……最近色々あったし、ストレスが溜まっていたのかな……」
 ちょっとかわいそうな人を見るような目で刀真を見る月夜。しかし刀真は依然として奇行を続けている。
「邪魔をするなよ? 邪魔する障害は股間の黒い光条兵器ですべて斬り殺すぞ!?」
「ちょっと何この人、言ってるそばから野蛮じゃない」
「こんな人、骨の一本や二本くらい折れちゃえばいいのに」
 口々に刀真を非難し始めるパパリコーレ族。が、刀真は一向に怯む様子はなかった。
「骨とか簡単に折れると思うなよ? 言っておくが凶暴なヴァルキリーに指とか腕とか折られたことも、自分で折ったこともあるからな! あれ超痛いんだぞ! マジで!」
「ええー……知らないわよ、何自分で折ったって、怖い」
「本当に怖いのはここからだ! 100人斬りをこの場で達成してやる! この光条兵器でな……」
 言って、刀真が隣にいる月夜からそれを取り出そうとする……が、勢い余って、彼女の胸を鷲掴みにしてしまった。
「あっ、ごめ……げふっ!?」
「いい加減、正気に返れ!」
 怒りに身を任せた月夜の放ったボディブローが、正確に刀真の鳩尾を捕える。刀真は体を震わせながら、前かがみになっている。
「ま、待って悪かった、こっちの光条兵器使うから……あっ、ダメだこれはまだ使ったことのないモノで、この先使う予定が……」
「な、何言ってんのよ!」
 ちょっとだけ想像してしまったのか、顔を赤らめながら二度目の拳を放つ月夜。悶え苦しむ刀真に、彼女は冷静に言葉を投げかける。
「刀真、この人たちは服を着る習慣がないこと以外、私たちと変わらないんだから、裸になって話が出来るようになったならちゃんと話をするの!」
「あ〜……確かにそのために脱いだんだった。すっかり忘れてた。でもそれなら月夜も脱がないと……」
「脱げるわけないでしょ!」
 月夜、三度目の拳である。すっかり顔面が腫れ上がった刀真は、「すいません、マジすんません」とすかさず土下座した。それを見ていた鬼羅は、軽く親近感を覚えたという。
 ともあれ、刀真はようやく自分の目的を思い出していた。最初だけ脱線してしまっていたが、元々彼は双方に話を聞いてもらおうと思っていたのだ。本当だ。
「仕方ない、月夜はそのへんに隠れてろ。今から俺が、ふたつの部族をひれ伏す輝きを放ってやる」
 もうその発言から既に嫌な予感しかしないが、月夜はもう付き合いきれなくなって刀真から距離を置いた。そして彼女の予感通り、刀真はとんでもない行動に出た。彼は、その場で裸体に日焼け止めのオイルをこれでもかと塗りたくり、てかてかボディーに変貌したのだ。
「どうだ、オイルでコーティングすることである意味裸じゃない裸になったぞ! これで……」
「うわっ、気持ち悪っ」
「くさっ、オイルくさっ」
「……あれ?」
 意気込んだ刀真だったが、周囲の反応は冷めたものだった。というか、パパリコーレ族は呆れていた。さっきからなんか、変な奴しか絡んでこないじゃないか、と。パンツを強奪していく人とか、漢着とか変なこと言い出す人とか、全裸にオイル塗って格好つけてる人とか……。パパリコーレの者たちは、溜め息を吐いた。この中じゃ土下座の人が一番まともじゃないか、と。というかそもそも、なんでこの見かけない子供たちは、一様に全裸なの、と。
 確かにここまで、ベベキンゾ側につく生徒たちばかりが目立ち、パパリコーレ側についている生徒はいないかのように思われた。しかし、当然こちら側にも生徒は紛れていた。その中のひとりが、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)である。アイドルのコスチューム、そして友情のフラワシによってパパリコーレ族との仲を深めることに成功した詩穂は、部族間の争いを止めるべく、彼らと行動を共にしていた。しかし今彼女の目の前で起こっているのは、ふたつの部族が激しく罵り合っている光景だ。ふたつの部族というか、主に刀真とパパリコーレ族だが。
「どうしても、ベベキンゾ族を倒さないといけないの……? 部族間でこれは、避けられない争いなの?」
 目をうるうるさせ、どうにか和平の道を探す詩穂。しかし、聖水もなく、険悪な雰囲気になっているこの場を上手に治める方法が思いつかない。悩みに悩んだ詩穂が出した答えは、「避けられない争いならば、せめて安らかに……」というなんとも物騒なものだった。
「ベベキンゾ族に有効な攻撃方法は……」
 しかし詩穂の決意はもう固まっているのか、完全にやる気満々でベベキンゾたちを眺めている。じいっと観察を続けていた詩穂は、とてつもなくシンプルな、かつデンジャラスな攻撃を思いついてしまった。
「あっ、そんなに難しく考えなくて良かったですね! 丸見えじゃないですか!」
 目を細め、詩穂が見つめる先にあったのは、ベベキンゾたちのコエダであった。
「早速、チョッキンしちゃいますね!」
 チョッキン……? ベベキンゾたちに、悪寒が走った。詩穂がごそごそと取り出したのは、凶器、舌切り鋏だ。どうやら詩穂はこの凶器で、コエダをお手軽サイズにカットしようとしているらしい。考えただけで失禁ものである。そしてその最初のターゲットとして不運にも選ばれてしまったのは、露骨に悪目立ちしていた刀真だった。
「なんだかよく見知ったあの方に似てますけど、妙に黒光りしてますし、きっと別人ですよね! えいっ!」
 戦友関係にあるふたりだったが、詩穂は問答無用で鋏を刀真の光条兵器……もとい、コエダに向けた。
「あ、馬鹿、だからこれはいつか使うために鞘に納めてる状態で……待て! 待てすいませんマジでごめん!!」
 コエダの先端がカットされそうになり、慌てて身を翻して回避する刀真。それを見て再びパパリコーレの怒りが爆発したと勘違いした鬼羅は鬼羅で、詩穂に「オレのこれを見てくれ! オレたちは無実だ!」と一生懸命土下座をしている。これにはさすがの両部族も、「シャンバラの人、よく分かんない」と首を傾げるしかなかった。
 そんな中、唯一まともに仲立ちをしようとしていたのが詩穂のパートナー、セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)だった。セルフィーナは混迷極める両部族の間に立つと、銅鏡を取り出し、ベベキンゾの方へとそれを向けた。
「ベベキンゾ族の皆様、この銅鏡に映る姿が、ご自身の真の姿なのです。このような無防備で部族抗争をしても、サイフとカラダが夜道で危険ですわ」
 今すぐ部族抗争を止めるべきです、と至極まっとうな意見を主張するセルフィーナ。しかし残念なことに、彼女は普通に衣服を着用してしまっていた。ゆえに、ベベキンゾ族が説得に応じるはずもなく、問答無用で殴られそうになっていた。
「あっ、危ないっ!」
 咄嗟に気付いた詩穂が鋏を持ち出し、壁になることでベベキンゾ族の足を止めるが詩穂とて衣服着用の身。彼女らを許せないベベキンゾ族と詩穂、セルフィーナの間には大きな隔たりが生まれつつあった。その爆発をかろうじて抑えているのが、詩穂の凶器である。
 なお、詩穂のもうひとりのパートナー、清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)は、そんな詩穂の凶器を見て股間をじんわりと疼かせていた。
「こんなになっても、部族抗争に懲りることがないとはのう……」
 せめてもの安らぎに、と青白磁はベベキンゾにアイスプロテクトを、パパリコーレ族にファイアプロテクトを施し寒さと暑さに対する抵抗をつけさせてあげよう……と思ったが、股間の疼きを抑えるのに必死でそれどころではなかった。そもそも青白磁もジャケットを普通に羽織っているため、パパリコーレよりになってしまっているのだ。ベベキンゾたちにとっては敵としか見なされない。となれば彼に出来ることはたったひとつ、詩穂の鋏が音を立てる度にびくんと反応する股間の動きを、必死で悟られないようにするだけだった。そうしている間にも彼女の凶器はベベキンゾを襲っている。
「小さく縮こまってるそれを正確に狙うには、スナイプしかないのね!」
 より一層危険な発言をする詩穂と、コエダを晒しているベベキンゾたちは互いに譲らないまま、溝だけが深まっていった。



 数だけを見れば今のところベベキンゾがやや有利に見える現状を打破すべく、詩穂の味方……という意思があるかどうかは不明だが、パパリコーレ側にもここでようやく加勢が現れた。
「パパリコーレが大好きってことでもないんだけど、現代の文明に生きる者として裸とかまずありえないわよね」
 消去法チックなことを言いながらパパリコーレ側の立ち位置で詩穂の横に出てきたのは、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)だ。彼女はチュールレースのワンピースという涼しげなコーディネートをしている。ロングの黒髪と相まって映えるそれは、パパリコーレに問答無用で受け入れられていた。
「それにしても、ここまで裸の人ばっかりっていうのは予想外よね……」
 自分が衣服を着ることで、ベベキンゾ対立することは明白であった。が、よもやここまでベベキンゾに同調する者が多いとは、緋雨は思っていなかったのだ。
 さて、この現状をどうしたものかしらと緋雨が思案を巡らせていると、ずいっ、と自信たっぷりに緋雨の前へと現れた少女がいた。緋雨のパートナー、天津 麻羅(あまつ・まら)だ。
「ベベキンゾ族とパパリコーレ族の異文化交流というヤツじゃな……ふ、このわしが神としての円滑なコミュニケーション能力を見せてやろう!」
 麻羅はいつも通り、堂々と胸を張って目の前の相手を見遣る。ちなみに彼女の服装はタンクトップにデニムのショートパンツと、何とも夏らしい、そして快活な少女らしい格好だ。本人のイメージと寸分も違わない衣装に、パパリコーレは「自分をよく知ってる」と称賛の言葉を贈ったという。
 さて、その麻羅だが、服を着ている以上緋雨同様ベベキンゾからは敵として見なされる。その現実をどう乗り越えコミュニケーションを図ろうというのだろうか。
「そもそも皆は難しく考えすぎじゃ! 異種族間では言葉の壁が越えられんとはいうが、古来より伝わる方法を使えば簡単なことじゃ……」
 麻羅はゆっくりとベベキンゾの方に近づくと、とりあえず一番近くにいて、面識があった鬼羅のそばに佇んだ。その腕は高く掲げられ、今にも鬼羅に振り下ろされんとしている。
「そう……すべてはこの拳ひとつで越えてみせよう! あ、でもわし殴られるのは嫌いじゃなから、一方的に殴る!」
「ま、麻羅、それじゃ相手の思いが伝わらないんじゃ……」
「問題ない! わしの思いだけ伝われば充分じゃ!」
 緋雨の制止も聞かず、麻羅はそのまま絶賛土下座中の鬼羅へと拳を振り下ろした。
「痛ぇ!?」
 地面に頭をつけているところに突然上から打撃をくらい、土の中に頭をめり込ませる鬼羅。まさか鬼羅も、謝っただけなのに暴力を振るわれるとは夢にも思わなかっただろう。しかしそんな理不尽さをかき消すように、麻羅は鬼羅を見下ろして言う。
「これが神のコミュニケーションじゃ!」
 コミュニケーションというかまあ、鬼羅からしたら一方的に殴られ倒されただけだが。
 麻羅が全裸の鬼羅を打ち倒したことで、パパリコーレは一気に士気を上げた。このまま勢いに乗ってベベキンゾを蹴散らそうというオーラが彼らから漂う。もちろんそれはベベキンゾ族も強く感じたのか、向かってくるパパリコーレ族を睨み返し、全裸で迎え撃とうとする。
 こうしてミイラの持ち出し疑惑から始まった両部族の諍いは、様々な生徒たちの介入により、いよいよ恐れていた事態になろうとしていた。
 つまり、本格的な抗争である。
 残された刀真が光条兵器を強く握りながら叫んだ言葉が狼煙となり、戦いは幕を開けてしまった。
「お前ら、あんあん言わせてやる!」