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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

「シスター」
 ジナイーダ・バラーノワという名でアカデミーに在籍中の富永 佐那(とみなが・さな)は、シスター・エルザと顔を合わせていた。万が一天学の生徒と遭遇しても正体がバレないように、髪を赤く染め青のカラーコンタクトを嵌めている。
 彼女はあくまでアカデミーの一員として、このトゥーレに乗って同行してきている。そのためまだ天御柱学院へ戻っておらず、休学したままだ。
 無論、彼女だけでなくパートナーの立花 宗茂(たちばな・むねしげ)もだ。彼もまた、伊東満所の英霊としてアカデミーにいた。
「あら、どうしたのかしら?」
 不敵な笑みを浮かべ、佐那の言葉を待っている。
「数日前に引き上げた【レヴィアタン】、あれで出撃させて欲しいんだ」
「理由は?」
「あたしは、あの機体に英霊とイコンの交叉する事で生まれる新たな可能性を感じるんだ。あの子なら英霊の感触を知っているから、あたしのやろうとしている無茶な概念でも受け止めてくれる、そんな気がしてね」
 【レヴィアタン】はマヌエル枢機卿と英霊ロンギヌスの専用機だったものだ。
 佐那にとっての最大の目的は、英霊特有の力であるヒロイックアサルトをイコンに反映させることだ。そのために、F.R.A.G.の技術局から出向いている技術局員と頻繁に会っていたほどだ。そして、そのための技術が確立された。
 ロンギヌスが乗っていた機体であるため、【レヴィアタン】はそれを試すのに絶好だ。
 目的をエルザ校長に告げてからは、自分の技量を隠すことなく発揮して成績を伸ばしたため、アカデミーのトップ集団「聖歌隊」の候補になれるくらいの実力はあると認められているはずだ。
 とはいえ、聖歌隊は本校の留守を任されていることもあり、乗艦しているのはアカデミー第三位の組だけだ。また、今回アカデミーの生徒はあくまでトゥーレでのバックアップがメインであり、出撃はしない。わざわざ佐那が申し出たのも、そういった事情があるからだ。
「シスター、あんたの整えてくれた舞台で、あたしは闘いたいんだ」
「話は分かったわ」
 エルザ校長が答える。
「残念だけど、あなたにはその資格がないわ。既に『彼』は、覚悟を決め出撃準備を整えている」
「『彼』って?」
 エルザが微笑を浮かべた。
「そうね……地球とシャンバラの境界線上に佇む者、っていったところかしら」

* * *


「……話は分かったわ」
 エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)如月 正悟(きさらぎ・しょうご)からこれまでのいきさつを聞いた。
 十人評議会の手掛かりを追ってロンドンへ発つことを黙認したのはいいが、それからずっと連絡が途絶えていた。
 ところがほんの少し前に宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)から、正悟が地球に降りているとの連絡を受けた。どうやらロンドンで何かを掴んだらしく、そのまま地球で行動していたらしい。
 その知らせが来た直後、今度はその正悟本人から電話があり、合流場所と「手伝ってくれ」という一言だけが告げられた。
 それからイコン空母トゥーレへと向かい、シスター・エルザの手引きで再会。今に至る。
「ま、一人で馬鹿正直に行かずに私を思い出したことは褒めてあげる」
 そしてイコン、七つの大罪の一つ【レヴィアタン】を見上げる。
「敵は強い。これは、俺達に与えられた一つの可能性だ」
 真の元凶を潰すために。
 その顔つきから、並々ならぬ覚悟が伝わってくる。エミリアが知らない正悟の地球での経験が、彼の中にある何かを突き動かしたのだろう。
「エルザ校長が出撃までの手筈を整えてくれたよ。F.R.A.G.第一部隊、天御柱学院らシャンバラ勢が全機出撃した後、俺達が出ることになってる。この前枢機卿が乗ってて、しかも撃墜されたはずの機体だ。交渉も上手くいったみたいだし、ここで人目について関係がこじれるようなことは避けたい」
「確かにね。一応協力するってことにはなったみたいだけど、まだお互い完全に信用し合えるわけじゃないから。
 ……あれ、前に太平洋に現れたとき、あんなもの装備してたかしら?」
 改修されたこともあり、前の戦いで目撃されているものと比べると若干装甲が変わっている。が、目に留まったのは長い砲身を持つ大口径のライフルだ。
「これがこの機体の本来の主武装みたいだ。枢機卿はイコンに関してほとんど素人同然で、これを外してあの槍みたいなのを装備してったらしい」
 今の状態が、完全な【レヴィアタン】であるとのことだ。
「……そろそろか」
 艦内が慌しくなってきた。そろそろ出撃準備に入るのだろう。
 二人は【レヴィアタン】の特性を最大限に生かすため、戦闘区域の海上・海中の地図に目を通す。それを覚えた上で機体に乗り込み、出撃に備えた。

* * *


「ダリア」
 星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)は出撃前のダリアと顔を合わせた。
「物好きね。わざわざ私達の部隊と一緒に戦いたいだなんて」
 戦場に出ているときの「隊長」としての厳格な口調ではなく、物腰柔らかな女の子としての一面が垣間見える。
「え……?」
 智宏はダリアの頭にポンと手を乗せた。パートナーの時禰 凜(ときね・りん)と同じ髪型なこともあり、つい癖でやってしまう。もっとも、凛よりダリアの方が十センチほど背は高いのだが。
 とはいえ、気付いたものの後に引けず、そのまま言葉を続ける。
「君を護り、君の戦いの力になるよ。だから力を貸して欲しい。覚悟ある者達の道を拓くために」
 それを聞いたダリアが目を見開き、プルプルと震え出した。
「智宏さん、何してるんですか!?」
 ちょうど凛が二人の姿を見た。
「凛、これは……」
「ダリアさん、戸惑ってますよ」
 すぐにダリアの方に視線を戻す。
「ダリア、大丈夫か?」
「そ、それはも、もちろんよ。それが私達の任務なんだ、だから」
 急に頭を触られたからか。意外と純情なところもあるんだなと智宏は感じた。
「もう……。すいませんね、ダリアさん」
「い、いえ。ちょっとびっくりしただけだから大丈夫よ」
 そこへ、ダリアのパートナーであるレイラがやって来た。
「分かった。今から第一部隊のメンバーを招集するわ」
 そろそろ出撃時間らしい。
『お互い頑張ろうね、レイラちゃん!』
 凛がレイラにテレパシーを送った。レイラは声を発することが出来ないからだ。
『うん。みんなでここに、帰って来よう』
 ぎこちないながらも、レイラが微笑んでみせた。
「トモヒロ」
 平常心を取り戻したダリアが智宏を見上げてくる。
「私達の背中は、あなた達に預けるわ。だから、私からも――力を貸して」
「もちろんだ」
 実体剣、接近戦型の【マモン】と、プラズマライフル、遠距離型の【アイビス】。二機が組めば、遠近両方を補える。
 対立する勢力同士でありながらも、智宏は何度もダリアの真摯な姿を見てきた。強い覚悟と、意思も持っている。彼女を信頼する理由は、それで十分だ。
「じゃあ、行くわよ」
 ダリアの表情が変わる。
 一人の少女から、F.R.A.G.第一部隊を率いる「戦士」の顔へと。