リアクション
準決勝 ○第一試合 相田 なぶら 対 モードレット・ロットドラゴン カレンが負けてしまった以上、自分が頑張るしかない、となぶらは思っていた。剣マニアの彼としては、「風靡」をぜひ手に入れたかった。 もちろん、屈強な相手と戦うことはいい修行になるというのもある。どちらがより重要かは、なぶら自身、迷うところだったが。 しかし、この相手は強敵だ、となぶらは思った。モードレットには隙がない。 様子を見るため打ちかかったが、逆に太腿を強く突かれた。ヒビが入ったかもしれないが、それは【ヒール】で治療する。 モードレットが容赦なく、なぶらの顔面目掛けて槍を繰り出す。それをギリギリのところで避けると、髪の毛が何本かはらりと散った。なぶらはモードレットの腕を打った。 続けてモードレットの脇腹を狙う。しかしそこに、モードレットの槍も突き出された。 なぶらの木剣が砕け散り、腕にビシリ、と音が走った。 「問題ない!」 なぶらは言ったが、プラチナムが腕を掴んだとたん、「うあっ」と呻いた。ダメージが深すぎるとプラチナムが判断、モードレットの勝ちとなった。 * * * 選手専用通路に、カタルは立っていた。拳を握り締め、ここにこうしていることが、あまりに不自然で違和感があり、申し訳なさでいっぱいだった。 ハイナに、次こそは何が何でも試合に出してくれと言うつもりだった。 「自分の『役割』が決まっているのはとてもとても楽な生き方だな」 試合を終えたモードレットが、カタルを見かけて鼻で嗤った。 「な、にを……」 ドクン。 「分かっているはずだ。貴様はただ、己の『役割』を果たすだけの存在。それが終われば用無しだ」 「そんなことは――!!」 「まったく、あの男も立派なマリオネットを作り上げたものだ。八つ当たりをしても文句も言わずに踊り続けるのだからな」 ドクン!! 脂汗を流し、蹲るカタルが見つかったのは、その直後のことだった。 * * * 「……」 「うん、強くなったと思うよー。すごいよー、準決勝だもん」 「……」 「うんうん、こうなったら優勝だよー。あ、でも怪我しないでねー。もし怪我しても、私がいるからねー」 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)がエメリヤンと会話しているのを見た者は、全員「何で言ってることが分かるんだ?」という疑問を持ったという。 * * * ○第二試合 イリス・クェイン 対 エメリヤン・ロッソー 二人の性格故だろうか、この試合も探り合いとなった。 しかし、エメリヤンが大山羊に変身するその隙を縫って、イリスが懐へ飛び込み、鳩尾、そして足へと鋭い攻撃を仕掛けた。 エメリヤンは目を真ん丸にして――言葉はなくとも、その衝撃は見ている者に痛いほど伝わった――倒れた。 「……」 「ざ、残念だったね……」 「……」 「次があるよ!」 何を言っているかは分からないが、何を言いたいかは全員分かった。 何しろ大山羊が正座して、しょんぼり項垂れているのだから。 * * * カタルが倒れたことで、第三試合は残る二人で行われることになった。 彼の戦いを見たがった者は残念がり、カタルの存在を知らなかった者は何の茶番かと訝しがった。 * * * ○第三試合 シャーロット・フリーフィールド 対 猪川 庵 銃を使う者同士、そして準決勝。この勝負は見物だと客たちは固唾を飲んだ。 シャーロットは牽制のため、何発かを撃ちながら、一直線に庵へ向けて走った。 庵は息を整えた。相手の動きを止めるため、両手で銃を構え、じっくり狙いを定める。 「未だ!」 庵は引き金を絞った。シャーロットの右腿に当たり、彼女のスピードが鈍くなる。 しかしシャーロットは、足を止めなかった。 「これで……!!」 飛び掛かるようにして短剣を庵の肩へ振り下ろす。だが、痛めた足では力が足りず、庵の二発目は彼女の額へ直撃し、シャーロットはその場に崩れ落ちた。 決勝戦 「決勝に進出した者は三名。従って、総当たり戦となります」 プラチナムが会場に報告する。 「これはちょっと、困ったことになりそうでありんすねえ……」 と、ハイナが呟いた。どういうことだろうと紫月 睡蓮は思った。 ○第一試合 モードレット・ロットドラゴン 対 イリス・クェイン モードレットの鋭い突きが、イリスの脇腹を通過した。百合園女学院の制服が裂け、イリスは咄嗟に脇を締めた。 「!?」 槍がうんともすんとも言わない。モードレットが槍を引いた瞬間、イリスは力を緩め、足元に滑り込んだ。よろけたモードレットの腹部を狙い、細身の木刀を突き上げる。 だがモードレットは、体勢を整えることなく、体重を乗せた肘をイリスの後頭部に叩きつけた。 「くっ……!!」 一瞬、イリスの目の前に火花が散った。頭がぐらぐらして、吐き気もする。それを堪え、イリスはそのまま、モードレットの足の甲目掛けて、剣を突き立てた。――が、それより速く、今度は槍で体を支えたモードレットの膝が、彼女の鳩尾にめり込んでいた。 「ガハッ!!」 「……汚いな」 冷たい目と口調で言われ、イリスはモードレットを睨みつけた。 「……あなたなどに!!」 悔しさが頂点に達していた。モードレットとだけは、握手などしたくなかった。 ○第二試合 猪川 庵 対 モードレット・ロットドラゴン 「全力全霊、最初から全力でいくよっ!」 銃を持ったまま腕をグルグル回し、庵は元気いっぱい駆け出した。 この大会、初めて銃の使い手と当たったモードレットは、珍しく戸惑っているようだった。 庵がモードレットの足元に向け、引き金を引いた。たまたま地面につけていた槍に、それが当たった。 モードレットは、そこで初めて庵を睨みつけた。 「次、いくよっ!」 庵がモードレットの額に照準を合わせる。モードレットは頭上でクルクルと槍を素早く回転させると、己の前方へと移動させ、盾とした。弾が勢いよく弾き飛ばされ、客席に穴が開く。 モードレットは回転を止めず、勢いに任せて庵の心臓目掛け、槍を振り下ろした。 庵の弾が、槍の先端に当たり、砕け散る。ドッ、と鈍い音がして、庵は目を瞬かせた。 そしてそのまま、庵はその場に崩れ落ちた。 モードレットは今大会初めて、顎に伝う汗を拭った。 この時点で、モードレット・ロットドラゴンの優勝が決定した。 ○第三試合 イリス・クェイン 対 猪川 庵 既に優勝が決まっているため、最後の試合は二位と三位決定戦となった。しかし、イリスも庵も、戦意を喪失していない。 「いきますよ」 イリスが木剣を突きつけた。 「それはこっちのセリフ!」 庵が銃を構えた。 プラチナムが両手を交差する。 そのとたん、イリスが地面を蹴り、一気に間合いを詰めていく。目測を誤った庵の弾が、地面にボッと穴を開けた。 しかし庵とて、伊達に決勝まで残ったわけではない。右手に左手を添え、そのまま待った。イリスの顔が、目の前まで来るのを。 「ここだ!」 立て続けに二発の銃声。 額と胸にコルクの弾が当たり、イリスの体はその場に音を立てて崩れ落ちた。 歓声が上がる中、イリスは頭を振りながら立ち上がると庵に手を差し出した。庵は釣られるように出しかけ、慌ててツナギで手の平を拭いてから、握った。 「悔しいけど今回は私の負けです。でも、次は負けませんよ」 「こっちこそっ!」 そのまま、二人は互いの手を上げて相手を称え合った。 割れんばかりの歓声が、会場を支配した。 優勝 モードレット・ロットドラゴン(波羅蜜多実業高等学校) 準優勝 猪川 庵(蒼空学園) 第三位 イリス・クェイン(百合園女学院) |
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