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【●】葦原島に巣食うモノ 第二回

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【●】葦原島に巣食うモノ 第二回

リアクション


* * *


「マスター。私、この度の御前試合に参加しようと思っております。それでその……応援は大丈夫といいますか、見られると緊張してしまいますので……えぇと……」
「分かった。俺はすべきことをする」
「はい! その間、私も精一杯頑張ってきますので」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は、パートナーの応援をするフリをしながら、オウェンをじっと監視していた。オウェンは、ヤハルとも離れ、「風靡」をじっと見つめている。その横顔に、嫌な予感を持つ。
 ベルクはカタルに対し、「掟や使命に縛られて育った故に常に誰かに従うまま結果、心に穴があって自我が欠け気味」という感想を抱いていた。
 使命をどうしたいかは自ら決めることで、オウェンや周りの人間がとやかく言うべきではない。だが、どの道を選ぶにせよ、人である事実は変わらない。せめて使命の合間ぐらい、人として楽しく生きる術を学び、自我を持つべきだ。
 それは、パートナーであるフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)にも言えることだった。

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一回戦


○第十五試合
シャーロット・フリーフィールド(しゃーろっと・ふりーふぃーるど)(百合園女学院) 対 フレンディス・ティラ(葦原明倫館)

 フレンディスは自分に自信がなかった。人前に出るのも、目立つのも苦手だ。忍者としてはそれでもいいが、「人」としてはあまりよろしくないと、彼女にも自覚はあった。心を鍛えるために参加したのはいいが、控え室を出て、プラチナムが「始め!」と言うまでの間のことはあまり覚えていない。
 それでも、
「……どこまでいけるか解りませぬが……。いざ参ります!」
 審判の声にスイッチが入る。
 フレンディスが忍び刀サイズの木刀を握り締め、間合いを詰めた。しかしそれより速く、シャーロットは銃の引き金を引く。フレンディスは頭部に弾を受けたが、傷には問題なしと判断。更に間合いを詰め、シャーロットの胸を薙いだ。
 フレンディスは返す刀で、シャーロットの頭部を狙う。だがシャーロットは、逆の手に持っていた短い木剣でそれを受け止め、右手の銃を撃った。フレンディスは腹部に衝撃を受ける。――これで二発。プラチナムの判定と、フレンディスの判断は同じだった。
「参りました、私の完敗です。修行不足を痛感致しました。いずれまた勝負を挑ませて頂きます故、その際は宜しくお願い致します」
 フレンディスが頭を下げるのに、シャーロットはにこりと微笑み、「こちらこそ」と答えた。


○第十六試合
猪川 庵(いかわ・いおり)(蒼空学園)対 桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)(天御柱学院)

 右手をそのまま、左手の木刀を逆手持ちに持ち替え、煉は言った。
「宜しく頼むぜ」
 言うなりスピードを上げ、その長い木刀を突き出す。
 だが、木刀の間合いより、庵の銃の方が射程距離が長かった。煉は膝に弾を受け、そのスピードが鈍った。
 庵は続けて煉の額を狙う。
「させるか!」
 煉は地面に膝を突き、左手の木刀で体を支え、右手の木刀で弾を弾き返した。
「そうはいくか!!」
 煉は膝に力を込めて立ち上がると、木刀を力いっぱい振るった。庵も再び引き金を引く。煉の木刀が、庵の腹部を掠る。
「ゲホッ!」
 庵はそのまま倒れたが、煉もまた、膝の激痛に耐え切れず、崩れた。どうやら皿が割れたらしい。
 プラチナムは待った。
 やがて立ち上がったのは、庵だった。


* * *


 会場の警備をしていた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、パートナーの試合が近くなったので会場へ向かった。
 その途中途中でも、警備の弱そうな箇所のチェックを怠らない。彼女の眼の端に一瞬、誰かの姿が映ったのはその時だ。
 見間違えようがない。漁火に操られ、今は敵に回っている宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)だ。だが、彼女はすぐに見えなくなった。
 月夜は、樹月 刀真(きづき・とうま)に連絡をした。

* * *


○第十七試合
樹月 刀真(シャンバラ教導団) 対 カタル

 プラチナムが、刀真の棄権を告げると、会場はざわついた。
 特に刀真を応援するつもりだった武神 牙竜は、龍ヶ崎 灯にどういうことだ、と目で尋ねた。無論、灯に分かろうはずもない。彼としては、カタルも応援したいためにこの二人の対戦は非常に悩むところだったので、助かる話ではあったが。
 既に棒を持って中央に出ていたカタルは、一瞬ほっとした表情を浮かべ、すぐに唇を噛んだ。ぎゅっと胸の部分を掴み、小さくかぶりを振った。

* * *


 祥子はじっと待っていた。その時を。会場が沸き、悪疫のフラワシを放しても気づかれないタイミングを。
「祥子! 正気に返れ!」
 月夜がゴム弾を放った。しかしそれは、祥子には当たらなかった。彼女は月夜と刀真をゆっくり振り返った。
 目が虚ろだ。見つかったことに対する焦りも、跋の悪さもない。
「操られているのか……」
 刀真は、試合のために用意していた木刀を見た。「これで戦えるか、だ」
 操られているなら、祥子の攻撃は遠慮がないだろう。こちらが躊躇すれば、やられる。刀真と月夜は、祥子の動きから目を離さなかった。
 ――と、祥子の手が何かを叩きつけた。
「しまった!! 煙幕ファンデーションか!」
 濛々と立ち込める煙が消えたとき、当然、祥子の姿は消えていた。

* * *



 
二回戦


○第一試合
神崎 輝(蒼空学園) 対 藤原 優梨子

「みんなあっ! ありがとー!」
 軽やかで明るい音楽と共に現れたのは、第一回の優勝者、神崎輝だ。
「L・O・V・E、ラブリー、輝!!」
 横断幕を持ち、叫ぶファンたちがいた。輝が彼らに手を振ると、増々歓声が増える。輝は846プロ所属、歌って戦える男の娘アイドルなのだ。
 プラチナムに睨まれたので、輝は口に手を当てて、「しーっ」と言った。ファンの歓声がぴたりと止まる。
 輝は優梨子に笑顔を向けた。
「よろしくお願いします! 全力で戦わせてもらいますねっ」
 優梨子も微笑む。
「こちらこそ」
 輝は試合開始と同時に優梨子の肩に打ちかかった。しかし優梨子は、手の平で木刀の力を流してしまう。
「アイドルらしく、本気出しますよっ!」
【咆哮】を使うべく、輝は息を吸った。優梨子はその隙を見逃さず、足払いをかけた。輝がバランスを崩し、倒れたところで優梨子は馬乗りになり、首に手をかけた。そこで勝負はついた。
「あいたたたっ……みっともないところを見せちゃったなあ」
 頭を擦る輝に優梨子は手を貸した。その目が、輝の首筋に注がれている。喉が小さく鳴る。
「……どうかした?」
「……あ、いえ、ありがとうございました」
 優梨子は慌てて笑みを浮かべ、誤魔化した。


* * *


「なぁ〜にがアイドルよぉ〜?」
 一升瓶に直接口をつけ煽っていた旭野 清香(あさひの・きよか)が、呂律の回らない口で言った。
「嫌ぁ〜な奴ぅ〜」
 通報を受けた東雲 秋日子が顔をしかめた。
「く、臭い……もうっ、何やってるんですか!」
「あ〜ん?」
「周りに迷惑ですよ! お酒は没収します!」
「なぁにすんのよぉ〜?」
「でなかったら、連れ出しますよ!」
「……分かったわよぉ〜。けちぃ〜」
「ケチじゃありません!」
 清香は秋日子に向かって、イーッと歯を剥いた。

* * *




○第二試合
中原 鞆絵(木曾 義仲) 対 相田 なぶら

 この勝負はとにかく速かった。
 まず合図があるかどうかのタイミングで、鞆絵(義仲)が打ちかかる。プラチナムはルール違反を告げるか迷ったが、なぶらの反応も速かった。ほとんど条件反射で鞆絵(義仲)の額を打ち、
「まだまだあ!」
と大上段に打ちかかる鞆絵(義仲)の攻撃をかいくぐり、喉を突いた。――これで終了。
 終わって、なぶらは思い出した。相手は老人である。
「だ、大丈夫ですか!?」
「いらん! 勝負はこれからだ!」
 なぶらの手を払い、鞆絵(義仲)は薙刀を突きつけた。
「こんなところで終わってたまるか!」
 プラチナムが再び試合の終了を告げたが、
「わしは負けとらん!」
と納得しないので、強制退場となった。義仲は、少々諦めの悪い男であったようだ。