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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め

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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め
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第三章 情報戦1


【マホロバ暦1187年(西暦527年) 6月3日 20時23分】
 瑞穂国――



 鬼城 貞康(きじょう・さだやす)が鬼州国への脱出のため危険な山路をさまよっていたころ、織由家臣羽紫秀古(はむら・ひでこ)は西方征伐と称して瑞穂国で瑞穂城の水攻めを行っていた。
 秀古は再三、瑞穂国主瑞穂魁正(みずほ・かいせい)に瑞穂の土地を譲るよう条件を出していたが、魁正は断り、この水攻めとなったのである。
「瑞穂のいう条件は土地の一部、しかも主要な場所を除き譲るといったもの。そんなものがのめるか。右府様(信那)になんと報告する」
 秀古は城の二方に川に堤を築き、水を城へ向けて流し込んでしまった。
 湖水となった城周りはむろん水浸しとなり、身動きできない状況であった。
「さて、いつまで持つかのう」
 秀古は瑞穂城の兵糧が尽きるのを待っていた。
 そんなとき、扶桑の都では本之右寺の変が起こったのである。


「そなたに恨みがあるわけでないが、このまま羽紫軍へゆかせるわけにはいかぬ」
 黄泉耶 大姫(よみや・おおひめ)は、瑞穂国へ続く道程で『彼等』の行く手をさえぎった。
「そう、本之右寺で起こったことを知られては困るのだ」
 秦 始皇(ちん・しーふぁん)が和弓を構える。
「この情報を先に手に入れるのは、瑞穂でなくてはならぬからな……」
 始皇の言葉はそこで途切れさせられる。
 瑞穂城周囲を見回っていた羽紫兵が現われたのだ。
「そこにいるものは誰か!?」
「おのれ……羽紫秀古の兵か」
 大姫が舌打ちする間もなかった。
 『彼等』――葛葉 明(くずのは・めい)レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)は、羽紫軍に向かって走り出していた。

卍卍卍


「怪しい男と女をひっとらえました。他の二人は逃げられてしまいましたが……いかがいたしましょうか、殿」
 秀古は、部下が見回り中に捕まえたという二人組みを見た。
 女は葛葉 明(くずのは・めい)といい、もう一人の男はレギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)と言った。
「あなたが羽紫秀古さん? どうも〜未来人がお得な情報をお持ちしましたよ」
 明は明るく言い、レギオンも重要な情報があるといった。
「俺は伝令兵だ。至急、伝えることがある」
「……異人が伝令だと?奇妙な女を連れてか? 間者ならば叩き斬るぞ」
 秀古は本気にはとらなかったようだ。
 仕方ないとばかりに明は未来人の証『携帯音楽プレイヤー』を披露した。
 秀古たちは耳をとっさにふさぐ。
「なんだこれは!? 変な術を使いよって。ますます怪しい……おい、この女を斬れ!」
「女を斬っても何の羽紫の手柄にならないだろう。それよりも一刻を争う。本之右寺で織由上総丞信那(おだ・かずさのすけ・のぶなが)が討たれたぞ」
 と、レギオンは言った。
「今、なんと?」
「信那は討たれた。昨日の朝のことだ」
 レギオンの台詞に秀古は目を白黒させて笑い出した。
「この織由家臣随一の智将、羽紫秀古に向かってそんな浅知恵でたばかろうとは。いや〜随分と見くびられたものよのう。ハッハッハッ……」
 秀古は軍師に向かって『斬れ』と命じた。
 侍が刀をもって二人を連れ出す。
「お待ちください、殿。先ほど……都からの密使と申す者が網にかかりました。書面を持っており、そこには『信那様 本之右寺にて ご最期』とあります!」
 軍師があわてて制止した。
 レギオンが冷徹に言う。
「言っただろう。その密使の内容は本物だ。信那はもういない」
「右府様が……!?」
 秀古はようやく本当かと理解した。
「信那様が……私が命をかけてお仕えしたお方が、この世にはもういないだと……? 私が唯一、この乱世を終わらせることができると見込んだお方が……!」
 秀古は子供のように泣き出した。
「秀古ちゃん、しっかりして。この後の世がどうなるかはあなたにかかってるのよ。ぐだぐだしてる暇はないわよ」
 明は秀古をしかりつけ、瑞穂城を見上げた。
「あの城をどうにかしなければね。講和するのよ。急いで扶桑の都に引き返さなきゃ」
「そうだ。瑞穂軍も動けないが、講和なくしては羽紫軍も動けないだろう。急げ!」
 二人にせかされ、動揺していた秀古ははっと気を取り直した。
 一度冷静になれば、頭は目まぐるしく回転する。
「そうだ。右府様の大志を受け継ぐのはこの羽紫秀古しかおるまい。講和はそちらがやれ。湖面で交渉するのだ。船を出してやろう」
「え?」
「なんだと?」
 秀古はにやりと笑った。
「言い出したのはそちたちじゃ。私の知っている以上にこの事情に通じていると見た。我が軍の味方をするというのなら、見事成し遂げて見せよ。もし、裏切れば……湖面の船めがけていっせいに矢を射かけようぞ」
 いわば明たちは、命と引き換えに講和交渉に臨まねばならない。
 今、断ったらこの場で斬り殺されるであろうし、交渉が失敗しても口封じとして船上で殺されるだけである。
 選択の余地はなかった。
「……さすが信那公が取り立てたといわれる人物……甘く見てたかしらね。いいわ、やってあげる。その代わり、講和が整ったら全力で扶桑の都に引き返すのよ」

 やがて、明とレギオンは羽紫軍が見守る中、小船に乗せられた。
 小船はゆっくりと瑞穂城へ向かって漕ぎ出された。