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リアクション
9
『ついに超獣との最後の対決!? ――勝つのはどっちだ!』
華々しいナレーションと、ショーアップされたモニターの中とは裏腹に、空気は一気に緊張を孕んでいた。
ニキータの一声を受け、小次郎が合図を送る。
次の瞬間には、全ての行動が開始されていた。
「右舷ポイントに到着。熱源発生。陽動を開始します」
淡々とそう口にし、イヴリン・ランバージャック(いゔりん・らんばーじゃっく)は血煙爪鴉蛙矛を、持ってきていたシャベルの金属部分と合わせて摩擦熱を生み出した。ぎゃりぎゃりと鈍い嫌な音を立てて火花を散らす様子に、敬一は思わず眉を寄せた。
「あまり無理はするなよ、まだ完全には回復していないんだ」
アルケリウスと対戦した時のダメージは、まだ残っているはずだが、イヴリンの声は「損害軽微、問題ありません」と平淡だ。
「問題無いようにゃあ、見えんがのう……」
その状況をモニター越しに見やりながら、その逆、左舷側で呟いたのはメイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)だが、それに対してルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)はゆるりと首を振った。
「余力を残して、何とかできる相手ではありませんもの」
言って、銃口を超獣へ向ける妖蛆に、それもそうか、とメイスンも大剣を構えた。
「狙いは違うが、目的は同じじゃ。協力せんといかんのう」
超獣の中へ突入する者達のための囮役を買って出た敬一達と違い、こちらは、囮は囮でも彼女らのパートナーである鵜飼 衛(うかい・まもる)の術のための時間稼ぎである。それでもやることは同じだ。敬一はモニターごしに頷いた。
「頼む」
その声を号令にして、妖蛆の二丁拳銃が火を噴いた。
的が巨大なのだ。狙いを定めるロス無く、間隙の無い乱射が森に響く。
勿論、超獣の方も黙ってそれを食らうはずも無く、叩き潰そうとするかのようにその腕が暴れまわったが、相手の巨大に対して妖蛆たちは小さく、しかもすばしっこく、二人は飛び回るのである。更には、その攻撃の位置をかく乱させるように、アーミス・マーセルク(あーみす・まーせるく)とウトナピシュティム・フランツェル(うとなぴしゅてぃむ・ふらんつぇる)が走り回っているのだ。
「もう、ワタシがここまでやってるんだから、必ず巫女を助けなさいよね……!」
叫びながらのアーミス達は、避けるので精一杯、といった危なっかしいところはあるが、効果はあるようで、超獣からの攻撃にいくらかの苛立ちが見え始めていた。
「全く、皆は何故そうまでして苦労をしたがるのじゃろうか?」
そんな彼らの奮闘を、体力の温存のため手出しを控えている突入組みが、じりじりとしながら待つ中、その傍らでどこか他人事のように遠巻きにしていたラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)の隣で、シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)が呟くように言った。
「あの邪魔な超獣さえ居なくなればそれで良い。醜悪な獣の中身なぞ知った事ではないじゃろう?」
主もそう思わぬか、と手記は傍らで羽を休める三対の翼を持った黒い鳥……黒曜鳥へと視線をやった。イルドレの王冠を首にかけたその大きな鳥が、主人の問いに困惑するかのように首を傾げて見せたのに、手記は続ける。何故顔も知らない者の為に命を張るのか。何故仇なす者に手を差し伸べようとするのか。そう並べながら、結論は一つ。
「……理由なんぞありゃせぬよ。”そうしたいからそうする”……何とも愚かしい理由じゃなあ、クククッ……」
独白のように続けられる言葉に、もの問いたげにしている黒曜鳥は、主である手記の命令を待ったが、当の本人はそれに反して「我は命じぬ」と目を細めた。光で出来ている体に、羽から零れ落ちる氷の雫。そして火の御霊をもつ大きな鳥は、超獣の注意を引くのに格好の存在であるというのに、命令を下さない、という手記に、ラムズは軽く目を開いたが、敢えて口に出さずそれを見守った。
「黒曜鳥……主は何時まで止まり木に居るつもりじゃ?」
その言葉の意味に気付いたのかどうかは定かではない。が、黒曜鳥は、ばさり、と迷うようにラムズたちの頭上を旋回したかと思うと、大きな羽ばたき一つで、その体を空へと舞わせた。
――……超獣の元へと。
「鳥というのはな……籠におらぬ方が良いんじゃよ」
月の光にきらきらと雫が反射する美しい軌跡を残し、遠ざかる黒曜鳥の姿を目で追いながら、そう小さく呟く手記に、ラムズはそっと呟くように「良いんですか?」と声をかけた。
「召喚獣に自由を許すなんて、聞いたことがありませんよ」
呆れたような物言いに、ふん、と手記は鼻を鳴らす。
「ただの傀儡などいらぬ。欲しいのは自ら動く者じゃよ」
「……鳥、嫌いじゃなかったんですか?」
問いを重ねるラムズの方を、手記は振り向こうともしない。
「嫌いじゃよ。嫌いでなければ……」
「?」
「嫌いでなければ、籠に閉じ込めたりはせぬ。ああ、絶対に……な」
「そうですか」
素直さとは対極の、酷く捻くれた物言いに、ラムズは半ば呆れたように肩を竦めて見せた。
一方、敬一側では、効果は左舷に比べれば、ではあるが今ひとつな様子だった。
金属の擦れあう程度の熱量では、激しい戦闘が続く中で、超獣は余り強い関心を示さないようなのだ。
「……反応微弱。熱量を増加します」
言うが否や、チェーンソーを装備した自分の腕に炎を纏わせるのに、敬一は流石に「おい」と声を荒げたが、やはりイヴリンの表情は変わらない。
「胸部機晶石への影響は軽微、問題ありません」
言って、そのまま超獣の反応を誘って動こうとしたが、その想定よりも、超獣の動きは早かった。
「……イヴリンッ!」
暴れていた腕の一本が、熱を感知して唐突に方向を変えて襲い掛かったのだ。咄嗟に後ろへ飛んで幾らかの衝撃を逃したものの、その体は耐え切れずにどうっと地面へと倒される。そこへ、2撃目。
「回避、不――」
そんな中でも、冷静に状況を口にするイヴリンに、その腕は振り下ろされ――……なかった。両者の合間に、黒い影が横切る。手記のもとから飛び立った、黒曜鳥だ。その巨大な鳥は、そのままごう、っと炎を伴って旋回し、超獣の腕を自らへと誘う。その間に立ち上がったイヴリンも、負けじとしたのかどうか、再び腕に炎を纏わせて囮を続けようとしたので、敬一は慌てて逆の腕を取って止めさせる。
「言ったろう、無理をするなと……囮は、ここまで出十分だ」
その言葉の通り。
「よし……大分超獣の意識が左右に散ってきてるな」
状況を俯瞰で眺めていた佐野 和輝(さの・かずき)が、そろそろ頃合、と上空でチャンスを待っていた乱世へ合図を送った。
「術式とかそういう難しいことはわかんねえが、今のあたいらに出来ることを精一杯やるまでよ」
言いながら、待ってました、とばかりに目を細める乱世に、溜息をついたのは、魔鎧のビリー・ザ・デスパレート(びりー・ざですぱれーと)だ。
「だからって、真っ向から突っ込もうってんだから、相変わらず無茶しやすね、姐御」
呆れたように言いはするが、現在の持ち主に似たものか、その声は不敵な笑いが混じっている。
「まぁ守りは任せてつかぁさい。このデカブツに、俺らの根性見せてやりやしょうぜ!」
「よっしゃ、行くぜえええ!」
応えて笑った乱世は、小型飛空挺の高度を一気に引き下げた。
その正面に弾幕を張って強引に切り開くと、そのまま超獣の背中へと回り込むと、翼の骨格、その継ぎ目へと、両手のカーマインで一斉に狙い撃った。
エネルギー体とは言え、骨格として形を取っている以上、その性質は生物のそれと近くなっているはずだ。その狙い通り、最も防御の甘い継ぎ目の部分に、有効打である光と氷の力を浴びせられたのだ。その衝撃に、ぐらり、と羽に支えられていた体が傾ぐ。
「姐御!」
それを見て、ビリーが声を上げた。頷いて、乱世は飛空艇を更に加速をつけて翼まで接近させた。
「とどめに、こいつを食らえ……!」
叫びと同時、乱世は見計らって小型飛空艇から身を躍らせると、集中攻撃によって抉られたその付け根に向けて、最後の仕上げ、とテロルチョコおもちを叩き込んだ。
刹那の後。ドオンッ! という大きな爆発音と共に、根元を砕かれた翼の骨格が外れ、超獣の巨体が傾ぐ。
「―――……ッ!」
その光景に、皆が一瞬息を飲む。
めきめきと木々をへし折り、叫び声を上げながら、ずうん、と重たい音を響かせて、その体が大地に伏した。瞬間。
「今じゃ、メイスン!」
衛の叫びと同時、メイスンが、ルーンの刻まれたその巨大な剣を、超獣へと突きたてた。すると、今まで妖蛆がその体に打ち込んでいた弾丸に刻まれていたルーンが、超獣の中で呼応して輝きを放ち始めた。その手ごたえを感じて、衛は杖の先を超獣へと翳した。
「発動せよ、我がブリザードよ。その氷にて、楔と成せ……”魔術結界”!」
妖蛆たちが囮となっていた間に、研ぎ澄まされていた衛の魔力が解き放たれ、増幅されたブリザードが撃ち込まれたルーンの弾丸を核にしって氷の網をめぐらせ、さながら氷の蜘蛛の巣の様な結界が発現すると、その中に絡み取られたかのようにして、超獣の動きが鈍った。とは言え、全力で魔力を使っているのだ。妖蛆のフォローを受けたとしても、もって数秒。だが、それで、十分。
「皆、離れてください。結界術式、発動します……!」
ルイーザの声が、戦場に響いた。皆がそれに合わせて結界から退避した、その瞬間。超獣を足止めしていた結界の要、ストーンサークルの柱が、まばゆい光を放ち始めたのだ。
「……接続を、確認。術式発動。干渉開始――……」
聖霊の与える叡智と禁じられた言葉に乗せた、複雑な呪文を口にしながら、フレデリカは最後の仕上げと、その手を結界の最初の柱へと触れた。
「森よ、力を貸して。その慈愛と豊穣でもって、彼の獣の怒りと憎しみを浄化せよ……!」
その声、祈りに呼応するように、柱から放たれた光は、暖かな輝きで超獣を包み込んだ。結界に動きを鈍らされていた体が、更に鈍る。大地に生まれたもの故に、大地の力に影響されるのか、押さえつけられるのではなく、宥められるように、その嵐のような激しさを、緩ませた。
「今なら、行ける!」
小次郎と和輝が、同時に声を上げた、その瞬間には、遠野 歌菜(とおの・かな)と、彼女に寄り添うように月崎 羽純(つきざき・はすみ)が飛び出していた。そして同時に、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が上空から小型飛空艇ヴォルケーノのミサイルを、駆け抜ける二人の両脇へと打ち込んで、超獣からの腕を阻み、封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)もまた、月夜の乗る飛空艇に同乗し、「刀真さんの道を、開かなければ……」と、氷結の力でそれを援護する。
「……もう、大丈夫です。いけますわ、煉さん」
そして、そうやって開いた道。真っ直ぐに超獣の見えるその正面へ、エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)によて癒された肩の具合を確かめるように、煉は剣を正眼に構えなおした。ヴァイス・フリューゲル(う゛ぁいす・ふりゅーげる)のSPリチャージのおかげで、気力も申し分ない。
「行くぞ、超獣……神薙之太刀ッ!!」
防御を捨て、最大まで高められた闘気は、身の丈を遥かに超えた巨大な剣として顕現し、煉の渾身の力によって、地へ伏す超獣へと、一気に振り下ろされた。凄まじい両劇が周囲へびりびりと波及する。そして振り下ろされた剣の切っ先は、超獣のその巨大な口の上部を、ざっくりと抉り裂いていた。
「おやおや、痛そうですねぇ」
その光景に、その場にそぐわないようなのんびりとした、けれど妙に耳に残る声が言い、今までで一番大きく傷の開いたとこへ向けて、エッツエルの異形の手が、すうっと向けられた。
「お返ししますよ……よおく、味わってくださいね?」
エッツェルがにい、と口角を笑いに引き上げる。同時、結界発動の折、超獣から吸収していた力をそっくりそのまま、否、自らの魔力も上乗せして、歌菜達の開いた正面の突破口の向こう側、大きく開かれた超獣の口へと、全てを纏めて解き放った。攻撃とは違い、同じ性質を持ったエネルギーであるそれは、自己修復のためにエネルギーを吸収しようとしていたところにまともにぶつかり、与えようとする力と取り込もうとする流れが混ざり合って、巨大なエネルギーの渦を生み出した。
現在の見た目こそ、怪物のようで見紛われそうだが、超獣はエネルギー体である。自らの力が渦をなすのに、逆らうことが出来よう筈もなく、最大の攻撃手段であるその大きな口が、形状を保てずに、ぐにゃりと歪に歪み、一瞬、音は止んだ。
「今よ……!」
一声と共に、歌菜たちは一斉に飛び込んだ。だが、次の瞬間。
「―――……ッ!」
竜巻の中に飛び込んだような、激しいエネルギーの流れが、全員の体を飲み込んだのに、羽純はとっさにしっかりと歌菜の体を抱きしめた。超獣の形状を変えるほどのエネルギーの渦は、流れに乗るどころか、はじき出され、ばらばらにされないのが精一杯だ。
「たどり着く前に、死んじまいそう……」
世 羅儀(せい・らぎ)が、小型飛空艇ヘリファルテにしがみ付きながら呻くのに、白竜は「耐えろ」とすげない。肉体の完成を果たしているはずの彼自身も、飛空艇のバランスを保つので精一杯なのだ。
ひたすら長く感じられる一瞬が過ぎたところで、レオナーズがはっと何かに気付いて、その指をさした。
「あそこだ……!」
エネルギーが集約するその先では、刀真が突入した時よりも、邪悪さを増したように見える珠のと、更に深く超獣との同化が進みつつある巫女の姿が、契約者たちを待ち受けていた。
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