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リアクション
時間は少し前に遡る。
時計塔周辺の通行人に、ルカルカは一人で聞き込みを行っていた。
それはパートナーのダリルが「ぞろぞろ行っても非効率的だ」と言ったから、一人で行動したいたのだ。
「ごめん! ちょっと時間をとらせてもらっても構わないかな?」
ルカルカは明るい性格を活かして、多くの人に声をかける。
聞き込みの内容は明人の目撃情報・生誕祭・人喰い勇者・コルッテロに関してだ。
それに関してのことは既存の情報しか出てこなかったが、一つだけ成果があった。それは、
「特別警備部隊はコルッテロの尻尾を掴みつつある」
(……嘘じゃないもん。今やってるもん)
と、ルカルカが誰かに話しを聞く際に絶対に言っていたことがきっかけ。
それが功を奏し、三十人目に越えをかけた時、ルカルカは時計塔の近くに潜伏するコルッテロの構成員に目をつけられることになる。
「おい、姉ちゃん。ちょっと話を聞かせてもらおうか」
コルッテロの構成員である角刈りの男は、ルカルカが一人であることを確認すると、締め上げようと近づき声をかけたのだった。
(よしっ、思い通り! あとは――)
そして、ルカルカは逃げ出した。
行き先は、人気の少ない袋小路。それは事前に神崎 輝(かんざき・ひかる)達と事前に打ち合わせした作戦通りの行動。
作戦の内容は、『大人数での行動は避け、少人数で聞き込みをして相手を油断させる。そして襲われたら、人気の少ない袋小路へと誘い込み仲間と挟撃。そして、尋問』だ。
(お願いね、ダリル)
ルカルカは逃げつつ、人ごみに紛れているダリルに視線だけで合図する。
ダリルはその視線を受け、頷くと、挟撃するために仲間達に<テレパシー>で連絡を送った。
ただ、その作戦に失敗があったのだとすると。
――不運にも、一般人に紛れ込んでいた敵の渚に見つかってしまったことだけだろう。
――――――――――
そして、現在。
ルカルカは袋小路にたどり着き、目つきの悪い角刈りの男と対峙していた。
「へへっ、やっと諦めたみてぇだな」
角刈りの男は下種な笑いを浮かべながら、ルカルカにゆっくりと近づいていく。
「さて、情報をどこまで掴んだか話してもらおうか」
ルカルカは舌を出してあっかんべーという仕草をした。
「嫌だよーだ」
「はぁ? テメェは今の状況が分かってんのか?」
「――分かってないのはあなた達のほうですよ」
不意に、角刈りの男の背後から声がした。
男は慌てて振り返る。そこに立っていたのは輝とそのパートナー達とダリルだ。
「っ!? テメェら、まさか……!」
「はい。簡単に罠にかかってくれてありがとうございます」
輝はにっこりと笑みを浮かべてそう言った。
男は武器を抜き出し、構える。しかし、その構えは素人に毛が生えた程度で。
「……少しの間、眠っていろ」
ダリルが<剣の舞>で四本のエネルギー剣を生み出し、角刈りの男に飛翔させた。
多方面から飛来するその剣は、男にあっ気なく直撃。痛みに顔を歪め、行動が鈍る。
「遅いよ、残念!」
ルカルカが間合いをつめ、男に二本の《妖刀白檀》を奔らせる。
<魔障覆滅>によるその目にも留まらぬ斬撃は、男の身体を切り刻んだ。
「……がっ!」
痛みによって意識を失ったその男は、妖刀の効果でルカルカの支配下におちる。
ルカルカは自分の言うとおりに動くようになった男に、命令した。
「企みで知ってる事を話しなさい」
「……私は下っ端ゆえほとんど知りません。
知っているのは、この街を支配するための計画だということぐらいです」
その答えを聞いて、ルカルカは「そう」と呟いた。
それを話し終えて、妖刀の効果が切れたのか、男は地面に突っ伏した。
「んー、上手く行き過ぎて拍子抜けだねー」
「……まぁ、マスターに危害が加えられなくて良かったです」
袋小路での戦闘を終えて、シエル・セアーズ(しえる・せあーず)と一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)は感想を述べた。
輝はパートナー達のその言葉を聞いて、苦笑いを浮かべながら、ダリルに声をかける。
「でも、ここからが本番です。
聞き込みでは全くと言っていいほど情報が手に入らなかったから、尋問をして情報を引き出さないと」
「そうだな。……とりあえず、こいつらを起こしてくれるか?」
「はい、分かりました。――シエル、お願い」
「うん、分かった。……<命のうねり>!」
輝の言葉を受けて、シエルは手早く魔法陣を描き、魔力を込めて発動。
神の力が生命力となってほとばしり、角刈りの男の傷を回復。意識を覚醒させる。
「ぶわっ!」
目を見開いた男の視界に最初に映ったのは、ニコッと満面の笑みを浮かべる輝だった。
「ボクたちにあなたが知ってることを話してもらえますか?
……あっ、言っておきますけど、拒否権はありませんから」
輝の後ろで、ダリルが光条剣を生成し、冷たく言い放つ。
「自供か苦痛か好きな方を選べ」
角刈りの男の顔に引きつった笑みが浮かんだ。
――――――――――
数分後。
「……なるほど。あなた達が知っているのはそこまでですか」
輝のその言葉に、手と足を拘束された角刈りの男はしっかりと頷く。
結果として、あまり情報を引き出すことは出来なかった。
それはこの男が構成員の癖してほとんど情報を知らなかったから――いや、この男の話によると、他の構成員も自分達程度しか情報を知らないらしい。
それでも、分かったことと言えば、
「組織と戦力は、『構成員が千人前後。雇った傭兵は数十人程度』。
アジトの場所は、『観光名所が集まる中央部から外れた街の最南端』ですか……」
輝は手に入れた情報を反芻するように呟いた。
その隣で、シエルがその情報を《銃型HC》で事細かく記録する。
輝はダリルに質問する。
「これからどうしましょうか?」
「そうだな。とりあえず、この男を警備部隊の詰所に運ぶか」
二人がそう会話をかわし、拘束する角刈りの男を担ごうとした時。
「――それはちょっと困るなぁ。こっちに返してもらえる?」
不意に、袋小路の入り口から声がした。
その場にいた全員が振り向く。立っていたのは真紅の槍《悲姫ロート》を構え、舌なめずりをするルベルだ。
槍の刃は赤く燃えている。それは彼女の感情に左右され、炎が大きくなる。それが《断罪者ロート》の性質だ。
ルベルは笑みを浮かべ、高らかに開戦を告げる。
「さあ、戦いましょうか。特別警備部隊の力、アタシが確かめ……」
「はぁぁッ!」
問答無用で輝が間合いを詰め、《ティアマトの鱗》を抜き出し<面打ち>を行う。
ルベルは自分の頭目掛けて振るわれる刃を、首を動かして回避。身体の浮いた輝に、前蹴りを放った。
「――ッ!」
「マスターになにをしている……ッ!」
後退する輝と入れ替わりに、瑞樹が《魔導剣【ビッグ・クランチ】》を抱え、ルベルに突撃。
振るわれた一閃を真紅の槍で受け止める。と、すかさず神崎 瑠奈(かんざき・るな)が<疾風迅雷>で接近。
「がら空きだにゃー」
瑠奈はルベルの死角に入り、<ブラインドナイブス>による強烈無比な一撃を放つ。
腹部に《鉤爪【建御雷】》の斬撃が飛来。ルベルは片手を槍から離し<龍鱗化>で硬質化した腕で防御。
その隙を逃がさずに、瑞樹が片手になって力の半減した真紅の槍ごと、ルベルを思い切り押し込んだ。
「はぁぁあああ!」
裂帛の気合がこもった咆哮と共に、瑠奈は魔導剣を振り切った。
吹き飛んだルベルが壁に衝突する。背中をしたたかに強打する。
それは普通の人間なら、激痛に息が詰まり、立ち上がることも不可能な痛みだ。
しかし。
「……え?」
瑞樹は目を疑った。
立ち上がることは想定のうち。あの程度の痛みでは倒せないことも分かっていた。
けれど、ルベルは地面に倒れることすらなかったのだ。
背中を打ちつけても、少しもよろけることはなく、姿勢は正常。欠片もダメージのない様子はあまりにも非常識。
「素晴らしい!」
驚愕する契約者達に、ルベルは賞賛を贈った。
「いいじゃん。今の連携。久しぶりに、ちょっぴり痺れたわ!」
平然と笑う彼女を見て、契約者達の背筋を冷や汗が伝わった。
ルベルは片手で持つ真紅の槍を華麗に回転させ、構えをとる。刃を纏う炎が大きくなっているのは、彼女が昂ぶっているからか。
「じゃあ、次はこっちから行くわよ。……まだ、死なないでね?」
ルベルはニコッと微笑み、いきなり速攻。
五メートルの間合いをあっさり詰め、瑞樹に迫る。
(やばい……!)
瑞樹は咄嗟に真横に跳躍。が、彼女は難なく追尾。
余裕で正面に回りこむと、身体を捻り刺突を繰り出した。
「――ッ!」
間一髪のところで、輝が瑞樹を押しのけ《アイスフィールド》でどうにか防御。
<歴戦の防御術>で立ち回り、<ディフェンスシフト>を使っていなければ、瑞樹は串刺しになっていただろう。
ルベルは輝を見据えながら、口元を吊り上げた。
「へぇ、やるじゃん。アンタ」
「ボクは、皆を護るんだ……!」
「殊勝な心がけね。ウチの奴らにも聞かせたやりたいわ――っと」
ルベルは真横へ槍を振るった。
そこにいたのは<ブラインドナイブス>を放とうとしていた瑠奈だ。
瑠奈は真っ二つになる寸前で<空蝉の術>で身代わりを置き、回避。
「あ、危なかったですねー」
瑠奈は後方に大きく跳躍し、その場を離れる。
ルベルは真紅の槍を肩に担ぎ、ニヤニヤと笑いながら口にした。
「ほら、ボケッとしてないで、さっきみたいに一斉にかかっておいでよ。いくらでもかかっておいでよ」
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