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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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    ★    ★    ★
 
 いろいろな人に謝りつつも、そのことによって情報を得ていった緋王輝夜たちは、フリングホルニ内に残るエッツェル・アザトースの痕跡を順次辿っていた。
 ほとんどの場所は、アトラスの傷跡にフリングホルニがいる間に修復がされている。特に、気密処理や換気処理の部分は生命維持にも関わるので最優先で直されていた。とはいえ、突貫には違いないので、そこここに痕跡は残っている。
「ここに……、主公は……いた……」
 まだ変色が残るダクト付近の壁を見て、ネームレス・ミストが言った。
「今度こそ、なんとしても捕まえませんと。せっかく、可能性を見つけたのですから」
 アーマード・レッドがうなずく。
「おや、ここの傷はまだ真新しいような。イコンデッキに逃げる直前の物だったんかな」
 緋王輝夜が、ダスターシュート近くの変色した床を見て言った。
 近くには、展望室があった。
 そこでは、セイル・ウィルテンバーグが、外の光景に見とれていた。
 外は、漆黒の異空間である。
 その中に作られた結界ともバリアとも呼べる障壁に守られた直径数キロ、全長数100キロの空間がヴィムクティ回廊と呼ばれている物だ。
 これらは、固定の空間ではなく、むしろ空間の隙間のような物に近い。ただし、高次元空間の隙間なので、三次元からはただのトンネル状の空間に認知されている。そのためか、回廊ごとにその距離感はまちまちであった。最初の回廊も、理論的にはこのヴィムクティ回廊と同等の距離を結んでいるはずなのだが、その直径は数十メートルしかなく、全長も驚くほど短い。小さな物体しか行き来することはできないが、その代わり回廊を通り抜ける時間も短くてすむ。はたして、この二つの回廊とゲートが同じ原理で動いているのかについてはまだまだ分析中ではあるが、仮に魔道寄りの原理であるならば、ニルヴァーナとパラミタを繋ぐ選択肢が複数あることになり、研究者の興味を引いているところの物だ。
 回廊の中は、まさにチューブ型の結界に守られた空間トンネルであり、バリア表面には不思議な発光現象が見られた。まさに、この世ならざる光景である。
「綺麗ですねえ」
 セイル・ウィルテンバーグは、興味深そうに、その光景に見入っていた。
 視線を後方へとむけると、闇の中に微かに後続の艦艇が見えた。
 
    ★    ★    ★
 
「店長〜、ここの調整なんですけど、どうすればいいですかね〜」
 ウィスタリアのイコンデッキで、柚木桂輔がアレーティア・クレイスに訊ねた。
 柚木桂輔としても、新型のゴスホークを触るのは初めてだ。整備するにしても、いちいちアレーティア・クレイスに確認をとらないと分からないことも多い。特に、モーショントレースシステムを採用した発展型BMIは未知数のところが多い。理論的にはパイロットの身体能力に依存したスキルをイコンにも反映できるわけだが、それは、如実にパイロットの能力がイコンの性能に反映されてしまうということでもある。当然、パイロットへの負担も通常のBMIよりも高い。
「桂輔、そこの調整はの〜、ここをこうして、こう、こうじゃ……」
 アレーティア・クレイスがメンテナンスハッチに身を滑り込ませて、何やらジャンパー線を差し替える。
「おお、そんなところに、そんな危険な物が。ジェファルコンに似ているようでいて、かなり違ってますね」
 ふむふむと、柚木桂輔がうなずいた。
「じゃあ、これで、BMIのシンクロ率を80%まで高めることができるはず。ちょっと試してみて」
「了解。ヴェルリア、BMIシンクロ開始」
 柚木桂輔に言われて、ゴスホークのコックピットの中でBMI専用のヘッドセットつけた柊真司が、同様のインターフェースを身につけたアレーティア・クレイスに言った。
「シンクロ率、上昇させます。10%……20%……30、40、50……」
 50%をすぎた段階で、柊真司とアレーティア・クレイスが少し顔を顰める。通常はここがBMIの限界でもある。ここから先は、パイロットの能力によってシンクロ率上限や使用時間が極端に変わってくる。
「60……70……、8……80……!!」
「お、おい、大丈夫か!?」
 唸るような声をモニタして、柚木桂輔とアレーティア・クレイスが少し顔色を変えた。
「このままでは脳のシナプスが焼き切れるぞ。BMIを停止しろ!」
っ……、だが、この程度!
 柊真司が柚木桂輔に答えつつも、安全装置が作動して、ゴスホークのシステムがダウンした。
「おい、80%いけるんじゃなかったのか!?」
 コックピットから出て来た柊真司が、ヘッドセットをつかみ取って叫んだ。額には、玉の汗が浮かんでいる。
「いけはするけれど、もって54秒ってところかなあ」
 システムのカウンターを見て、柚木桂輔が答えた。
「何が原因だ!」
 聞き返す柊真司に、アレーティア・クレイスと柚木桂輔が、揃って柊真司を指さした。
「くそう。七聖賢吾のようにはいかないか……」
「負担のない運用で50%まで。それを超えると、極端にパイロットに負荷がかかる。完全適合者でもない限り、80%の状態を長く維持することは不可能だな。まあ、現在はまだということではあるが」
 そうそう都合よく機体性能は引き出せないと、アレーティア・クレイスが肩をすくめた。