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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

リアクション

 

西入り口

 
 
「全機着陸せよ。ここからは、陸戦、それも屋内戦になる。遺跡の内部の広さによっては飛行も可能となるかもしれないが、ジャンプ程度に思っていないとすぐに壁にぶつかって大破するぞ」
 西入口前に降り立ったデュランドール・ロンバスが、随伴する各イコンに指示した。
 こちらへとむかったイコン各機が、ヤクート・ヴァラヌス・ストライカーの周囲に集まってくる。
 入り口は、東や北とは違って封印されてはいなかった。だが、よく見ると、封印の跡はある。おそらくは、ブラッディ・ディヴァインのタンガロアによって開封されたのであろう。その証拠かは分からないが、破壊されたタンガロアの残骸が、周囲に散見できる。
「揃ったようだな。では、先鋒として、アシュラム、ゴスホーク、バルムンク。アウクトール・ブラキウムは先鋒部隊の後方支援。中央部隊として、エンライトメント、アイオーン、メイクリヒカイト、ヤクート・ヴァラヌス・ストライカー。後方部隊として、クルキアータ、黒麒麟、魂剛。応龍弐式は最後尾を固めろ。配置は分かったな。見ての通り、敵にはイコンを破壊できる物が存在する。気を抜くなよ。破壊を厭うな。では、出発!」
 デュランドール・ロンバスの指示の下、まずはゴスホークを中心として四機のイコンが中へと入っていった。
 通路はまっすぐで、ゆっくりとした下り坂になっている。
「現時点で直接的な危険は感じられませんが、遺跡全体にかなり凶悪な悪意を感じます。これでは、悪意の中にいるようで、禁猟区があまり役にたちませんね」
 クナイ・アヤシが、清泉北都に言った。
 途中に、いくつか当時の重機らしいクレーン車や運搬車のような物が止まっている。おかげで、今ひとつ見通しが悪かった。照明も仄暗い。おそらくは、ここであった戦闘によって、照明装置がかなり破壊されてしまったのだろう。
「センサーがあまり役にたちませんが、通路はまっすぐにのびていて、その先に広大な空間があるようでございます。高エネルギー反応もいくつか確認できますので御注意ください」
 手早く周囲をマッピングして、クナイ・アヤシが各イコンに報告した。
 シフ・リンクスクロウに装着されている魔鎧の四瑞霊亀も、独自にマッピングした詳細なデータを記憶して防衛計画を立てる。
「おっと。みんな、足許に気をつけてください」
 柊真司が、床に落ちていたイコンの破片らしき物を蹴飛ばしてしまい、他のイコンに注意をうながした。
 通路が下り坂になっているせいか、蹴飛ばされた破片がコロコロとかなり先の方まで転がっていく。それが、カツンと何かに当たって、蹴り返されるように少し戻った。
「全機散開! 何かいる!」
 素早く柊真司が叫んだ。その声に、固まっていた各イコンが、通路の幅にランダムで散る。
「シンクロ率、50%に上昇させます」
 ヴェルリア・アルカトルが、ゴスホークのBMIを管理して告げた。
「敵来るよ」
 近づいてくる数体のイコンらしき機影を発見して、重機の陰に身を潜めたアウクトール・ブラキウムの中からトーマス・ジェファーソンが叫んだ。
「任せろ!」
「任せてー」
 待ってましたとばかりに、猪川勇平のバルムンクと、清泉北都のアシュラムが飛び出した。
 敵イコンが、迎え撃つように突進してくる。
 突き出されたピルムムルスを、バルムンクが左手に持ったダブルビームサーベルの一本で払いのけ、続く動作で、右手のビームサーベルで敵の左脇腹を大きく斬り裂いた。
 一方のアシュラムは、ジグザクに高速移動しながら華麗にマントを靡かせ、一気に距離を詰めた。クルリと、敵の横へと回り込む。
咲け、狂おしき紅華!
 清泉北都が、近距離からウイッチピストルを連射する。
 だが、突然敵イコンが光を発し、高速で攻撃を躱して突っ込んできた。
「何!?」
 避けきれないかと言うとき、突然冷気が敵を襲い、動きを鈍らせた。ヴェルリア・アルカトルのアブソリュート・ゼロだ。パイロットの超能力や体術をイコンの外へと放出できる新型BMIの特長を使った攻撃である。同時に、柊真司の放った真空波が、敵に襲いかかった。
 横からの攻撃に、敵イコンの突進する方向がずれ、アシュラムから外れて横の壁に激突した。その勢いとゴスホークの攻撃で、自滅して爆発する。燃えあがる炎に、通路の中が赤々と照らし出された。
 爆発したイコンの手から投げ出された大剣を、別のイコンが手に取る。
 その姿は重甲冑の騎士を連想させる。マントを羽織り、ピルムムルスを持った薄緑色の機体からは、白く輝く半透明の結晶体が肩の所から無秩序に半身を被っている。まるで、何万年も地中に埋まっていたために、水晶が付着したかのような姿であった。
「何、あのイコン。どことなく見覚えがある気がするんだけれど」
「ああ、俺もそれを感じていた」
 嫌な感じを覚える十七夜リオに、緋桜ケイが同意した。
「細部は、記憶とは違うようだがな」
 困惑を隠さずに、悠久ノカナタが言った。
「照会してみるね」
 アイオーンに乗ったミネシア・スィンセラフィが、フリングホルニに画像データを送って、イコンの識別を依頼した。
 その間にも、敵の後続と先鋒隊が戦闘を繰り広げる。
『了解しました。今、確認します』
 リカイン・フェルマータが、データを照合していった。
『分かりました。それは、鏖殺寺院が使っている、アニメイテッドイコンの新型、タンガロアです。フラワシで操縦するものですから、基本無人機と言えます。機体に寄生している結晶体は、おそらくイレイザー・スポーンの変質したものと思われます』
 リカイン・フェルマータが、結果を報告する。これは、ローザ・セントレスの持っていた鏖殺寺院のイコンデータをフリングホルニのデータベースに入れたものから割り出している。また、イレイザー・スポーンのデータは、レギーナ・エアハルトが纏めておいたものだ。
「あれは、鏖殺寺院のイコンなんだあ」
 アイオーンのサブパイロットシートでそれを聞いたミネシア・スィンセラフィが、意外そうに言った。
「てっきり、またヴァラヌスかフィーニクスが出てくると思っていましたからね」
 シフ・リンクスクロウが、うんうんとうなずいてミネシア・スィンセラフィに同意した。
「無人なら、遠慮しなくていいわね。バースト・リンク!」
 トーマス・ジェファーソンが、イコンをアウクトール・ジェイセル形態にモードチェンジさせ、ショルダーキャノンを合体させて砲撃態勢に入った。
「待って! 敵の持っている剣をよく見てください! エクス・カリバーンでございます!」
 あわててクナイ・アヤシが叫んだ。
エクスカリバーン!? ってことは、ハデスさん!? あの人、こんな所でいったい何遊んでるんかなあ」
 清泉北都が、呆れて叫んだ。
「解析いたします。でました。どうやら、イレイザー・スポーンに寄生されてはいないようです。ただし、全体的にイレイザー・スポーンに寄生された機晶姫の群れに被われていて、コントロールを奪われているようでございます」
「無様だな……」
 猪川勇平が嫌悪感をあらわにする。
 確かに、よく見ると、神剣勇者エクス・カリバーンの表面に、無数の機晶姫たちが貼りついている。だが、柄の近くに、イレイザー・スポーンも一つ貼りついているではないか。
「手遅れのようだな」
 イレイザー・スポーンを見つけて、猪川勇平がつぶやいた。
「マスター、気をつけないと、セイファーたちもああなってしまうのでございましょうか……」
 機晶ユニットでバルムンクとほぼ一体化しているセイファー・コントラクトが、イレイザー・スポーンに寄生された敵イコンを見て恐怖した。自分が同じように寄生されたらと思うと、思わず気が遠くなりかける。
「心配するな。ああなった者たちは哀れだ。こちらに被害が及ぶ前にすべて消滅させる。バルムンク……セイファーには指一本触れさせない。エネルギーの出し惜しみはするな。すべて掃除する」
「はい、マスター。あの程度の敵、バルムンクの敵ではございません!」
 猪川勇平の言葉に、何があっても自分を守ってくれると確信したセイファー・コントラクトが恐怖を克服して答えた。
「ちょっと待て! お前ら、攻撃するんじゃない! 俺たちは動けないだけだ。イレイザー・スポーンは、スルガアーマーにエナジーバーストのバリアエネルギーを回してギリギリ食い止めている。そのせいで動けないだけなんだあ!」
 突然、ドクター・ハデスのちょっと悲惨な声が響き渡った。
「でも、そのせいでじきにエネルギーが尽きるぞ」
 身も蓋もないことを聖剣勇者カリバーンがつぶやいた。
「よかった、まだ生きてたんだね」
 清泉北都がちょっと安心する。
「なんだか、もの凄く手間のかかることしてくれちゃってるよね」
 何をやっているのかと、キャロライン・エルヴィラ・ハンターがアウクトール・ジェイセルの中で溜め息をついた。ギリギリでトーマス・ジェファーソンの攻撃を止めさせる。
「よおし、今、そのくっついてるのを焼き払ってあげるよお」
「焼くっ!? お、おい、ちょっと……」
 あっさりという清泉北都の言葉に、ドクター・ハデスが悲鳴をあげた。それに構わず、清泉北都がアシュラムにナパームランチャーを構えさせた。
嵐舞閃華!
 躊躇なく発射されたナパームランチャーの直撃を受けたタンガロアが炎につつまれる。だが、マントを使って直接機体へ炎が燃え移ることだけは防いだようだ。
「こ、この反応は……」
「まずい!このままではカリバーン・ストラッシュが!」
 突然輝きだした神剣勇者エクス・カリバーンに、ドクター・ハデスと聖剣勇者カリバーンが焦った。勝手に、ファイナルイコンソードの発動命令が出ている。
「やはり救えないか。ヴェルリア、シンクロ率を80にしろ。グラビティコントロールで敵の動きを封じたら、リーラ、魔障覆滅発動。こちらもファイナルイコンソードの多段攻撃で一気に敵を消滅させる!」
「分かりました」
『いつでもいいわよ』
 柊真司の言葉に、サブパイロット席でコントロールしているヴェルリア・アルカトルと、魔鎧として柊真司をサポートしているリーラ・タイルヒュンが答えた。
「話聞けー!」
 ドクター・ハデスが叫んだ。
「そうだよね。さすがにそこまでやったら死んじゃうかも。ここはあたしたちに任せて。やっちゃえ、ジェニファー!」
「うん、勇者ロボだったら、このくらいじゃ勇者補正で死んだりはしないよね。いっくよー、フルバースト!!」
 発射準備をすでに整えていたトーマス・ジェファーソンが、猪川勇平が神剣勇者エクス・カリバーンに真の止めを刺す前に、合体させたショルダーキャノンを一斉発射した。ヴリトラ砲を中心として、大型ビームキャノン、ウイッチクラフトキャノン、冷凍ビームが一斉に神剣勇者エクス・カリバーンを持ったタンガロアに襲いかかった。
「世界征服の野望が、こんな所で潰えるとは……」
 思わず、ドクター・ハデスが辞世の句を読みかける。
 ファイナルイコンソードが発動した瞬間、アウクトール・ジェイセルのフルバーストが命中した。直撃を受けたタンガロアが木っ端微塵に吹き飛ぶ。
 だが、運よくエナジーバーストのバリアのみをずっと発動させていたおかげと、被弾直後にタンガロアの手から神剣勇者エクス・カリバーンがすっぽ抜けたためにドクター・ハデスたちは九死に一生を得ていた。さらに運がいいことには、フルバーストが命中したのは冷凍ビームの部分だけで、そのおかげで貼りついていたイレイザー・スポーンが凍結して砕け散った。先にナパームで焼かれていたため、極端な温度変化に耐えられなかったらしい。
やれやれ……仕方ないですね
 クナイ・アヤシが、床に突き刺さって活動停止した神剣勇者エクス・カリバーンを見てつぶやいた。
「とにかく、ひとまずてっしゅー」
 とにかく回収ということで、清泉北都が神剣勇者エクス・カリバーンをよいしょと拾いあげると、いったん後退してフリングホルニへとむかった。