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フューチャー・ファインダーズ(第3回/全3回)

リアクション公開中!

フューチャー・ファインダーズ(第3回/全3回)

リアクション


【8】


 大神殿の礼拝堂では、反グランツ教の志士たちとクルセイダーとの衝突が続いていた。
 轟く怒号、銃声、爆発音、倒れる人悲鳴をあげる人、一般のフツウの人達は出口へ我先にと走った。
 寿子はぶつかってくる人に揉まれながら、人波に真っ向から立っていた、視線の先には舞台、アルティメットクイーンの姿が見えた。
「あ、あれがアルティメットクイーン?」
 傍らに立つリナは、彼女を目の当たりにして様子がおかしくなった。
 チカチカと頭の奥に思い出がよぎる。

 ”リナリエッタ、貴方こそ合コンクイーンね!”
 ”ビッチクイーン!!”

「な、なんなのこのゲスな記憶は……わ、私は……」
「リナさん!?」
 ぐしゃぐしゃと髪を掻きむしった。
「そうよ、私は合コンクイーン! ビッチの中のビッチ! ビッチクイーンになる女!!
 彼女の、センスの悪い成金のゴールドアクセのようにギラギラしたあの目が戻ってきた。
「何がクイーンよ! 何がアルティメットよ! たかが宗教女の分際で調子ブッこいてんじゃないわよぉぉぉ!!」
 厭な感じのベタベタネトネトの嫉妬心も復活だ!
「あのー……」
 寿子は、そんなキャラだっけ? と複雑な顔をしていた。
「細かいことは気にしないの」
 ぺしんと彼女の鼻先を指で弾いた。
「はう〜〜〜」
「それより寿子ちゃん、早くアイリさんと合流しなさい」
「え?」
「やっぱり貴方たちは揃ってないとね」
「リナさんはどうするの?」
「私はあのビッチクイーンを叩き潰しにいくわ」
「……まったく」
 ベファーナがくちを開いた。
「ビッチビッチとさっきからこのクソビッチは。おかげで思い出せましたよ、私がどうしようもないクソビッチのパートナーだってことを」
 ベファーナは肩をすくめた。
 リナとベファーナは肩を並べ、クイーンを睨み付けた。
「んじゃいっちょやるわよ!」
「ええ、付き合いましょう」

「……いました、クイーンですわ」
 ヨルディアとコアトーは階段の上から、彼女を確認した。
 コアトーは2台のティ=フォンを放り投げた。
 彼女がティ=フォンに設定した合い言葉は、
「”のばら”!」
 その瞬間、中に収納されていた十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)とジェットドラゴンに乗ったリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が現れた。
「……この時を待ってたぞ!」
「でふ!」
 リイムの銃撃で怯んだところに、宵一は神狩りの剣を一閃。銃で仕留め損なったクルセイダーを斬って、斬って、斬り伏せた。
 瞬く間に、屍の山が……いやクルセイダーなので紫の煙がワッと広がった。
「奇襲だと……」
 クルセイダーが反撃に移ろうとしたその時、ヨルディアは藍鼠の杖を、コアトーは獣寄せの口笛を使った。
「!?」
 どこからともなくネズミの大群が現れて床を埋め尽くし、どこからともなく現れた海鳥の群れがギャアギャア喧しく声を上げた。
 強靭な精神力を持つクルセイダーはこんな程度では動じない。けれどここにいる一般市民は違う。パニックになった彼らは礼拝堂を右へ左へ走り回った。
 これではクルセイダーも身動きがとれない。
「今だ。行くぞ、リイム」
「了解でふ、リーダー」
 宵一とリイムはクイーンに迫る。
 ところがその時、宵一の足元に銃弾……大魔弾『コキュートス』が撃ち込まれた。
「……!?」
 みるみる凍り付く床から慌てて退く。
 目の前には銃を構えた玉藻が立っていた。刀真、月夜もいた。
「クイーン様には指一本触れさせない」
 刀真の手が閃くや、放たれたワイヤークローがジェットドラゴンに巻き付いた。
「でふーーーっ!」
 リイムごとドラゴンは壁に叩き付けられた。
「……邪魔をするつもりか!」
「邪魔? それはこちらの台詞、クイーン様に異を唱える者に容赦はしない」
 刀真……いやグランツ教の聖戦士”ギデオン”は信仰に蝕まれた瞳で宵一を見据えた。

「……派手にやってますね」
 ゼノビアは神殿から出てくる人達を掻き分けて中に。
 探しもののバケツ頭とシャノンはすぐに見つかった。
「グレゴ、獲物を持ってきましたよ」
「待ちくたびれたぞ」
 投げ渡されたフロンティアソードを、グレゴは抜き払った。
 まばゆく妖しく狂気に彩られた刀身は、まるで彼の心を映す鏡のよう。
 グレゴは怨敵アルティメットクイーンを討つべく戦いに躍り出た。
「神を騙る詐称者よ、貴様は罪深い。大淫婦バビロンですら、貴様を前にすれば清廉な淑女の如く映るだろう。そして、貴様を信奉する者も同様に罪に溢れている。祈る姿を見せびらかすだと? 祈りとは心に秘めるものだ。他人に見せびらかしている者は、ただ己が祈っていることに酔っているだけだ」
 立ちはだかるクルセイダーを斬り、また一人斬り、紫の煙を浴びる。
「貴様らは信仰の意味を履き違えている。それだけでも許し難いというのに、貴様らは我らをも侮辱した。クルセイダーだと? テンプルナイツだと? 笑わせるな。所詮、貴様らは紛い物だ。信仰がないから、自分たちが名乗る名すら持たぬ。だから我らの名を騙ることしか出来ないのだ。確固たる信仰もなければ、自らを表す言葉すら持たない、哀れな者。それが貴様らの正体だ。邪教徒共」
 シャノンが天のいかづちを放った。バリバリと空気を引き裂く稲妻。
 グレゴは雷光を背に受けて、剣を振るう。麦の穂を刈るように、邪教の徒の命を刈りとっていく。
「我は貴様らの敵だ。この身砕けようとも邪教徒を討つと十字架に誓い、テンプル騎士団の騎士として、十字軍騎士として戦った。その経験のすべてを以て貴様ら邪教徒を討ち滅ぼす敵となろう」
 彼の身は赤く染まっていた。返り血ではない。クルセイダーに赤い血は流れていない。これは全て彼の血だ。
 幾度、刃を身に受け、槍で串刺されようとも、歩みを止めない。自らの栄光のためでもなく、名誉のためでもなく、ただ神のため、自らの信ずる正義のために剣を振るう。
 彼もまた敵と同じく信仰に狂える者なのだ。
「クイーン様には近付かせんぞ、バケツ頭」
 玉藻が立ちはだかった。
 その時、
「邪魔はさせません!」
 ゼノビアはボウガンで矢を放った。矢は玉藻をかすめ、柱に刺さった。
「どこを狙って……はっ!
 矢に括りつけられていた機晶爆弾が爆発した。
「……くっ!」
 ギデオンは眉をひそめた。
「余所見をしている暇はないぞ」
 宵一は剣を走らせ、斬撃を打ち込む、打ち込む。
 しかし、刃は月夜の剣の結界に阻まれ通らない。
「……ならば!」
「!?」
 神狩りの剣から放たれる力が、月夜の異能を封じた。
「賢しい真似を……顕現せよ、”黒の剣”!」
 ギデオンは月夜を左腕に抱くと、その胸から光条兵器の漆黒の剣を抜き払った。
「クイーン様に仇為す者は全てこの剣で斬り払う!」
「黙れ!!」
 そこにグレゴが現れた。
「貴様らなぞ、所詮は紛い物。信仰無き剣戟なぞ、何の障害になろうか!」
 グレゴの剣に聖なる光が宿る……しかし、
「消えろ。古き神にすがる愚者よ」
 ギデオンの掌から放たれた神子の波動が宿った光を打ち消した。
 そして黒の剣が、皮肉にも十字にグレゴの胸を斬り裂いた。
「……っ!!」
 だが、彼は倒れなかった。
「ナニっ!」
「……神と嘯く痴れ者に、我らの名を騙る人形と邪教徒共。例えどれほど押し寄せようが、我が剣は纏めて打ち砕く。そう、それをこそ、神は望んでおられるのだ」
 閃いた剣が、今度はギデオンの胸を一文字に。
「がはっ!!」
 体勢を崩したところに、宵一も渾身の一撃を加え、眠らせる。
「……っ!?」
 ギデオンは倒れた。

「……始まったようね」
 光学迷彩で姿を消し、氷雪比翼で上空に待機していた祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)は、これを好機と大神殿に突入した。
 パートナーの宇都宮 義弘(うつのみや・よしひろ)は同田貫に、那須 朱美(なす・あけみ)は魔鎧化して赤いブレストプレートと腰鎧に、それぞれを身に付けて武装している。
 彼女は目標を探す。
 彼女の狙いは超国家神……ではなく、司教・メルキオールだ。
(見つけた……!)
 メルキオールとそのまわりにクルセイダーが数名。
 事態を終息させようとクルセイダーの指揮を執っているところだ。
(義弘、まわりの掃除は頼んだわ)
(やってみるよ)
 祥子は急降下と同時にミラージュを展開した。突然、空中に現れた彼女の幻影に視線が集まる。
 その刹那の隙に、義弘は真空波を取り巻きに叩き込んだ。
「!?」
 致命傷を与えるほどのダメージは期待出来ないが、いい。祥子とメルキオールの間の障害がなくなればそれでいい。
「……な、何事デスカ?」
「知る必要はないわ」
 祥子は振りかぶった義弘を一閃させた。
 袈裟斬りに入った斬撃は、肉を裂き骨を砕き、メルキオールを吹き飛ばした。
「マグス!!」
 血飛沫の中に沈む彼に、クルセイダーが慌てて駆け寄った。
 一瞥だけして、祥子はすぐにその場から飛び去った。目的達成。長居は無用。
(仕留めたの?)
 朱美は言った。
(手応えはあったわ。息があっても重傷のはずよ)

「……この町には信仰薄き民が多いようですね」
 アルティメットクイーンはこの混乱の渦中にあっても黒曜石の玉座に座ったまま、礼拝堂で行われる戦いを傍観していた。
 嘲笑うでもなく、怒りを見せるわけでもなく、悲しみでもない。ただ退屈そうに、小さな生き物のする些細な行いを眺めていた。
「ここまでね、宗教女っ!!」
 リナはビシィと指を突き付けた。
「頂点は常に一つ、この世にクイーンは2人もいらないわ。そうよ、クイーンに相応しいのはこのわ・た・し。人類史上最凶のアバズレであるビッチクイーンよ!!」
「何を恥ずかしいことを大声で……」
 気まずそう&アタマ痛そうに、宵一とグレゴも現れた。
 2人は剣を構え、まっすぐに神を見据えた。
「全能の神を気取るのも終わりだ。例え神が相手でも容赦はしない。それが俺の流儀だ」
「神の名を貶める薄汚い淫婦よ。引導を渡してやる。冥府の業火に焼かれ、己の罪の深さを味わうがいい」
 しかしクイーンはつまらなさそうに目を向けるだけだった。
「無駄なことはおやめなさい。神に反逆するなど愚かなこと、跪き赦しを請うのです。さすれば、わたくしは向けられた刃のことを忘れ、そなた達に慈悲を与えましょう」
「うるさいっ!!」
 リナは鬼払いの弓を引き絞り、矢を放った。
 宵一は神狩りの剣で、クイーンの……おそらく持っているだろう超常の力を封じ、刃を向ける。
 グレゴは憤怒の化身となり、ライトブリンガーを繰り出す。
Deus Lo Vult!
 その時だった。
「!?」
 矢が空中でピタリと静止した。
 斬りかかった宵一とグレゴは一歩、一歩と間合いを詰めていた……はずなのに、一歩、また一歩と足を踏み出すたびクイーンは遠ざかった。
「……な、なんだこれは!?」
「違う。奴が遠ざかっているのではない……!」
 遠ざかっているのはこちらだった。
 自らの意志に反して、身体が後ろに戻る。まるで時が巻き戻されているかのように。
 気が付いた時、2人は始めの位置に立っていた。
「い、今、一体何が……?」
跪きなさい
 クイーンは言った。
そして赦しを請うのです。自らの愚かな過ちの赦しを
 美しくも恐ろしい瞳が3人を見つめていた。