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フロンティア ヴュー 3/3

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フロンティア ヴュー 3/3

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第19章 Guardian
 
 
【御託宣】によって、セルマ・アリス(せるま・ありす)は、ヴリドラが向かった先の情報を得た。
 ポータラカを失ったヴリドラは、今はリューリクの仲間となり、彼女に手を貸している。
「ヴリドラは、『門の遺跡』っていうところに向かってるの?」
 パートナーのゆる族、ミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)が訊ねる。
「うん。俺達も向かおう。追いつけるといいけど」
「ルーマは、何でヴリドラがナラカから上がって来たのか分かった?」
 ミリィの問いに、首を横に振った。
 ヴリドラは、エリュシオンを居場所にするとリューリクと約束をしたらしい。
 けれどそれは疑問の答えにはならない。分からない。
「だから訊きに行く」
「そっか。そうだね。
 うん、思い切って本人に訊きに行こう!」
 アテムから話を聞いて、パラミタの守護神とはいえ、八龍が味方になってくれるとは限らない気がしていた。
 パラミタを護る存在とはいえ、彼等にとって、そこに住まう人々は、護る対象に含まれているのだろうか?



「まさか本当に現役のつもりだったとは……」
 リューリク帝の在り様に、新風 燕馬(にいかぜ・えんま)は呆れていた。
「まあナラカの空気ってか瘴気は、ヤバいクスリと大して変わらんか」
 ああも完璧に『キマって』る奴に、論理的説得は無意味だろう、と考える。
「力ずくで現世からお引取り願うか」

 パラミタ内海に近い場所に、『門の遺跡』に最も近いというドワーフ坑道の入口がある。
 燕馬達がリューリクやイルダーナを追って、遅れて辿り着いた時、坑道入口を足元に、ヴリドラが立ちはだかっていた。
 ユグドラシルで対峙したヴリドラは既に合流していて、合体して二頭龍となっている。

 ヴリドラは、ニルヴァーナの技術で「作られた」龍らしい。
【御託宣】によって、日堂 真宵(にちどう・まよい)はそれを知った。
「つまりはニルヴァーナ産、といっていいわよね」
 ポータラカが元ニルヴァーナの民で、その技術で作られたのだから、と真宵は思う。
「なら、田舎に帰ればいいんだわ。
 地産地消じゃないけど、ニルヴァーナの戦力にもなってヴリドラも居場所が出来て、わたくし達は目の前の敵がいなくなって、お徳の山じゃない」


 ユグドラシルから追ってきた者達より若干遅れて、セルマもドワーフの坑道入口に辿り着いた。
「こんにちは、ヴリドラ。
 君に……いや、君達、なのかな? 訊きたいことがある」
 セルマの言葉に、ヴリドラは警戒を薄めないながらも次の言葉を待っている。
「君はポータラカという護るべき対象を失い、ナラカから地上に上がって来た。
 八龍はパラミタを護ると聞いた。君はそれを果たす為に地上に戻ってきたの?」
「アノ国ハ、自ラ滅ビタ」
 ポータラカ、という言葉に、ヴリドラの声が、怒気に満ちた。
「ぽーたらかノ民ハ、自ラアノ国ヲ棄テタノダ!」
 ヴリドラは、あの国を護らなかった。護れなかった。
 ――ポータラカの民とは、実のところ、全て生体サーバー“ニビル”に繋がった、ひとつの意識の集合体である。
 ポータラカの技術があれば、あの地の消滅から逃れることは、きっと不可能ではない筈だった。
 なのに愚かなポータラカ人は、一万年前、自らの行為の代償でニルヴァーナを失い、パラミタに逃れてポータラカの地を授かりながら、その崩壊を放置した。
 否、むしろ、わざとこの地を手薄にして龍頭の標的とし、滅ぼすことによって、契約者達の発奮を謀ったのではないだろうか。
 全てはただひとつの復讐のため。
 一つにして全である、ポータラカのその民が、護るべきはずの者達が、この国など、要らない、と――

 彼は、彼等は、国と共に、ヴリドラを棄てたのだ。

「……それでも、他の八龍が護るべき場所を奪おうとするのは、間違っている、と、俺は思う」
「「話ハ終ワリカ」」
 セルマとヴリドラの会話を見守っていたミリィは、悲しげに溜息を吐いた。
 ヴリドラは、リューリクへの誓いを頑なに守り、自分達の話を聞くことはしても、聞き入れるつもりは全くないのだ。
 戦いたくない。そう思っているのに。


 終わりじゃねえよ、と、そう言ったのは燕馬だった。
「おいあんた、まさかあの女の言うことを本気で信じてたりはしないよな?」
 ヴリドラは、じっと敵意に満ちた目で燕馬を睨みつけている。
 パートナーのザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)は、内心で深い溜息をついた。
「十歩譲って、誰が相手でも物怖じしないのは良しと褒めるにしても……台詞回しはもう少し気をつけるべきだね」
 と、ユグドラシル近郊での対峙の後、燕馬には言い聞かせていたはずなのに。
 尚関わろうとする燕馬に、この状況で「他国のことは放っておきなさい」と引きずって帰るわけにも行かず、仕方なくついて来たのだが、彼は全く学習していないようだ。
「リューリク帝はもはや皇帝にあらず、したがってあの女の財布には、貴様への報酬など始めから入っていない。
 今のあんたは、死人の戯言めいた口約束に、いいように踊らされてるだけだぜ」
「「黙レ」」
 ヴリドラは、怒りと揺ぎ無い意志を込めた口調で、燕馬の挑発を遮る。

「残念よねー。
 昔の皇帝っていうから、もっと理知的なの期待してたのに」
 真宵もこれ見よがしに溜息を吐く。
 実際に会った元皇帝は、脳筋でろくなことも知らない残念美人でガッカリだった。
「まともな経路を使わずに黄泉返った者は、ああも狂気に走るものなのかね」
と、パートナーの英霊、土方 歳三(ひじかた・としぞう)も呆れ半分で言っていた。
「だがしかし、それが興味深いとも言えるが」
 今後の漫画のいいネタになりそうなのは、確かだろう。
「そもそも、あのろくに大事なことも知らない脳筋皇帝の言うこときいて、本当にメリット有る訳?
 もっと利になることがあるとわたくしは思うんだけど」
 真宵の言葉に、更にベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)も続ける。
「あなたが、ポータラカのナノマシンに近しいのであれば、情報の大切さはご存知でしょう。
 情報を軽んじ、ろくに何も語れぬ者の希望的観測を根拠にした口約束に踊らされても仕方ないのです」
「「黙ルガイイ! 我ハ我ヲ裏切ラヌ者ヲ裏切ラヌ!」」
 ヴリドラが吼えた。
 叫びひとつで、ビリビリと肌が痺れる。
「「不和ヲ弄スル卑シキ者共ヨ。近シキ者ノ裏切リニヨリテ滅ブガイイ!」」
 呪いの言葉を吐き出し、ヴリドラの咆哮が空気を揺るがす。
 立っているのもままならない程の衝撃だった。

 だが燕馬は、既に目的のひとつを果たしていた。
 ヴリドラの気を引いている隙に、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)富永 佐那(とみなが・さな)らが、密かに坑道に突入している。
 相手が小さく、数が多いからこそ、若干の増減を見逃したりもするだろう。
 できれば自分も続きたいところだったが、贅沢は言えなかった。
「さて、こんなデカブツ相手に正面から突撃とかありえねえよな……」
 並々ならぬ強敵であることは言わずもがな、殺す気で全力を振るってようやく一矢、といったところか。
 ならばその一矢を与えよう。

 ザーフィアがばら撒いた六連ミサイルや燕馬のシリンダーボムを、エイミングで狙撃する。
 ヴリドラの顔の周りで次々爆発する爆炎に紛れて虚をつき、ザーフィアが、必殺の一撃を放った。
「かつての僕の『本気』、見せてあげる。
 その目、切り刻まれても知らないよ?」
 壊れる前のザーフィアの、渾身の一撃。
 ヴリドラの右の首、その右目を潰す。
 そのまま落ちるザーフィアを受け止めて後退しながら、その目を見てほころびかけた燕馬の顔が、凍りついた。
 ヴン、と、ヴリドラの目の周りがぶれたかと思うと、次の瞬間には元に戻っていたのだ。
「治るの早すぎだ!」
「燕馬くん……あそこ、」
 よろ、とザーフィアがヴリドラの尾を指差す。
 ザーフィアは、目と同時に、ヴリドラの尻尾の先がぶれるのを見た。
「他で補ったんだ、きっと」
「全然減ってるように見えねえよ! 全員が死ぬ気でかかっても、尻尾一本削れないっつの」