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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第3回/全3回)

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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第3回/全3回)

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機動要請を制圧せよ その2

 一方要塞の中心に近い位置では、ゴダートが事態を聞き、部屋の中心に安置されたヒトガタの収められたケースの周りをイライラと落ち着きなく歩き回っていた。源 鉄心(みなもと・てっしん)は先だってゴダートに報告に戻った際、ゴダートと例のビジョンを見た。ゴダートの動向を探るためと、ゴダートのパートナーの強化人間を護るためにも、契約者たちとの調整的役割を引き受けようと、表向きは護衛として引き続きパートナーたちと彼の側についていた。
(部下も大した戦闘能力も持ち合わせてなかったようだし、放って置くと一方的なリンチになりかねん。
 おそらく上官命令に従っているだけの部下が大半だろうし、ゴダート自身も半ばパニックに陥っている)
「……どこまで逃げる気なんです? あてはあるんですか? その先のビジョンも無く、ただ尻尾を巻いただけなら、逃げ切ることさえ出来ませんよ」
ゴダートは焦燥感でいっぱいの表情で叫ぶように言った。
「地球の存続の危機なのだ! 地球首脳部の総意を持って、“ヒトガタ”を光条世界側に引き渡せば、光条世界に対し、地球側が協力する態度であることを示せる!
 それで地球が救われるかも知れんのだ!」
イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)がゴダートに負けないくらいおたおたしながらゴダートに言った。
「だ……だだだいじょうぶですの! ティーはともかく、鉄心とわたくしの子分はちゃんと強いのですわ」
「……イコナちゃん、声が裏返ってますの。
 怖いのは仕方が無いけど……戦うって言うのは相手を傷つけることだけじゃなくて……。
 何か別の方法があるんじゃないかって、そんな気がします。
 でも、そのためにも、やっぱり扉は開く必要があるんじゃないかな?」
ティー・ティー(てぃー・てぃー)が言うと、ゴダートは顔を真っ赤にして喚く。
「光条世界などにたてついてみろ、世界が、地球が崩壊する! 何人も神の力には及ばないのだ!」
突っ込まれたイコナは床にだらだらと寝そべっているスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)の所にいき、その頭をぺしぺしと叩く。
「何をやってますの? サボってないで、ちゃんと働くのですわ」
「拙者は……拙者も働きたくないでござる……ただそれだけでござるのに」
スープは言った。ゴダートの考えと全く異なる内容であるが、彼としてはゴダートの気持ちに共感したつもりでの言葉である。おっくうそうにあたりをごろごろし、出入りする下士官のジャマにならぬよう避けて転がって転々としていると見せかけて、実のところ強化人間に対する投薬の内容や、ゴダートが他にしてきたことをサイコメトリを併用しながら客観的に判断できる資料を集めているのだ。
落ち着かぬ様子のイコナと、ティーを呼び寄せ、鉄心はさりげなく強化人間たちの護衛を依頼する。
「わかりました! ミニうさティーとミニいこにゃも出しておいてもふもふ気分でもふもふにしておきます。
 名付けて、かわいくてもふもふで殴れないよぉ……作戦です!」
二人は強化人間たちの側に行き、ティーがミニウサを大量に呼び出して周囲を囲む。鉄心らは事態が収まったら彼女らを保護し、薬物の影響から彼女たちを解放することを考えているのである。戦況の不利を伝え続ける通信と、それに応じるゴダートの苛立った喚き声の中、不安が高じて黙っていられなくなったイコナが、無反応の少女たちに一生懸命話しかける。
「私が知っている範囲でですけど、ニルヴァーナの学校のお話や天御柱学院とか、各学校のお話をしますの。
 そしたら、もし自由になって学校に通えるとしたら、選びやすいでしょう?」
パニックに陥ったゴダートの様子を鉄心は見つめ、スープにそっと指示を出した。この部屋での司令のやり取りを聞けば、ゴダートがもはや正常な判断力がないことを彼の部下に知らしめることができる。スープはごろりと転がり、外部スピーカーのスイッチをそっとオンにした。そこにジェイダス一行がなだれ込んできた。鉄心がすぐさまアブソリュート・ゼロを展開し、防護壁を作り出す。
「調査隊の目的はヒトガタの回収のはずだろう? 感情に任せてここで潰しあっても何の得も無い。
 それはさておき、生死に関わるような攻撃はやめていただきたい
 ……ゴダートのパートナーの件は自分も頭に来ているが……」
ルカルカが前に進み出る。
「そこは安心して。私は説得したいだけなの」
ダリルはゴダートが何か命ずる前に強化人間のほうへと向かった。攻撃かと身構えるティーとイコナにそっと言う。
「医師として薬物でコントロールされている彼女たちを救いたいんだ。
 一緒についていてあげてくれないか?」
それを聞き安心するティーらは、診察するダリルの側で心配げに少女たちを見守る。スープが今までに取得したデータ類をダリルに渡し、話し合いを始めた。
「志があって司令の役目を進んで担ったのでしょう?
 完全に逃げ出すならヒトガタは置いていけばいい筈なのにそれはしない。
 それは、心の何所かで自分の出した結論に”何か別の答え”を欲しがっているから?
 ゴダートさん。何を怖がっているの? 滅びの軍勢は確かにくる。
 でも帝国とだってザナドゥとだって力を合わせてなんとかしてきたじゃない!
 必要以上に恐れなくてもいい。 
 それに、支配と使役だけが関係じゃないよ。苦しみも恐れも成果も分かち合える。
 だって皆、人形じゃない。生きてるんだもの。ゴダートさんはダリルをモノ扱いしたけど、彼は種族は違うけど同じヒトだよ?
 彼と分かち合えるから私は戦ってこれたんだよ。貴方だって、一人なんかじゃないよ?
 まだ遅くない、ゴダートさん、戻りましょう?」
「ご覧になったビジョンには有益な情報が含まれている可能性があるります。
 光条世界の生物の特徴、武装の威力、構成、数……俺達も”アレ”は見たが、複数の人間の情報を重ねたい。
 貴方にも協力いただけるはずです、そして対策をとりましょう」
ダリルが畳み掛けた。だがゴダートは頑なだった。
「馬鹿者どもが! お前たちにはわからないのだ! あれは神だ、絶対的な存在だ!
 このままでは世界が、地球が滅ぼされてしまう!」
「そんなに怯えるなんて、よほど敬虔なのか……それとも神に罰される心当たりが有り過ぎるのか、気になるね」
天音が静かに言った。言葉による説得は、彼の背景にある今までの履歴や宗教観を即覆す事になる。これほどまでに混乱していては、このままでは地球も滅びるという事を学生たちの言葉から信用させるのは難しいだろうと、彼は思った。
「ヒステリーかよ? おっさん? しかもルシアに舐めた事言ってくれたよな? ちと覚悟しろよ?」
いつの間にか唯斗が氷壁を超えてゴダートの側に来ていた。たたらを踏んだゴダートは仕掛けられた不可視の封斬糸でよろけて転ぶ。唯斗がにやっと笑ってゴダートのあごに一発パンチを見舞い、再びゴダートは床に尻餅をついた。
「今回はこのくらいでカンベンしてやる」
そこに格納庫からのモニター越しに喚き声が聞こえてきた。国頭 武尊(くにがみ・たける)だ、背後では猫井 又吉(ねこい・またきち)の騎乗するダイノザウラーが、この機動要塞に元からあるイコンを破壊しているのが映っている。
「おい、ゴダート! この要塞を破壊されたくなければヒトガタを渡せ!
 オレ的には機動要塞をぶっ壊して、残骸の中からヒトガタ探す事にしたってかまわねーんだがよ?
 おとなしく渡してくれれば残骸の中からヒトガタを探す手間が省ける思った訳よ。
 言わば執行猶予ってヤツだな。まぁ、何にせよ ヒトガタを渡さなければ機動要塞をぶっ潰すまでだ。
 何度も言わないぞ、ヒトガタを渡せ!!」
武尊はゴダートと面識は無い。人物像もやらかしたことも概要程度しか知識がない。彼の思いは別のところにあった。ヒトガタを奪回してくれば、アピスが何らかの反応を示し、分校を元の場所に戻してれるのではと考えたのだ。生ぬるい説得よりは、実力行使での恫喝が早道と彼は思ったのである。
「格納庫の先へはイコンじゃ進めねーって事だが、逆に考えれば、格納庫でなら暴れられるって事だよなぁ。
 機動要塞ってヤツが外側ではなく内側からの攻撃にどのくらい耐えられるか試してやるぜぇ」
又吉が外部スピーカーで喚くと、いきなり荷電粒子砲をぶっ放した。無論出力は抑えてあるが、格納庫の壁ぎわに駐機されていたイコンが一気に蒸発した。
「ほーぉ。やっぱカベはそれなりに丈夫なのな。んじゃもうちっとばかし出力を上げないとダメかなー。
 機関部直撃の可能性も有るが知った事じゃねーな〜」
「バカモノっ! やめろおおおおおおッ!」
ゴダートがヒステリックに喚く。対イコン武器を装備した警備兵が駆けつけてくる。
「と、ここは俺の出番だな」
武尊が3−D−Eとグラビティーコントロールを利用して、格納庫内を軽々と移動しながら兵士たちを叩きのめしてゆく。無論手加減して、ではある。
「お前らに別に恨みはねーしな」
ダイノザウラーが無限パンチでまた幾つかの要塞のイコンを粉砕する。きっちり僚機のイコンは対象からはずして、だ。又吉がいたぶるような口調で言う。
「さーてもう一発荷電粒子砲いくかー。どこがいいかねぇ?
 要塞がぶっ壊れるのとダイノザウラーのエネルギー切れ、どっちが先か勝負すっかこのヤロー、ああ?」
天音が密かに使用していたグリムイメージの効果もあり、ゴダートはもはや半狂乱だった。意味不明のたわごとを喚きながら、ヒトガタに向けて手にしていた銃をおもむろに向けた。ブルーズが即座に影に潜むものを呼び出し、ゴダートの銃を押さえ込もうと一飛びに突っ込み、銃を奪い取ろうとその腕をがっちりと掴む。だが、狂乱状態にあるゴダートの力も半端ではない。つと天音がその側により、おもむろにゴダートに口づけをした。
「……なっ! キサマ!!!」
男に口づけをされた。ゴダートは凄まじい嫌悪感と頭が真っ白になるほどの衝撃を受けた。それを見たブルーズのあごがガクーンと落ちる。一気に脱力感いっぱいになるブルーズ。
「お、お前は馬鹿だ……」
「怖くないよ。少しおやすみ」
天音は微笑し、急所狙いでゴダートを失神させた。