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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第3回/全3回)

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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第3回/全3回)

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遺跡でお祭り その3

 野外ステージではウゲン、香菜らの演奏や歌のあとも、入れ替わり立ち代りやってみたいと希望を申し出たスポーンたちや他の契約者たちによる飛び入りコンサートが続けられていた。レナトゥスは皆と少し離れて、その様子を熱心に見つめていた。音無 終(おとなし・しゅう)は当初から不特定多数の人が集まる祭りの場において、すれ違いざまにレナトゥスを襲う者がある可能性を懸念していた。終は傍で一緒に楽しむことをパートナーの銀 静(しろがね・しずか)に任せ会場の警戒に当たっていた。だが、祭りも最高潮を過ぎた今、その危険はもうなさそうだと判断し、静とレナトゥスの元へと向かった。
 レナトゥスと共にステージを眺めていた静だが、その心は複雑だった。彼女はずっと終の道具として生きてきた。なのに今回終はただレナトゥスと自由に遊べと言う。
(終が襲撃を警戒をしている間、私はレナトゥスと遊べば良いの?
 でも……レナトゥスと一緒にお祭りで遊ぶって、どどうやって遊べば良いんだろう?
 終の道具として終以外の人と喋る気はなかったから今まで誰とも口をきかなかったけれど、レナトゥスとなら……)
だが、何度もレナトゥスに声をかけようとするものの、何を言っていいかすら解らないのだ。そんな静の気配を感じ、レナトゥスが振り返った。
「何か話したそうだガ、迷っているのカ? どうした?」
静は戸惑いを見抜かれ、一瞬怯んだ。だが、ようやくのことで言葉を押し出した。
「私は今まで終の道具として生きてきたから、いきなり自由に遊べと言われても何をすればいいのか解からない。
 楽しい……というのは何だろうか? いくら考えてみても解らない……」
レナトゥスは小首を傾げ、静の顔を見つめた。
「ソレは考えることではないのダロウ。ここで行われている歌や踊りを、私はずっと見ていタ。
 そして……それを見聞きするうち、なにか胸の奥にざわめくものがアルのがわかル。
 その感じるものヲ、そのまま受け入れれば良いのではないカ……私にはそのように思えル」
静はレナトゥスの洞察力に素直に驚いた。感じるままのこと……。終が居ない。終が共にに居るのに遊んでくれないのは確かに嫌……。人ごみの奥から終が姿を顕し黙ったまま二人の横に立った。静はそんな彼に抗議の視線を送った。レナトゥスも黙って終を見つめる。
「……静? こっちを見て何だ?用があるなら声をかけろ。
 何だろう物凄く抗議をされている気がする……もしかして、一緒に遊ばないから怒っているのか? レナトゥスまで……。
 いや、別に一緒にいるのがつまらないとかじゃないよ? 警戒のために今一回りしてきたんだ。
 すぐ声をかけなかったのは、ちょっと前の事を思い出していてね。
 俺が君に絵本を読んでいた時の事とか、さ。
 あの頃から比べたら君は十分に人だよ……とても綺麗なレディさ。
 別の事に気を取られてたのはゴメン、一緒に遊ぼう。
 何がしたい?ステージにでも立って皆で一緒に歌でも歌うかい?歌って人の心を揺さぶるよ。
 そして、皆で一緒に歌う事で得られる一体感からそれぞれが何かを感じ取れる筈さ、無論君もね」
「歌うの? ここに居る皆と? レナトゥスと私たちとスポーンも? ……うん、やろう」
静が言い、レナトゥスも頷いた。同様にやってみたいという意思を表明したスポーンらとしばし練習の後、終らとともにステージに立った。

 ルシア、香菜らと祭りの準備に奔走していた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)。スポーンたちの街並みは外部からの襲撃がウソのような賑わいを見せていた。朝方から場所の検討や出店の配置、資材の準備をはじめ、祭りのことを契約者たちや発掘隊、この遺跡に住むスポーンたちに宣伝をし、可能なメンバーには出店やイベントの手伝いを呼びかけ……。
「あれが今朝からだったなんて、信じられないね。なんだかもうずいぶん前みたいな気持ち」
美羽が言った。
「そうね〜。みんな楽しそう。ずっと戦い続きで……今も戦っているけど、つかの間の休息になればいいな」
ルシアが言って、ジュースを一口飲んだ。
「それと、スポーンたちもこの『皆の楽しそうな雰囲気』から、なにか感じ取るものがあるといいね」
コハクが各種のゲームや露店を見て回り、あるいは参加しているスポーンたちを見回す。
「さて、と。私たちも楽しみましょう。……じゃーん。ルシアと香菜にも私とおそろいのミニ浴衣をご用意しましたー!
 というわけで、コレを着てお祭りに参加! レナちゃんのも買ってあるんだけど……どこにいるのかなぁ」
ルシアと香菜は、美羽に急き立てられ、近くの服店で試着室を借り、ミニ浴衣に着替えた。ルシアはピンク地に花柄のフリルつきのものが気に入ったようで、楽しげに鏡に向かってポーズをとってみたりしている。香菜は淡いブルーに朝顔の花柄のものだ。香菜のほうは短いすそが気になるのか、どことなく落ち着かない様子である。
そのとき、ひときわ澄んだ歌声が、柔らかなバックコーラスに乗って流れてきた。
「きれいな声だけど……聞いたことがあるような……? 誰が歌っているんだろう?」
美羽がそちらに向かう。
 ステージに立っていたのはレナトゥスだった。訓練もしていないため、素朴な歌い方だが、それがかえって新鮮だ。バックコーラスを終、静をはじめ、町のスポーン3人が歌っていた。一曲が終わり、6人は舞台から降りた。いさんでこの祭りにやってきていたノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)がルシアの姿を認め、駆け寄ってきた。ノーンからのメールに応じ、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は当人はシャンバラを離れられぬものの、今回の祭りのために手早く屋台の商品などの手配を行ってくれていた。
「ルシアちゃん、お祭りを企画してくれてありがとー! わたし、お祭り大好きだよ!
 ずうっとね、お店を見て歩いたんだ。いろんなお店があったよ!」
単独行動のノーンを心配して神崎 優(かんざき・ゆう)神崎 零(かんざき・れい)夫婦と、同じくパートナーであり恋人同士でもある神代 聖夜(かみしろ・せいや)陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)らが一緒に祭りを回っていたのである。ステージから降りてきたレナトゥスの目が零の大きなおなかにとまった。
「おなかが大きいナ?」
零がそれを聞いて微笑む。
「この中に優と私の赤ちゃんがいるんだよ。母親の愛情を一杯受けて産まれてくるの。そして私ね、今凄く幸せなのよ」
その表情はすでに慈愛に満ちた母親のものだった。
「よかったら触ってみる?」
レナトゥスが恐る恐る手を伸ばし、零のおなかに触れる。
「ヒトの子が、ここに……」
考え込む様子のレナトゥスに、聖夜が近くの屋台で買ったラムネを差し出した。
「良かったら飲まないか? 美味いぞ」
「ありがとウ」
だがラムネは飲み方にコツがある。刹那が実演つきで説明する。
「こういう風に、ビー玉をくぼみにひっかけて飲むんのです。
 あんまり傾けてしまうと、ビー玉が口を塞いでしまって、なかなか飲めないのです」
レナトゥスが見様見真似でラムネを飲む。
美羽が浴衣を手渡した。
「はい、これ、レナちゃんのだよ」
「ありがとウ」
レナトゥスのものは、薄いミントグリーンにさまざまなトロピカルプランツを描いた浴衣だ。
「うわあ、すてき、似合う似合う!」
ノーンが歓声を上げ、レナトゥスがどこか恥じらいに近い表情を浮かべ、微笑した。優が目を見張った。レナトゥスが微笑とはいえ笑ったのだ。
「レナトゥス、これから貴女は色々な事を経験していく。嬉しい事や楽しい事、辛い事や悲しい事。
 もしかしたらまたゴダートのように貴女の事を人形扱いする者もでてくるかも知れない。
 けど貴女は人形じゃない。俺達と同じように心を、意志を持った一人の存在だ。
 それに俺達は心で、絆で繋がっている。だから憶えていて欲しい。貴女は一人じゃない。俺達が共にいる事を」
そういって優がレナトゥスの手をとった。その手に零、刹那、聖夜も己の手を重ねる。
「どう? 俺達の手は温かいかい?」
優が尋ねると、レナトゥスは重ねられた手を見つめて言った。
「あたたかイ……」
「この温かさを『ぬくもり』って言うんだ。
 そしてこうして誰かと触れたり感じたりして心が温かくなる事を『嬉しい』ていうんだ。
 この気持ち、覚えておいていて欲しい」
「私も優と同じ気持ちだよ」
「私も優と同じ想いです」
「もちろん俺も一緒だ」
零、刹那、聖夜がそう言ってレナトゥスに微笑みかけた。
「お祭りといったら盆踊りがなくっちゃ!」
美羽が言うと、ノーンが手を打ち合わせた。
「わー、盆踊り!」
浴衣姿のコハクがステージに上がり盆踊りの説明をしたあと、音楽をかけ、踊り方を披露する。ノーンが歌詞にあわせて歌姫のスキル、幸せの歌を使い雰囲気を盛り上げる。一渡り踊り方をステージで実演したあと、コハクは曲に合わせて踊ろうとするスポーンやレナトゥスに、実際に手を取り一緒になって踊る。
「そうそう、そういう感じで……うん、みんなすごく上手だよ」
祭りのもつ独特の賑わいと熱さ。
「お祭りが終わると、少し寂しくなりそうだね。でも、楽しいね! 今日のお祭り、スゴクいい思い出になるよ!」
ノーンがにっこりと踊るレナトゥスに微笑みかけた。