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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第3回/全3回)

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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第3回/全3回)

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遺跡でお祭り その2

「よくわかんないけど、スポーンさんの街でお祭りさんをやるらしいの。
 ……お祭りさんなの。楽しそうなの! 行くのーっ!」
及川 翠(おいかわ・みどり)が目を輝かせて叫んだ。徳永 瑠璃(とくなが・るり)が寝ぼけ眼でそちらを振り返り、ぼーっと呟く。
「ふむふむ、お祭りさんなんですか……?」
その意味するところがあたまに浸透した瞬間、双眸が輝く。すっかり目が覚めたようだ。
「……えっ、お祭りさんなんですかっ!? と、いうことは! 楽しんで……良いんですよねっ!?」
翠と瑠璃はすっかり夢中で、大急ぎで支度を始めた。ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)が届いたメールの内容を見ながらスノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)に言った。
「ふむ、お祭りねぇ……。
 目的は、スポーンたちに人としての心を育てる……って、お祭りにどの程度効果があるのかしら?」
「ふぇ〜、お祭りですかぁ〜
 確かにぃ〜、お祭りしたからって育つとは限りませんよねぇ〜……」
「とはいえ、まぁ、折角の機会なんだし、楽しみましょうか!」
「そうですねぇ〜、楽しみですぅ〜
 ……楽しみですけどぉ〜、楽しめるんでしょうかぁ〜……?」
スノゥがおっとりと言ったとき、翠と瑠璃が表に駆け出してゆく。
「おっ祭りっ! おっ祭りっ♪」
「ああああ! こら〜、翠も瑠璃も待ちなさ〜いっ!」
慌ててミリアがそのあとを追う。スノゥもすぐミリアに続いた。
「忙しい一日に……なりそうですねぇ〜」
瑠璃も翠も好奇心の対象が激しく移り変わる。食べ物系の屋台でそれらを作成するのをじっと見ていたかと思うと、さまざまなキャラクター玩具、ぬいぐるみなどを眺めて歓声を上げる。野外ステージライブへ向かってハイテンションな歌を披露しながらパフォーマンスを行うさゆみのあとを、踊りながらついてゆく……。めまぐるしく駆け回る翠と瑠璃。この人出の中見失わないためにミリアとスノゥは片時もふたりから目を離せない。
「予想はしてたけど……ね」
「そうですねぇ〜。あまりゆっくりいろいろは眺められそうにないですねぇ〜……」
顔を見合わせ、フっと笑う。翠らの後追いをしながらも、周囲のスポーンたちが、この賑やかな雰囲気に気分を高揚させている様子なのは見て取れた。
「案外、ハイテンションに引っ張られているようなところはあるのかもね」
ミリアが感想を述べた。
「そんなに駆けると危ないわよ」
アラム、レナトゥスとともに翠と瑠璃の近くにいたルシアが声をかける。
「あ、ルシアさん〜……。すみませんですぅ〜……」
スノゥが声をかける。翠と瑠璃の目線がアラムに釘付けになった。さすがに失礼と思ったのか言葉には出さないが、その半透明な姿が気になって仕方がない様子だ。
「僕が気になるみたいだね、一緒に回るかい?」
アラムが言って微笑んだ。翠と瑠璃はこっくりと頷き、アラムのほうへと駆け出すと、その拍子にパートナーらとお祭り見物に訪れていた非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)にぶつかりかけた。
「おっと、人ごみの中周りを見ないで走ったら危ないですよ」
近遠が抱きとめるようにして瑠璃に言った。瑠璃が素直に謝る。
「はいですっ! ごめんなさいっ」
「すすすすみませんっ!」
ミリアが慌てて謝罪するが、近遠は微笑んでなんでもないからという身振りをして見せた。イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が翠らの傍らにしゃがみ、優しく言った。
「ここの街は、治安が良さそうなので安心……とは言え、迷子にならぬよう、周囲に気を配るのを忘れてはならぬぞ」
「はーいっ!」
翠が元気よく返事をする。
「そういえば、アラムさん、レナトゥスさんとはお初ですね。はじめまして……」
近遠が挨拶をする。
「はじめまして」
「はじめ……ましテ。祭りとハ……何か賑やかナものなのだナ」
レナトゥスが言った。ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)もそういえばと言った表情で近遠に尋ねる。
「そう言われてみれば……近遠ちゃん、お祭りって……どうして”お祭り”なんですの?」
「お祭りっていうのはですね……もともとは人の心が、日々の繰り返す日常に……疲れてしまわない様に、不定期に作る非日常なんですよ」
近遠が言った。
「身体は、毎日……同じ様な事を繰り返している方が、慣れも出てきて楽になる物なんですけれどね。
 ほぼ無意識的な行動と条件反射だけで生活する事になると、心が新しい刺激を欲しがって退屈してしまうんです」
「なるほど……確かに『日常』というものは、ほぼ同じことの繰り返しになるものが多いな。
 料理、掃除、仕事……日々の雑用、その繰り返しか。いわば……パターンであるな」
イグナが頷く。
「昔は、自然とか環境とか、生きている日々への感謝、自然の恵みなどを司る神々や精霊……。
 そういう物への感謝を込めてお祭りを行ったみたいですね。……或いは、何かの記念みたいな感じで」
「生きていることへの感謝カ」
レナトゥスが考え込むような表情を見せる。
「ちょっと目を凝らせば、身の回りには……どうしてこうなっているのだろう? と思う様な物事は、溢れているんですけれどね。
 こういう物……と先入観を持ってかかると、途端に……そういう彩りは失われて、つまらない物になってしまうんですね」
近遠の言葉にアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が頷く。
「お空を見上げますと、不思議な模様があって、その上が見えないのでございます。
 こう観るとここは本当に水の中なのでございますね。不思議な感じでございます」
ユーリカが考え込んだ。
「ホントに、ここはお水の中ですのに呼吸も出来ますし、不思議ですわね。
 この お水も”そう”ですけれど……不思議ですわね。
 只の当たり前、何も無い日常の一部……にしてしまうのは、勿体ないですわ」
皆はしばし日常と非日常、日々の不思議、生きているということなどに重いを馳せていた。そのとき、楽しげなギターの調べと澄んだ歌声が響き、続いて心を掻き立てるような弾んだ声が口上を述べるのが聞こえた。
「皆さん、楽しいゲームの始まりです♪ 輪投げ・射的はいかがでしょう♪
 もし外れてしまった場合も、手ぶらでは帰らせませんよ
 綿菓子と水ヨーヨー釣りのサービス付きです♪」
それを聞いて瑠璃と翠が連れ立って声のほうへと走りだす。
「待ちなさーい!」
ミリアとスノゥがすぐそのあとを追う。
「面白そうね。私たちも行ってみない?」
ルシアがいい、アラムとレナトゥスが頷いた。
「ここで出会ったのも何かの縁であろう。我らもご一緒させていただこう」
イグナが微笑んだ。口上の主は遠野 歌菜(とおの・かな)だった。可愛らしい浴衣に身を包んだ魔法少女アイドルの彼女は、持てるスキルを駆使して華やかなパフォーマンスを交え、同じく浴衣姿の月崎 羽純(つきざき・はすみ)と輪投げと射的の屋台への勧誘をしていた。ふたりはスポーンたちと遊びを通して交流することで、一緒に『楽しい』を共有することで、楽しむ心を伝え、それが先々で生きる楽しさにも通じてくれたらよいと、この屋台を出すことにしたのである。いずれの賞品もぬいぐるみ・ミニカー・イコプラ・置物・お菓子などといった素朴なものだ。歌声に惹かれ、ルシアや翠、近遠らのほか、スポーンたちも集まってきていた。
「やってみたい方はこちらへどうぞ☆ 順番でゲームに挑戦できますよ!
 羽純くん、お手本をよろしくね♪」
「やり方は簡単、狙いを付けて、こう、だ」
羽純が輪投げと射的、各々の遊び方をわかりやすく実演してみせる。
「難しく考えず、楽しんだらいい。失敗してもご愛嬌だ。
 輪投げと射的で景品を取れなかった人は、こっちのヨーヨー釣りにも挑戦できる。
 うまく釣れなくても、好きな水風船を一つ必ずプレゼントだ」
大きな浅い水盤に、色とりどりの水風船が浮かび、周囲のスポーンたちもその華やかな色柄に興味を持ったようだった。
「ヨーヨー釣りだけに挑戦でモ、かまわないのカ?」
不意にレナトゥスが尋ねた。
「もちろんだとも、やってみるか?」
「水ヨーヨーはこうやって遊ぶんですよ
 割らないように気を付けてくださいね♪」
レナトゥスが慎重に、ミントグリーンに金銀の不規則なストライプの入ったものに狙いをつける。
「私、輪投げをやりたいのっ!」
「私も輪投げをやってみたいですの」
翠と瑠璃は歌菜と輪投げを始め、見ていたスポーンたちの中からも次々と試してみようというものが出てきて、屋台は一気に賑やかになった。
「やりましたね☆ おめでとうございます!
 皆さんもご一緒に拍手♪」
射的で見事にウサギのぬいぐるみを射止めたスポーンに、歌菜が楽しげに声を駆け、スポーンは嬉しそうにぬいぐるみを受け取った。
(少しでも楽しむ心が伝わったらいいと思ったが……どうやら当たってくれたようだな)
羽純は周囲で目を輝かせるスポーンたちを見て、暖かい気持ちになった。遊びつかれたのか、翠と瑠璃はうとうとし始めた。イグナとアルティアがその側に付き添い、椅子から滑り落ちないよう見てくれている。
「あ、すみません……」
「いやいや、おふたりとも大変であろう? 我らが見ているから、少し休んだら良かろう」
「少し息抜きをしていらっしったらよろしゅうございますわ」
アルティアが微笑んだ。スノゥとミリアはその言葉に甘え、30分ほどふたりでお祭りを回ることにしたのだった。