リアクション
14 ヒューベリオン登場!! ともかく、そんな撤退戦の支援のために一輝は銃型HCを使ってパートナーのローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)やコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)、そしてユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)と連絡を取りながら、有機的な行動を心がけていた。 撤退する米軍の周囲に敵が集まるとそこに急行し、小型飛空艇で上空から機関銃を用いた弾幕援護で蹴散らそうと試みる。 「援護する! 撤退急げ!!」 そんな一輝の言葉に米兵は感謝の言葉を述べつつヘリに乗り込むのだ。 一輝の活動を助けているのはローザで、ローザは一輝のさらに上空、かなりの高高度から単身戦場を観察し、どこに敵がいてどこに味方がいるのかという情報を逐一送り続けていた。一方でプッロは聖騎士の駿馬の後ろにコレットを乗せつつ陸上にて活動していた。 「失せろ失せろ薄汚い小鬼どもめ! 貴様らの薄汚いその手で我らが同胞を害することは許さぬぞ!!」 プッロは普段以上に厳しくしながら大声を張り上げ、レッド・キャップに怒鳴りつける。 この小心者だが残虐な性質を持つ子鬼たちは、米兵が撤退を始めたのを見るとチャンスだと思ったのか一斉に攻撃を仕掛けてきたのだ。 もちろん米兵も反撃はしているものの撤退をしなければならないために余りにもこの子鬼に対してリソースを割くことができず、その間隙を突かれる形になっていたのだ。 そこにガリア戦記にも名前が記載されている百人隊長の英霊であるプッロがやってきて怒鳴りつけると、レッド・キャップたちはその迫力に恐れをなして一目散に逃げ出すのだ。 銃を使った遠距離での戦いを主体とする現代の兵士と、剣や槍を掲げて体ごとぶつかっていく古代の戦士とでは、格が違ったということであろう。 そして、傷ついた兵士たちをナーシングやメイドインヘブンで癒していくのがコレットだった。 「大丈夫ですか? もうすぐ、もうすぐ帰れますからね。頑張ってください!」 瀟洒なメイド服をきた女性に励まされて、米兵たちは奮い立った。さらに、もうすぐ帰れるということが彼らに希望という命綱を与える。 さらに―― 『わが合衆国の兵士を、そう簡単にお前たちにくれてやるわけにはいかんのだあああああああああああああ!!!』 そんなことを叫びながら、大統領が専用機レッドグリフォンを駆って戦場を縦横無尽に駆け回り、撤退する米軍の支援をする。 「大統領閣下! 閣下こそ撤退してください!!」 兵士たちからはそんな声も届くが、大統領はそれを一笑のもとに切り捨てる。 『このアイザック・ウィルソン、大統領として突撃の時は先頭に立ち、撤退の時は殿を守り続ける覚悟。でなくてこの刹那的な戦乱の時代に、ついてくる人間がいなくなってしまうではないか!!』 これがあるから我らが大統領――米軍の兵士たちは一様にそんな感想を抱きながら、撤退作業を進める。 『とは言え叔父様、無茶は禁物ですぇ?』 ハイナがレッドグリフォン量産型のハイパーイーグルを身に纏い、大統領を支援しながらそんな小言を言う。 『わかっている差ハイナ。こんなところで死んでは、息子とグレースに顔向け出来んからな』 『わかっているならよろしおす』 そんな叔父と姪の会話が交わされる一方で、そのグレースは変わらず生身で奮戦していた。 戦車コープスの主砲を半歩右に動いて避けるとそのまま突進して戦車に取りつき、ホルスターの二丁拳銃とは別に懐に隠していた対戦車用20mm拳銃を、ゼロ距離で戦車コープスに向かって放つ。 轟音とマズルフラッシュ、そして激しい反動がグレースを襲うが、グレースはその恐るべき筋力を持って反動を片手で抑える。 そして、戦車コープスの動きが停止したのを確認するとともに、周囲から三本の矢が飛んでくることに気づき、それを戦車コープスの残骸を盾にしてやり過ごす。 まだ熱い銃身の対戦車拳銃を胸の谷間に挟むとホルスターから二丁の拳銃を抜き、一発づつ発射する。 それを牽制としつつロビン・フッドの懐に突撃すると眼球に銃口を押し当てて一発。 ついで別のロビン・フッドに一発お見舞いし、剣で襲い掛かってくるロビン・フッドの攻撃をスウェーバックでよけながら脚を繰り出し、その剣を弾く。そのまま尻餅をつくようにしつつ手を地面につき、ロビン・フッドに強烈な蹴りをお見舞いすると、その頭がスイカのように砕け散るのだった。 「あの嬢ちゃん規格外やなあ……」 バンデリジェーロで米軍の撤退を支援しながら、太輔はそんなつぶやきを漏らす。 「とはいえ、鬼気迫るものを感じる喃。なにやら、魂を削りながら戦っているような、そんな様子じゃ」 かつて日本の頂点に立ちながらも政争に敗れて無念の死を遂げた後に悪霊と疎んじまれ、英霊ではなく悪魔として復活した顕仁にとって、グレースの戦い方には、何やら感じるところがあったらしかった。 「それとな、そろそろ弾薬が切れるぞ」 顕仁が、そんな大事なことを突然告げる。 「ちょ、あかんやん。もう少し早く言ってくれな」 「すまんな。タイミングを逃したのじゃ」 太輔の抗議もどこ吹くやらである。 「……あ、はい。了解しました。太輔さん、牡丹さんの補給車が受け入れ準備完了できているそうです」 「おお! 渡りに船とはこのことやな。おおきにな、レイチェル」 太輔はレイチェルに礼を述べつつ、バンデリジェーロを戦場の後方で待機する牡丹の修理補給用トラックのところまで移動させるのであった。 トラック内部―― 「牡丹さん、敵の動きが変です!」 トラックの中で敵の動きのデータを分析しつつ戦場の味方にそのパターンを送り続けていたレナリィ・クエーサー(れなりぃ・くえーさー)が異変を発見したのはその頃だった。 「どういうこと? あ、そっちのイコンはそっちに回って! パワードスーツはこっち!」 イコンやパワードスーツの補給の順番待ちを整理しながら、佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)はレナリィに尋ねる。 「なんか……だんだん動きが鈍くなってるような。でも、僕じゃそこら辺のところはよくわからないので……」 「だったら、旗艦の方にデータを転送して! あっちゃあ、これ電気系統がいかれてるじゃない。とりあえず応急処置しておくから次におかしくなったら船に戻って整備して!」 レナリィは忙しく働く牡丹の言葉に従って旗艦マサチューセッツに敵の動きについてのデータを送る。 「……それにしても、妙ですね。アメリカでイコンを使うのは初めてのはずなのに、なんでダェーヴァは対イコン用の……ギガース? あれを用意していたんでしょう……もしかして敵幹部で連携を?」 そんな牡丹のひとりごとのようなつぶやきを、パワードスーツの応急修理を受けていた米兵が聞きつけ、それに答えた。 「連中は、指令級の奴らは趣味嗜好が人間とあまり変わらないからね、多分独自に興味を持って日本の戦闘を観察していたんだと思うよ。もし連中が連携していたらもう人間は全滅してるから、統一した意志とか連携は存在しないと思うな」 「そうですか……ありがとうございます。あ、おい! まだ出撃するな。関節部分の応急処置が終わってないんだ。そのまま出てったら死ぬぞ!!」 牡丹は米兵に礼を言いつつ、再出撃をしようとする別の米兵を怒鳴りつける。 「戻りたいのはわかるけど、ちゃんと整備を受けてからにしな! あと2分で終わるから星条旗でも歌ってな!」 牡丹が兵士にそんなことを言ったのが始まりだった。その兵士が合衆国国歌である星条旗を歌い出すと、補給に来ていた他の兵士たちも歌い出したのだ。 そして、それはやがて戦場全体に伝播する。 それから次々に、アメリカでも有名な歌を米兵たちは歌い始める。 歌とともに勢いに乗ってダェーヴァを駆逐し、撤退もあらかた終わりかけたその時、旗艦の方で敵の動きを分析していたキャロラインからの通信が戦場に緊張をもたらした。 『この動きは、ダェーヴァも徐々に撤退しています。そして、道を一本開けるように、ダェーヴァが広がって!!』 『いかん! 全軍散開!! あの仮想の道の上から全力で逃げるんだ!!!』 大統領のその叫びが、多くの米兵の命を救った。 ほとんどの米兵と契約者がその仮想の戦場からの避難を終えた頃、とてつもない熱量の光線が戦場を貫いたのだ。 そして、基地の天井を破って、20メートルものサイズの巨人が姿を現す。 「あれが、ヒューベリオンか……」 そんなつぶやきが、誰からともなく漏れたのだった。 |
||