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【蒼空に架ける橋】第3話の裏 停滞からのリブート

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【蒼空に架ける橋】第3話の裏 停滞からのリブート

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――監獄島、隔離区域。

「あの、一体何をなさっているので?」
 とある監房に入るや否や、ベッドを破壊しだしたシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が問う。
「武器の代わりにする」
 シグルズはそう言うと、壊れたベッドの脚を一本拾った。
「……戦うつもりなのですか?」
 アルツールの言葉に「まさか」とシグルズが答える。
「勝てない敵とは戦わない。じゃあどうするかと言うとだな、降伏するか逃げるかの二択になるわけよな」
 司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)が口を開く。
「で、例えば降伏を選んだとする。しかし相手はこの通りだ」
 そう言って仲達が視線を横に向ける。そこにあるのは文字通り食い散らかった死体だ。看守なのか囚人なのか、判別がつかない物もある。
「……降伏したとして、通用する相手ではありませんな」
「そう、通用する相手ではない。となると逃げるの一択しかないわけだ。そしてその逃げるにしても、何処かで籠ってるっていう守りの選択は無いわな。八方塞になるより逃げ回る方がいいだろう」
「しかしただ走り回っていたとしても、何処かしらで追いつかれる。その時の為にコイツを使うのだよ。武器が無いと使えない技もあるからな。まあ、大元の武器が無いから技の威力便りになるし、気休めでしかないんだがな」
 そう言ってシグルズがベッドの脚を見せると、納得したようにアルツールは「成程」と呟いた。
「しかし、『逃げて恐怖するがいい』ねぇ……戦場で人殺しまくってて、なおかつ一度死んでる僕や司馬先生からしたらジョークにしか聞こえんな」
「完全に『キリッ!』ってのが最後に付きそうだったな、アレ。しかしまぁ、これも反乱防止の為に民間人を数千人規模で殺した因果が回ってきたのかもしれんな」
 そう言って「HAHAHAHAHA!」と笑うシグルズと仲達。
「……あの、お二方。とりあえず、大変頼もしくはあるのですが、私は死ぬの初めてなんですが、というか、まだ死にたくないんですが……」
 アルツールが話しかけるが、「HAHAHAHAHA!」と笑うシグルズと仲達は聞いちゃいなかった。

     * * *

(……追って来てはいないみたいですね)
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はロッカーで息を潜めていた。
(でも……大丈夫でしょうか)
 一緒にいた仲間は今詩穂の傍にはいない。少し前、出くわしたマガツヒに追われバラバラになってしまったのである。
 一人で逃げ回るのは得策ではないと詩穂は考え、見つけた看守の更衣室のロッカーに駆け込み隠れているのである。
(無事であればいいんですけど……)
 仲間の心配をするが、自身も動きようがない。その事を詩穂は歯がゆく感じるのであった。

     * * *

――隔離区域、食堂。
 食料を置いておく備蓄倉庫にて、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は隠れていた。
「……さゆみ、大丈夫ですの?」
「うん、平気。落ち着いてきた」
 アデリーヌの言葉にさゆみが笑うが、何処かぎこちない笑みであった。
 その顔を心配そうに見つめるアデリーヌの目を、さゆみは真っ直ぐ見返した。
「……本当はまだ怖いよ。けど、もうパニックにはならないから」
 そう言ってさゆみは自分の頬を撫でる。少し赤くなっている頬は、先程アデリーヌの平手が当たった場所だ。

――全員と別れた後、さゆみは再度監房へ戻り閉じこもろうとした。方向音痴の自分が外に出るのは自殺行為だと思った事もあるが、食い散らかされた死体を見た恐怖の方が強い。そのまま思考を放棄し、引きこもっていたいと思ったのだ。
 そんなさゆみの頬を、アデリーヌは張った。
「しっかりしなさいさゆみ! お願いだから……お願いだからわたくしと一緒にここを出る事、生き残る事を考えて!」
 涙を堪えて訴えるアデリーヌに、さゆみは漸く正気を取り戻したのである。

「……ごめんなさい」
 そっとアデリーヌがさゆみの赤くなった頬に手を伸ばす。その手の上から、さゆみは自分の手を重ねる。
「私こそごめん。アディも不安なのに、頼りない姿見せちゃって……でもね、アディが居てくれるから大丈夫だよ。私、もう何も怖くない」
 そう言ってさゆみはアデリーヌの手と自分の手の指を絡め、つなげる。少しでも離れないようにと。
 そして見つめ合う二人は――気づいていなかった。
 背後に居る、白い影に。

     * * *

「……くさーい、リーリちゃん行きたくない」
 不満げに、というより半べそをかきつつムハリーリヤ・スミェールチ(むはりーりや・すみぇーるち)が漏らす。
「申し訳ないけど我慢してください。恐らくここなら見つからないはずなんです」
 御空 天泣(みそら・てんきゅう)が宥める様に言うと、「……うん、我慢する」と素直にムハリーリヤが頷いた。
「……天ちゃん、流石にキツいねこの臭い」
 ラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち)が苦笑して言うと、天泣も同意する様に頷く。
「でもこのゴミの臭いで、あの影――タタリとかいう者達には僕たちの存在が解らないはずなんです」

――天泣達が居るのは、監獄島のとある一区画であった。
 監房でも看守たちが過ごすための部屋でもなく、ゴミで溢れかえっている区画であった。所謂ゴミ置き場なのだろう。
 その部屋のゴミの中に、天泣は隠れようとしていた。
 何故このような事をしているのかと言うと、少し前に話は遡る。
 天泣達は解散した後、隔離区域の構造を知る為に看守が使う部屋や看守自身の身体を探り構造図を探したのだが見つける事は出来なかった。
 しかしその際に物陰に隠された傷が深い失血死した死体を発見したのである。調べてみると、何者かが隠したというわけではなく、恐らく逃げたのであろうが力尽きた様子であった。
 天泣は転がっている死体を調べてみた。死体には一つだけ致命傷を与えている物もあれば、嬲る様に数多の傷がある物と様々であったが、死体を尚弄ぶ様な様子は無さそうであった。
 そこで天泣は「ならば、あそこに隠れてみましょう」と、調べた際に見つけたゴミ置き場に隠れる事を提案したのである。
 臭いを感知しているわけではないだろうが、更に臭いが強い所であれば見つけられないのではないかという考えだ。
 こうして、天泣達は現在、隠れる場所を探しているのであった。
 ムハリーリヤを宥めつつ身を隠す場所を探す天泣。その姿を見て、ラヴィーナは握りしめていた物に目を向ける。
 それはライターであった。看守の身体を調べた際に、何かに使えるかもとくすねておいた物である。
 そして近くのゴミの中から見つけた丸めた紙を手に取る。いざという時、火をつけて投げつけようと考えたのである。
「……そのいざという時が来なければいいけど」
 ラヴィーナが小さく呟く。だが、その願いは空しくも叶う事は無かった。
 ゴミの陰になって見えない所に、徘徊する白い影があるのだから。

     * * *

「もう……ダメだ……おしまいだ……であります」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は絶望していた。全員と別れ、その後一人で蹲る様にして頭を抱えていたのである。
 だが仕方ない。死体だらけのこの空間で絶望するのは極当然である。
「相棒が……ダンボールがまたなくなってしまったであります!
 これは当然ではない。参ノ島で手に入れた吹雪の相棒ことダンボールは、勿論没収されている。
「ダンボールが無ければ無ければ奴らに……ベトコンに勝てないであります!」
 いい感じに錯乱しているようである。最早ダンボールジャンキーと言っても過言ではなさそうだ。
「とぉりゃッ!」
 そんな吹雪の後頭部を、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が思いっきり殴りつける。「あうん」と情けない言葉を漏らしつつ、前のめりで吹雪は倒れる。
「いい加減にしなさい! ここは監獄よ! 密林じゃないわ!」
 コルセア、ツッコむポイントはそこじゃない。
「し、しかし……いざという時は食料にもなるのでありますよ、ダンボールは!」
 なりません。
「こんな危機的状況でダンボールが無ければ……そ、それは!?」
 痛む後頭部をさすりつつ起き上がる吹雪の目に入ったのは、コルセア――が脇に抱えている物。
「……見つけて来たわよ、はい」
 溜息を吐きつつ、コルセアが差し出したのは畳まれたダンボール。
「お、おおおおおおお! 相棒が! 友が! ダンボールが帰ってきたであります!」
 吹雪は差し出されたダンボールを愛おしげに抱きしめると、早速組立てて頭から被る。
「あーもう、今はそんな状況じゃ……ま、元気になったからいいか」
 はしゃぐ吹雪に溜息を吐きつつ、コルセアが呟く。
 少し緊張が緩んでしまったのだろうか、吹雪は勿論の事、コルセアも気が付かなかった――自分達の間近に、影が迫っている事を。