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【蒼空に架ける橋】後日譚 明日へとつながる希望

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【蒼空に架ける橋】後日譚 明日へとつながる希望
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 そうしてみんなが島のあちこちで祭りを堪能しているとき、及川 翠(おいかわ・みどり)ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)サリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)はサファリパークへ行き、ツアーを楽しもうとしていた。
「サファリツアー?」
 サリアはきょとんとした顔で、説明をしてくれるミリアを見つめる。
 彼女は今回が初めての浮遊島群旅行で、この日をとても楽しみにしていた。そしてサファリツアーも初体験。すぐさま目がきらきらと輝きだす。
「ふぅん、サファリツアーっていうのやってるんだぁ……」
「そうよ。今向かっているのはそこ」
「サファリツアーってことは……冒険みたいなものなのかな? 楽しそう」
「そう言ってくれるとうれしいわ。連れて行き甲斐があるもの」
 サリアの反応に、思ったとおりとミリアも満足そうにうなずいた。
「一緒にもふもふを堪能しましょうね!」
「……え? もふもふさん……?」
 意外そうにつぶやくところから見て、どうやらサリアが「サファリツアー」という言葉からイメージしたものから「もふもふ」は、遠い位置にあったようだ。
 あと少しでたくさんのもふもふと触れ合うことができると、そのときのことを考えて、とたん締まりのない表情ででれっとするミリアのそばで、とまどっているサリアの肩をスノゥがぽんとたたいた。
「心配しなくてもぉ〜、すぐ分かるのですからぁ、今から悩まなくていいのですぅ〜」
「……うんっ。そうだよね」
 にっこり砂糖菓子のような笑顔でそう返答しながらも、もふもふという単語とミリアの様子に、サリアも胸のときめきが押さえきれない。
「すっごく楽しみね、ミリアお姉ちゃん」
 ミリアと目を合わせ、サリアはもう一度そう言った。
 そしてサファリパークの園内で、港から直通の送迎馬車から専用の馬車に乗り換えて、ツアーは始まる。
 ツアー・コンダクターは前のときと同じで、今回もシン・ラだった。
「シン・ラさん、こんにちはなのですぅ〜」
「あら。皆さん」シン・ラもあいさつに来た彼女たちを覚えていた。「また来てくれたんですね! うれしいです!」
 狐目をさらに糸のように細くして喜ぶシン・ラに、スノゥは前回のように、またあの草原で休憩をとらせてもらえないかと交渉する。
 シン・ラは少し考え込み、そして提案をした。
「少し割高になるのですが、個人ツアーを申し込まれてはどうでしょう? 6人までのグループの方にご案内していまして、お好みのツアーポイントを選択して回ることができますから、滞在時間もある程度自由がききますよ?」
「……って言ってますけどぉ、どうしますぅ〜」
「そうね」
 ミリアは後ろの翠とサリアを見て、「じゃあお願いします」とそちらを選択した。


「おサルさんなのーーーっ!!」
 林の手前の開けた草原で、馬車が止まるのも待ちきれない様子でぴょんっと飛び降り、翠は駆けだした。目指すは、草原に座ってぽこぽこ草の間から頭やシッポを出しているサルの群れだ。
 翠のあとを、サリアが無言で追いかける。
「……翠ちゃ〜ん、時間はたっぷりありますからねぇ〜、危ないことはダメですよぉ〜?
 サリアちゃんもぉ〜、危ないことはダメですからねぇ〜?」
 スノゥが口元に手をあててしてくる注意に2人が振り返り「はーーーい」と元気よく声を揃えて答えて、また走って行く。2人を見守るスノゥの隣で、ミリアがシン・ラに訊いた。
「あれは危なくないんですか?」
「ええ。あのサルは比較的おとなしい種族ですから。春先の子育ての時期はオスが殺気立って威嚇してきますけど、今の時期なら大丈夫です」
「そうですか」
 シン・ラの言葉にほっとして、ミリアはあらためて翠とサリアの方へ視線を向ける。
 サルは、きゃーっと叫声を上げながら両手を突き出して迫ってくる人間に驚き、あわてて八方に逃げ出すも、翠も負けずすばしこく、巧みにサルの動きを先回りして捕まえる。そしてミリアやスノゥたちにも見えるように、ちょっと大きなネコほどのサイズのそれを両手で掲げて見せた。
「捕まえたのー!」
 そしてさっそくサリアと一緒にそのやわらかな毛並みに触れたり、頭をなでなでしたりを始める。
「楽しそうね。よかったわ」
「はい〜。
 それで、ミリアちゃんはぁ、行かなくてもいいのですかぁ〜?」
「わたし? そうね……」
 スノゥに訊かれて、ミリアはぐっとこぶしを固める。
「わたしの基準からすると、あれはもふ度が足りないッ!
 もっとこう、ふわっふわのもっこもこで……そう、この前きたときにいたヒツジのような――」
 そのとき、風に乗ってどこからともなくメエエ……とヒツジのものらしき鳴き声が聞こえてきた。
「もふもふっ!?」
 きゅぴーん、とミリアのなかのもふもふ探知レーダーが反応し、すぐさま声のした方角を探り当てる。そして草の波間に、白い背中を見つけた瞬間、猪突のごとく一直線に走り出した。
「もふもふ〜〜〜〜っっ!」
「ミリアちゃんもぉ〜、危ないことはぁ――」
「やーーーんっ、この子たちってば、この前のときよりもっともふもふになってる〜 ♪」
「って、ダメそうですねぇ〜、もふもふさんしか見えてませんねぇ〜」
 やれやれ、とほおに手を添えて息を吐く。
「皆さん、本当に動物がお好きなんですね」
 そう言うシン・ラも、こういう仕事をしている以上、動物が好きなのは間違いなかった。だから、同じ動物好きな人たちを見るのは楽しく、うれしいと言うように、心からの笑みを浮かべて、スノゥと同じように草原に散った3人をにこやかに見ている。
「別の区画になりますが、もう少し小型の動物が生息しているエリアがあります。パラミタプレーリードッグやパラミタフォックスなどですね。あとでそちらへもご案内いたしましょうか?」
「ありがとうございます、お願いしますぅ〜」
 ぺこっと頭を下げて、視線を再びミリアの方へ転じる。
 風に乗って流れてくる、きゃあきゃあと楽しそうな3人の笑声と姿にスノゥは満足げに大きく深呼吸をし、にこにこ笑顔で見守っていた。




 なんだか騒がしい。
 そんなに近くはないけど、人が大勢いて、がやがや話している気配がする。
 うるさい。邪魔。
「もう少し寝かせといてよ……」
 うーん、とうなって枕に顔を押しつけ、ごそごそ体の向きを変えた、そのとき。
 ぱちっと音がする勢いで目を開き、
「うわ! 寝過ごした!」
 河埜 空華(こうの・そらか)は両腕を伸ばし、ベッドの上で四つん這いになった。
 サイドテーブルの時計は午後6時を回っている。
 上掛けを撥ね飛ばす勢いで大あわてでベッドを抜け出すとバスルームへ駆け込んだ。寝る前に前もって用意してあったドレスに着替えて身支度を整えるやいなや、イスの背にかけてあったバッグをひったくり、パンプスをつっかけて部屋を飛び出す。そして飛びつく勢いで向かいの部屋のドアをたたいた。
「ルー! 起きて!」
 ドンドン、ドンドン。
 3回目のノックをする前に、ドアは開いた。
「うるさい」
 パートナーのクレメン・ルーティア(くれめん・るーてぃあ)が、少し不機嫌そうな表情と声で空華を見つめる。
「うるさくすると、ホテルのほかの客に迷惑だ。ここにいるのは俺たちだけじゃないんだから」
「寝過ごしちゃった!」
「知っている」
 クレメンは空華のノックで今起きたという感じではなかった。目は澄んでいるし、受け答えもしっかりしている。
 彼は、夜のパーティーに参加して、朝まで楽しくすごそうという計画で仮眠をとると宣言した空華と違い、外へ出ることに乗り気でなかった。本当は浮遊島群へ上がってくる気もなかったのだ。しかし空華が言うことをきかなかった。
『これは先の戦いで大けがを負ったルーの快気祝いもかねての旅行よ!』
 不要だ、との返答は無視された。
『大体、どうして旅行――』
『浮遊島群は今一番人気のある旅行先なんだから! 船の切符がなかなか取れなくて、行きたくても行けない場所なのよ? それが向こうの招待で行けるんだから、これはもう行くっきゃないよね!
 しかも全島挙げてのお祭りの真っ最中だって! みんなドレス着たり仮面つけたりして仮装してるの! 楽しみーっ!!』
『……それ、俺のことダシにしてるだけで、おまえが行きたいんだろう』
 とツッコミを入れたが、これもやはり黙殺された。
 そんな経緯から、クレメンはパーティーにも仮装にもなんら興味は持てず、空華が予定の時間を超過しても姿を見せないことからどうやら寝坊しているらしいと察しをつけても、起こしに行こうとしなかった。むしろ、このまま朝まで眠ってくれたらいいと願っていた。
 あいにくと、それはかなわなかったわけだが。
「それで、行く準備はできてる?」
「まだだ」
「んもーっ、早く着替え――って、バッグから出してもないじゃないっ」
 クレメンの横をすり抜けて室内へ入った空華は、憤慨しつつ衣装の入ったバッグのチャックを引き開ける。そしてそこに自分が入れたときのまま、しまいこまれてあったドレスを引っ張り出して、クレメンに差し出した。
「はい!」
 しかしクレメンは受け取ろうとせず、見下ろしているだけだ。
「なんでそんな物が俺の荷物に入ってるんだ」
「私が選んだから。キミの衣装だよ」
「却下!」
 クレメンは即座にそっぽを向いた。
「なんで!?」
「アホか! 男の俺がどうしてドレスなんだよ!!」
「仮装だから!」
「女装は仮装と違う!」
 腕組みをして怒っているクレメンに、空華は別の方向から説得することにした。
「だって、衣装はどうする? って訊いたら、私に任せるって言ったじゃん! 何でもいいって!」
「何でもいい、に女物が入ると考えるおまえの頭がどうかしている!!
 言っておくが、俺の種族が「剣の花嫁」なのはたまたまそう名付けられているだけで、剣の花嫁だから女装するのが当たり前だとか、女の格好をしても平気だということではないからな! なかにはそういうやつもいるかもしれないが、俺は違う!! 断じてそんな趣味はない!!」
 などなど。
 すったもんだした挙げ句、今は言い合いをしているような余裕はないとはたと気づいた空華の妥協(?)によって、ドレスの衣装は再びバッグにしまいこまれた。
「じゃあどうするの?」
「こうする」
 クレメンはホテルのフロントに連絡を取り、用意した衣装が着れなくなったと事情を話してホテルに常備されている結婚式用の衣装のなかからレンタルさせてもらった。
 地球で言う、ルネサンス末期・初期バロック風の豪華な衣装だ。
「早く早く! 時間がないよ! パレードに間に合わなくなっちゃう!」
 「自分のせいだろう」というツッコミを耳に入れている様子もなく、空華は試着室から出てきたクレメンの腕を引っ張って外へと向かう。
 ホテルから表の通りへ出た直後、クレメンはふとあることに気づいて足を止めた。
「空華、その服……」
「あ、気づいた? ルーが探してる間ヒマだったから、私もちょっと物色しちゃった。
 どう? 似合う?」
 くるっと1回転して見せる。それは、もともと空華が用意してあった華やかな色のフレアドレスとは対極的な、シックな大人ドレス、ローブ・デコルテだった。
 細い肩紐。ネックラインが深く、大胆にカットされ、首元や胸元を露わにしているのを見て、クレメンはますます気に入らないというように目を眇める。
 男の注目を集め、忍耐を試すドレスだ。
 もう一度ホテルに戻って着替えてくるよう言おうとしたクレメンより早く、空華が叫んだ。
「あっ、見て、ルー! パレードだよ!!」
 空砲のような音がして、カラフルな色とりどりのレーザー光が宙を走った。人垣で見えないが、音楽隊の生演奏が聞こえてくる。すぐに、派手に飾られた山車が何台も続いた。きらびやかに着飾って、山車の横を歩く人、乗った人たちが紙吹雪と花を路上の見物人たちに向かって高く放り投げている。
「花を取るのよ! ほら!」
 見とれていると、突然中年の女性が怒っているような声で空華に言ってきた。
「ぼーっとしてないで! 地面に落ちたらご利益がなくなっちゃうわ!」
「え? え?」
 最初、何を言われているか分からなかった。だけど、言われて周囲を見渡すと、投げられた花を宙でキャッチしようとしている若い女性たちの姿が目に入る。
「こうですか?」
 とりあえず、1つキャッチして見せると、中年女性はまだ不満足げにフンと鼻を鳴らした。
「もっとたくさんね。あればあるだけ幸せな花嫁になれるんだから」そして次に横で、やはりわけが分からなさそうにしているクレメンを見る。「ほら! あんたも集めるのを手伝ってあげなさい! この娘さんのためにね!」
 言うだけ言って、中年女性は去って行った。
「えーと。……幸せな、花嫁……?」
 毒気を抜かれた気分でつぶやき、手のなかの花を見た。そして同時に、2人で吹き出す。
 ただの言い伝えだ。花は花。でも、ご利益のあるなしにかかわらず、それがここの風習なら、参加してみるのもいいんじゃない?
 そんなふうに思って、空華はフラワーキャッチに参加してみることにした。意外と飛んでくる花を宙で掴むのは難しく、面白い。
 そうして何本か集めると、パレードの一番末尾を歩いていた女の子が、腕にかけたかごから1本リボンを取って、渡してきた。それで結べというのだろう。
「持ってて」
 クレメンが空華の手からするりとリボンを抜き取り、彼女の持つ花を結ぶ。
「ありがとう」
 小さめのかわいい花束を片手に、空華はうきうきとした気分でパレードの通り過ぎた道を歩いた。
 きっと楽しい一夜になる。そんな予感に胸をふくらませながら。