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【慟哭】闇組織を討て

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【慟哭】闇組織を討て

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第4章 手、差し伸べ

 救護班も忙しさの極みにあった。
 1人の治療を終えた時には2人の負傷者が運び込まれる状態だ。
「はい、これでおしまいですわ。精神力が回復するまで、甘いものでも召し上がって休んでいって下さい」
 姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)は、軽傷の仲間に消毒を施し、大きな絆創膏を貼った。
 精神力には限界があり、魔法はそう何度も使えないのだ。
「少しの辛抱でござる」
 坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)は、負傷して動けない仲間に肩を貸し、テントの中に運んだ。
 魔法を使える者が他の負傷者の治療に当っているため、用意しておいた清潔な水と、煮沸消毒してあるタオルで負傷者の傷口を拭く。
「順番まで、安静にしているでござる」
「手を貸して!」
 テントの外からの教導団のゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)の声に、鹿次郎が顔を出す。
 ゴットリープは軍用バイクのサイドカーから、体中に傷を負ったヴァーナーを下ろそうとしている。
「これは酷いでござる」
 鹿次郎も手を貸し、2人でそっとテントの中に運び込む。
「急患です。お願い!」
「はい!」
 ゴットリープの言葉に、レナ・ブランド(れな・ぶらんど)が返事をして駆けつけた。
「レナの治癒魔法は凄いから、これぐらいならきっと傷跡も残らないからッ!」
 ゴットリープはヴァーナーをそう元気づける。ヴァーナーは辛そうでありながらも「はい」とはっきりと返事をした。
「任せておいて!」
 レナはヒールをヴァーナーにかける。
 痛みがひいていき、ヴァーナーは深く息をついた。
「ハイ、治療終わりッ! ムリは禁物だけど、まだ戦える自信があるんなら、もうちょっとだけ頑張ってくれると嬉しいわ!」
 軽快なレナの言葉に、ヴァーナーは強く頷く。
「こっちも頼む!」
 正門近くに待機していた比賀 一(ひが・はじめ)が、ケイの身体を支えながらテントに戻る。
「おっと、派手にやられたねぇ」
 一のパートナーのハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)が近付く。
「出血が酷い、優先してやってくれ」
 一はケイをそっと座らせる。
 ケイは力なくも笑みを見せた。
 ヴァーナーが心配気に見つめる中、ハーヴェインはヒールでケイを癒していく。
 斬られた背の傷が塞がっていきケイの身体が楽になっていく。
「若いんだから無理しちゃあいかんぞ? 復帰は精神力もちゃんと回復してからだ」
 ハーヴェインはそう声をかけて、ケイに簡易ベッドで眠るように指示を出す。
「代わりに私出るね! ゆっくりしてていいから」
 参謀班で待機し、状況を見定めていた蒼空学園の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がテントに顔を覗かせて軽くウィンクした。
「魔法使えなきゃ、役に立たないしな」
 ケイはヴァーナー、他の負傷者と共に休憩所でしばらくの間休むことにする。

『ねぇ、大和ちゃん。ボクは情報を伝えるだけでいいの?』
 携帯電話からラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)の可愛らしい声が響いてくる。
 参謀班の譲葉 大和(ゆずりは・やまと)は、基本的にはそうだけれど、同行している追撃班の防衛は努めるようにとラキシスに指示を出す。
 時折そんな風に会話をしていた2人だったが――。
 突如、ラキシスの様子が変わる。
『屋敷の後ろから、翼が生えた人達が飛んでいっちゃった。追う、追わない!?』
 そのまま様子を見ているよう指示を出し、大和は急ぎ本陣に戻った。
「潜入した班の様子は? 目的はわかりませんが、館裏側から有翼種が数人飛び立ったようです」
 即座に、ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)が携帯電話でアマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)と連絡を取る。
「……まだ、人質の確保は出来ていないようです」
「ならばまだ追撃班の存在は知られない方がいい。戦況が分からない今、現場から離れてしまうことも、避けた方がいいんじゃないだろうか? 万が一私達が敗走することになった際のことも考えると、最後の戦力として残しておくべきじゃないかと思う」
 神楽崎優子がそう意見を出す。
「……分かりました」
 大和はラキシスに合図を出すまで動かないように連絡をした。
「…………」
 崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が立ち上がり、すっと優子の傍に立つ。
 ミヒャエルは救護班に情報を伝えに行き、大和は再び空飛ぶ箒に乗り上空へと浮かび上がった。
 その直後。
 光の翼と白い翼を広げた一団が後方から訪れる。
「救護班、負傷者は下がれ。戦える者は前へ!」
 優子の声を受け、回復した者達、警備に当たって者達が迎撃態勢をとる。
「精神力に余裕はないんだが……仕方ないな。頼んだぞ」
 ハーヴェインは禁猟区を発動し、周辺の警護に当っていたに渡すと、負傷者の保護の為にテントの奥に進む。
 一はアサルトカービンを空へと向ける。
「敵に間違いありませんね!?」
 よしの なんちょうくん(よしの・なんちょうくん)が参謀班のメンバーに確認をとる。
 寄せ集めの集団である自分達は、特に目印となる装備をしていない。
「勝手に離脱した味方はいない」
「やっておしまい!」
 優子と、優子の前に立ち不敵な笑みを見せる亜璃珠の言葉と同時に、一となんちょうくんはアサルトカービンを撃つ。
 中ほどの2人に命中し、敵有翼種は体勢を崩し落ちていく。
 残った3人は素早く空を飛び回り、弾丸と魔法を降らす。
 怪我人搬送の為、正門に向かいかけていた鹿次郎は、救護班からの鳴子の知らせを受け、カルスノウトを手に落ちる敵有翼種の元に駆けつけ、斬り込む。
「参謀班は下がれ! 頭脳が倒れれば、終わりだ」
 優子はそう指示を出す。ミヒャエルは従い、テントの中から冷静沈着に状況を見据える。
「大将を置いて下がれませんわ」
 亜璃珠は退かない。無論、優子も責任者として下がるつもりはなかった。
「討たせません!」
 なんちょうくんが引き金を引き、また1人敵を打ち落とす。
 落ちた敵には鹿次郎が斬り込んでいく。
「奇襲には奇襲よね!」
 加勢に飛び立っていた、美羽が、小型飛空艇を操りながら光の剣を手に敵に跳びかかる。
 陣に魔法を放とうとした敵守護天使は、咄嗟に美羽の方に光の魔法を放った。
「その程度の攻撃じゃ、私は落ちないんだからっ!」
 美羽はソニックブレードを使い、敵に剣を叩き込む。避けようとした敵の胸を大きく裂き、鮮血が迸った。
「美羽さん離れて下さい――!」
 声を受けて、美羽は小型飛空艇を前へ走らせる。
 途端、なんちょうくんが放った弾丸が敵守護天使の腹を貫き、守護天使は落下する。
 敵の攻撃に傷ついた味方を、救護班が後方から魔法で回復を施していく。
 落とせないと悟った敵有翼種、残り1名は飛び去ろうとする。
 一となんちょうくんが弾丸を放つも、弾は届くことなく逃げられてしまう。
「追うな。その余裕はない。……すまない」
 悔しげに、優子が言う。
「……それじゃ、正面班の援護に行くね」
 上空からの美羽の言葉に、優子は「頼む」と頷いた。
 美羽は小型飛空艇を走らせ、正面へと向かって行く。
 優子は自分を庇った亜璃珠に肩を貸し、テントへと運び入れる。
「大丈夫すぐ直せるから」
 救護班のファニー・アーベント(ふぁにー・あーべんと)は、皆に笑顔を見せた。
「あまり怪我してない人は、テントの修理を先にやってね。大怪我している人は、ヒールを受けてから中の草とシートで作った簡易ベッドで休んでね」
 てきぱきとファニーは指示を出し、倒れたペットボトルを手にとってガーゼを塗らし、自分自身も軽傷者の手当てをしていく。
「こちらにお願いします」
 フィール・ルーイガー(ふぃーる・るーいがー)は、負傷した鹿次郎、なんちょうくん、亜璃珠をシートの上に招く。
「魔法は護衛の2人にお願いしたいわ」
 亜璃珠の言葉に、フィールはこくりと頷いた。
 残念なことに、そう何度もかけるほど精神力はないのだ。
「無理……なさらないで下さいね……」
 フィールは鹿次郎となんちょうくんにヒールをかけた。
 2人は礼を言った後、直ぐに警備と怪我人の搬送に戻る。
「なるべく少しだけでも……休んでもらいたいですが……」
「それはキミ達にも言えることだよ」
 治療を受けながら優子がそう言った。
「そうですよ。はい」
 マリアンマリー・パレット(まりあんまりー・ぱれっと)が、フィールにお茶を差し出した。
「……ありがとうございます……交代で休憩に入り……精神力の回復に努めます……」
 お茶を受け取って、そう答える間にもまた、怪我人がテントに運び込まれる。
「人質の居場所を特定できたようです」
 ミヒャエルがそう優子に報告をする。
「1階の状況はどうですか?」
 マリアンが記録帳を取り出しながら、訊ねた。
「制圧とまでは行きませんが、ほぼ敵戦力は出払っているようですな」
「ここからが、本番ですね」
 マリアンは記録帳にペンを走らせる。
 事実誤認が起きぬよう、現在までの状況、集まった情報、戦闘経緯を書き記しておく。