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リアクション
第二章 大運河を渡れ!
百合園女学園正門前でパートナーを見つけた選手達は一路、大運河へやってきたぞ。
空飛ぶ箒にまたがり優々と渡っていったのは、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)とフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)嬢のコンビだ。第一回ジェイダス杯では道に迷ったためにリタイアを余儀なくされたソア選手。極度な方向音痴のソア選手にとってヴァイシャリーに詳しいフィル嬢のナビゲートは強力な助っ人となるだろう。「ソアさん、大運河を渡ったらすぐに見える細い路地に入ってください。近道ですっ」
「分かりました。フィルさん、飛ばしますよっ。しっかりつかまっていてくださいね!」
水上都市であるヴァイシャリーでは、小回りの利く空飛ぶ箒は有利だ。ソア選手、見事、前回の雪辱をはらせるか?!
そして、大いなる雪辱を晴らさんと、本大会に出場している選手がもう一人。前大会では優勝戦線に残りつつも最終的に4位に甘んじた藍澤 黎(あいざわ・れい)選手だ。
前回同様、白馬での出場となる藍澤選手。渡河の手段がないと思いきや…。
「こっちやで、黎!」
突如、路地から出てきたゴンドラから手を振ったのは、藍澤選手の盟友フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)。ゴンドラにはエアパッキンでしっかりと梱包された等身大ジェイダス様フィギアも乗っかっている。
どうやらゴンドラに乗ったフィルラント選手が、藍澤選手をバックアップする作戦の様子。百合園生ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)嬢とともに愛馬イフィイにまたがったまま、ゴンドラに乗り込む藍澤選手。櫂を握ったフィルラント選手がすかさずゴンドラを漕ぎ出した。
「ほな、いっくで〜」
「倉庫街についた後は、私に任せてください」
地元百合園生ロザリンド嬢も、力強く頷く。ロザリンド嬢はこの日に向けて、普段行くことのない倉庫街まで、しっかりと自分の足で調べてきたそうだ。これはまさに優勝候補に相応しい強力タッグ。三人の人と一匹の馬、そして厳重に梱包された等身大ジェイダス様フィギアを乗せたゴンドラは悲願達成に向けて大河へと漕ぎ出でる。
しかし、渡河の手段を持たない選手達にとっては、本日最大の難関だ。
早速、足止めを喰らったのは、美男子オーディション改め漢気決定戦優勝者、小型バイクに乗った姫宮 和希(ひめみや・かずき)選手とミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)嬢のコンビだ。
「クソッ。ぬかったぜ」
どうやら姫宮選手、水路を行き交うゴンドラを足場に飛び越えて行こうと考えていたようだ。しかし、そうは問屋が卸さない。ゴンドラの運航が休止されているだけではなく、すべての船は船着き場に停泊してある。蕩々と流れる大運河は、選手達の行く手を阻むのみ。
「この勝負、俺がもらった!」
足止めを食った姫宮選手の横を、空飛ぶ箒で走り抜けていったのは、イルミンスールの緋桜 ケイ(ひおう・けい)選手。姫宮選手とは因縁浅からぬ関係らしく、「打倒姫宮」を掲げての参戦だ。第一回ジェイダス杯ではともに戦った悠久ノ カナタ(とわの・かなた)からいろいろと作戦を授けられてきたようだ。
たおやかな容貌とは裏腹に、荒っぽい箒さばぉで運河を渡っていく緋桜選手。抱え込まれるように同乗している稲場 繭(いなば・まゆ)は、必死で悲鳴をこらえる。
「私だって、ケイさんのお役に立つんだから…悲鳴なんて上げちゃダメだよっ…って、きゃぁぁぁああああ〜やっぱりダメぇぇ〜!!」
「無理するんじゃねぇぞ、繭。怖かったら悲鳴でも何でも好きに上げればいい」
そう言って繭嬢を気遣う緋桜選手。何気なく振り向くと、先ほど抜き去ったライバルの姿が映った。
未だ渡河の手段が見つからない姫宮選手。あわやリタイヤかと思いきや、姫宮選手は完全に開き直りとしか思えない行動に出たぞ。
「あ〜もうっ。こうなったら、ドラゴンアーツの怪力で何とかしてやるっ!」
そう言うや否や、小型バイクとともにミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)嬢を抱え上げると、大運河に飛び込んだっ?!
「うっひょ〜さっすがは姫宮だぜ! 行っけぇ〜!!!」
高らかに抱えられたミューリア嬢が歓声を上げる。ドラゴンアーツの怪力を使っているとはいえ、人一人と小型バイクを抱えての渡河は無謀と言えよう。しかし、そこは美男子オーディション改め漢気選手権優勝者の意地なのかっ?!
立ち泳ぎで大運河に挑み続ける姫宮選手。その小さな背中には、誇り高き漢気王に相応しい後光が差している。
「さすがは俺のライバルだ」
好敵手の奮闘を確認した緋桜選手は小さく頷く。その後、彼が振り向くことはなかったという。
姫宮選手の勇姿に触発されたのか。水泳による渡河をためらっていた選手達も次々に運河へ入って行ったぞ。
しかし、中には水泳を見越して参加している選手もいたようだ。
「シャンテさん、リアンさん、あっちならば水深が浅いので泳いでも大丈夫です!」
そう言って同行者に声をかけたのは、百合園生の待田 イングヒルト(まちだ・いんぐひると)とエレオノーレ・ボールシャイト(えれおのーれ・ぼーるしゃいと)だ。
「助かります。貴女達は馬に乗っていてください。僕達は、手綱を引きながら泳ぎますから」
例え自分たちは泳いでも、姫君達には絶対に濡れさせない。そんな騎士道を見せつけたのは、シャンテ・セレナード(しゃんて・せれなーど)とリアン・エテルニーテ(りあん・えてるにーて)だ。涼やかなリュートの調べと穏やかなティータイムを心から愛する薔薇学生のシャンテ選手だが、やるときはやるのである。
「怖かったら言えよ」
口数は少ないものの、リアン選手も同行者であるエレオノーレ嬢をさり気なく気遣う。しかし、心配はご無用。
「ちょっとい〜い? 試したいことがあるの。ど〜んと行くから、リアンさんも馬に乗って頂戴!」
ニカリと笑ったエレオノーレ嬢が繰り出した技は、バーストダッシュ。このまま対岸まで一気に渡ってしまおうっという作戦のようだが。
「きゃぁぁぁ〜〜〜!!!」
歓声とも悲鳴ともとれる甲高い声を上げて、吹っ飛んでいったのはエレオノーレ嬢、ただ一人。
ちなみにバーストダッシュは術者にのみかけられる魔法である。抱えて走れる程度の重さのものならば大丈夫だが、さすがに馬と人間一人は重すぎだ。当然と言えば当然の結果だが、威力が足りなかったのか、エレオノーラ嬢は対岸に届くことなく、運河の中に落ちていく…。
「きゃぁ、エレオノーレ?!」
「大丈夫ですかっ、エレオノーレさんっ!」
「今、助けるっ!」
素早く運河に飛び込んだリアン選手に助けられたエレオノーレ嬢は、シャンテ選手達の気遣いも虚しく全身びしょ濡れだ。しかし、後悔はしていないようだ。
「あふぅ…やっぱり無謀だったわ…」
肩をすくめて笑うエレオノーレ嬢に一同は大きくため息を付いた。お嬢様の冒険心もほどほどに。
そして、エレオノーラ嬢と同じ過ちを犯そうとした者が他にもいたようだ。
「うわぁ、危なかったぁ…」
運河に飛び込んでいったエレオノーレ嬢を目撃し、寸での所でバーストダッシュの使用を踏みとどまったのは、白馬に乗った薔薇学生クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)。
「あの子、大丈夫かなぁ…」
同乗者の百合園生水炬 火螢(みかがり・かけい)嬢も、びしょ濡れのエレオノーレ嬢に同情を隠せないようだ。
「僕たちは回り道をして行きましょう。ちょっとだけ飛ばすので、しっかりつかまっていてくださいね」
エレオノーレ嬢をお姫様のように両腕で抱え込んだクライス選手。自分も同じことをしようとしていたことなど、お首にも出さない。
元もと優勝への意欲は乏しかった火螢嬢が、のんびりとした口調で呟く。
「あっちにすごく景色が綺麗な場所があるんだよ〜。僕、クライスさんと一緒に見てみたいなぁ」
「それじゃあ、折角だしそちらを通ってみましょうか」
どうやら優勝は諦めたらしいクライス選手。火螢嬢との観光を楽しむことにしたらしい。それもまたジェイダス杯の正しい楽しみ方の一つではある。
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