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リアクション
第四戦 謎の金葡萄を追え!!!
「何でだろうなぁ」
メイド服の下をミニスカートでアレンジした愛らしい装いの黒乃 音子(くろの・ねこ) は何度も唸り声を上げて村の書物を片っ端から読み漁り、特に何度も、この村の葡萄のレシピについて読み返す。そうこうして買い食いをしつつうろついていると、闇商人の屋台の前で頭に肉の文字が書かれた紙袋をかぶった愛沢 ミサに呼び止められる。
「あ、お手伝いさんだよね。まってたんだよ〜、早く手伝って」
「え?なんで?」
「なんでじゃないよ。さっきマルクスが売り歩きにいって、人手が足りないんだ。手伝いに来てくれたんでしょ? ほら、接客して。俺、掃除してくるからね〜」
「え、あ、いらっしゃいませ〜。葡萄ジュースですね。かしこまりました〜。はい、スコーン4人前と葡萄ジャムですね。お会計が……」
ものの数分で場に馴染み、接客にいそしむパートナーの姿を眺めて、タバコに火をつけたのはフランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)。呆れるよりも、メイド服を着てきた時点で想定内のことなのでいまさら特に思うこともなく、ディフィア村での葡萄栽培法について書かれた手記を借りて読んでいた。だが、どうにも腑に落ちない点がある。連れのアルチュール・ド・リッシュモン(あるちゅーる・どりっしゅもん)はいまだにワインの名前を考えている様子だった。
「資料が足りないでござるなぁ」
「資料が足りない……」
神和 綺人(かんなぎ・あやと)は驚いて顔を上げる。同じ言葉を呟いていた、軍人の風貌人物の顔をじっと見つめてしまった。クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が固まってしまった様子の二人の間に入って、「アヤ、大丈夫?」と声をかける。
「あ、うん。ごめんねクリス」
「そちらも金葡萄について調べているのか?」
「うん。金の葡萄って言ってるし、実物も確かに金色だった。機晶石の輝きが移った、っていうんなら金の機晶石が存在するんじゃないか……ってところまで。まぁ、憶測だけど……ただ、この地域で金の機晶石が発掘されたって話はないんだって」
「ただ、以前学校で噂になった機晶姫……ルーノ・アレエさんでしたっけ? 彼女の機晶石が金色だって噂を聞いたの。なにか、関係があるんじゃないかって調べてるんです」
「ふむ。こちらは、金葡萄が育った畑を教えてほしいと願い出たのだが、畑は大会が終わるまでダメだとか……しかも、種も苗木もないというんだ。金葡萄というものは、通常の武道の中にできた突然変異なのだろうか、とな」
「そもそも、本当に食べられる葡萄なのかしら?」
「うむ、やはり『黄金の雫』がよいであります!!」
アルチュール・ド・リッシュモンは突如大きな声を張り上げ、ようやくフランソワ・ド・グラスが他の人物と話しているのだと気がついた。
「おや? 新しいお友達ですか? むむ? 音子さんはいずこへ?」
「ずれ過ぎでござるよ……さて、可能ならコチラの情報とあわせて協力してくれないか?」
「こっちも煮詰まっていたんだ、むしろお願いしたいくらいだよ」
「私たちも混ぜてもらっていい?」
リーン・リリィーシアはにっこりと笑ってその輪の中に入る。二人はいぶかしげに眺めたが、リーン・リリィーシアが手帳を見せると笑って快く受け答えする。そこに書かれているのは、この村に最も詳しいであろう『村長から聞きだしたこと』のリストだった。緋桜 ケイと悠久ノ カナタは、機晶石が発掘される洞窟の位置と、醸造蔵の場所の載った地図を持っていた。
「村長さんに、この村の水について聞いたの。ココの水は機晶石が発掘される洞窟と湧き水が一緒なんだって。特別においしい水だから、味を間違えるはずがないっていっていたわ」
「ということは、水に秘密があるってことか?」
「機晶石が水にとけ出したとか?」
「あるいは、機晶石の力だけを洗い流す力がその水にあって、葡萄がそれを吸い上げたとか……ね」
赤い着物を纏って髪を結い上げた九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )は、意味深な言葉をかけて村の片隅にある醸造樽が置かれている蔵へと足を向けた。その後ろをとことこと身体が小さなマネット・エェル( ・ )は収穫祭で娘が着るような白いドレスを、極力汚さないようにすそを持ち上げてついていく。おそろいの夜色のドレスをまとう九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)は通り抜けざまに話し合うメンバーについてくるように手招きをする。一同は顔を見合わせたが、まだ醸造蔵には行っていないことを思い出し後をついていった。
「醸造されているのは、全て普通の葡萄。これだけおみやげ物や、名産品として葡萄をありとあらゆる形で売っているのに、何で金葡萄の関連商品がないのかしら?」
「あぁ……そこが腑に落ちないでござる」
「ルーノ・アレエ……彼女の機晶石は、自然にできたものじゃないのよ。あの金葡萄は、自然にできたものなのかしら?」
九弓・フゥ・リュィソーは妖艶とも取れる笑みを浮かべると、懐かしそうに蔵を見上げた。マネット・エェルはそれをなんだかうれしそうに見つめる。
「同じ金でも、金の林檎は手に入らないほうが幸せなのですわ☆」
「え、どういうことですか?」
クリス・ローゼンはしゃがみこんでマネット・エェルの視線にあわせて問いかける。
「金の林檎は、大いなる恩寵を齎すのです。でも同時に、失うものがとても多いのです。だから、結局幸せは手に入らないのです」
「……大いなるものを得ても、失うものが多い……か」
リーン・リリィーシアがルーノ・アレエの話を思い出していると九弓・フゥ・リュィソーが蔵の扉をあける。マネット・エェルは「においでふわふわするのです〜」といいながら中へついていく。
「ココの管理人に聞いたところ、金葡萄はワインに適さないそうよ」
「なに!? それはほんとうでござるか?」
「それどころか、他の加工品にもね」
九鳥・メモワールが付け足すとフランソワ・ド・グラスが眉間にしわを寄せる。
「作ったことがある、ってことでござるよな?」
「そうでなければ、適さないという結果は出ないもんね」
「付け加えるならば、だが」
悠久ノ カナタは深紅の着物を翻しながら歩み寄る。
「金の煌きが、どのような力を秘めておるのかは誰にも分からぬ。ただ、金葡萄の輝きと、金に煌く機晶石が同一のものだというのも、仮説にすぎぬ」
「そう、純粋に鉱物の金が関わっているのかもしれないしね」
神和 綺人はフランソワ・ド・グラスの顔を見てお互い何かの確信を得たように蔵から駆け出て行った。クリス・ローゼンはとっさに追いかけて二人に問いかけた。その後をアルチュール・ド・リッシュモンも追いかけていく。
「待ってください! どこに行くんですか?!」
「「ルーノ・アレエのところだ!!」」
走り去る4人の姿を見て、リーン・リリィーシア、緋桜 ケイ、悠久ノ カナタは肩をすくめた。
「ルーノさんと関係があるかないか、それを調べるために来たんだけどなぁ」
「ま、あとは俺たちで引き続き調べようぜ」
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