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聖夜は戦いの果てに

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 第1章 嫉妬刑事シャンバラン


「関羽さまあ!」
 その途端、1人の少女が関羽の前に進み出た。薄茶色の長い髪を赤いリボンでくくっているかなり可愛い女の子だ。メイド風の衣装を着て、清廉な空気を醸し出している。
「む。知らぬ顔だな。何用だ?」
 関羽だけでなく、他の参加者も知らないようで、食堂の中が小さくさわめく。それもその筈、彼女は百合園女学院の新入生だ。
「はじめましてですぅ。神代 明日香(かみしろ・あすか)と申しますぅ。関羽さま、あのう……勝負してくださいですぅ!」
 とんでもない申し出に、関羽は目を白黒させる。
「私に……勝負とな?」
 会場のざわめきが大きくなる。可哀相に、あの子関羽の恐ろしさを知らないんだ――
 そんな声はどこふく風と、明日香は関羽に笑顔を向ける。彼女は先祖代々が魔法使いという家系に生まれ、子供の頃から魔法にずっと接してきた。体術での勝算は無いが、魔法力にはいささか自信がある。
 彼女の目を見た関羽は、納得したように頷いた。
「承知。謹んでお相手しよう!」
 ステージの端まで飛び退り、青龍偃月刀を構える関羽。明日香も携帯電話から光条兵器の投擲槍を取り出し、逆端まで後退する。幸い、ステージの周囲には料理テーブルがなく、戦ってもおばさんの銃撃を受ける心配はない。
 紅の魔眼を発動し、明日香は全身から魔力覚醒を引き起こす。
「行きますよぉ!」
 槍を構えた彼女が突進する。それを関羽は、完全に見切って受け止めた。魔力をアップしているのに、関羽の刀はびくともしない。
 一度離れた明日香は、次に槍に力を込めて投擲した。槍は、魔の力で不規則な軌跡を描きながら関羽を狙う。そして、いざ突き刺そうという時――
「ふんっ!」
 関羽が素手で、槍を捕らえた。青龍偃月刀と共に武器として構えなおし、二刀流となったところで。
「どうする? まだやると申すか?」
 丸腰になった明日香は呆然とした表情で関羽を見つめ、へたりとしゃがみこんだ。
「まいりましたぁー」
 食堂の雰囲気がほっと弛緩した。関羽は満足気な顔で少女に近付き、槍を返す。
「見事な気迫だったぞ。貴殿は将来、良い魔法使いになるだろう」
 頭をぽん、と触られ、えへへーと明日香は照れたように立ち上がった。
「関羽さまにそう言われると、そんな気がしてきますう」
 光条兵器をしまい、少女は関羽に抱きついた。
「!」
 事態を見守っていた全ての人間がいろんな意味で凍りついた。メイド姿の女の子が、身体を密着させている――
 うらやましい!!!
 そう思ったのかどうかは定かではないが、突然、1人の男が割り込んだ。
「シャンバランダイナミィィィック!!!! 悪は滅びろ!!」
 叫び、明日香が腰につけていたプレゼントを掠め取ってポーズを取る。
 悪? 誰が?
 その場の人間の心が完全に1つになった時、オーソドックスなサンタの衣装に、緑色の仮面をつけたその男は、堂々と言い直す。
「嫉妬の炎に包まれて! 嫉妬刑事シャンバラン! バーニング!!」
 ああ、そういうこと……。
 人々の目が半眼になった時、神代 正義(かみしろ・まさよし)もとい嫉妬刑事シャンバランは関羽の使ったマイクに向かって朗々と口上を述べた。
「聖夜? 想い人に贈り物? 笑わせる! クリスマスはサンタクロースを待つ子供達の為にある日だろう! それをリア充共が都合の良いようにイベント改変しやがって! そんなに祭日にいちゃつきたいか! そんな奴らはこのシャンバランが相手になってやる!」
 言うだけ言ってステージを降り、シャンバランは素早い動きでイケメン達やカップルで参加した人々のプレゼントを奪っていく。瞬時にスウェーと女王の加護を身に纏い、トレジャーセンスを使ってプレゼントを確実に獲っていく様は、見事としか言えないものだった。
「ほう!」
 関羽が関心の声をあげ、「おっ?」と女性を接客していたセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)がプレゼントを奪われ、女の子との会話を楽しんでいた橘 カオル(たちばな・かおる)も持っていた箱を奪われ、他のディナーを狙う参加者や、ボーイとして食堂にいた教導団員は騒然とし始めた。
「ちょっと待てい!」
 パニックになりかけた会場に、新たな声が響いた。同時に、シャンバランが蹴り飛ばされる。既に、破れそうなほどプレゼントが詰まっていたサンタ袋から大小様々な箱が飛び出す。
 41番のゼッケンをつけたトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が、マイクを片手にシャンバランへ指を突きつけた。
「嫉妬に狂って無差別にプレゼントを奪うたあ恥ずかしくねえのか!? 『パラミタ刑事シャンバラン』の名が泣くぜ!」
「はっはっは、誰だそれは!? 俺は嫉妬刑事シャンバランだ!」
 体勢を立て直し、パラミタだか嫉妬だかのシャンバランは腰に両手を当てて高らかに笑う。
「はーん、あくまでもそう来るか……。なら、ぼこぼこにされても文句は言わねえな!」
 綾刀を構え、トライブはバーストダッシュを使ってシャンバランに突進した。
「逆刃でやってやるから安心しな!」
 刀の一撃が腹に入る。唸るシャンバランだが、こちらもソニックブレードで応戦する。音速の刃が、トライブの服を掠めた。ポケットが破けて、壊れたプレゼントが床に落ちる。外れた攻撃は料理のテーブルを真っ二つにし、からあげやタルタルソースのたっぷり掛かったエビフライを台無しにした。
「なにしてくれてんだい!」
 すかさず、食堂のおばさんが機関銃でシャンバランを攻撃する。
「わわわわわ!」
 必死に銃撃を避けながら、シャンバランがおばさんに言い訳する。
「やめっ、うおっ……、あ、後で食べますからっ! ほら、からあげやエビフライは食えますからっ! 落ちても! カレーは無理だけどこれはいけるからっ! だから許してくださいーーーー!」
 この時ばかりは、シャンバランも敬語である。
 おばさんの銃撃が止む。
「おらあ!」
 その刹那、トライブの攻撃が正面から迫る。綾刀はクリティカルヒットし、シャンバランは目を回した。

 倒れたシャンバランもとい神代 正義(かみしろ・まさよし)をふんじばって転がした後、トライブは落ちたプレゼントを1つずつ持ち主に返した。中に、自分のターゲットであったセオポルドのプレゼントがあったので頂いておく。余談だが、プレゼントには包装部分にマジックで数字を書く決まりになっていて、持ち主の手元を離れても判るようになっているのだ。
「ん? こりゃあ、誰のだ?」
 あらかた返した後に残ったのは、14という数字が書かれた小さな箱だった。正義がカオルから奪ったものだが、当の本人はもう、食堂にはいないようだ。
「ふーん……」
 トライブは箱を持って会場を見回し、ステージの上で硬直したままでいる明日香に近付いた。
「これやるよ、関羽さま挑戦記念」
 ついでに、明日香の持ち物である12番の箱も渡す。
「えっ、でも……」
「パラミタ生活楽しんでなー」
 そう言って、トライブは少女から離れた。彼女の元に、開会直後の勇気を湛えて人が集まってくる。相手のプレゼントを手に入れたし、これを守れば自分にディープキスが見舞われることはないだろう。そう思ったら空腹を感じ、トライブはとりあえず食事を摂ることにした。

 その頃、未だ目を回している正義に近寄る者があった。25番の長曽禰 虎徹(ながそね・こてつ)である。彼の相手は、神代 正義(かみしろ・まさよし)その人だった。脇にはおばさんが立っている。揚げ物を食べるまで正義を許すつもりはないようだ。
 床にこぼれたタルタルソースを踏まないように気をつけながら、虎徹はサンタ服の中に手を突っ込んだ。出てきたのは、新聞紙に包まれた仮面の予備である。仮面は、トライブの攻撃をくらってすっかり割れてしまっていた。
「仮面ですか。作刀に使えますかね」
 彼は振り返って、パートナーのアトロポス・オナー(あとろぽす・おなー)に苦笑を向けた。