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リアクション
第2章 集える者・1
「う〜む……」
帰途につきながら、マイトは首を捻っていた。
(……やっぱり俺が悪かったのか?)
「チビだ」「小さい」がNGワードだったようだが、そんなもの初対面相手に分かれと言う方が無茶だろう。
「まぁ……相方がしっかりしたヤツっぽいから、しばらくすりゃあ落ち着くだろうさ」
そして、選手参加はキャンセルって事になるだろう。いくら何でも借金の証文みたいに「一度名前書いたら云々」みたいな騒ぎにはなるまい。
よし、これでさっきのチビっこい女の子の件は忘れよう。
マイトは気を取り直すと、携帯電話を取り出した。
「件名:サッカーやらないか
本文:
蒼学で何だか面白そうなサッカー大会やることになった!
俺は紅チームで参加する事にしたぜ!
野郎ども、俺様と一緒にグラウンド走り回って相手チームのゴールにシュートバカスカ決めてやろうZE!
ヒャッハー!
送信先:イルミンスール武術部」
(ついでにあいつらにも送っておくか)
「追加送信先:神代 正義(かみしろ・まさよし)/椎名 真(しいな・まこと)」
しばらくすると、順次返事が返ってきた。
四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの):
「実行委員の救護班に回ります。ほどほどにしてください」
メトロ・ファウジセン(めとろ・ふぁうじせん):
「もう実行委員として仕事しているんだじぇ」
日下部 社(くさかべ・やしろ):
「観客に回る。ツッコませてもらうで」
遠野 歌菜(とおの・かな):
「やりますやります! 一緒に頑張りましょうヒャッハー」
ルイ・フリード(るい・ふりーど):
「応援に回る! しっかり応援させてもらうぞ」
椎堂 紗月(しどう・さつき):
「ダディが紅の応援に回るってんで、俺は白の応援をする。悪い」
鬼崎 朔(きざき・さく):
「やるからには勝ちましょう、絶対に」
赤羽 美央(あかばね・みお):
「すみませんけど白でやります。部長と戦ってみたいので」
椎名 真(しいな・まこと):
「面白そうだな。一緒にやろう」
神代 正義(かみしろ・まさよし):
「ちょっとやってみたい事がある。選手で出るんじゃないんだが、会場で会おう」
少し意外ではあった。武術部の連中のほとんどが、選手参加する気がないなんて。
「けど、こいつらが来てくれるか」
マイトはニヤリと口元を歪めた。
遠野歌菜、鬼崎朔、椎名真。この三人が来てくれるのは頼もしい限りだ。
そして、敢えて敵に回るという赤羽美央。何やらかすのか想像もできないが――
(相手に取って不足はない、って事だな)
さて、試合当日までに、あと何人を紅組に引き込む事ができるのか。あるいは、白組はどれだけの選手を揃えてくるのか。
そうか。そう言う事か。マイトは気付いた。
チーム作りから、この試合はもう始まっている。
まずは、イルミンスール武術部等こちらの身内から紅組に参加した三人の分。紅組は大きく白をリードした。
もっとも、赤羽美央が味方についた事で、白も大きな一歩を踏み出したと言えるのだが。
蒼穹学園のカフェテリアの片隅で、芦原郁乃は頭をテーブルに突っ伏させて「う〜ぅん」と唸っていた。
「桃花〜ぁ、どうしよ〜う?」
「選手参加の申し込みをした事ですか?」
テーブルに突っ伏したまま、芦原郁乃は頷く。
傍らに座る秋月桃花は溜息をついて、「やれやれ」と頭を横に振った。
「素直に窓口に行って、『辞めます』って言うしかないでしょう?」
「分かってるよぅ、そんな事」
「じゃあやればいいでしょう?」
「でもさぁ」
「何ですか?」
「……あの時のパラ実のヤツに負けた気がしちゃうからヤだ……」
(変な所で負けず嫌いなんだから)
「変な意地張ったって、仕方ないでしょう? サッカーはひとりでやるものじゃないんですから」
「そうだよねぇ」
「一度言ったのを取り消すのが気まずいのは分かりますが、それなら尚更早めに話を終わらせませんと」
「……やっぱりそうだよねぇ」
「それでは、窓口に参りましょうか。私もご一緒しますから」
その時、カフェテリアの入り口が少し騒がしくなった。
ふたりがそちらを見ると、活発そうな女の子数人のグループが、キョロキョロと周囲を見回している。全員、百合園女学園の生徒のようだ。
その中のひとりと眼が合った。眼があった瞬間、その子はこちらを指さして「あ、いたよ、いたいた!」とグループの他の子に言った。
(? あんな子知り合いにいたっけ)
すると、グループの他の女の子も一斉にこちらを見て「やっと見つけた!」「こんな所にいたんだ!」等と言いながら、足早に近づいてくる。
「桃花? 百合園に友達なんていたっけ?」
「いいえ? 郁乃様は?」
ふたりはお互いに向けて首を横に振る。
そして、百合園の女の子達はふたりのついテーブルにつくと、嬉々として「ねぇっ!」と身を乗り出してきた。
「芦原郁乃ってあなたの事!?」
「白のキャプテンなんでしょ!?」
「ポジションどこっすか?!」
「サッカー始めてどれくらいになる!?」
「何か得意技なんてある?!」
「好きな選手は!?」
「何か作戦とかあるの!?」
食いつかれそうな勢いにたじろぐ芦原郁乃。が、退いた分、百合園の子達はさらに身を乗り出してくる。
「あ、いや、その」
「嬉しいなあ! 私達以外にも女の子でサッカーする子いたんだ!」
「ほら、百合園ってお嬢様学校でしょ!? だから生徒でもこういうスポーツする子とかってあんまりいなくってさぁ!」
「試合がんばろうね! 私達、いっぱいシュート撃ちまくるからさ!」
「あの、いゃ、ちょ、ちょっと待って。これにはわけが……って、うわあああっ!」
「「きゃあああああっ!」」
「「「ええぇぇぇっ!」」」
「「危ないぃぃぃっ!」」
どんがらがっしゃん、という音がした。
テーブルに身を乗り出していた百合園のグループはバランスを崩してテーブルごとひっくり返り、巻き込まれた芦原郁乃も地面に転がり、秋月桃花は派手な音でこちらに眼を向けてきた辺りの人々にペコペコと頭を下げていた。
「あいたたたた……」
「あ、ごめんなさい、芦原さん」
「ゴメンゴメン。ケガなかった?」
「きっと大丈夫だよ。サッカーだったらもつれて転んだりなんて、よくあるよくある」
「日常生活とサッカーを一緒にするのはどうかと思うなぁ」
(みんなしてテンション高いなぁ)
身を起こしながら芦原郁乃は思う。この子達の言った通り、百合園はお嬢様ばっかりがいる所、って聞いていたけど。
秋月桃花と眼が合った。その眼が、(早く何とかしないから、こんな事に)と告げている。
「あ、あのさ……ちょっと聞いて欲しいんだけど」
「ん? あぁ、ごめんごめん。自己紹介まだだったね?」
「いや、自己紹介よりも先に……」
すると、またカフェテリアの入り口から「お、いたぜ」と声がした。
今度は蒼空学園の制服を着た、男の子達のグループ。
「お、何だか知った顔がいるな」
「もうメンバー集めてミーティングやってるんですか」
「頼もしいですね。白の勝利は固いですわ」
「足を引っ張らぬよう、気をつけなくては」
男の子達のグループも、何だか活発で元気そうで。しかも、百合園の子と同じような雰囲気がある。
芦原郁乃は悟った。どうやら同じ手合いらしい。
男の子達のグループも郁乃の近くまでやって来る。その中のひとりが咳払いをした。
「ゴホン……えーと、俺は蒼空学園サッカー部部長の……」
「すいません」
郁乃は突然頭を下げた。
「? すまん、俺が何か気に障ったか?」
「いえ、そういうわけじゃないんです。実は……」
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