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第3章 集える者・2

 郁乃からの話を聞いて、その場の者達は「う〜ん」と腕組みをして黙り込んだ。
「その……すみません」
 芦原郁乃はまた頭を下げる。
「……はぁ」
 レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)が、消沈したような溜息をついた。
「眠くなってきたぁ……寝る」
「レロシャン、露骨にやる気なくさないの」
 パートナーのネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)がテーブルに突っ伏するレロシャンの背を揺する。
「勢いだけで、選手に名乗り上げちゃった、ってコトっすか」
 藤 凛シエルボ(ふじ・りんしえるぼ)の何気ない台詞が、郁乃の胸に突き刺さる。
「……白チーム最初のエントリー、それも女の子っていうから、顔見るの楽しみにしてたんだけどなぁ」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)の溜息が、また郁乃の居心地を悪くする。
 はぁ、とまた誰かが溜息をついた。そして沈黙。
 場の空気が重い。息が詰まりそうだ。針のムシロなんて生やさしいものじゃなかった。
(……受付窓口、行こうか?)
 芦原郁乃は眼で秋月桃花に問いかけた。
(そうですわね)
 ふたりが立ち上がると、「どこに行くんだ?」と葛葉 翔(くずのは・しょう)が声をかけてきた。
「受付窓口。私の参加、取り消してきます」
 答える芦原郁乃に、「辞めちゃうの?」とミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が訊ねる。悪意はないんだろうけど、咎められてるように聞こえた。
「だって……別に私、サッカー好きってわけでもないし、運動にぶちんだし……チームにいたって他の人の足引っ張るだけだし……」
「いいんじゃないか? 負けず嫌いってのは競技者には必須だ」
 葛葉翔がニヤリと笑う。
「後先考えずに選手登録って所が気に入ったぜ。実にいいぜ、芦原さん」
「誰かに負けたくないから、ってのは立派な動機です。私もそう思います」
 安芸宮 和輝(あきみや・かずき)も微笑む。
「一番最初に『白』で選手参加を表明された女の子ですから、どんなスポーツ選手がいたかと思ったら……意外ですわね」
 クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)がクスクスと笑った。
「うん。芦原さんは間違ってないよ、断言する」
 秋月葵の口調は力強い。
「人に向かってチビだ小さいだ言うヤツなんて、ロクなもんじゃないよ。ギャフンと言わせてやろうじゃないの!」
「そうだよねぇ。そんなコト言うヤツなんて、許せないよねぇ、葵?」
「……グリちゃん? 何が言いたいのかしら?」
「別に?」
 イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)はニヤニヤしながら秋月葵を――正確にはその背丈を見ていた。
「きっかけはどうあれ、話を聞いて私達は集まった。そのきっかけは、芦原郁乃さん、あなたです」
 安芸宮 稔(あきみや・みのる)がテーブルについている全員を見回した。
 安芸宮稔は葛葉翔、安芸宮和輝とともに蒼空サッカー部のメンバーだ。見た限り、わざわざ百合園学園からやってきた女の子達も、何らかのスポーツをやっているっぽい。
「せっかく揃ったこのメンバー。もし勝ちたいと思うのなら、なかなか頼れると思いますよ?」
「勝てるよ、絶対。私達がいるんだから……そうよね、レロシャン?」
「zzz……だぶるあくせらぁ〜……とりぷるぅ〜……どんどん行くよぉ〜……」
 テーブルの下で、レロシャンの脚がヒョコヒョコと動いた。
「ネノノ、お前の相棒の必殺シュートってのはどんなものなんだ?」
 怪訝な顔をする葛葉翔に、「ナイショ」とネノノはウィンクする。
「ボールはどんどんこっちに回してよ。あたし達にも必殺シュートがあるから」
「葵、あれ使うつもり?」
 秋月葵の台詞に、イングリットがわざとらしく驚いた。
「あれってば、危険すぎて封印するって……」
 秋月葵は、いたずらっぽさと不敵さが入り交じった笑顔を浮かべた。
「スキル使い放題なんでしょ? ここで使わないでどうするっての?」
「でも、以前にあれテストして、ゴールポスト壊しちゃった事が……」
「あの、百合園のみなさん?」
 クレアが口を挟んだ。
「あなた方は部活で一体どんな練習をされてるのでしょう?」
「「「ナイショ」」」
「……くおどらぶるぅ〜……くいんちゅぷるぅ〜……四速五速ぅ〜……」
「夢の中で自動車にでも乗ってるのか?」
「うーん。多分サッカーやってると思う」
(どんなサッカーだよ)
 蒼空学園サッカー部のメンバーは心中でこっそりとツッコんだ。
「ま、詳しい話は後だ……選手登録の窓口どこだい、キャプテン?」
 葛野翔が郁乃に訊ねた。
「ええと、カフェを出てですね、中庭の道を……キャプテンって誰?」
「お前さんに決まってるぜ、我らが白のキャプテン」
 葛葉翔が、芦原郁乃に向けて親指を立てて見せた。
 つられて他の者も親指を立てる。
 寝ているはずのレロシャンも何故か親指を立てていた。夢の中でシュートを決めたらしい。
(体育会系って、こういうノリなわけ?)
 芦原郁乃は天を仰ぎ、溜息を吐いた。