空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

作戦名BQB! 河原を清掃せよ!

リアクション公開中!

作戦名BQB! 河原を清掃せよ!
作戦名BQB! 河原を清掃せよ! 作戦名BQB! 河原を清掃せよ!

リアクション

  5.Slime,Slimy Smile


 夢野 久が奇跡的な生還を果たす一時間ほど前のこと。
「ぶひょほほほ。スイカ拾っちゃった」
 ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は河に浮いていたスイカを拾い。ご機嫌であった。スイカは、網に入れられた状態で水面に浮いていた。よく冷えていて、旨そうだ。まったく川にスイカが浮いているとは不思議なこともあったものだ。パラミタでは良くあることなのかも知れない。
「……」
 魂にも、万有引力のようなものがあるのかも知れない。
 ブルタは、一目で時貞 カンパネルラが、波羅蜜多企画の関係者であることを悟った。
 時貞の方も、ブルタを一目見るなり大きく頷き、
「君こそが少女達をもっとも輝かせるライトに相応しい」
 などといって薄紫色の粘液質の物体の入ったガラス瓶を押しつけた。
 ブルタは穴を掘る。一掘りごとに、願いという名の煩悩を込めて。

 なぜか河原で死にかけていた夢野 久の蘇生が成功し、一時騒然となっていたサトレジ川周辺も、元の穏やかな雰囲気に戻っていた。
 彩祢 ひびきはかなりしつこく久に何があったのか尋ねたが、久は最後まで「濡れた石に足を滑らせただけだ」といって譲らなかった。
「ん?」
 素足の爪先を川に浸していたひびきは異様な目つきで自分を見つめるブルタに気付いた。
「な、なぁに」
「ふほ、ス、スイカ割り大会しないか? スイカは用意した」
「あやしいわね」
 四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)は、うさんくさげな眼でブルタを見る。
 そんな彼女を見つめるブルタの眼は、まるで燃え上がるかのように輝いている。外見年齢にしておよそ十歳。実年齢よりも若く見える唯乃。
「――少しトウが立ってるな」
 聞こえるか聞こえないかの声量で呟くブルタ。もちろん、声の大きさは計算尽くされたものだ。
「あぁん!?」
 唯乃は、シィリアン・イングロール(しぃりあん・いんぐろーる)でも見たことのないような表情でブルタを睨みつける。
 唯乃とシィリアン以外にはブルタの呟きは聞こえなかったらしく、ひびきは不思議そうな顔をして三人を見つめている。
「彩祢さん、こいつ怪しいよ!」
 唯乃は、真犯人を指摘する名探偵のようにブルタを指さす。
「うーん、でも、せっかくスイカ準備してくれたんでしょ?」
 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が顔を出す。
「でもこいつ怪しいよ!」
 唯乃は強情に主張する。唯乃の女性としての本能が、ブルタを危険な存在だと叫んで止まないのだ。
「まぁまぁ、せっかくだからやりたい人だけ参加するっていうことでどうかな? 実はボク、スイカ割りってやったことないんだ!」
 彩祢ひびきは、背中からハタキを抜き取り素振りする。ハタキとは思えぬ鋭い風切り音が響く。
「……そういうことなら、まぁ」
 唯乃は不承不承頷く。今回の清掃活動の発起人であるひびきにそういわれると、何となく反対しにくい。
「目隠しならば、こちらに」
 高里 翼(たかさと・つばさ)は、どこからか白い目隠しを取り出す。まさに至れり尽くせり。メイドの鏡である。
「ひょほほ」
 ブルタは今にもスキップしそうな勢いで、スイカ割り大会の参加者たちを会場へと誘った。
 唯乃と翼は、まるで戦場に立つ兵士のような眼で、一歩歩くごとにぷるぷると揺れるブルタの背中を見送った。

 ちょうど木陰になった岩に腰掛けて、仲良く弁当をつまんでいる二人。
 薔薇の学舎をまなびやとする上月 凛(こうづき・りん)ハールイン・ジュナ(はーるいん・じゅな)だ。
「おやおや」
 守護天使であるハールインは、自らの禁猟区の力が、邪なものの存在を感知したことに気付いた。
「どうした?」
 凛はBLTサンドを一口かじってから、ハールインを見つめる。
「いや、あそこでやっている儀式。何か良くない感じがするよ」
 ハールインの視線の先を見た凛は苦笑を漏らす。
「あれはスイカ割りっていって、日本の遊びだよ」
 彼らの視線の先には、ブルタ主催のスイカ割り大会の会場がある。今まさに、スイカ割りの最初の挑戦者アリア・セレスティが目隠しをして木刀を構えているところだった。
 確かに、目隠しをして木刀を持つ姿は、スイカ割りというものを知らないものから見れば異様な光景だろう。
「アリアちゃん、もうちょっとだけ前、もう少し右だよ!」
「がんばってくださいねー」
 方々から声援が飛ぶ。アリアは声に従って、おぼつかない足取りで少しずつスイカの方へと近づいていく。
「いまですよ!」
 高務 野々(たかつかさ・のの)の声に、アリアは木刀を振りかぶる。
「ぶひひ!」
 ブルタの不吉な笑い声が響く。
 アリアの木刀がスイカを掠めて地面を叩く。勢い余って前のめりになるアリア。
 彼女の足もとが崩れ、アリアは深さ1メートルほどの穴にはまり込んだ。
「いやぁ、何これ」
 アリアは情けない声を上げ、自分の身体にまとわりつく薄紫の粘液質の液体を引き剥がそうとする。
 アリアが手で身体にまとわりついたスライムを引き剥がそうとすると、スライムと一緒に自身の服が細かな繊維となって剥がれる。
「恐れていたことが起こりました……いえ、想像だにしていませんでしたが」
 アリアが落とし穴に落ちた際、すぐ側にいた野々のメイド服にもスライムがはねたのだ。
 スライムが付着したエプロンはまるで虫食いにあった様に穴が空き、その下のスカートさえも貫通し太ももが覗いている。
 まるで強酸を垂らされたようにも見えるが、人体そのものには何の影響も及ぼさないものらしい。
「許しませんよ!」
 野々はブルタの前に立ちふさがる。
「ボクを断罪する君は、さぞ気分がいいだろうね」
 ブルタはまるでスライムを思わせる粘つく声音で、独り言のように呟く。
「知ったことかぁ!」
 野々は一本足打法のフォームで、高級はたきをブルタの顔面に叩き込んだ。
 吹き飛ぶブルタ。
 そのまま、岩の上で昼寝していたジャジラッド・ボゴルに衝突する。
「ン……」
 巨躯を誇るジャジラッドも、肥満体のブルタに直撃されては昼寝を続けることができなかったようだ。
 冬眠から突然目覚めさせられたクマを思わせる目つきで、ジャジラッドはあたりを睥睨する。
 自分が目覚めに食べようと考え、川に浮かべていたはずのスイカは岸でスライムまみれになっている。
「そのスイカは、だれが準備したものかな?」
 ジャジラッドは、あっけにとられてことの推移を見守っていた凛に尋ねる。
「ええと、その人、なのかな?」
 凛は全部見ていた訳じゃないけれど、心の中で付け加える。
「ありがとうお嬢さん。お嬢さんもスイカ割りなどどうかね?」
 ジャジラッドは、凛に尋ねながら、ブルタの身体を、砲丸投げの選手のように担ぎ上げる。
「そいやぁ!!」
 そのまま投擲。きれいな放物線を描いて、足から岸の砂の中に埋もれるブルタ。
「スイカ割りを始めようか? 今までの苦痛をすべて数えろ。それを百倍したのが、これからお前が味わう苦痛だ」
 ジャジラッドはどこからか釘バッドを取り出し素振りを始める――