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作戦名BQB! 河原を清掃せよ!

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作戦名BQB! 河原を清掃せよ!
作戦名BQB! 河原を清掃せよ! 作戦名BQB! 河原を清掃せよ!

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  清掃開始!


 しばらく続いていた梅雨空も、今日はさっぱりと晴れ渡っている。
 所々に浮いている白い入道雲は、もう夏がやってきたのかと錯覚させる。
 朝焼けが、川面にきらめく。
 2020年、6月28日日曜日。梅雨明け前の、ぽっかりと空いた晴れの日。
 時刻は午前6時32分。
「ねもい」
 完全非武装を体現するブーメラン水着姿のソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)が呟く。予報によれば、今日の最高気温は摂氏30度を超えるという。夜明けも迎えて二時間ほどが経過している。たった二時間だが、今日は暑くなるだろうことを予感させる太陽だ。
「そのまま川に入れば眼もさめるんじゃないかしら?」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が呟く。リカインは、とある失敗を反省したと言うことを形で現すため今回のボランティア清掃に参加している。その意気を示すかのように、今回は武器の類はすべて置いてきた。
「まぁまぁ、二人とも。今日はほかの皆さんとも一致団結して川を綺麗にしなくてはいけませんよ」
 いかにも優しいおばあちゃん、といった感じの中原 鞆絵(なかはら・ともえ)だが、リカインとソルファインはその声に背筋を伸ばす。
「これが神秘の巨乳川――」
 シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)は右手をひさしのようにして、河を見渡す。
「サトレジ川よ」
 リカインはこめかみのあたりをも見ながら嘆息する。ブーメラン水着を履いているソルファインは論外としても、シルフィスティもどこまでまじめにやってくれるのか心配になる。
「気合い入ってるね!」
 彩祢 ひびき(あやね・ひびき)は、なぜかブーメラン水着姿のソルファインを頼もしげに見つめる。そんなひびきの格好と言えば、まるで農作業をするかのようなもんぺに、なぜか白い割烹着を着ている。蒼空学園の生徒ならば何度か見たことがあるかも知れない彩祢ひびき清掃スタイルだ。
「――その格好は何ですか?」
 尋ねるリカインに、ひびきは純白の割烹着の裾を引っ張って笑ってみせる。
「宮本武蔵に教わったのでございます」

 ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)は、サトレジ川周辺の地図を広げる。
「帝王の俺が、帝王な感じで下調べをしておいた!」
 ヴァルは、地図を大げさな音を立てながら広げてみせる。地図にはエリア毎に色が塗り分けられ、様々な書き込みがしてある。
 キリカ・キリルク(きりか・きりるく)は、何か気になることでもあるのか、ちらちらと川の方を気にしている。
「まあ、大きなゴミが多いとか、いろいろ書いてありますね」
 鞆絵はヴァルの掲げる地図を見つめて感嘆の吐息を漏らす。
「うむ、お年寄りは河原のゴミ拾いをお願いしよう! 腰を痛めぬよう休みながら清掃に励むのだぞ!」
 あくまでも帝王として上からものを言うヴァルに、そばで二人のやりとりを聞いていたリカインは戦々恐々とする。
「まぁまぁ、優しい子ねぇ。それじゃあこの子たちとゆっくりやらせてもらおうかしらねぇ」
 鞆絵は、ヴァルの言葉にほほえみながら何度も頷く。
 今度はヴァルの傍らに立つキリカが顔をこわばらせる。自らを帝王と呼んではばからないヴァルが、子供扱いされて怒らぬ道理はない。
「がっはっは! お年寄りを大切にするのも帝王の仕事よ!」
 ヴァルはそのままひっくり返るのではないかと心配になるくらいに胸を反らせて高笑いしている。
 キリカはヴァルの隣で密かに嘆息する。
「あのう、我はどのようにすればよろしいでしょう?」
 稲荷 白狐(いなり・しろきつね)は、ためらいがちにヴァルに声をかける。
「ふむ、おまえはそこの彩祢 ひびきとともに、対岸の河原周辺を徹底的に清掃だ! 任せたぞ! サトレジ川の明日はおまえの双肩にかかっている!」
 白狐は、なにやらテンションが上がってきたヴァルの言葉に気押されながらも何とか頷く。
 ふと視線を転じると、割烹着姿のひびきと視線が合う。ひびきは満面の笑みを浮かべると、軍手をはめた両手の親指を立てて見せた。ヴァルのテンションに感化されたものらしい。
「あのー。いいんですか?」
 橘 綾音(たちばな・あやね)がひびきに耳打ちする。
「んー? なんだかすごく事前の根回しがんばってたみたいだし、やる気のある人は大歓迎だよ」
 ひびきはボランティア清掃を呼びかけた者として少しだけ早くサトレジ川にやってきた。しかしそのときにはすでに、ヴァンはサトレジ川周辺のゴミマップを完成させていた。
「なんと言いますか、あっぱれな熱意ですね」
「あっ、綾音ちゃんとボクは、名前がちょっと似てるね。綾音と彩祢。まったく土偶だね! ダブルアヤネだね!」
「土偶、ですね」
 とりあえず『ダブルアヤネ』の件は無視して、綾音は無意識の内に視線をそらした。その先には、腕組みをしたロボット的なものが仁王立ちしている。
 パワードスーツを着込んだエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)だ。綾音の視線に気付くと、エヴァルトは右手の親指をぐっと立てて見せた。その隣ではエヴァルトのパートナーであるロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)がやはり親指を立てている。
(流行ってるのかしら……)
 綾音もとりあえず、ヒーローよろしく朝日を背にサムズアップするエヴァルトたちに向かって親指を立ててみせるのだった。

 グループ分けもつつがなく終了し、ひびきはゴミ袋と軍手を配っていく。
「今日は暑くなるから、みんな無理しないでね。お昼前には終われるようにがんばろう! あと、もし怪我をしたらすぐに教えてね」
 ひびきの声に、参加者は不揃いな返事を返す。
「よーし、サトレジ川清掃作戦、始めよう!」
 未だ妙なテンションがさめないのか、ひびきは右手の親指をぐっと立ててみせる。
 ノリのいい学生は同じように親指を立てる。
「こ……こうでしょうか」
 白狐は、周りを見回して自分の軍手に包まれた親指を立てるのだった。