校長室
作戦名BQB! 河原を清掃せよ!
リアクション公開中!
8.Lucciola めまぐるしい一日だった。 白砂司は、自分で持ち込んだバーベキューセットをかたしながら、あくびをかみ殺す。 みんなで掃除したばかりの川で網などを洗うのは心苦しい。あとがたいへんだが、このまま持って帰るしかないだろう。 「お兄ちゃん、もう痛くない?」 ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)は、エヴァルト・マルトリッツにヒールをかけながら尋ねる。 エヴァルトは、なんとか頷いてみせる。ヒールで傷は癒えても、ひしゃげたままのパワードスーツの装甲が肋骨を圧迫してきて痛いのだ。 ミュリエルは、「人のためにがんばればきっといいお嫁さんになれる」というエヴァルトの言葉を受けて、あちこちの負傷者を治療してまわっている。 「ちょっと水浴びに来たつもりが、なんだかたいへんなことになりましたね」 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が腕組みをして、ゆっくりと夜の闇に染まりつつあるサトレジ川を見回す。 「一時はどうなることかと思ったわ」 エノン・アイゼン(えのん・あいぜん)は、スライムによってとかされた水着を見て小さく嘆息する。小夜子と色違いで新調したビキニは、一度着ただけで使い物にならなくなってしまった。 「替えの服を持ってきておいて正解だったわ」 「そうですね」 小夜子は、エノンの用意してくれたブラウスを引っ張って笑う。この笑顔が見れただけでも、よしとするか。エノンはもう一度だけ小さく溜息をつくと、小夜子の手をしっかりと握った。 ミルディア・ディスティンの持ってきた着替えようの目隠しカーテンの前には、長蛇の列ができている。 「はーい、順番ですよ〜」 ミルディアは、列の前に並ぶ学生達に声をかける。 「替えの服がない人は良かったらどうぞ」 イルミンスール魔法学校の音井 博季(おとい・ひろき)は、あらかじめ用意しておいたローブを配っていく。用意した分のローブは瞬く間になくなってしまう。 「くくく、生着替えショーやで」 アイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)は、光学迷彩で姿を隠し、着替え中の女子の姿をカメラに収めようとじりじりと移動していく。 「みつけたぞ、怪しいヤツめ!!」 天城 一輝(あまぎ・いっき)の声が空から降ってくる。何もないはずなのに草むらが不自然に動いたことに、一輝だけが気付いたのだ。 「とうっ!」 飛翔する一輝。その脚には、ゴム紐が括り付けられている。重力に引かれ落下する一輝。その下には―― 「怪しいのはあなただよ!!」 ミルディアの回し蹴りが炸裂する。ゴムの縮もうとする力と、ミルディアの脚力が偶然に合わさり、一輝は天高く舞う。 一瞬だけ地上でたわんだゴム紐が、カメラを構えたまま匍匐前進していたアインの腕に絡みつく。 「なんでやねーん!!」 アインも一輝を追うような形で空中に放り投げられる。その衝撃で、アインの手からカメラと一つのガラス瓶がこぼれる。 「うわっ」 博季は突然落下してきたガラス瓶を器用にかわす。 「いやーーー!」 レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)が悲鳴を上げる。レイナの視線の先には、ガラス瓶に中に入っていたスライムによってローブを溶かされた博季の姿があった。 アインがカンパネルラ 時貞から、密かに受け取っていた服溶かしスライム入りのガラス瓶が博季のすぐ側に落下してしまったのだ。 「え? あれ?」 全滅したと思ったスライムに反応できない博季はただうろたえるばかりである。 「レイナ様のお目になんておいうものを――」 リリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)はどこからか取りだした薙刀を博季に叩きつける。もちろん峰打ちだったが、重たく痛そうな音が響く。 消滅するスライム。鼻血を吹き出しながら吹き飛ぶ博季。 「む、アインのヤツ。旨いものを食わせてくれるという約束はどうなったんじゃ!」 吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は夜空に向かって吠える。 かすみがかった月が、ぼんやりと浮かんでいた。 最初にそれに気付いたのはだれだったろうか。 あるいは、いじけて草むらの草をむしっていた競泳水着姿の博季だったかもしれない。 いくつもの緑色の光が、明滅を繰り返しながらあたりを飛び交っている。 「あれはなぁに?」 樂紗坂 眞綾は、牛皮消 アルコリアの手を引いて尋ねる。先ほどまで眠たそうにしていたのが嘘のようなはしゃぎぶりだ。 「パラミタソスウホタル――ですね。俗説では、光の明滅時間で意志疎通をしているともいわれます」 側に立っていた影野 陽太が説明する。パラミタソスウホタルはその名の通り、2、3、5、7、11秒という光の明滅周期を持つパラミタ固有の蛍だ。 急速に進む開発の影響で、その姿はほとんど見られなくなっている。 人工の明りのほとんどない夜の川の上を、数百の光が飛び交う。 複雑な光の明滅は、たしかに虫たちが光で思いを伝えあっているようにも見える。 だれもが言葉を忘れたようにその光景に見入る。 岸に立ったミュリエルは、光に向かって手をさしのべた。 その細い指先に、一匹の蛍が止まる。 か細い光が、一人の少女の小さな手のひらを照らした。
▼担当マスター
溝尾富田レイディオ
▼マスターコメント
作戦名BQB! 河原を清掃せよ! へのご参加ありがとうございます。 遅刻してしまいまして、参加者の皆様に対しては本当に申し訳ない気持ちで一杯です。 今回のリアクションでは、これ一本で1ヶ月分の『胸』という単語を使いました。 なかなか得難い、よい経験をさせて頂きました。 外が暑いと、つい室内の冷房を強くしてしまいますね。みなさんも風邪など引かれぬよう、お体を大切にしてください。 それでは、またいつか。