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リアクション
6.サトレジ蘇民祭
裸に紐を巻き付けただけ、といった格好になったアリア・セレスティは、数人の学生たちの手によってようやく救出された。
「これは……大変ですね」
メイドである高里 翼は、当然のたしなみとして裁縫の心得もある。スライムによってとかされた服は、とても針と糸でどうにかなるものではない。
一方、岸での騒ぎに気づかず大騒ぎしているものたちもいる。
「ナガンの胸よ、さあ、ふ・く・ら・む・が・い・い」
ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は、サラシを巻いた自分の胸にサトレジ川の水を勢いよくかける。
桐生 円(きりゅう・まどか)も、あくまでもそしらぬ顔でタンクトップビキニの水着に包まれた自分の胸に水をかけている。
「ナガン、超貧乳だなぁ」
心の底から哀れむような円の声。しかし、ナガンは余裕の表情で円を見返す。
「上げ底の胸で何を……安いメッキはすぐにはがれるぜ」
ナガンの指が、電光石火の早さで円の胸に触れる。
「きゃっ」
円の胸が変形した。
「くくく、高性能乳パッドは一度ずれるときれいな形に戻すのが大変だぞぉ」
2020年の科学力を結集して作られた超高性能乳パッドといえど、自動で自然なポジションに収まってくれる機能は持っていない。
「ナガンだって上げ底じゃないか!」
円もお返しとばかりにナガンの胸を揉もうとする。
「――な……に」
円は愕然とする。ナガンの胸にきつく巻かれたサラシ。サラシによってがっちりと固定され、押しつぶされた極厚乳パッドは、一般男性には天然乳と見分けることは不可能だ。
「ね〜ね〜、アルママ」
ハーフフェアリーの樂紗坂 眞綾(らくしゃさか・まあや)は、とったばかりの写真データをオンラインストレージに送信しながらパートナーの腰に抱きつく。
「あらあら、どうしたのかしら?」
牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は、中腰になって眞綾と視線の高さを合わせる。
「どうしてまどまどとにゃが〜んはあたしよりおムネがちいさいの?」
眞綾は赤ちゃんはどこからやってくるのか尋ねるのと同じくらい、純粋で夢にあふれたまなざしをアルコリアに向ける。ちなみに眞綾の外見年齢はおよそ11歳ほど。
「きっと悲しいことのたくさんあって。あの子たちの胸はしぼんでしまったのでしょうね」
「そっかぁ〜。かなしいときに胸がしめつけられるよう、っていうもんねぇ。まぁやもいろいろ経験したら、おむねちいさくなるのかなぁ」
眞綾は自分の胸に触れてみる。
「あなたは大丈夫よ。私がいるのだもの」
アルコリアは眞綾の柔らかな髪をそっとなでる。
「さあ、お嬢様方。私が胸の育て方を教えてあげましょう! 揉むのですよ! コリコリと!」
胸を揉む擬音としてコリコリというのは、少し妙な感じもする。ナガンと円ならば、すぐに胸骨に指が触れてコリコリとするのかもしれない。
「こりゃあ、たまらんばい!!」
秋葉 つかさ(あきば・つかさ)は、岩場に身を隠しながら鼻息を荒くする。女子のぞき部の誇り高き部長であるつかさは、何かが起こりそうな予感に突き動かされてサトレジ川に張っていたのだ。
つかさは、ナガンと円の乳を追い回すアルコリアを、熱に浮かされたような眼で見つめている。
「水辺で女の子が駆け回ってるのに漂ってくるデカダンな感じ……たまらんばい!」
なぜか男気にあふれた口調でつぶやくつかさ。
「わたしの手に余らないジャストサイズです」
まるで慈母のようなほほえみを浮かべるアルコリアの左手には、六枚の乳パッドが握られている。
「牛ちゃん……恐ろしい子」
乳パッドを抜かれたために、だぶだぶになってしまった水着を抑えながら円は震える声で呟く。彼女の白い肌は、何度となくアルコリアに揉まれたせいでかすかに赤くなっている。
「っく、やられっぱなしにいてたまるか」
ナガンがアルコリアの胸に手を伸ばそうとする。しかし、アルコリアはその腕を難なくつかみ取る。
「胸を大きくしたいなら牛乳です」
アルコリアはナガンの腕関節を極め、強引に自分へと引き寄せる。自分の痛みにはほとんど無関心なナガンだが、アルコリアの異様な迫力の前に身がすくんでしまって声さえも出ない。
「眞綾、あれを」
「はぁーい。アルママ、どうぞ!」
眞綾はカメラケースの中から、なぜかガラス瓶に入った牛乳を取り出す。蓋を器用に片手で外すと、恭しい手つきでアルコリアに手渡す。
「牛乳を飲めば大きくなれますよ」
アルコリアは牛乳を口に含むと、ナガンの唇に自身のそれを重ねる。
「む、むー!!」
眼を向き激しく痙攣するナガン。ナガンの白い喉がゆっくりと上下する。
「どうかしら?」
アルコリアは、唇の端からこぼれた一筋の牛乳を手のひらでぬぐい取る。
「まぁ、いくら牛乳を飲んでも胸が大きくなったりしないけどね」
アルコリアはナガンの腕を放す。放心状態になったナガンは、川の流れのままに下流に向かって流されていく。
「い……いやぁ……た、助けて―!!!!」
円は、腰を抜かしたまま水底を蹴ってアルコリアから逃げようとする。
眞綾はその表情をカメラに収める。
「ぬはー! ぬはー!!」
つかさは顔を真っ赤にしてアルコリアたちに見入っている。
そんなつかさの近くに、スイカ割り大会のごたごたで跳ねた服溶かしスライムが落下した。
服溶かしスライムは、水と接触することで急速に分裂増殖していく。
増殖した服溶かしスライムがつかさのメイド服に接触する。
すさまじい勢いで分解されていくつかさのメイド服。服溶かしスライムによる服の分解は、まったくの無音の内に進行していく。
「部、部長〜〜!」
ゼファー・ラジエル(ぜふぁー・らじえる)が、背後からつかさに抱きつく。いつの間にか服をすべて溶かされ、裸になってしまったつかさを、ゼファーは自分の腕を使ってガードする。
しかし、スライムは健在だ。近くに寄ってきたゼファーの服は、春に降る雪のように淡くはかなく溶けていく。
「はかないを履かないって書くと、すごくイイ!」
如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、自分のパートナーと、女子のぞき部の部長の機器にもかかわらず、喜色満面といった風情で何度も頷く。
正悟は、防水カメラを使って夢中で写真に収めていく。増殖を続けるスライムは、撮影に没頭する正悟の服さえも溶かしていく。
いつしか、生まれたままの姿になっている正悟。
それでも彼は恍惚とした表情のまま、ひたすらにシャッターを切り続ける。
「こちらコードネーム、リトルサマー……撮影を続行中」
小夏 亮(こなつ・りょう)は、謎の男から受け取ったトランシーバーに向かって囁く。亮の右手には、型の古いデジタルカメラが握られている。リトルサマーというのは、謎の男が亮につけたコードネームだ。
「こちらニューテンプル。援護するぜ」
新堂 祐司(しんどう・ゆうじ)は、亮の方に視線を向けようとした少女の前に立つ。
「やあお嬢さん! 俺と一緒にカレーを食べにいかないか?」
「……何でわたしがこんなことを……」
岩沢 美月(いわさわ・みつき)はこめかみをなでながら深々と息をつく。
美月は、悠司たちに話を持ちかけた男の素性を調べ、社会的制裁を加えるべく情報を集めようとしていた。
しかし、いっこうに情報は見つけられない。このネット社会にあっても、波羅蜜多企画の代表を追い詰めるに足る情報を見つけることができなかった。
「へへっ、カメラマンてこんな気分なのかな」
亮はファインダーをのぞき込んだまま、視線を左右に動かす。少女達にとっては阿鼻叫喚の危機的状況も、亮にとっては桃色楽園であった。ファインダーの中のファンタジーを追い求める亮は、スライムによって自分の服が溶かされつつあることに気がついていない。
「盗撮とわいせつ物陳列は、俺がゆるさん!」
川の中に立つ黒銀の鎧武者。エヴァルト・マルトリッツである。
「成敗!」
エヴァルトの拳が、立て続けに亮と、裕司の上に落ちた。
たまらず昏倒する二人。
アルコリアは、そんな川の中の様子を、岸上で牛乳を飲みながら見つめている。
遊び疲れたのか眞綾はアルコリアの膝にもたれかかるようにして眠っている。
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