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リアクション
1章
「オイオイ……唯でさえ川幅でかいのに、何の冗談だ?」
そう呟いた姫宮 和希(ひめみや・かずき)だったが、それはここにいる者たちの心を代弁していた。
元々サルヴィン川は、貿易船が往来する程の広さがあった。
にもかかわらず、織姫に変えられた女子生徒の流す涙によって更に水かさが増していたのだから。
「空を飛んで行けたらいいけど、カササギさん達が威嚇してて怖いよぅ」
マリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)の言葉通り、上空ではカササギの群れがゆっくりと旋回して、こちらを伺っているようだった。
マリエルが不安になっていると感じた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、元気付けようと明るめの声で話かける。
「大丈夫! マルマルは私が連れて行ってあげるよ!」
「それで、どうしよう? みんなで泳いでみる?」
しばらくして、セシリア・ブレス(せしりあ・ぶれす)から出た意見に――
「溺れたら助けてくれ!」
「嫌です。泳げないのに泳ごうとしないでください」
キリッとした表情で宣言したカセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)だったが、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)にあっさりと一蹴されてしまう。ほぼ即答だった。
そんなやりとりに苦笑しつつも、椎名 真(しいな・まこと)は懸念事項を尋ねる。
「でも、泳ぎの苦手な人はどうしよう? このままじゃ流されちゃうよ」
「それならあたしが氷術を使って、足場を作ってあげようか? 最初から最後までは厳しいけど」
そう提案した朝野 未沙(あさの・みさ)に補足するように言葉が続く。
「ならば途中からは泳げる者が引っ張っていくことにするとしよう。互いの協力なしでは中州までたどり着けん」
アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)のもっともな意見に全員が頷き、視線を中州へと向ける。
――必ず助ける、と決意に満ちた表情を浮かべて。
「それでは皆様に、水温対策としてアイスプロテクトをお掛けいたします」
大体出尽くしたところで、秋月 桃花(あきづき・とうか)が声を発した。そしてサルヴィン川に挑もうとして――
「みんな、準備体操は?」
「「「「「「「「「あっ」」」」」」」」」
篠崎 莱菜(しのざき・らいな)の一言で、そこまで余裕がなかったことに気がついた一同。
しっかりと準備運動をした後、織姫にされた生徒の救出を目指して動きだした。
一方、そこから離れて見ていた人物が二人。
うち片方は明らかに姿がおかしかったのだが、それはさておき。
「どうやら今から動くようですね。俺も環菜会長に認めてもらうために、彼らのサポートを頑張らないと」
影野 陽太(かげの・ようた)は決意を新たに、武器のチェックを行っていた――なるべく隣を視界に入れないように気をつけながらではあったが。
「どうやらそのようでござるな。拙者もヒーローとしてご助力いたそう」
そこには褌一丁で準備体操中のジョニー・リックマン(じょにー・りっくまん)がさわやかな笑みを浮かべていた。
何故褌一丁なのかはあえて聞かない陽太は、サルヴィン川に意識を向け、眼を凝らす。
そう、何故か今日のサルヴィン川にはいろいろな物が流されてきているのだった。
「どうやら一筋縄ではいかなそうですね。大きな風鈴や、笹の葉まで流れてきてますし……」
思案顔になり、目の前の大河を見つめる陽太ではあったが、ジョニーはその空気をいとも簡単に吹き飛ばしてしまう。
「心配ご無用! 全てこのザ☆マホロバにお任せあれ、HA☆HA☆HA☆」
別の意味で心配になるものの、サポートに向かうべく二人はサルヴィン川へと向かうのだった。。
その二人の行動も含めて、近くの物陰から観察している――正確には倒れ伏しているのだが――人物がいた。
「聞こえているか? どうやら動きだしたようだぞ。……それと、今なら毒針で刺したことは不問にするから、生徒の涙を売るのはやめろ!」
倒れ伏したまま、酒杜 陽一(さかもり・よういち)は相手に説得を試みるも、色よい返事は返ってこなかった。
どうやら続きがあるらしく、耳を傾けた陽一は小さく息を吐き出して考えを巡らせる。
「分かった、でも程ほどにしておけ。――後で何かおごってやるよ」
気持ちを察した陽一は珍しくそんなことを言うも、すぐに撤回することになる。
「できるか! 食費が少ねえんだよ!!」
そして倒れた状態のまま、推移を見守ることにしたのだった。
――かくして、織姫にされた生徒たちの救出作戦が始まる。
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