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【学校紹介】李梅琳式ブートキャンプ

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【学校紹介】李梅琳式ブートキャンプ

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第一章:状況開始!

「岩の上に生卵落としたら、いい感じに目玉焼きが焼けそうじゃない?」
 誰が言ったかは不明であるが的確さは評価できる、そんな炎天下のシャンバラ大荒野において、シャンバラ教導団の訓練はひっそりと且つ着実に進行しつつあった。
 広大なシャンバラ大荒野のあちこちで武器の衝突する鈍い音や、魔法攻撃になる砂けむりが舞い上がっている。
 砂煙の中から横へとブラックコートをヒラリと流しながら跳躍したバトラーの天 黒龍(てぃえん・へいろん)は着地と同時にルミナスレイピアを構える。
 太陽の光を受けて黒龍の片腕につけた青い腕輪がキラリと光る。
 時折吹く熱風に揺れた黒龍の高く結い上げた緑の髪がワンテンポ遅く首元に着地するのを待って、逆光の中で満足そうに頷いたのはソルジャーの曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)である。
「オレの則天去私を避けるとは……やるねぇ、あんた」
「回避したおかげで服は汚れたけどな」
「ブラックコートで気配を消すのもいいけどさぁ〜、こんないい天気で開けた場所じゃあ意味ないんだよねぇ〜」
 ヘラヘラと話す赤い腕輪をつけた瑠樹を尻目に、黒龍は瞬時に状況を把握していた。
「(腕輪を持って生き残ればいいのだろうから……ここは回避したいところだが)」
 だが、そんな黒龍の心理を瑠樹は完全に見透かしていた。
「あ〜、敵前逃亡はよくないよなぁ? 軍人、いやシャンバラの生徒としては……」
 元からか訓練の影響なのか、ボサボサの黒髪を掻きあげた瑠樹がニヤリと笑う。
「随分、余裕だな? 先輩?」
 低い声で唸る黒龍を目の前にしても、瑠樹は余裕を感じていた。黒龍相手になら戦闘が長引くことはあっても敗北はない、長年の戦闘経験がそう瑠樹に囁いているからだ。
「じゃあ、続きをしようか?」
 手にした方天戟をゆっくりと構える瑠樹に呼応して、黒龍が構える。
 殺伐とした空気が二人を包んでいく中、
「ねぇ、りゅーき、りゅーきってばぁ〜!!」
 割って入る間延びした声に思わず二人が振り向くと、ゆる族のマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)が野生のパラミタトウモロコシを両手に持ち、万歳のポーズを取っている。
「見て、見て〜、トウモロコシが一杯〜」
 ゆる族であるマティエが人間の味覚においてはお世辞にも「美味い」とは言えないパラミタトウモロコシをパタパタと振る。
「マティエ……戦闘中だ。あと、オレはそれあんまり旨くないと思う」
「え〜、美味しいよ〜?」
「オレは食べないからな?」
「え〜! なんで〜!?」
 パタパタと手を振るゆる族のマティエを見て、熱中症や日射病といった単語が黒龍の頭を駆け巡る。
「待たせたな」
「話は終わったのか?」
「ああ……」
 黒龍に催促されて瑠樹が再び正面を見やる。
 マティエがパラミタトウモロコシを収穫している中、再び戦いの火蓋が切って落とされようとしていた、まさにその時。
「ちょーっと、待ったあぁぁーっ!!」
 大声を上げて青い腕輪を付けたソルジャーのレオン・ダンドリオンが走って来る。
「二対一……分が悪いなぁ。おい、マティエ!?」
 瑠樹の呼びかけにもマティエは収穫に必死で、どんどん離れていく。
 黒龍の傍に並び、アサルトカービンを構えるレオン。
「オレは新入生のレオン。通りががりで悪いが助太刀させてもらうぜ……と、お前の名は?」
「黒龍だ……」
「そっか、よろしくな、黒龍!」
 瑠樹が二人を見て溜息を漏らす。
「生憎、勝てない戦いはやらないもんでなぁ」
「逃がすと思うか、先輩?」
「……勝てないと言うことは、引き分けには持ち込めるって事だけど?」
 そう言って瑠樹はマティエの後を追いかけてのんびり歩いていく。
「良かったのか?」
「両者にとってベターな選択であろう?」
 顔を見合わすレオンと黒龍。
「とりあえず、小型飛空艇でティータイムといくか?」


 黒龍の小型飛空艇に同乗したレオンはあちこちで上がる戦闘の咆哮や爆発を見ながら、額の汗を拭う。
「オレもさっきは危なかったんだぜ。ったく、戦場じゃ迂闊に飯も食えねえぜ。」
「何があったんだ?」
 遠くに見えるパラミタオオヒツジの群れを見ながら、ヘッとレオンが鼻を掻く。


 その少し前、今より太陽が天高くあった時、レオンは他の新入生と共に食料確保のためパラミタオオヒツジ狩りを行っていた。
 数の上では圧倒的に新入生達が攻め、もう少しで焼肉パーティへといけそうな時、小型飛空艇に乗ったブリーストの土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)とブリーストのレジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)が率いる在校生の一団に襲撃を受けたのであった。
「おい、何か近づいてくるのがいるぜ?」
「赤い腕輪……? 在校生だ!?」
 レオンの隣にいた生徒がそう叫ぶと同時に、雲雀の人差し指の指先からレーザーのように火術が発射される。
 火術はレオンの後ろにいた生徒に当たり、元々統率がない烏合の衆であった新入生達は、蜂の巣を突付いたような騒ぎへとなっていく。
「落ち着け! みんな、落ち着くんだ!!」
 そう叫ぶレオンの声も、パニックとなった新入生達にはもはや届かない。
「教導団がただの軍人学校だと思っていたら大間違いでありますよっ。ふふふー♪」
 そう言いながら、次々と火術を見舞う雲雀の背後で双眼鏡を覗いているのはレジーヌである。
 小型飛空艇に腰掛けたレジーヌの膝の上には、いくつもの印のついた地図が広げられている。
「ワタシの事前調査も役にたちましたね?」
 雲雀に笑いかけるレジーヌ。
「レジーヌ殿、武器を扱うだけが教導団では無いのでありますよー?」
「でも、やりすぎは駄目ですよ? 雲雀さん?」
「いえいえ、自分は在校生として、新入生達に厳しさを教えなければならないのであります! さぁ、突撃であります!!」
 遠方からの雲雀の火術が降り注ぐ中、前衛を務めるソルジャーやモンクの在校生達が新入生に突撃してくる。
 そこにバーストダッシュで飛び出してきたのは魏 恵琳(うぇい・へりむ)であった。
「でぇぇぇぇああぁぁっっいぃっ!!」
 恵琳のツインスラッシュが煌き、砂埃と共に前衛の在校生達が吹き飛ぶ。
「油断大敵ですよ、先輩?」
 黒く長い髪をはためかせて新入生達と在校生の間に仁王立ちする恵琳の腕には赤い腕輪が光っている。
「恵琳殿! 在校生が新入生の味方をするでありますか!?」
 小型飛空艇の上で立ち上がって叫ぶ雲雀の声に、ふん、と口元をつり上げる恵琳。
「実際の戦場では新兵ばかりを率いて戦わねばならない時だってあるわ。私はその訓練だとも理解しているし、李少尉も在校生と新入生が手を組む事を禁止するルールは設けてなかったハズよ?」
 オタオタする新入生達を振り返る恵琳が、ゆっくり、しかしハッキリとした口調で言う。
「軍人なら最後まであきらめるなっ! 迎え撃つわよ!!」
「「オオオオオォォーーッ!!」」
 恵琳の言葉に各々の武器を掲げ、吠える新入生達。
 武者震いしたレオンも前進しようとする、が、先程の攻撃を受けて怒るパラミタオオヒツジの角が新入生を狙う。
「危ない!!」
 庇ったレオンがその角の攻撃を脇腹に受ける。
 骨まで届いた事を示す鈍い音を、吹き飛んでいく空中でレオンは感じていた。
「はぁぁっ!!」
 恵琳の轟雷閃がパラミタオオヒツジに命中したのは、その数秒後の事であった。
 吹き飛ばされたレオンが地面を勢い良く転がっていき、止まる。
「くそ……まだオレは……」
 口の中に入った砂をペッペッと吐き出すレオンが顔を上げると、そこにレジーヌが立っている。
 レジーヌがサッと手をかざし、レオンは思わず目を瞑る。
「今の行動は立派です」
 レジーヌがレオンにヒールをかける。
「え? な、なんで……?」
「今回だけの特別サービスです。ホラ、お行きなさい?」
 ニッコリと微笑むレジーヌの真意を図り兼ねたレオンであるが、すぐさま立ち上がって走りだす。
「ありがとうございます!!」
 振り返り、レジーヌにそう叫んだレオンが恵琳達の元へと駆けていく。
 小型飛空艇をレジーヌの傍に寄せた雲雀が、レオンの後ろ姿を見ている。
「レジーヌ殿? 何ゆえでありますか? ソルジャーといえどもあの新入生程度ならば……?」
 不思議そうな顔をした雲雀に、レジーヌが人差し指を立ててはにかむ。
「雲雀さん? 戦うだけが教導団では無いのでありますよー? です」