リアクション
◇ ――さらに、その横。 「これで、六割ぐらいか、よし。そろそろココは終わらせよか」 「いえ、まだまだです! こっちと、ほら、そこも!」 避難をせずに残ってバリケードの設置をする村人達に、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が声を掛けるが、一緒にバリケードを組んでいたフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)は満足がいっていないようで、あちらこちらと壁面の補強をしている。 「かなわんなぁ……」 「音楽の事となると人が変わりますからね」 頬を掻きながらぼやく泰輔に、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)が後ろから応えた。 「ま、しゃーないわな。で? そっちの首尾は?」 「上々、と言いたい所ですけど……そう上手くもいかないですね」 レイチェルは単身、仲間内で抜け駆けをしようとしてる者がいる、と敵の情報をかく乱しようと試みたが「まるでそんな事は当然」と言わんばかりに鼻で笑われ、軽いため息と共に防衛地点まで戻ってきていた。 「ふぅ、とりあえずこんな所ですね」 話し込む二人に、バリケードを組み終わったフランツがやりきった顔で入ってきた。 どこから持ってきたのか、と言うほどの木材と鉄辺を組み合わせて作られたバリケードに満足そうに頷いている。 「……要塞か」 とりあえずお決まりのツッコミを見せる泰輔にフランツが誇らしげに胸を張る。 満足そうなフランツを横目に、泰輔が杖を手に持つ。振るわれた軌跡が円を描くと、瞳を閉じて膝を突いた姿勢で讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が現れた。 「どう? 何か分かった?」 「えぇ、多少は」 顕仁は返事をしながら顔に掛かる銀色の髪を指で避け、袖の中から半紙を取り出すとそれを広げる。 敵中に身を隠しながら情報を収集していた顕仁が言うには、敵陣の中央で陣の外と頻繁に情報が行き交っている、と言う事が分かった。 「アレが敵の統率者に見えたんだが……他に黒幕でもいるのか?」 「かもしれないですね」 顕仁の発言に後ろから応えたのは、マクシベリス・ゴードレー(まくしべりす・ごーどれー)。横にはフランツも立っていた。 遠目からでも目立つ大きさのモヒカンを揺らすならず者は、いかにも偉そうにふんぞり返っている。 「わざとらしい程に他の者よりモヒカンが大きいのぅ」 さらにその横で、敵陣を見てポニーテールを纏め直しながらフラメル・セルフォニア(ふらめる・せるふぉにあ)が、適当な相槌を打つ。 「ま、大将叩いたらなんとかなるやろ。それに、援軍来るまでの我慢や」 こっちの準備さえ整ったらやけどな、と胸中で呟きながら、泰輔は横目で他のバリケードを見る。 いまだ完全とは言えない防衛線の向こうでは、ならず者達が士気を上げていた。 ◇ 程なくして、入り口の七割が封鎖されようとしている頃、上杉 菊(うえすぎ・きく)とグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が、何やら話し合いながら隙間の開いた壁を組み上げている。 「とりあえず、これぐらいで大丈夫よ。私の方も終わったわ」 バリケードを組み終えた菊とグロリアーナに、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が声を掛けた。敵に対して水平ではなく、僅かに斜めに配置するだけではなく、わざと隙間を開ける様に設置されたバリケード。 ローザマリアは、その隙間に仕掛けた罠を見つめていた。問題は無いだろうか? きちんと起動はするだろうか? 様々な考えが浮かんでは消える。 「はわ……エリー、みんなの楽器隠してくる」 ふ、と目の前を見るとエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)が、大きな目をぱちくりさせた後、音楽堂へと走っていった。 走るたびに揺れるツインテールを見ていたら、何故か自分の考えが杞憂なのではないだろうか、と思って笑いがこみ上げてきた。 「御方様……?」 「何でもないわ、大丈夫」 突然笑い出したローザマリアに、菊が眉根を寄せるが当のローザマリアは何事も無かったかのように、いつもの顔に戻った。 |
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