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冬将軍と雪だるま~西シャンバラ雪まつり~

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冬将軍と雪だるま~西シャンバラ雪まつり~

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第10章


「再び実況のメトロです! DX冬将軍と雪だるま王国勢との交戦は続いていますが、どうやら王国優勢のようです!」

 その言葉通り、DX冬将軍と雪だるま王国勢との戦いは続いていた。DX冬将軍は氷弾バルカンやつららミサイルで応戦するが、大した戦果は上がっていないのが現状だ。基本的にDX冬将軍は敵軍の巨大雪像や施設等の破壊を目的として作られているため、対人戦は想定外なのだ。だが雪だるま王国側も、万が一のことを考えて遠距離戦をメインにしているため、決め手に欠けているのが現状だ。美央はそれでも、現状の戦果に満足している。
「ふふふ、このままいけば時間はかかっても倒せるでしょう。負傷者は最低限に抑えたいですから。DX冬将軍とやらも大したことありませんね」
 聞こえたのだろうか。DX冬将軍の顔部分、鎧兜で言えば面頬と言われるところがカパっと開いた。中には何やら大砲の発射口のようなものが覗いている。
「え?」
 美央や唯乃を始めとする王国メンバーが面喰らうのも一瞬、その発射口から太いビームが発射された。
「よけて!!」
 美央が指示するまでもない、メンバーはそれぞれが緊急の回避行動を取る。ビームはフィールドの中心地に撃ち込まれ、轟音と共に雪煙が舞い上がり、アシガルマと混戦していた参加者たちに負傷者が出たようだ。
 これがDX冬将軍の秘密兵器『絶対零度キャノン』である。さすがの美央も顔色を変えざるを得ない。
「エルム、大丈夫?」
「だ、大丈夫……危なかったけど」
「あんな隠し玉を持っていたなんて……勝負を急がないといけませんね」
 だが、思案している余裕はない。発射口を見上げると、再びエネルギーが集中している気配がする。
「まさか、連発できるの!?」
 先ほどの一発で王国メンバーの体勢が崩れている。このタイミングで撃たれては今度こそ大ダメージを負ってしまう。皆に緊急退避を命じようと思ったその時。
「2発目は撃たせない!!」
 美央達の上空から声がした。真司とアレーティアの『スノーグリッド』だ。スノーグリッドは風のブーストの力を使い、超スピードでDX冬将軍に突進攻撃を仕掛ける。そのスピードたるや、本物のイーグリットの最大スピードに勝るとも劣らない。
 目指すは、『絶対零度キャノン』の発射口。スノーグリッドのビームサーベル型の氷剣が発射口に突きたてられると同時に、再び『絶対零度キャノン』が発射される!!
「いけえええぇぇぇ!!!」
 スノーグリッドから裂帛の気合が放たれた。見ると、その機体はあまりのスピードに耐えられずに自壊しかかっているが、それでもスノーグリッドは止まらなかった。ビームライフルを捨て、氷剣を握りこむ両手に全てのパワーを込めて『絶対零度キャノン』を押し返していく!!
「おおおぉぉぉ!!!」
 最後の気合と共にスノーグリッドは轟音を立てて粉々に砕け散る。だが、それと同時に氷剣はDX冬将軍の発射口を貫き、ビームが暴発を起こした。スノーグリッドはその身を挺して目的を果たしたのだ。
「よし、やった!! ……あ、すまん。せっかく作ったスノーグリッド、壊してしまった」
 隣のアレーティは、微笑みと共に首を振った。
「構わぬ。言うたであろう、わらわはあれを作れただけで満足じゃ。わらわと真司のスノーグリッドは皆を守ったのじゃ、胸を張れ」
 その言葉に、同じ微笑を浮かべる真司だった。

 『絶対零度キャノン』は潰されはしたが、DX冬将軍の戦力が無効化されたわけではない。今度は身体中から氷玉バルカンとつららミサイルを総乱射し、無差別攻撃に出るDX冬将軍。いよいよ最後の力を振り絞ってきたようだ。

 戦場リポーターとしてフィールドを駆け巡っているマイトとメトロにもその弾丸が襲いかかった。
「ヒャッハー! 奴さんとうとう本気出して来たぜ!!」
 戦闘に参加するつもりのなかった二人はそこまで武装しているわけではなく、特にメトロは軽装だ。しかも、上空から降ってくる弾丸を避けるにはマイトの機動力が命だが、背中のメトロが邪魔で避けるべき弾丸を目視できない。
 だが、この二人にはそんなことは関係なかったようだ。
「マイト、11時に5m、それから9時に10m!!」
「あらよっと!!」
 空を見上げたメトロの指示で、次々と降りしきる弾丸の雨をものともせずに避けていくマイト。彼はまったく上空を見ずにメトロの指示だけで高速スケーティングをこなしているのだ。マイトの機動力、メトロの観察力をお互いがフルに出し合って初めてできる動きだった。
「ふふふ、コレ結構楽しいじぇ」
 次々とマイトに指示を出す傍らでほくそ笑むメトロだが、当のマイトは意外と真剣な表情だ。
「おいおい、しっかり頼むぜ。……まず着弾するのはお前なんだからな」
「――ふふ、そうだね。ほんじゃ今度は2時方向へダッシュ!!」
「おう、任せろ!!」
 さらに戦場を縦横無尽に駆け巡る二人だった。

 そして、最後の力を出し切らねばならないと考えているのはDX冬将軍ばかりではない。
「スノーグリッドの勇姿、見ましたか衿栖さん! 私たちも負けてはいられません!!」
 坂上 来栖の『聖典・マリア』がDX冬将軍の前に立ちはだかった。
「ええ、こちらも全力です! 行きましょう、来栖さん!!」
 その隣に並んだのは茅野瀬 衿栖の『巨大仏蘭西人形』だ。
 全身の兵器を全力で駆使して参戦者を駆逐しようとするDX冬将軍、その姿は雪像を通してみてもまだ大きい。だが、衿栖はそっと来栖の手を取り、強く握った。
「どんなに強い敵にも負ける気はしません、だって私の隣には来栖さんがいますから! 来栖さん! 今こそ合体です!」
「合体!? そんなことが……」
「ええ、私たちの雪像だけではできません。でも、きっとできます。来栖さんのマリア像に託されたファタさんの雪だるマーを使えば!!」
「……そうか!!」
 確かに、来栖の雪像にはファタが何気なく譲渡した雪だるマーが付与されている、その力はまだ温存されたままだ。ニヤリと、来栖の口元が笑みで大きく吊り上がる
「やりましょう衿栖さん! その賭け、乗ったあぁぁぁ!!!」
 二人は握り合った手を大きくかざし、雪像に向って叫ぶ!!
「雪像合体!!!」
 指令を受けた二体の雪像は飛び上がり、余力が残っている雪だるマーの力で合体した!!
 一瞬の後、そこに現れたのは巨大十字架を装備した仏蘭西人形の洋服を着たマリア像だった。『聖典・巨大仏蘭西マリア像』誕生の瞬間である。
 巨大十字架を天高く構えた合体雪像から、来栖の声が響く!
「氷結のブースト! ホワイトクロス!!!」
 天空から純白の十字架が数限りなく降り注ぎ、DX冬将軍の撃ち出した氷弾を残らず弾いていく。
 続いて、衿栖の声が気合と共に放たれる!
「氷結のブースト! 雪だるマーケット!!!」
 周囲から複数の雪の塊が出現すると、そこから次々と雪で作られた無数の武器が射出された。
「えええぇぇぇい!!!」
 衿栖はその大量の武器を、次々とDX冬将軍のミサイルとそれぞれの発射口に狙いをつけてヒットさせていく。人形操作で慣らした衿栖だからこそできる離れ業だ。

 開戦以来、沈黙を守っていた秋月 葵(あきづき・あおい)はこの場をチャンスと動き出した。
「今だ、レッドアイズ・スノーラビットGX! いっけー!!」
 飛び出した3mほどの雪ウサギ型の雪像が、DX冬将軍に向けてゴルフボール大の雪玉の雨を降らせる。巨大仏蘭西マリア像の合体攻撃により戦力を大きく削がれたDX冬将軍の体勢が崩れかかった。美央や唯乃が地道に続けていた遠隔攻撃が確実な効果を見せているのだ。それに雪玉と言えど、葵のペットであるところのミニ雪だるまが精魂込めて作った雪玉、それをガトリング砲で撃ち出すスノーラビットGXの攻撃力は侮れない。
「よし、いいぞー!!」
 葵はと言うと、フィールドすれすれのところを『空飛ぶ魔法↑↑』の効果で浮遊しながら応援している。空中は寒いが、この臨場感には代えられない。
 巨大仏蘭西マリア像とがっちり組み合ったDX冬将軍は、残ったわずかに残った兵装でスノーラビットGXを狙う。だが、右に左にぴょんぴょんと跳ねるラビットはなかなか補足できない。
「へっへーん! そんな攻撃当るもんか!! 雪だるまコンテスト優勝者の名は伊達じゃないっ!!」
 えへんと胸を張る葵。確かに他の雪像と比べても『レッドアイズ・スノーラビットGX』の造形は見事であった。可愛らしい雪ウサギの表情を再現し、その丸々としたなだらかなフォルムはもはや生きていると言ってもいいほどの躍動感に満ちている。ちなみに赤い両目はビーチボールだ。
「ここらで行くよ! 必殺戦技!! 舞華斬!!!」
 葵の合図に応じてスノーラビットGXは氷結のブーストを発動した。ウサギの耳部分を一瞬で氷結させて強度を増し、ウサギの運動能力を利用して縦横無尽に跳ね回り、目にも止まらぬ速さでDX冬将軍の手足を切り刻んでいく!!
「まだまだ、これからですよ!!」
 ブーストの効果が切れたスノーラビットに向けて雪だるマーを飛ばしたのは葵のパートナー、エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)である。新たに雪の精霊の力を得たスノーラビットはその姿を劇的に変化させていく。
「新たな力が、ここに奇跡を呼び起こす! いでよ! スノーラビット・ウォーリアEX!!」
 ガシンガシンと複雑なプロセスを経て『レッドアイズ・スノーラビットGX』は一回り大きな西洋甲冑をかたどった『スノーラビット・ウォーリアEX』へと完全変形を遂げた!
「いや、どういうプロセスを経ても原型留めてなさすぎだろ、その変形」
「というか、すでにラビットじゃないし」
 などの無粋な意見が観客席からは聞こえ始めるが、当のエレンディラの心には一切届かない。葵の飛行魔法で共に応援しているエレンディラはノリノリで命令を下した。
「さあ、とどめの一撃です!! 氷結のブースト!!」
 スノーラビットGXだった時の両耳だった氷剣を両手に構え、スノーラビット・ウォーリアEXはとん、と軽く跳ねた。
「死の舞踏、ダンス・マカブル!!!」
 周囲を雪の結晶が舞い散る中、5mほどの大きさのスノーラビット・ウォーリアEXは巨大仏蘭西マリア像の身体を利用してDX冬将軍の顔面近くまで優雅に飛びあがった。そして空中から急降下しながら、ブースト効果でさらに硬質化された氷剣でDX冬将軍の手足を次々と切り落としていく!!
 ちなみに、手足しか狙っていないのは葵が雪だるま王国に所属しているからである。エレンディラはパートナーの葵をつい甘やかしてしまい、頼まれると断れないのだ。
「やったー!!」
 手を取り合って喜ぶ葵とエレンディラ。観客席では来栖と衿栖も再び握手を交わす。
 巨大仏蘭西マリア像と変形スノーラビットの協力でDX冬将軍の手足は一本残らず落とされ、頭部と胴体のみが残される。
「皆さん、よくやってくれました。後は冬将軍を倒すだけですね。」
 と言いつつ、巨大雪だるま作戦を完遂したことで美央はすでに満足顔だ。

 その頃、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)リリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)はDX冬将軍の『絶対零度キャノン』により負傷した美鷺 潮とカレン・クレスティアの手当てをしていた。
 何しろ元気一杯に飛びまわり、ひとつのことに集中すると周りが目に入らなくなるカレンと、魔法と言えば攻撃魔法、はかなげな外見からは想像もつかないほどの攻撃性を秘めた潮の二人である、自分たちの認識範囲外からの攻撃に対して反応が遅れても無理はなかった。直撃とはいかないまでも『絶対零度キャノン』の攻撃を受け、戦闘不能直前に追い込まれた二人をレイナは諭す。
「……それにしても、お二人とももうちょっと慎重に動かないと、危ないですよ」
 レイナは基本的に後方支援の予定だったが、パートナーのウルフィオナが言うところの『支援中心と言っても、支援する相手は前線にこそいる。自ら前に出ることでより迅速な対応ができるはずだ』という理論に賛同した彼女は、自らは戦闘に参加しないまでも、こうして前線に出てきていたのである。だが潮とカレンの二人は、手当て自体には感謝しながらも基本的な考えを改める様子はないようだ。
「うん、そうだね! 今度は気をつけるよ!」
「……いいえ、これは自分の魔法が未完成だから。戦術自体に問題はない筈」
 ふう、とため息をつくレイナだが、そうのんびりともしていられないのも事実である。ここは戦場なのだ。
「お嬢様、DX冬将軍が落ちたようですがここも危険です。とりあえず皆さんと退避しましょう」
 リリは実際のところはレイナの身だけが心配なのだが、レイナが負傷者を置いていくとも思えないので、そのように提案する。リリはレイナを前線に送り込んだウルフィオナに代わってのレイナのガード役を自認している。時折襲いかかるアシガルマを手にした薙刀で切り落とし、飛び交う矢弾を撃ち落としながら周囲を警戒していた。
 だがそこに、重厚な声を掛ける者があった。

「ほう、どこに退避すると言うのだ?」

 一瞬の出来事だった。気配も感じさせずに近づいていた人影が、一瞬のうちに間合いを詰めてリリに斬りかかったのだ。言うまでもなくその影は敵軍の総大将、冬将軍だ。
「ハッ!?」
 咄嗟に構えた薙刀で辛うじて敵の漸激を防いだリリだが、彼女自身も戦闘専門なわけではない。冬将軍との戦力差は歴然であった。
「お嬢様……お逃げ下さい!!」
 後方のレイナに叫ぶリリだが、それを許す冬将軍ではない。潮とカレンが反応してリリに助勢しようとするが、冬将軍は両手に持った日本刀で激しい衝撃波を撃ち出した!!
「怪我人などの出る幕ではないわぁー!!」
 リリの胴体ごと衝撃波で撃ち抜かれた四人は、そのままはるか後方に吹き飛ばされる。冬将軍の咆哮が吹雪に荒れるフィールドを揺らした。
「まさか四天王に加え、DX冬将軍まで落とされるとは思わなかったわ!! こうなれば余が直々に貴様ら全員に引導を渡してくれる!!」

 その時、冬将軍目がけて鋭い制止の声が放たれた。
「そうはさせないわ!!」
「何ぃ! 何奴!?」
 それは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だった。彼女は校舎の屋上から冬将軍を見下ろしている。真っ直ぐな視線が冬将軍を射抜き、可愛くまとめられたツインテールが風に揺れていた。
「西シャンバラ・ロイヤルガードにして蒼空学園のスーパーアイドル美羽ちゃんが、ツァンダの平和を守ってみせるわ!」
 彼女は言うが早いか、冬将軍目がけて校舎の屋上から飛び降りる!
「とうっ!」
 落下しながらも彼女は雪だるマーを装備、フィールド内の冬将軍の前に華麗に着地した。蒼空学園のアイドルの称号を持つ彼女の登場に、観客席の一部のファンから声援が送られる。
「いけー、頑張れ、美羽ちゃーん!!」
 だが、冬将軍はそんな彼女を吐き捨てるように見下した。
「下がっておれ小娘風情が!! お主のような子供の遊び場ではない!!」
 美羽はあからさまに不満げな表情を浮かべる。そこに、もう一人の参戦者が現れた。

「ならば、この姿なら満足か?」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が製作した雪像、『シュネー・アイゼン』だ。見た目は2mと今回の作品の中では小さい方だが、実はその身体はエヴァルトが精魂込めて詰めに詰め込んだ高密度の氷で出来ている。西洋の騎士甲冑をモチーフにした美しい重量級の雪像は、大きなランスを主武器として構えている。いずれもエヴァルトが製作期間中ほとんど寝ずに作った力作である。ちなみに、当のエヴァルトは観客席で雪像にシンクロしながら頑張っているが、その表情には明らかに疲労の色が濃い。
「ふっふっふ……燃え尽きた、な。だが、悔いはない……」
 この戦闘が終えたら3日は使い物にならないであろうエヴァルトであるが、すくなくとも敵を前にしてそのような姿を晒すことのないその姿勢は、さすがに『蒼空の騎士パラミティール・ネクサー』を自ら名乗ることはある。
 だが、今日のバトルの主役はあくあまで雪像『シュネー・アイゼン』だ。
「戦場に降りた者を見かけで判断するとは、冬将軍恐るるに足らず! だが女性に一騎討ちなどさせるわけにはいかん! 加勢するぞ!!」
 シュネー・アイゼンは手にしたランスで冬将軍に敢然と突きかかった、それを両手の刀で受け流す冬将軍。ここに最終決戦の幕が開けた。
「ちょっとー! 私より目立つなんて許さないんだからねー!!」
 激しく打ち合う2体の合間を縫ってグリントライフルを撃ち込む美羽だが、どうしてもシュネー・アイゼンに加勢している立場になってしまう。
「もー! こうなったらいきなり全力出しちゃうんだから!! 力を貸して!!」
 こっそりと目立たないように美羽のサポートに徹していたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が姿を現れた。
「ハイ、行きますよ!!」
 ベアトリーチェは美羽にパワーブレスをかけ、怪力の籠手と共に美羽の腕力を強化する。美羽はその小柄な身体に似合わず、普段は2m超の光条兵器の大剣を振り回すパワーファイターだ。
 さらにベアトリーチェは自らの雪だるマーを氷結のブーストにより巨大ヘンマーに変形させ、美羽に譲渡した。それにより彼女自身はフィールド外にテレポートする。
「戦いが終わったら、一緒に雪まつりを楽しみましょうね……」
 パートナーの残した巨大ハンマーを振りかざし、美羽は冬将軍に宣言する。
「さあ! この私の攻撃、受けてみなさい!!」
 エヴァルトはシュネー・アイゼンを通じて彼女を見ていた。最初は助けるつもりで入ったが、こうして見ると彼女の実力も侮れないものであると分かる。
「よし! ならば協力しよう!!」
「むっ!?」
 シュネー・アイゼンはその巨大なランスを突き、冬将軍を大きく弾き飛ばす。攻撃自体はガードしたものの、重量のあるボディから繰り出される重い一撃に距離を取らされる冬将軍。
「氷結のブースト!」
 シュネー・アイゼンから小型のブリザードが冬将軍に向けて一直線に発射される。凍結の攻撃自体はさほどの効果はないが、シュネー・アイゼンから冬将軍へと水平な竜巻と化したブリザードは、その渦の中で冬将軍の自由を一時的に奪っていく。
 そこに、間髪入れずに美羽のブーストが発動する!
「氷結のブースト! アイスコフィン!!」
「ぬううぅぅぅっ!?」
 冬将軍の周囲に吹き荒れるブリザードが凍り付き、急速に大きな箱のような形を取り、冬将軍を閉じ込める。
 それは、ひとつの大きな棺桶であった。
「くらえ! アイシクル・ハンマー!!!」
「これで、終りだぁぁぁ!!!」
 完全に身動きが取れなくなった冬将軍に、二人の合体攻撃が炸裂する! 前方からは竜巻の中を自壊も覚悟の最高速度で猛チャージするシュネー・アイゼン。後方からは超巨大な氷のハンマーのフルスイングで棺桶ごと粉砕する小鳥遊 美羽。
「ぐあああぁぁぁ!!!」
 二人の合体攻撃をなす術もなく喰らった冬将軍、最高速度の衝撃に耐え切れず崩壊するシュネー・アイゼンと力を使い果たした美羽を尻目に、最後の雄叫びを上げる。
「まだだ! まだだぁぁぁ!!!」

 その時、悪夢が起こった。
 冬将軍の叫び声に反応し、辛うじて残っていた四天王のボディが動き出した。フブキの破片、ツララの残骸、ナダレの四肢、ヒョウザンの雪塊が高速で飛びあがり、今にも崩れそうな冬将軍に向けて飛来する。
「きゃあああぁぁぁ!!!」
 衝撃と共に舞い上がった雪煙にあおられた美羽が悲鳴を上げる。
 気付くと、そこには一体の氷像が立っていた。冬将軍よりも一回り大きくなった体、不自然に飛び出した六本の腕はまさに異形の怪物だ。
「さあ、最後の勝負と行こうではないか!!」
 冷たい空気を震わせて美羽に迫る悪魔の氷像と化した冬将軍。だが、ブースト攻撃を使い果たした美羽に戦う力はあとわずかだ。
「負けるもんですか……」
 氷のハンマーはすでにブーストの効果が切れて消滅している。気丈にもライフルを構える美羽だが、傍目にはその戦力差は明らかだ。
 そんな彼女を嘲笑うように腕を振り上げる冬将軍。その時、美羽の頭上を飛び越えて冬将軍に飛び蹴りを放った男がいた。その蹴り自体は効いた様子もなかったが、とりあえず美羽との距離を離すことは成功した。
 その男とは――

「帝王、見参!!」
 冒険屋ギルドで陣頭指揮を取っていた、ヴァル・ゴライオンであった。