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リアクション
第9章
「さて、本部からは良く見えませんが、四天王戦はどうなっているのでしょう。実況のメトロさん」
「はい、カメラは今、四天王の一人ヒョウザンを捉えています。まだ交戦者が現れていない様子ですね」
その冬将軍四天王の最後の一人、ヒョウザンは挑戦者が現れるのを待っていた。
「があっはっはっは! 誰もワシと戦おうという人間はおらんのか! まったく腰抜けどもが!!」
大声で嘲笑を上げるヒョウザンだが、その笑いを止めようという者達が現れた。
「へらず口もそこまでじゃ! 力ばかりのでくのぼうめが!!」
「何だと!?」
見ると、バトルフィールドをヒョウザンに向けて一直線に飛んでくる雪像の群れがある。5〜6体で編成されたそのグループは、どうやらそのひとつひとつに雪だるマーが組み込まれているようだ。作成者たちは観客席でシンクロしながらの指示となる。
そのうちの一人、セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)は声高に宣言する。
「あのような奴、力を合わせた我々の雪像の敵ではない!!」
そのパートナー、ミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)はあくまでもセシリアの付き合いだが、作る分には真面目に作ったようだ。
「おねーちゃん達、がんばってー。応援してるよー」
イスカ・アレクサンドロス(いすか・あれくさんどろす)は結構ノリノリのようだ。
「これはこれで結構、面白そうではないか。だが戦う以上、負けは許されんぞ!!」
普段は眠そうな顔の佐野 亮司(さの・りょうじ)も、この時ばかりはそんな顔はしていられない。
「そうとも、ここは俺達に任せてもらおうか!!」
ソル・レベンクロン(そる・れべんくろん)は亮司のパートナーで、ボクもせっかくだから美しい雪像を作ってあげるよ、と勝手について来た。
「ボクの作った雪像がやはり一番美しい。さあ、皆も美しく決めようじゃないか!!」
飛来した雪像のうちの一体は、巨大な十円玉の形をしている。表面には精巧な平等院鳳凰堂の図まで彫りこんであるこだわりようだ。その中に、平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)は潜んでいた。
「せっかく皆と共闘するんだ、僕も精一杯頑張るよ!!」
ちなみに本人は雪だるマーを着込み、そのまわりを雪と氷でコーティングすることで巨大な十円玉になることに成功したのである。
やりたい放題としか言いようがない。
雪像たちはヒョウザンの目の前の空中に停止すると、彼らの設定どおりき、それぞれが互いに引寄せ合うように近づいていく。亮司が叫んだ。
「いこうみんな!! 合体だ!!!」
観客席や冒険屋の本陣、学園内のTVで観戦している来場者にどよめきが起こった。
やはり合体は男のロマンなのか。きっと男のロマンなのだ。男のロマンでは仕方がない。
「おう!!!」
全員が気合を入れると、それぞれの雪の精霊たちもその気合に応じるように次々と合体していく。次の瞬間には6つのパーツはひとつの大きなシルエットへと変わっていた。それは闇のオーラを纏った黒衣のサンタクロース。弾丸用の雪製十円玉をプレゼント袋に詰め、額には堂々と『誤』の文字が浮かび上がる!!
「完成じゃ! これぞ我らがヒーロー、ダークネス・ミスリードX!!」
ビカァッ! とわざとらしく背後に稲妻が走った。セシリアの演出効果である。今ここにこの雪まつり最大の合体ヒーローが誕生した!!
ちなみにXは10、つまりテンである。エックスではないというのが製作者サイドのこだわりなので、どうか誤読しないでいただきたい。
と、思ったのもつかの間。
次の瞬間には、この戦いに注目していた人間全員が気付いていた――そう、何かがおかしいということに。
そしてその違和感の正体はすぐに分かった、そのサンタはまともな人間の形をしていないのだ。具体的には右手が2本、右足が2本あって、左手と左足はない。そしてそれぞれの精霊は自分こそが右手右足と信じて合体したため、左側には何もない奇形サンタが出来上がったのである。
ちなみに右手はセシリア。
ミリィは右足。
亮司は右手。
ソルは右足。
を、それぞれ作っている。イスカは頭部を含む胴体だ。
「何で……」
ミリィは呆然と呟いた。
「何でいい大人がこれだけいてこんな単純ミスに気付かないのよー!!!」
会場内が一気に湧いた、もちろん大爆笑だ。メンバーは一様に両手で顔面を覆い隠して絶望感を表現する他はない。
まさに誤字。
ところで、混乱しているのは製作者だけではない、サンタの中の精霊達こそが一番の被害者とも言える。
「ど、どうなってるでスノー?」
「どうして左足がないでスノー?」
「ちょ、ちょっと邪魔でスノー?」
「これは純然たるミスでスノー? それともネタでスノー?」
「こんな両手両足が右手右足のサンタはイヤでスノー。立てないでスノー?」
ところで巨大なサンタに右足が2本、左足はないのだから当然バランスが悪い。混乱する精霊をよそにバランスを失ったサンタは徐々に左側に傾き、そして轟音と共に倒れた。
再び湧き起こる観客の大爆笑、そしてヒョウザンの怒りの叫び。
「貴様ら、このワシを舐めとんのかー!!!」
やっとまともに戦う相手が来たと思ったら、とんだ誤字サンタだったのだから、彼の気持ちも察して欲しいものである。
「ふざけるなー!!!」
地面の氷をその両手で怒りに任せてブチ砕き、その氷塊を次々と巨大サンタに向けて投げつけるヒョウザン。その怪力で投げつける氷塊は相当な破壊力を秘めており、見る見るうちに闇サンタに亀裂が入っていく。
危うし、僕らのヒーロー、ダークネス・ミスリードX!!
「いかん、とりあえず立ち上がって体勢を立て直さねば!! ……あ、いかん誤字った」
「え?」
イスカが何か不吉なことを口走った気がした。体勢を立て直そうと思った彼女だが、うっかりブースト技を発動させてしまったらしい。その名も『誤字ファントム』、本来は一瞬のうちに敵の後ろに回りこむ瞬間移動技だ。そう本来は。
「あれー? どうして上空にいるでスノー?」
一瞬のうちにダークネス・ミスリードXが消えたかと思うと、目にも止まらぬスピードでヒョウザンの上空に姿を現した。だが本来とは違う使い方が功を奏したのか、ヒョウザンは闇サンタを見失ったようだ。
これはチャンスとミリィが叫ぶ。
「今よ! 空中ならバランスが多少悪くても関係ないわ! 今こそ必殺技で勝負を賭けるべきよ! どうせまともに戦えないんだから!!」
一言多い、という気もするが確かにその通りだ。気を取り直したメンバーは、今こそ全員の力を合わせた必殺技を放つ!
「ようし、ダークネス・ダウンバーストXじゃ!!」
「行けー! ロケットパーンチ!!」
「決めるんだ! ビューティフルエンジェルアターック!!」
「これで終りだ! 天翔十円閃!!」
「だからどうして必殺技くらい事前に決めておかないのこの人たちー! もうヤダー!!」
次々とハリセンでメンバーの頭を次々と張り倒していくミリィ。ここにおいて状況は絶望的に思えた。だが。
「こうなりゃヤケでスノー!!」
雪の精霊もミリィと同じ気持ちだったのかも知れない。勝手にそれぞれ氷結のバーストを発動してめいめいのパーツごとに必殺技を撃ち出していく。
まずはレオの入った巨大十円玉が地面に向けて投げつけられた。
そして亮司の作った右手がヒョウザンに向けて発射される!
「ロケットパーンチ!!」
強力な雪の塊がヒョウザンを捉える。突然の上空からの不意打ちにヒョウザンは反応しきれずまともに喰らってしまう。
「ぐおぉぉぉ!?」
次いでソルの作った右足が、しなやかな動きで全体重を乗せた優雅なキックを放つ!
「ビューティフルエンジェルアターック!」
そのキックはロケットパンチを後押しする形でヒョウザンを押し潰していく。
そして投げられた十円玉は地面を掘り進み、その中のレオがヒョウザンの真下から天高く打上がる!
「天翔十円閃!!」
とどめの一撃、とばかりにセシリアの作った右手が上空から闇の十円玉の形をした氷塊を大量に召喚し、銃弾のような十円玉の雨を降らせる!!
「ダークネス・ダウンバーストX!!」
さすがにブースト技の4連発は強力だ、つぎつぎと打ち込まれる技の数々にヒョウザンの身体が砕けていく。
「ぐおぉぉぉ、こんな、こんなぁぁぁ!!」
最後に、全ての力を失ったダークネス・ミスリードXが身動きの取れないヒョウザンの真上に落ちてきた。それが最後だった。
「納得いかぁぁぁん!!!」
激しい轟音と共に崩れ去るダークネス・ミスリードX。ありがとう、ダークネス・ミスリードX! 君の活躍を僕たちは決して忘れないだろう!!
「強いことは強かったのですが、なんとも微妙な活躍でしたね」
小次郎の解説はあくまで冷ややかだったが。
ところで、ヒョウザンに一撃を決めたあと、空からの十円玉の連打をヒョウザンと共に喰らい、さらにダークネス・ミスリードXの崩壊に巻き込まれたレオは満身創痍でテレポートしてきた。
「む、帰って来たか」
「ひ、ひどいよ。イスカも胴体部分の中に入る予定だったじゃないか……」
「はっはっは。ほらあれだ、獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすと言うそうではないか。これも修行じゃよ、修行」
「うーん……」
こちらも納得いかないまま、気を失うレオだった。
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