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輝く夜と鍋とあなたと

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輝く夜と鍋とあなたと
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 早朝。
「いやぁ、助かります。人手が足りなかったので」
「せめてこういうところで朱里とピュリアの役に立ちたかったから、問題ない」
 タノベさんに話しかけられたのはアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)だ。
 今日、イベントをやるというのを朝早くに知り、鍋を作るのを手伝えない代わりにと、カマクラ作りを手伝いにきたのだ。
「あ、今日の鍋のメニューは何か決まってますか?」
「まだ聞いていないので、決まっていないと思う」
「それなら……ここのバイト代なのですが、現物とかどうですか?」
「現物?」
「美食家のドロウさんから、紹介してもらったばかりの酪農家と養豚所で手に入れた高級牛肉と高級豚肉の薄切りでどうでしょう? 市場には出回りませんし、今回のイベントの食材置き場にも置いておく気はなかったですし……しゃぶしゃぶができますよ?」
 しばらく考えてから、アインは首を縦に振った。
 もともと、カマクラ作りも4時間程度の仕事なので、かなりの高時給だし、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)ピュリア・アルブム(ぴゅりあ・あるぶむ)に美味しいものを食べさせたい、という考えがあったようだ。
 アインはカマクラ作りが終わると、2人を迎えに一度帰ったのだった。

 約束していた通りのものを受け取り、しゃぶしゃぶに入れる野菜ももらってからカマクラの中へと入る。
 ちょっと大きめで3人が入っても少し余裕があるようだ。
 朱里のお手伝いをしながら、ピュリアは鍋から湯気が上がりカマクラの内側の壁に当たっているのを不思議そうに眺めている。
「ピュリア、どうしたの?」
「ママ、ママ! どうしてカマクラは雪なのに熱い湯気が当たっても融けないの?」
 朱里も首をひねって、材料を切っていた手が止まった。
「実際は融けているらしい。空気は熱の伝わり方が遅いから融けにくいだけで。あと、融けたら大変だから、このカマクラにはタノベさんが考案した安全な薬品が使われていて、簡単には融けないようになっている」
「へぇ! パパすごーい!」
 ピュリアに言われて、アインは満更でもなさそうだ。
「さ、2人とも、お鍋出来たから食べようか」
「はーい」
「ああ」
 朱里が言うと、ピュリアは朱里とアインのまん中に座り、食事を開始したのだった。
「お肉がとろける〜」
 1口頬張ったピュリアがほっぺを抑え、なんとも幸せそうな顔をする。
「本当、美味しい」
「良かった」
 アインは肉を鍋に入れて、しゃぶしゃぶしながら満足そうだ。
 食べ進めていくと、上の方から何やらごそごそと音がしてきた。
「なんだろう?」
「見てこよう」
 朱里が言うと、アインは立ち上がり、外へと出た。
 気になり、朱里とピュリアも外に出る。
 先に外に出ていたアインがカマクラの方を見ているので、振り向くと、いきなりカマクラがライトアップされた。
 カマクラの上に大きな雪玉が載っており、顔が付いている……そう雪だるまになっているのだ。
「カップルを祝福ですよー! って、おや、ここは家族でしたか」
 カマクラの上に乗り、ポーズを決めていたのはクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)だ。
 その横には武官と雪だるまがおり、スコップを持っているのを見ると、どうやら巨大雪だるまを作るのを手伝ったらしいことが分かる。
「すごーい!! ママ! パパ! カマクラだったのに雪だるまになってるよ!」
 ピュリアの目が輝いていた。
「カップルではなかったですが……お子様に気に入ってもらえたのなら、ヨシとしましょう。では、俺はこの辺で――」
「待って! せっかくだから、食べて行かない? 沢山お肉あるから」
「良いんですか!?」
「もちろん!」
 朱里が招くと、ピュリアは嬉しそうにし、アインも頷いていたので、クロセルはご相伴にあずかることにした。
「いやぁ、ずっと雪に触れていたので手とか体ががちがちです」
 コタツに入り、ぬくぬくとしながら、手や体を温める。
「どうぞ」
「すみません」
 朱里はお肉が良い感じになったところでクロセルの器に入れる。
 お客様をお迎えして、会話を弾ませながら時間が過ぎて行く。
「ピュリアー! たんけんにいこう!」
 突然、カマクラの中に入ってきたのは、エーギルとカーシェだ。
「ママ、行ってきても良い?」
「ご飯はもう良いの?」
「うん!」
「そっか、じゃあ行ってきても良いよ。遠くまで行かないようにね」
「うん!」
 朱里が許可を出すと、嬉しそうに立ち上がり、エーギルとカーシェの元に駆け寄った。
「ピュリアのとこのカマクラ、雪だるまになってて良いなー!」
「あれはね、クロセルおにーちゃんが作ったんだよ!」
 カーシェの言葉を受けて、ピュリアが説明すると、お子様3人のキラキラした視線がクロセルに注がれた。
「ふっ……ぐっ……まだ食べてる最中ですが……良いでしょう! 遊んであげましょう!」
「わーい!!」
 クロセルの言葉に3人は歓喜の声を上げた。
「良いの?」
「ええ、かまいませんよ!」
 朱里に言われ、ガッツポーズをとり、大丈夫な事を示す。
「よろしく頼む」
 アインは軽く頭を下げた。
「いってきまーす!」
 子供3人と大人1人はこうして外に遊びにいったのだった。
 時々、外からクロセルの『ぎゃーっ!』とかいう声が聞こえてくる。
「そういえば、今日はヴィナとカシスも来てるはずだから、あとで会えると良いね」
「そうだな」
 ゆっくりとした家族の時間は過ぎて行く。