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小ババ様の一日

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小ババ様の一日

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    ★    ★    ★
 
「こ、こばあ!?」
 なんとか難を逃れた小ババ様でしたが、展望台に避難できたと思ったのも束の間、なぜか展望台は蜘蛛の巣だらけで、小ババ様はその蜘蛛の巣に引っかかってしまいました。
「おや、獲物がかかったようです」
 のんびりと展望台でお弁当を食べていたエリセル・アトラナート(えりせる・あとらなーと)が、自分が貼った蜘蛛の巣の振動を感じてつぶやきました。
「あれは、小ババ様です。ちょっとまずいですよ」
 日傘をさしてエリセル・アトラナートと一緒にお弁当を食べていたトカレヴァ・ピストレット(とかれう゛ぁ・ぴすとれっと)が、蜘蛛の巣に絡まってもがいている小ババ様を見て言いました。あわてて救出に行きます。
「ごめんなさいね」
「ごばああああ……」
 酷い目に遭ったと、小ババ様が、まだ髪の毛にひっついている蜘蛛の巣を手で取りました。
「そこまでよ。世界樹蜘蛛の巣張り罪です。すぐに撤去しなさい!」
 駆けつけた天城 紗理華(あまぎ・さりか)が、エリセル・アトラナートに言いました。
「いけないのですか?」
「あたりまえでしょう、美観をそこねます。第一、そこにさっそく犠牲者がいるでしょうが。アリアスすぐに排除しなさい」
「はい」
 天城紗理華に言われて、アリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)が、他の風紀委員とともに蜘蛛の巣を棒に巻き取りながら排除していきました。
 
    ★    ★    ★
 
 展望台を降りた小ババ様は、途中で大きな建物を見つけました。
 たいていの設備が世界樹の中にあるイルミンスールにおいて、それは上方の枝にくっつくようにして作られた大きな箱のような設備です。
 好奇心に駆られた小ババ様は、枝を伝って、建物の中に入って行きました。
「くえー!」
 中に入ったとたん、轟くような鳥の鳴き声が響き、巨大な嘴が小ババ様めがけて振り下ろされてきました。
「こばあ!!」
 間一髪で、小ババ様がその攻撃を避けます。
「こば、こばばばあ!!」
 態勢を整えなおした小ババ様が、小ババ百烈拳の構えをとります。
「ああ、ちょっと待ってください小ババ様。待って!! イースもだめ! 小ババ様は餌じゃありません!」
 あわてて間に割って入ってきたアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が必死に叫びました。
 どうやら、小ババ様を襲ったのは、生物部で飼育されていたロック鳥のようです。
 榊 朝斗(さかき・あさと)の許可を得て、アイビス・エメラルドはたびたび天御柱学院からイルミンスール魔法学校へ、ロック鳥の世話に来ているのでした。
 アイビス・エメラルドに叱られて、ロック鳥のイースがシュンとなっておとなしくなりました。
「よければ、少しイースと遊んであげてくれませんか?」
 アイビス・エメラルドはそう言ってくれましたが、さすがに小ババ様はそれを辞退しました。なんだか、イースの目が、まだ獲物を見る目に思えてしようがなかったからです。
 
    ★    ★    ★
 
「こばこばこばあ」
 連続して酷い目に遭ったと、小ババ様は中央階段を箒で下りていきました。ちょっとまだ蜘蛛の糸が気持ち悪いので、地下の大浴場を目指します。
「よし、頑張れ影虎。この特訓で、次のペットレースこそ打倒小ババ様だ!」
 なにやら、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)の声が聞こえてきました。どうやら、次のペットレースに備えて、ペットのティーカップパンダの影虎を鍛えているようです。
「おっ、噂をすればなんとやら。小ババ様じゃないか。ちょうどいい、影虎の挑戦、受けてくれないか」
 小ババ様を見つけた戦部小次郎が、挑戦状を叩きつけてきました。
「ふっ、こば、こばあ」
 もちろん、絶対の自信を持って小ババ様は受けてたちます。
「よし、では、スタート!」
 中央階段の一緒の段にならぶと、小ババ様と影虎がスタートしました。
 怒濤の勢いで中央階段を駆け下りていきます。
「わあ、どうしたんだもん。小ババ様!?」
 途中でペットのわたげうさぎ、コットン&ラビーの散歩をしていたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)がその競争に巻き込まれて目を白黒させました。
「こら、お前たち、何を一緒になって走っているのだ」
 自分たちのペットたちが小ババ様たちにつられて走りだしたのを見て、ジュレール・リーヴェンディが叫びました。でも、わたげうさぎたちの暴走は止まりません。
「大変だよ。追いかけるよ、ジュレ!」
 戦部小次郎と競争するように、カレン・クレスティアとジュレール・リーヴェンディも走りだしました。
「ふっ、新たな挑戦者か。いいだろう、俺は誰の挑戦でも受ける。影虎、お前も頑張れ」
 何を勘違いしたのか、戦部小次郎が、自分がカレン・クレスティアたちと競争を始めてしまいました。
「なんだなんだ!? おお、小ババ様だ。いっちょ邪魔してやるかあ。汝、後悔するがよい
 上から駆け下りてくる小ババ様たちを見たフォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)が、ペットである二匹の黒猫を小ババ様たちの前に立ちはばからせました。
「こばー!」
 小ババ様と、影虎と、コットンとラビーが、怒濤となって黒猫に突っ込んできます。
「みぎゃあ〜!!」
 小ババ様が、するりと黒猫たちをすり抜けました。影虎とコットン&ラビーの方は黒猫に激突して全員が団子になって階段横の通路へと転がって行ってしまいました。
「ああっ、お前たち!」
 フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』と戦部小次郎とカレン・クレスティアたちは、あわてて自分たちのペットを助けるために追いかけていきました。
 
    ★    ★    ★
 
「こばあ、こばこばあ!!」
 ペットレースに勝利した小ババ様が、腕を突きあげて勝利の雄叫びを上げました。そこに、なぜかスポットライトがさします。
「こばあ?」
 なんだろうと、小ババ様が小首をかしげました。
「こら、スポット曲がってるぞ。照明、なにやってんの!」
「すいませーん。今直しまーす」
 何やら、教室の方から複数の人間の声が聞こえてきます。
 小ババ様は、ちょっとのぞきに行きました。
「あ、小ババ様ぁ! 私、今度TVのCMに大抜擢されちゃったのー♪ 今から収録だから、よかったら見ていってね」
 中でポーズをとっていたアスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)が、小ババ様を見つけて手を振りました。どうやら、CMの撮影をイルミンスール魔法学校の教室で行っているようです。
 ところでなんのCMなのでしょうか?
 どうも、化粧品のCMのようです。
 新制服を着たアスカ・ランチェスターが、片思いの級友を教室の隅から熱くながめているというシチュエーションのようです。もっとも、小ババ様には、何がなんだかさっぱり分かりませんでしたが。
「こばっ」
 ありがとうございましたと見学のお礼を一応言うと、小ババ様は教室を後にしました。
 
    ★    ★    ★
 
 やっとエントランスまで小ババ様は辿り着きました。
 何やら、音井 博季(おとい・ひろき)がそわそわしながらエントランスで右往左往しています。外には、ワイルドペガサスが繋がれていました。
 どうやら、リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)をデートに誘おうと、出待ちをしているようでした。
「あっ、小ババ様。リンネさん見ませんでした?」
「こばあ?」
 音井博季に訊ねられましたが、今のところリンネ・アシュリングとは会っていません。小ババ様は、知らないと言いました。
「うーん、小ババ語は分かりませんが、知らないみたいですね。ありがとうでした。自分の力で待ちます」
 そう言うと、音井博季はシャンと立ってリンネ・アシュリングを待ち続けました。
 小ババ様は、そんな音井博季にぺこりとお辞儀をして役にたたなくてごめんなさいをすると、エントランスを後にしました。
 研究所のある方向に進むと、途中でリンネ・アシュリングとすれ違いました。
「こばこばあ」
 人が待っていると小ババ様は告げようとしましたが、急いでいるのか、リンネ・アシュリングは気づかないで行ってしまいました。その直後に、エントランスから、ちょっと驚いたような、はにかむような男女の声が聞こえてきました。
 
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「うはははははは……」
 怪しい声が聞こえたので、小ババ様は恐る恐る様子を見にいきました。
 研究室の中で、何やらエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が怪しい動きをしています。部屋もなんだか暗いですし、変な臭いもします。これは、一般に言われる障気という物でしょうか。
「おや、小ババ様ですか。すみません、研究に没頭していて気がつきませんでした」
 小ババ様がのぞいていることに気づいたエッツェル・アザトースが手を止めました。とたんに、部屋に明るさが戻り、ちょっとすっきりしたような気がします。
「ああ、お構いもしませんで。お茶でもさしあげよう
 実験台の上にあったビーカーに、フラスコで湧かした緑茶を注ぎながらエッツェル・アザトースが言いました。
「こ、こばこばあ」
 さすがに遠慮すると、小ババ様は研究室を後にしました。
「警戒されてしまいましたか。やはり、研究を急がないといけないですね」
 異形の腕をながめて、エッツェル・アザトースがつぶやきました。