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小ババ様の一日

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小ババ様の一日

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
 やっとこさ、小ババ様は地下大浴場に辿り着きました。もっとも、今は単にエントランスよりも下の階というだけで地下ではありませんが。
 脱衣所に行くと、何やら脱衣駕籠をこまめに回っている人がいます。
「こばあ?」
 小ババ様が観察すると、その人、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、脱衣駕籠の中のパンツを綺麗に折りたたんで回っているのでした。
「もう、みんな好き勝手に脱ぎ散らかしてえ。ぞんざいに扱われているパンツの存在は許せないんだよね」
 ぶつぶつ言いながら、騎沙良詩穂がてきぱきとパンツをたたんでいきます。パンツ四天王でも目指しているのでしょうか。
 端から見たら、変態かパンツ泥棒ですが、別に下着を盗んでいるわけではありません。本人の感覚としては、公共トイレのトイレットペーパーの端を綺麗な三角に折って回っているのと大差ないようです。
「ああ、小ババ様。お風呂ですか。パンツ脱ぐんだよね。小ババ様のちっちゃいパンツなら、たたみがいがあるんだもん。御奉仕してあげますねえ。さあ、早く脱いでよ。早く早く♪」
 前言撤回です。りっぱな変態でした。
「こ、こ、こばあ……」
 結局騎沙良詩穂におパンツをたたまれてしまった小ババ様は、言いようのない敗北感とともに大浴場に入っていきました。
 とてとてとジャングル風呂の通路を歩いて行くと、何やら葉っぱの陰に隠れている者たちがいます。どうやら、のぞき四天王の何人かが潜入しているようです。とはいえ、ここは混浴ですから、はっきり言ってのぞきの意味があるかどうかは疑問なのですが。
「ふっ、ヘブンだねえ。この葉っぱの陰から透かし見る女体の神秘。これこそのぞきの醍醐味だよねえ」
 キャッキャッと騒ぎながらすぐ傍を通りすぎたセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)幸田 恋(こうだ・れん)をじっくりと鑑賞しながら七刀 切(しちとう・きり)が言いました。
 もっとも、二人の女の子は両方とも湯がけを着ていましたので、白い浴衣姿とあまり大差ありません。
「ふっ、切ちゃんもまだまだだねえ。やはり、奴は四天王でも最弱……。のぞくのであれば、洗い場とか通路とかではなく、湯船だよぉ。ぶくぶくぶく……」
 流れるお風呂を潜水したまま進んで行きながら、クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)が大風呂を目指していきました。
 その途中で、何かがコツンと当たります。
「なんだ、これはぁ……ぶくぶくぶく……」
 流れるお風呂から顔をのぞかせると、目の前にプリケツがありました。
「なんだあ、これはあ?」
 唖然とするクド・ストレイフの目の前を、ザンスカールの森の精 ざんすか(ざんすかーるのもりのせい・ざんすか)が流れていきます。湯あたりでもしたのでしょうか、それとも土左衛門なのでしょうか。よくわからないうちに、ざんすかは流れて行ってしまいました。
「さっ、入りますわよ」
 通路の途中にある檜風呂をさしてセシル・フォークナーが言いました。
「はい、いい香りです」
 二人で入っても余裕の中型浴槽に、セシル・フォークナーと幸田恋が湯がけを着たまま静かに浸かっていきました。
 さすがに、お湯に濡れたとたん、湯がけが少し緩むと同時にちょっと透けて見えるようになります。
「おお、これはこれでなかなか」
 近くの茂みに移動した七刀切と、流れるお風呂を遡上しているクド・ストレイフが声を揃えたかのようにつぶやきました。
「ふう。肩の凝りがほぐされていくようですわ」
 手足をのばしてゆったりとしながら、セシル・フォークナーが言いました。
「それは、浮力で楽になるでしょう。凝るのもあたりまえです。いったい、その反則的な胸はなんなのですか! 教えてください、どうしたら、そんなのになれるんですか!」
 湯がけがぺったりと張りついてもなんの変化もない胸を可能な限り前に押し出すポーズをとりながら、幸田恋がセシル・フォークナーに迫っていきました。セシル・フォークナーの方は、お湯でふくらんだのではないかと思えるほどに、湯がけの胸の部分が弾けかけて、谷間が顕わになっています。
 思わず、もっとよく見ようと七刀切が身を乗り出してしまい、一歩を踏み出しました。
「こ、こば!?」
 運悪くその横を通りかかった小ババ様がふまれそうになります。
「こ、こばこばこば!!」
 文句を言いますが、セシル・フォークナーに目が釘づけの七刀切の耳には、小ババ様の声は入ってはいませんでした。
「こばあ、こばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!」
「うぎゃあ!!」
 小ババ百烈拳が炸裂し、七刀切が吹っ飛ばされました。な〜む〜。
お先に失礼しますよーっと
 さて、クド・ストレイフが小ババ様にやられることもなく大風呂までさかのぼっていくと、そこにはすでに日比谷 皐月(ひびや・さつき)がいました。ど真ん中で座禅を組んで、堂々とのぞいています。いや、混浴ですから、堂々としていて何も不思議はないのですが……。
「なんだろう、あのど真ん中にいる人、ちょっと変だよね」
「ええ、まあ……」
 日比谷皐月をさして小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が言いましたが、すぐ傍にいた泉美緒はちょっと曖昧にうなずいただけでした。
「もしかして、あなたも凄く変かも……」
「ええと、み、見逃してください」
 小鳥遊美羽が言うのももっともです。小鳥遊美羽は蒼空学園の水着を着ていますが、泉美緒の方はビキニアーマーの鎧姿で大風呂に入っています。
「いくらなんでも、お風呂で鎧はおかしいんだもん」
「しかたがないのです。これにしろと、しつこく言われて……」
「誰よ、そんな非常識な人。そんなの従わなくていいから、脱いじゃえー!」
 そう言うと、小鳥遊美羽が、無理矢理泉美緒の鎧を脱がしてしまいました。金剛力で抵抗もできないままに、ビキニアーマーの上と下を引っぺがします。
「痛い痛い痛い……」
 何やら、鎧から声がして、次の瞬間、湯船の中にすっぽんぽんのラナ・リゼット(らな・りぜっと)が現れました。さっきまで泉美緒が着ていたのは、ラナ・リゼットが変化した魔鎧だったのです。
「なあんだ、魔鎧だったのなら、最初からちゃんと別々に入ればよかったのに……うっ!!」
 鎧がなくなってむきだしになった泉美緒のたっゆんを見て、小鳥遊美羽が声を失いました。さすがに、比べるのも嫌なほどの最大級のたっゆんです。
「しっしっ、たっゆんはあっち行きなさい!」
 バシャバシャとお湯を叩いて飛沫を飛ばしながら、小鳥遊美羽が叫びました。よく見れば、ラナ・リゼットもかなりのたっゆんです。
「もう、世界のすべてが信じられないんだもん!」
 そう言って小鳥遊美羽がそっぽをむいたとき、小ババ様がやってきました。さすがに、小ババ様はみごとな洗濯板です。
「お友達!」
 そう言うなり、小鳥遊美羽が小ババ様にだきついてきました。
「心頭滅却、心頭滅却……うぷっ……。俺がこの程度で折れるかよ……
 それまで平常心を保ってのぞきというか女体鑑賞をしていた日比谷皐月が、泉美緒の生たっゆんを見て鼻血を噴いてひっくり返りました。折れてしまったようです。
「きゃあ!」
 突然のことに、泉美緒が悲鳴をあげます。日比谷皐月は当然のようにすっぽんぽんでしたから、年頃の乙女としては目をそむけざるを得ません。
「だから、あなたは裸体を晒してはいけないのです。さあ、新たな犠牲者が出る前に、もう一度私を纏ってください!」
 そう言って、ラナ・リゼットが泉美緒にだきついてそのたっゆんに顔を埋めて隠しました。
「いえ、その、鎧だとまた怒られてしまいますから、ああん、離れてくださーい」
「うむ、これこそが、のぞきの醍醐味」
 何やら怪しいことになっている泉美緒とラナ・リゼットを、クド・ストレイフが、お湯に潜ったり顔を出したりして鑑賞していました。
「ちょっとそこのお前、なんだその怪しげな行動は」
 はっきり言って、誰が見たっておかしな行動を取っているクド・ストレイフを見つけて、イルミンスール新入生のアッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)が問い質しました。ちょうど風呂に来たのはいいのですが、いきなり怪しい他校生が吹っ飛ばされてきて酷い目に遭っています。まだ他にも怪しい他校生がいるらしいということなので、すかさず駆けつけてきたようです。
「うるさいなあ、今、俺はのぞきという崇高な行為を……」
 言ってしまってから、クド・ストレイフが、しまったという顔になります。
 言葉よりも先に、アッシュ・グロッグの火球が水面で爆発しました。
「のぞきだと!? 成敗!」
 音速で動いたわけでもないのに、なぜか台詞が後から聞こえてきます。とりあえず叩いてから物を考えるアッシュ・グロッグの面目躍如というところです。
「うわっぷ」
 吹っ飛ばされたクド・ストレイフが、タライの舟に乗ってのんびり遊んでいた小ババ様とそれを押していた小鳥遊美羽の傍に落下しました。溺れそうになるところを、すっくと立ちあがって難を逃れます。
「うきゃあ!!」
 突然眼前で全裸の男に立ちあがられて、小鳥遊美羽が悲鳴をあげました。
「このこのこの!!」
 氷術で凍らせたタオルで、クド・ストレイフを滅多打ちにします。
 こうして、のぞき四天王――三人なのになぜ四天王。一人欠席なのでしょうか。――は滅びましたが、クド・ストレイフが落ちてきたときの波で小ババ様は流れるお風呂の方に流されてしまいました。
 どんぶらこっこ、どんぶらこと、小ババ様を乗せたたらい舟が流れて行きます。分岐点で、たらい舟はたまさか洞窟風呂に吸い込まれていきました。
「誰だ!」
 薄暗い洞窟風呂の中で、鬼崎 朔(きざき・さく)が誰何しました。
「こばあ!」
 小ババ様が挨拶します。
「なんだ、小ババ様か。まあ、小ババ様ならこばこばしか言わないからいいかな……」
 自身の背中の刺青を気にして鬼崎朔がつぶやきました。
「こば、こばあ」
 じゃあね、またねと、小ババ様はお湯をかいで流れに戻ろうとします。まだまだ大浴場一週の旅は始まったばかりです。
「行ってしまうのですか?」
 引き止めたいのはやまやまですが、ここは小ババ様の意志を尊重です。鬼崎朔としては、小ババ様につられて、他の誰かがやってきても困りますから。
 両手でそっと小ババ様の乗ったたらい舟を押し出して流れるお風呂に戻すと、鬼崎朔は念のために大判のタオルを両肩に掛けたのでした。